『タチアーナの源氏日記』タチアーナ・L・ソコロワ=デリューン:TBSブリタニカ
副題を「紫式部と過ごした歳月」。源氏物語の完訳は、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語についでロシア語に訳されたのが世界で五番目だそうです。本書は、そのロシア語訳に15年の歳月をかけて取り組んだタチアーナさんの「翻訳日記」であると同時に、歳時記、身辺日記も兼ねています。何よりの特長は、日記の配列が年月日順ではなく、春夏秋冬の四季の順、月日順であることです。だから1986年3月19日の日記のあとに、1983年3月20日の日記が続いたりします。中国&日本美術研究者の夫との家庭生活もさることながら、1979年~1991年までのソ連末期のロシアの様子や、四季折々の風景が如実に描き出されていて、その都度読者の心をくすぐります。タチアーナさんはおそらくロシアにおける源氏物語研究の第一人者ですが、太宰治や中上健次などの20世紀現代文学、一茶や芭蕉、蕪村などの俳句や俳文にも通じておられます。日記にちりばめられたロシア語の「俳句」が、翻訳でしか読めないのが残念ですが、源氏物語を愛する人にとっては大変興味深い本だと思います。