カテゴリ:本
今読んでいる本。 小早川 涼 著 「料理番に夏疾風 新・包丁人侍事件帖」
身分制度が確立していた江戸時代において、同じ士分でも旗本と御家人では天と地の開きがあったことは言うに及びません。その決定的な違いをはっきりと表しているのが、将軍に拝謁出来るか出来ないか。 将軍の同じ家来でありながら、旗本は将軍に拝謁が許されるが、御家人はそれが叶わない。 もっとも将軍に拝謁が許されるといっても、はるか下座で平蜘蛛のように這いつくばるだけで頭を上げることも叶わない旗本がほとんどであったことを思えば、御家人とどれだけ違うのかと思えても来ますが、旗本の矜持の誇り高きは、まさにこの「お目通り」が叶うことにあったと断言しても言いすぎではないようです。 ところが本著「将軍の料理番」シリーズでは、御家人に過ぎない御広敷料理番鮎川惣介が、とんでもない御家人という設定になっている。将軍の普段の御座所である中奥御小座敷に直接上がり、将軍と間近に接し直答が許されるというのですから、ただただ平蜘蛛のように這いつくばるだけの「お目通り」が叶う旗本の矜持も、たちまちの内に色あせてしまうほどの御家人と言えます。 さてその将軍とは11代家斉。惣介の呈する料理が家斉に気に入られたのがきっかけで、一ヶ月か二ヶ月に一度家斉の好むちょっとした料理や甘味を作り、それを惣介が自ら御小座敷に献上して、一時将軍の話し相手を命じられることになった。 それだけに周囲の妬み、僻みは尋常のもではなく、日ごろ御広敷料理所では気まずい毎日を送っている料理番鮎川惣介が主人公という物語。「包丁人侍事件帖」と題にあるがごとく、江戸城とその回りで起こる不可解な事件をこのうだつの上がらぬ料理人が謎解きするというストーリー。時代小説と推理小説を一度に楽しめます。 ところで歴史ファン、時代小説ファンなら文政6年(1823年)江戸城西の丸で起きた旗本松平外記による刃傷事件をご存知でしょう。私はついこの間「血の日本史」(安部龍太郎著)で、そのことを知りました。 今回惣介が解決するのは、この松平外記による刃傷事件に関わる難事件。 将軍の知遇を受けているにもかかわらず、特権意識など露ほどにも抱くことなく、日々凡庸に暮らすことの幸せを知っている惣介。出っ張った腹と団子鼻のたぬき顔、まったくカッコ良さとは縁遠い我らが惣介は、この難事件をどのように解き明かすのでしょうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年05月30日 12時53分36秒
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