テーマ:ミステリはお好き?(1430)
カテゴリ:ミステリ・アンソロジー
表紙でヒゲの素敵な紳士が微笑んでいます。
これこそ昔々、初めて読んだポケミスの裏表紙で見た顔、ディクスン・カーです。 昨年はJ・D・カー生誕百周年だったそうで、これは記念アンソロジー です。ディクスン・カーのことがそれほど詳しいわけではないのですが、収録作品の作者名を見ているうちに、是非読みたくなりました。 ●収録作品 芦辺 拓 「ジョン・ディクスン・カー氏、ギデオン・フェル博士に会う」 桜庭一樹 「少年バンコラン! 夜歩く犬」 田中啓文 「忠臣蔵の密室」 加賀美雅之「鉄路に消えた断頭吏」 小林泰三 「ロイス殺し」 鳥飼否宇 「幽霊トンネルの怪」 柄刀 一 「ジョン・D・カーの最終定理」 二階堂黎人「亡霊館の殺人」 では、まずジョン・ディクスン・カーとはどんな人でしょう。 ジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)はアガサ・クリスティー、エラリー・クイーンとともに本格黄金期を代表する作家として並び称される存在です。 1906年、アメリカ合衆国ペンシルヴァニア州生まれ。 G・K・チェスタトンに私淑し、不可能犯罪に執念を燃やし、数多くの密室ものを書きました。 また、作品の味付けに怪奇趣味を取り込んだことも大きな特色です。 デビュー作はパリが舞台の予審判事アンリ・バンコランが活躍する作品『夜歩く』(1930年)。結婚し渡英した後は、イギリスを舞台にギデオン・フェル博士やヘンリー・メリヴェール卿が活躍する作品を数多く発表しました。 晩年は歴史ミステリーにも関心を示しました。 日本では横溝正史の作風に影響を与えたとされ、本格推理作家の間にも愛好者が多い作家です。 では、それぞれの作品について 芦辺拓「ジョン・ディクスン・カー氏、ギデオン・フェル博士に会う」 BBC放送会館で、自作のラジオドラマ生放送に立ち会うカーですが、主要な役を演じる女優が行方不明になるという非常事態が起きます。 女優はいない、出番はせまる。 二つの難題を短時間で解決するためカーが起こした「奇蹟」とは? 先日、「密室殺人大百科・上」でカーのラジオドラマを読んだばかりだったので、興味深く読むことができました。生放送の最中に事件が起こるという設定が面白く、カーがピンチをどう切り抜けるか、最後まで目が離せませんでした。 桜庭一樹「少年バンコラン! 夜歩く犬」 人面犬が夜歩くと噂されるモンマルトル 少女たちの歌声と嬌声が響く〈ムーラン・ルージュ〉で起きた踊り子殺人事件。 容疑を掛けられた幼馴染みの美少女を救うため、ムーラン・ルージュの娘たちとともに、少年アンリ・バンコランが真夜中のパリを奔走する。 何て妖しい雰囲気!怪奇風味もある、ミュージカル仕立てです。「きゃーっ」という掛け声が忘れられません。 田中啓文「忠臣蔵の密室」 赤穂浪士討ち入りの夜、吉良上野介はすでに炭小屋内で殺されていた! しかも現場に降り積もった雪には一つの足跡もなく、小屋の出入り口はひとつだけ。 大石内蔵助の元妻りくは、長男主税、そして原惣右衛門との間で交わした書簡から、不可能犯罪に挑む。 赤穂浪士とは驚きました。異色ですね。とんでもない駄洒落も……w 加賀美雅之「鉄路に消えた断頭吏」 急行列車内で悪名高いダイヤモンド密輸犯が首なし死体で発見された。 犯人は複数の目撃者の前から忽然と姿を消した。 高速で走行する列車内で発生した多重密室殺人事件に挑むフェル博士の前に、思いもよらぬ旧知が姿を現す。 さすがにアンリ・バンコランのパスティーシュを書いている方らしく、目撃者さえ利用するというトリックが見事です。加賀美さんの作品を読んだ事があるならば、さらにわかることがあります。 小林泰三「ロイス殺し」 北方の村で苛酷な環境に耐えつつ生活してきた少年、ゴードン・クロスが、唯一心の支えとしてきた優しい少女マリーが無法者の手によって、悲惨な死を遂げた。 彼は復讐を誓い、数々の苦境を潜り抜けて、ついに仇を見つけた。 ……傑作『火刑法廷』に連なる、魔女と復讐の物語。 ホラーの味わい。『火刑法廷』を先に読んでいた方がいいと友人に忠告を受けた意味が良くわかりました。 鳥飼否宇「幽霊トンネルの怪」 名物婦警三人を擁する綾鹿市交通課、通称D3課。 怪奇・超常現象が大好きな佐野由利子警部、現実的な性格の佐倉桜警部補、そして不合理な状況から鮮やかに論理的解決を導き出す、マーチ大佐こと佐々井弥生巡査部長が、一直線のトンネルから忽然と消え失せる幽霊自動車の謎に迫る。 幽霊自動車の謎を扱ったマーチ大佐もののパロディ。もとの作品を読んでいないので何とも言えませんが、かなり大胆な発想ではないかと……。 柄刀一「ジョン・D・カーの最終定理」 現代日本、ジョン・ディクスン・カー生誕100周年に浮き足立つカー・マニアの学生たちが遭遇する殺人。 その事件は、カーが未解決犯罪を実際に解き明かしたという記録『カーの問答詩集』の中に残された、一つだけ解決に至っていない事件――通称“ジョン・ディクスン・カーの最終定理”と関連があるようだが…… よくこんな緻密な事を考えるものだと感心します。どこまでが本当でどこまでが虚構なのか……。 二階堂黎人「亡霊館の殺人」 10年前、衆人環視の中で起きた雪密室の殺人。 凶器は、実際の魔女狩りに使用された忌むべき短剣。 その短剣を代々伝えるゲディングス家の屋敷で行われる降霊会を前に、青年記者ホレスは伯父のH・M卿を訪ねるが、不安を裏付けるかのように再び密室で霊媒が殺される。 幾度も起きる密室殺人の真相を、H・Mが鮮やかに解き明かす。 魔女狩りに使われた短剣、降霊会、密室、そして鮮やかな謎解き。まるでディクスン・カーの短編を読んでいるよう気になります。 タイトルだけでもわかると思いますが、一つ一つ切り口が全く違います。 バラエティに富んだ内容でしたが、まさか赤穂浪士まで出てくるとは思いませんでしたw もちろんそれぞれの作品から、カーへの敬愛がしっかり伝わってきます。 私は芦辺拓さんと桜庭一樹さんの作品が気に入りました。 カー・マニアならばもっとよく理解できるのかも知れませんが、余り詳しくなくても十分楽しめる、中身が濃いアンソロジーでした。 返却期日が迫っていたため駆け足で読んでしまいましたが、本当はゆっくり楽しみながらめたら良かったのに、と思います。 密室と奇蹟 J・D・カー生誕百周年記念アンソロジー お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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