テーマ:ミステリはお好き?(1425)
カテゴリ:日本ミステリ(ま行作家)
現在はフリーペーパーのライターをしている滋子のもとに、萩谷敏子という女性が現れます。事故で死んだ12歳の息子が、実は予知能力を持つ超能力者だったかも知れないので、その真偽を調べて欲しいという依頼でした。
彼は16年前に殺された少女の遺体が発見される前に、自分が描いた「絵」で予言したというのです。 敏子の亡き息子への強い思いを感じた滋子は調査に乗り出しますが――。 (出版社より) 上・下巻という長さながら、読み始めたらやめられなくて、あっという間に読んでしまいました。宮部さんのストーリーテラーとしての素晴らしさが十分に発揮されていました。 『誰か』(感想)や『名もなき毒』(感想)も良かったのですが、今回の作品の方が私には好みでした。 これは『模倣犯』で心に痛手を負ったフリーライター前畑滋子の9年後の話ですが、続編かと思うと少し違います。 思った以上に事件の後遺症が深く、書くことができなくなっていた彼女でしたが、ある依頼を受けて調査を始めます。 これは彼女が過去と向き合う、リハビリの物語でもあるのですが、『模倣犯』とは別の話です。 ただ、『模倣犯』を読んでいた方がよりわかりやすいと思います。 依頼を持ち込んだのは、萩谷敏子という中年の女性。 前畑滋子を訪ねて来る彼女を宮部さんは、誰も注意を向けないような地味で平凡なおばさんとして、容赦ないくらいの描写で浮かびあがらせてきます。 若いころから家族の言いなりになり、運命に甘んじてきたように見える彼女でしたが、その後の展開で印象が変わってくるので、導入部分での描き方が「うまいなぁ。」と思います。 事故で亡くなった息子の等には超能力があったのではないか、というのが彼女が調べてもらいたい内容でした。 これまで宮部さんには『クロスファイア』や『龍は眠る』など、数々の超能力ものがありますが、今回は等君が残した絵だけを手掛かりに超能力を証明しようというのです。 そして、それらの絵の中に、関係者しか知るはずのない犯罪の痕跡らしきものがあったことから、話の流れは意外な方向に流れていきます。 この作品には問題を抱えた幾つかの家族が登場します。 兄弟姉妹の思い、親子の思い、それが互いに通じるとは限らないという事実。 どうしようもなくグレてしまった子供に対して、親は何をどうしたらいいのか、という問い。 他人の事なら何とでも言えそうですが、自分だったらと考えると、答えはすぐに出すことができません。親ならば誰もが身につまされます。 前半はひとつひとつ過去を積み重ねていくという比較的地味な展開ですが、人の心が実に細やかに描き出されていて引きつけられます。 それに反して怒涛のように突き進む後半でした。 超能力と事件が、ある意味結びつくことで終焉を迎えますが、全てがハッキリするわけではありません。 解決がつかないまま残るものもあることから、これはミステリよりも家族をテーマにした作品と考えた方がいいのかも知れません。 家族を、生存の意味を考える重いテーマを突き付けられた中で、子供を亡くした敏子さんの姿が救いであるかのように心に残ります。 特に最後は、宮部さんの優しさであふれていて泣けました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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