「流れ星は遠い彼方へ」第37話
岡本は窓の外に向けていた視線を文次郎に向けなおすと、姿勢を正しながら言った。「向井隊長、私は何が出来る?・・・ここにたどり着くまでいろいろ考えていたんだが、朝鮮がこうなってしまった一因も私が判断を誤まってしまったという責任もある。今の朝鮮の状態を少しでもよくしたいと思っているんだ」「岡本参事官、良くぞ決心なさいました・・・我々は今、朝鮮の有志と独立のためにどうしたらいいのか、皆で考えながら活動しています。今緊急の課題は罪もない朝鮮の人々がシベリアへ連れて行かれていることです。まずこれを何とかしないと」「向井君・・・まず、とかじゃダメだよ・・・一気に体制を変える事を考えないと、逆襲されるぞ。今までの朝鮮の大臣達の権力争いのひどさ、知っているだろう?・・・隙を与えるとどんな汚い手を使っても既得権を守ろうとする」「・・・そうですね・・・」「わしは捨石になってもよい、今の大臣達を一掃する手を考えなければいかん」「・・・・」「何を考えているんだ?」「岡本さん」「なんだ?」「実は若狭総隊長から手紙が来ました」「えっ?若狭から?生きていたのか・・・」「はい高宗と一緒にいるようです」「あの麻浦の騒動でなくなったと聞いていたんだがな・・・あの頃はわしも大院君と組んでよからぬことばかり考えておったよ」「高宗と一緒にロシアに連れて行かれ、今はキエフという町で高宗と一緒に軟禁されているようです」「そうか・・・それなら帰ってこれる日も近いな」「そうなんですか?手紙にもそのようなことが書いてありました」「そうだろう、ロシアは近いうちに内乱が起こる、朝鮮どころではなくなるはずだ」「内乱ですか?」「そうだ、ニコライの力が完全に衰えてきておる」「それが本当ならシベリアに朝鮮の国民を行かせる必要はないんじゃないですか?」「その通り・・・たぶん朴大寿などが私腹を肥やすためにロシアに言われたと称して、ロシアの人身売買組織に国民を売っているんであろう」「ひどい話だ・・・・」「この国は、そういうことがまかり通る国なんだ」 岡本は忠清道・論山の山中の村に滞在中、部下を日本に行かせて朝鮮周辺情報を仕入れていたようである。 岡本が生き残る為に仕入れていた情報が、文次郎にとっても有意義な情報だったのである。 文次郎は岡本に若狭隊長からの手紙の内容を話し、今ウニョン宮に書簡を探しに行っていることも話した。 岡本も、仕入れたロシア情報・清情報を文次郎に伝え、善後策を話し合った。「父上!手に入れました」 健一郎達が三人揃って帰ってきた。「おお!」「これです、この二つです」 二通の手紙はすべて漢文で書かれ、いかにも両班が書いた文だった。 健一郎はハングルも漢文も読める。「父上、はっきり大院君が指示を出しています・・・これは大きな証拠になりますよ」「そうか、ご苦労だった」 文次郎は趙本起と河鐘文にも声をかけ、次の指示を出した。「さっそくだが、開城に行って松都商団を探してきてくれ」 河鐘文が聞いた。「誰を探せばいいの?」「松都商団の全忠一だ、ここまで連れてきてくれないか?」「わかったよ!」つづく