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ひたすら本を読む少年の小説コミュニティ

空が落ちても~Even if ~

「あなたって本当は地球人じゃないんでしょう。」

彼女は窓辺に立って僕にそう言った。

夜風を受けた長いカーテンがひらひらと舞っている。

窓の向こうには新宿の様々な灯が虚ろに漂っていた。

彼女はバスローブを羽織った格好で、長い髪は水気を帯び輝いていた。

「そうかもしれないな。」

と、僕は言った。

彼女は暫く僕を見つめた後、窓の外を向いた。

「あなたといると心が浮いてしまうの。本当に他の感情はなくて、ただ心だけが浮いてしまうの。」

僕は体を起こし、ベッドに座った。

そして彼女の話を聞いた。

「それは私にとってとても嬉しいことだったの。こんな不思議な心を持ったのも初めてだった。でもあなたと寝るとね、私の全てが否定されてしまうの。私だけが心を浮かせ、あなたは地の底からじっと私を見ているの。」

「私とついさっき寝たことなんて既に貴方の人生の一部分にもなっていないみたい。」

と、彼女は言った。

そして小さなクールボックスを開け、瓶のコーラを取り出し一口飲んだ。

軽くコーラを上げた。

「いや、僕はいらない。」

と、僕は言った。

そして、彼女は一気にコーラを飲みこんだ。

あんなにきつい炭酸も今の彼女の前ではほとんど意味をなさないのだろう。

彼女はコーラを飲みたかったから飲んだのではなく、今は飲むしかなかったのだ。

彼女は、空の瓶をクールボックスの上に置き、僕のいるベッドに向かって歩いてきた。

「寒い。」

そう言って、素早くベッドにもぐりこんだ。

彼女は僕を見上げて、僕は彼女を見下した。

「そんな目をしないで。」

「あなたは私に関心を持っていないのよ。いいえ、あなたは今まで誰にも関心を持ったことはないんだと思うわ。」

彼女は僕に向かってそう言った。

僕にとってその言葉はひどく心外だった。

「そんなことはないよ。僕は君についてとても関心がある。今バスローブを羽織ったままベッドに入っている君はとても美しく見える。そして、今日の君の仕事具合や、それに関連した男達。それだけではなく、君が触ったコピー機や、スターバックスのコーヒーカップ、ボールペン、今身に着けているスローブにでさえ僕はやきもちをやいている。つまり、僕は君における全ての事柄に強く関心があるんだと思う。」

と、僕は言った。

彼女は静かにゆっくりと目を閉じた。

まるで眠ってしまったように、深く深く目を閉ざした。

そして目を閉じたまま僕に言った。

「それはあなたにとっての関心があることなのよ。私自身を必要とはしていない。あなたはいつも私を通り越した先にあるものを見ているの。だから私は浮いてしまうの。心が浮いてしまうの。あなたは普通の地球人とは違うのよ。」

「あなたは全てを受け入れるけど、あなたはその流れを止めようとはしない。まるで関心がないのよ。その中でいくら誰かが叫んでも、泣いても、貴方の関心はいっこうにこちらに向かないの。」

この街のどこかで救急車のサイレンが鳴っている。

それはこのホテルに近づくにつれ大きくなり、そして小さくなっていった。

「僕は地球人ではないのだろうか。」

と、僕は言った。

「そうよ、あなたは地球人ではないの。銀河系よりさらに外の深い深い闇の中にある一つの星があなたの国なの。だから、あなたの気を惹きつける魅力的な事柄はこの星には無いのよ。でも、あなたはそれをわかってくれない。あなたの周りには様々なものが浮かび、やがてどこかへ消えていってしまう。私も確かにその一部分なんだわ。」

と、彼女は言った。

彼女は僕に体をくっつけ、僕のペニスを握った。

「それなら地球人の定義は何なのだろう。」

僕のペニスは勃起を始めていた。

彼女の手は優しくそれを包み、もてあそぶように上下に動かした。

彼女は一度僕にキスをし、僕の目を覗き込んだ。

「簡単よ。」

またどこかで救急車のサイレンが鳴り始めた。

「あなたではない全ての者。」

と、彼女は言った。




どうやら僕が自分の星に帰るには完璧な地球人になる必要があるらしい。




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