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2009年04月14日
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広い広い天のどこか。
闇の花園と対をなす、光の花園が生まれていた。
かつて女主人がロストしていたため、長く打ち捨てられていた花園。それが今や柔らかな春の光をたたえ、色とりどりの花が咲き乱れていた。

(おかえり)
(おかえり、巫女姫)

そよ風にゆれる花々から、そんなささやきが聞こえる。

ここは闇の花園と同じく、すべての魂の憩う場所。
光も闇もへだてなく、ただ存在することを許される場所。
生まれゆく魂も、役割を終えて還る魂も、旅の途中にひととき憩うて道を探すことができる。


花園の中心に、銀巫女がゆったり座っていた。
手に小さな鈎針のようなものを持ち、空間を紡いでレース編みをしている。

編みこむのは土地や風や光、やさしいこころ。
ときどき妖精や精霊たちがやってきて、彼女になにか渡してゆく。
彼女はにこにこと話してそれらを受け取り、手元の糸に重ねると、糸は綺麗な虹色に染まった。

(おかえり、マリア=ソフィア。いや、マリアかな?)

純白の毛並みのユニコーンがやってきて、彼女の膝に鼻先をこすりつけた。
マリアは優しくその首を撫でて微笑む。

「そうね、ソフィアはまだね」

ユニコーンの澄んだ藍色の目の中に、黒髪の銀巫女が映っている。ゆるやかに曲線を描く長い黒髪に黒いドレス。瞳は同じすみれ色だ。
黒髪のソフィアは、かけらと統合を果たした際に現れた存在だった。これからさらに統合に向かうのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
どちらであれ、必要なことが起こるのだとマリアは知っていた。

ユニコーンは首をあげて優しい目で彼女を見ると、視線を下に動かした。
ヒーリング効果のあるこの花園で、マリアより2歩ほど離れたところに背の高い金茶の髪の男が寝転がっている。
ペリドットの瞳と目を合わせてユニコーンは言った。

(ありがとう、巫女姫をとりもどしてくれて)

「いや、どういたしまして」

デセルはあわてて起き上がった。気位の高いことで有名なユニコーンが、彼に言葉をかけるとは思っていなかったのだ。
ユニコーンが去ると、彼は驚いた顔で頭をかいた。


銀巫女は指先を器用に動かして、花や月や星のモチーフをたくさん編んでゆく。
レースの布は彼女の膝からどんどん広がり、各地の見えない存在たちに支えられて
山や川や平地や海にまで広がり、その土地に同化して、大地をやさしく包んでいくようだった。

デセルはまた寝転がり、にこにこしながらそれを眺めた。
肉体に統合してすぐに過労働をしてしまったので、本体がエネルギーに過敏になったりブレがでたりし、しばらくはおとなしくしていなければならない。
普通なら脱走を考えるデセルであったが、ここにこうしていられるのなら文句はなかった。
この花園は次元が高いのか、本体はグラウンディングに四苦八苦しているようだが、まあそのくらいは大目に見てもらうとしよう。


課題がなくなったわけではない。
デセルと本体と二重に契約を交わしている今、悪魔アスタロトとはむしろ共存、あるいは統合の道筋をたどるのかもしれなかった。

光も闇もない世界になってきているなら、天使も悪魔もなくなる、ということだ。
そして内側の鏡が外界なのだから、自分の中の悪魔に気づき、統合するプロセスがあっても不思議ではない。

そもそも二つは同じものよ、とマリアは言う。
だから恐れることはないと。

デセルは人間の生まれで、マリアが見てきたはるかな年月のすべてを知る由もない。
だが彼も時のない神殿で長く過ごして、生粋の人間とは言えなくなっていたし、彼女が言うのならばそうなのだろうと思った。

今、彼の額には虹のしずくがつけられている。もちろん普段は見えないが、人格変換を抑えられるというだけで充分だった。
ずっと自分を保てるなら、繋がっている悪魔との関係もまた変わってくるだろう。


アスタロトをすら想うとマリアは言った。

悪魔と繋がっている自分をずっと恥じてきたが、彼女はなにも否定せず、いとも簡単に受け入れてくれた。

「それがあなたの姿なら、誇っていいのよ。そうでしょう?」

心地よいソプラノが耳によみがえる。
誇る・・・・・・技術に関すること以外で、自分を誇るなど考えたこともなかった。
むしろ否定しよう否定しようとしてきた気がする。
自分の裏切りを赦せずに、生きながら死のうとしていた気がする。

そんな自分でも変われるだろうか。

彼女を護るために、自分の身も護ると誓った。
証のシフォンは、今も大事に身につけている。

誓いを果たさなければならない。
泣かせたくはないな。

やわらかな風薫る花園で、気持ちよくうとうとしながらデセルは思った。








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最終更新日  2009年04月14日 09時20分57秒
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