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カテゴリ:銀の月のものがたり
緑の少女は、躊躇なくマイクを手にした。いつもの彼女よりも上品で大人っぽい、黒の女性の混ざった状態だ。
にこやかに品よく饒舌に、言語の通じない人のためにもテレパシーを同時に使って、手短に、自分たちが誰でどういう経緯で着任したのか、セキュリティの現状と今後の構想などを話していく。 「細かい計算などはまだまだこれからの、叩き台の話ではありますが」 断って彼女は計画の話に入った。 「つまり、今どんどん増えつつある艦隊の滞空位置を再編成して、地球のグリッドと組み合わせ、1つの大きくて細かい立体幾何学グリッドシステムにしたらどうかと思うのです。 私達はすでに、まだ成功とはいえませんが、複数のポイントを繋ぐ実験を済ませました。 アセンション支援センターとしてのクリスタル・ローズ・ガーデンを増やしたように、同様のポイントをこれからかなりの数増やし、地上に肉体のある人間で構成してゆき、それを操作できるソウルグループをどんどん増やして、地球上のエネルギーポイントに配置して共振させてゆく。いわば人為グリッド計画といえましょう」 (デセル、用意はいいかい?) (もちろんOK) 少女の言葉と同時に、背後ににこにこしながら立っていたトールとステージ下のデセルが連携し、魔法陣を使って大きな立体映像を浮かび上がらせる。 白地背景に線だけが浮かび上がる、天球儀と地球儀を組み合わせたような細密な画像が展開されて、会場からおお、と嘆声があがった。 少女の挨拶が終わって二人が壇上を降りると、とたんにトールとデセルは多くの人々に取り囲まれた。 「今の計画の話を、もっと詳しく聞かせてもらえまいか。たとえばここの技術だが……」 「エネルギーを循環させ共振させてゆく際のポイントとなる点は」 大雑把なところからかなり具体的なところまで、さまざまな技術的質問が浴びせられ、二人は青図ながら割と精密な三次元図をつけて説明をしてゆく。 緑の少女はというと、大役をすませてもう今日のお行儀は売り切れ、とばかりにひたすら食べ物をぱくついたり、ウリエルの膝に座ってお菓子を食べたり、大天使連中のおもちゃにされて騒いでいた。 その後会場は屋外に移った。 青い夕闇の中、満月がとても明るい。イルミネーションのついたメリーゴーランドがいくつも静かに回っていたり、移動式遊園地のような電飾があちこちでほんわりと暖かい光を放っている。 足元は柔らかい芝。楽隊がいて音楽が鳴っており、皆ダンスをしていた。 トールは少女と、デセルはマリアとそれぞれ一曲。ワルツよりも軽快な曲で、女性たちがくるくる回ると、シフォンスカートの裾がふわりと広がる。 そのまま二曲目はワルツだったが、珍しいことに途中二度ほどデセルのリードが遅れた。 「?」 マリアが首をかしげて長身を見上げたので、デセルは慌ててにっこりと笑ってごまかした。 手をとって踊っていると、ちょうど芸術的な銀髪の編み込みが見える。アクセントで入れてある茶とスモーキーピンクの細リボンと編み込みの目に、リズミカルな法則性があるのがわかってつい気をとられていたなど、間違っても口にできない。 ちなみに彼はその後、つい見てしまうそれからなるべく目をそらそうと努力していたため、曲が終わるまでほとんど上の空になっていた。 曲が終わって一息つき、踊りの輪から少し外れる。 大きく枝をはった樹の下に、公園の木製ベンチのようなものがあったので、彼はマリアをそこに座らせた。 少ししゃれた屋台のような場所で、小さなハーブの飾りと細いストローのついたワイングラスに入った、グレープフルーツの色のフローズンカクテルをとってくる。 「ありがとう。デセル、あなたも座ったら?」 ほっとした顔でマリアが笑う。 「いえ、私はいいです。……その、羽をまだ下に敷いてしまいそうで」 デセルは頭をかいた。マリアの斜め後ろ、大樹によりかかるようにして立つ。すぐにトールから心話が届いて、技術的な会話が行われた。 人ごみを見はるかせば、彼もダンスを終えて、また紳士連中に取り巻かれている。緑の少女の発案になる人為グリッド計画は、かなり人々の興味と関心の的であるらしい。 アシュタールたちが順番に緑の少女にダンスを申し込んでいる。彼女は少し困った顔をしていたが、ここで断ると後でどうなるやらわからないということもあり、トールはパートナーを譲っていた。 それを大変ねえ、と人ごとに笑って見ていたマリアの元にも、やがて何人もがダンスの申し込みにやってきた。 「巫女姫どの。よろしければこの老骨と一曲」 緑の少女とダンスを終えたアシュタールが、おどけて恭しく腰をかがめる。まあ、ごめんなさい、とマリアは困ったような微笑を浮かべた。 どうにか三人ほど断ったところで、その様子に気づいたデセルが大樹から身体を離して歩み寄ってくる。 「踊りにいかないんですか? 私のことなら気を使わないでくださいね」 その声にマリアは肩越しに振り返った。人目をはばかり、心話で伝える。 (いいえ、そうじゃなくて……、少し人酔いしてしまったみたいで) 途端にデセルの顔色が変わる。 (大丈夫ですか。もう帰りますか?) (もうすぐお開きのはずだから、そうしたら帰るわ。計画の話があったりしたから、私が中座してはまずいでしょう) (わかりました) デセルは背もたれのないベンチで彼女の真後ろに立って背中を支え、やきもきした気分でトールと心話を続けた。相変わらずの専門的な話題だ。同じ分身のトールがマリアの状態に気づいていないわけがなかったが、彼としてもどうしようもないところだったのだろう。 そしてパーティがお開きになった直後、デセルはマリアを送って帰途についた。本体がもしかして中座したか? と思ったくらいの素早さだ。 会場から出る前に、少女や周りに簡単に辞去の挨拶をのべる。緑の少女は友達も見つけたらしく、あたしはまだ帰らないーバイバイ、と明るく手を振った。 トールは紳士連中に捕まり、もっと落ち着いたところで飲みなおすことになったらしい。その彼と技術的な会話を続けつつ移動してゆく。 ポータルを高速スキップする間、デセルはマリアの右肩を抱き寄せて支えていた。彼女が調子を崩しているのに気づかなかったのが悔やまれて、雰囲気がやや険しい。 ルキアで部屋の前までマリアを送り届け、自分の部屋に戻るとデセルはほうっと息をついた。 (ルキアに着いたよ。俺もまたそっち行くようかな?) すでに違う店で質問攻めにあっているらしいトールに心話を送る。 (マリアをありがとう。いや、もうこっちは大丈夫だろう。何かあれば心話を送るから) 了解、とデセルは答えた。 着替えてからパーティ服の浄化をし、フレデリカに感謝してクローゼットにしまう。 部屋はすべてデセルが住んでいたときのままに残され、いつでも自由に来られるようになっている。 その空間をぐるりと見回した後、デセルはルキアを出て自宅に帰った。 ************* >>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2 >>登場人物紹介(随時更新) 出ました! 人為グリッド計画。 これはもちろん、今読んでくださってる皆様もご一緒に、なのですよ~。 現在進行形・みんな参加の大計画なのです。 計画の細部はおいおい明らかになってきますが、どうぞよろしくお願いいたします☆ コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます! おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。 どれも大切に嬉しく拝見しております♪ 続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪ 拍手がわりに→ webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→ ☆ゲリラ開催☆ 8/10~8/20 海と空と大地のヒーリング お疲れ様! ありがとう! 大好き! を伝えたくて♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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