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カテゴリ:銀の月のものがたり
リフィアを安心させた後、半眼を閉じたアルディアスはじっとタイミングを計っていた。
近くから遠くから流れ来たりて、徐々に強まってくる地上の光。 暦に予見されたごとくに動き並ぶ星々と、天上から降り注ぐ光。 双方をぴったりと繋ぎ広げるのが祭主の役目だ。 銀髪の男はちらりと目をあげ、リフィアが無事に立っていることをもう一度確認した。 これから呼び出すエネルギーは、彼女の内も通ることになる。訓練を重ねているから大丈夫とだろうとは思うものの、過負荷を強いることになるのは避けたかった。 二重の歌声が奥院に響く中、空気が徐々に緊張をはらんでゆく。曲が終章に近づくほど、エネルギーはじりじりと高まって濃密さを増していった。 聖歌から、各地に散らばるすべての神殿から、たくさんの人々の祈りから。 送られる光は一見穏やかに空間を満たし、祭主のもとへと寄り集ってくる。 ゆっくりと螺旋を描くように歩いてエネルギーの道を作りながら、逆向き螺旋に歩く彼女と、床に大きく描かれた魔法陣の中心で行き会う。 細い片手を錫に添えさせ、その上から自分の手で包むと、アルディアスは息を吐いた。 (……今だ) ひときわ強く錫の先端を床に、魔法陣の中心点に打ちつける。 上部に填め込まれたクリスタルが生まれたての朝日のように輝き、強く澄んだ音が奥院に響き渡る。 魔法陣が何重にもきらめいたかと思うと、どおん、とエネルギーが一気にやってきた。 大海が押し寄せたような錯覚に陥って、リフィアの身体はぐらりと揺れた。すぐに大きな腕が彼女を支えてくれたが、リフィアは錫にしがみつくようにしてエネルギーの奔流に耐えた。 密度のある透明な流れ。 流れゆく光は、身体の中と外、どちらを流れているのかもうわからない。 気づけばアルディアスの腕に支えられて、いつか襲撃事件にあったときのような「いつもと違う空間」に彼女は立っていた。 あの時と違うのは、足元に透ける世界に自分たちの肉体が見えていること。そして、眼前に広がる景色だった。 大きな大きなクリスタルが屹立している。たくさんのクラックにたくさんの虹が入り、きらきらと輝いていた。 そのクリスタルの周りを、何人もの神官服の人達が半分透けるようにして囲んでいる。彼らは老いも若きもいて、皆一様にクリスタルに片手を伸ばしていた。 夢の中の感覚でリフィアは(ここはいったいどこなのだろう)とぼんやり思う。 しかし口からこぼれた言葉は意外なものだった。 (……幾度になりましょうか? ようこそおいで下さいました。祭主殿) にっこり微笑んだ口元は、自分のものではないような気がする。 クリスタルに片手を伸ばす人々を眺める瞳は、リフィアの二つのペリドットのはずだ。 けれどもその瞳は、ここが奥院の上の次元にあたること、彼らが歴代の大神官たちであり、彼らの最大の力を星の護りとしてここにすべて記録してあることを当然のように知っていた。 奥院の地下には巨大なマザークリスタルが埋まっており、それが惑星の光の基点となっている。 上次元のそのクリスタルに自分のホログラムを彫れるかどうかが、大神官任命の条件となっているとも、リフィアであってリフィアではない、その存在は知っていた。 (おひさしゅう、我が花嫁殿) 銀髪の男がその長身を折ってひざまづき、彼女の手をとって甲に唇を落とす。 そこにいるのもまた、確かにアルディアスであってアルディアスではなかった。 奥院に入ったときから、中性的に見えるとは思っていた。潔斎に入ってからの勉強時間でも、巫覡には性別はないのだと聞いていた。 しかし今、光の奔流の中に銀髪をなびかせているのは……まるで、美しい女性のようだ。 刷かれた紅だけではない、周囲から内側から溢れ出すような輝きの中に、その人はいた。 人外の美貌としか言いようのない、そこには確かになにかの存在が降りてきているのだとぼんやりと思う。 そしてリフィアの唇はまた、不思議な言葉を紡いでゆく。 (ほんにおひさしゅう……以前においでくださったのは、そう、この星がまだ緑に覆われ、ただただ幸せに包まれていた頃でございましたね) 話す調べはゆるゆると回るオルゴールのようで、その記憶ははるかに遠く、リフィアの意識では追うことができなかった。 ただずっとずっと昔、同じようにして彼と出逢ったことがあったのかもしれない。 白い長い髪の、ぶどうのような目をした自分と、光をはじく淡い金髪の長身。 豊饒の女神の祭典で。 ふっとよぎったイメージは、とりとめもなくまたゆらゆらと夢うつつに紛れてゆく。 アルディアスが誰かを降ろしているように、今の自分にもまた誰かが降りているのだと、なんとなくリフィアは理解した。 身体を通り抜けた、あのエネルギーの奔流によって。 豊饒の女神……それは、惑星そのもの。 説明のしようがなくて、「神前で結婚を奏上すること」と同僚たちには言っていたが、実際は陰陽の儀式は神との婚姻、というよりも神同士の婚姻にあたる。 惑星そのものである豊饒の女神のところへ、それを守護する「夫」がやってきて契りを結ぶという、いわゆる妻問婚だった。 学生時代に仮巫女神事に出る前、ちらりと読んでいた書籍にもそう書いてあったし、神殿での勉強でもそのように教わった。 だから神官一人ではできないのだ。 豊饒と繁栄は、陰と陽があわさって初めてもたらされるゆえに。 この神事において、巫女の個性によって表出する面の差はあっても、女性に降りる存在はつねに「惑星」である。 対して男性に降りる存在は、その神官の力量に応じた上位存在ということになる。 つまり基本的に男性の大神官の代替わりごとに、惑星の守護もまた変わってゆく。 星の女神は、その時々の夫を鷹揚に受け入れてゆくのだ。 しかし神々の妻問婚はそれでよくとも、祭主となる二人には肉体があるため、現世において貝合わせのようにぴたりと合う伴侶を見つけることが儀式の条件になっているのだった。 (それだけではない。陰陽の対の空間的な広がりを表す長さによって、刻まれる像の最大の深さも決まる) 教わったことをぼんやりと辿っていたリフィアの頭に、急にはっきりした声が響いた。 それは銀髪の長身から発せられていたようだ。 (つまり、合わせ鏡である二人のエネルギーキャパシティと互いに対する許容量によって、流れるものの質と量が変わってくるのだよ。……ごらん) 銀髪の長身が、しゃらんと錫を鳴らす。 とたんにあちこちから白い雲が湧き上がり、クリスタルを取り巻いたかと思うと巨大な石ごと姿を消した。 否、自分達の立つ場所がまた変わったのだろうか。 眼前にひろがる広大な景色に、リフィアは感嘆の声をあげた。 ------- ◆【銀の月のものがたり】 道案内 ◆【第二部 陽の雫】 目次 というわけで物語でございます♪ そして、ここで皆様にサプライズが! デセルさんが、今度の「惑星」ヒーリングを手伝ってくださることになりました~♪ 今回のヒーリングは、マリエがやるって言ってまして。 いっとき調子を崩してたんですが、元気になってきたし そうしたら女祭主になるけれど、マリエも人為グリッド責任者なので ヴェールの大祭を模してデセルさんと一緒にやったら楽しいかも~♪って非常に安直な思いつきだったんですけども。 ナチュラル~に本体のペリドットさんに伺って、ご了承をいただいた後に これが婚姻の儀式だったことに気がついた私 ← どんだけ天然か orz というわけで、物語で起こっているようなことが もしかしたら地球を舞台にヒーリング中に上で起こるかもしれませんwww 物語ではアルディアスとリフィアの儀式ですが、 明日(もう今日ですね)の惑星ヒーリングでは、デセルさんとマリエの式も兼ねることになりましょうか。 ええ、あまりの展開の速さに本体がびっくりです 爆 最近、周りで結婚の話題が多くて、いいねえ~♪なんて思ってたんですが まさかうちに来るとは。今更という気もするようなしないようなですがw でも、デセルさんのヒーリングって貴重ですから、それだけでも価値はあるかとwww どうぞお楽しみください~ どんなヒーリングか気になる方は、火曜の21:30まで申し込みいただけますw 8/31 一斉ヒーリング ~ 惑星 ~ ぽちしてくださると幸せです♪→ webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→ ☆ゲリラ開催☆ 8/30~9/5 はじまりの光 ~ 一斉ヒーリング お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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