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2012年01月05日
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親愛なるシレーナへ。

この手紙は、君に届くかな…。
わからないけど、伝わることを祈って綴るよ。



肉体を失くした今、私の髪は何色なんだろう。銀色? それとも、彼の焦げ茶色?
まあ、どちらでも変わらないけれど。


ようやく思い出したんだ。
あの時、焦げ茶の髪をしていたとき、私はいわゆる海賊に親しい友人がいて。

まともな商人なら報酬を払えば護衛もする、弱小商人の寄り合い船なら頼まれなくても護ってやる、でも悪徳で儲けてるなら容赦はしない、という義賊のような奴らだった。

友人の船長は、一見華奢なくらい細身な黒髪の若い男。
黙っていれば日に焼けた美少年といっても通りそうな顔で、ガハハと地中海の夏の太陽みたいに笑う。
敏捷で剣の使い手で、流行っていたボードゲームにやたらと強かった。

私は一年の半分ほどを彼に請われて、その海賊船に乗っていたんだ。
仕事は医者さ。

いつも大きな鞄を二つ持って、片方には宿がなくても二三日は大丈夫な装備、もう片方には薬草や何かの仕事用具と本。そして護身用の剣。
あの洞窟で出会ったとき、ずいぶん荷物が多いのね、って君に驚かれたっけね。

一年の残りの半分は、薬草や新しい医術を仕入れたり、無医村をまわっていたりした。
行かなきゃいけないと決まっている場所はなかったけれど、何年か続けていると待っていてくれる人が何人もいたからね。

君の海に行きたいと思ったとき、彼らの顔が頭にうかんだ。
私が行かなければ、必要な薬草が手に入らない彼らのことが。栽培ができるものは種を分けて植えて薬にするまでの方法を教えていたけれど、土地によってはどうしても合いにくいものもあるしね。

陸の仕事を終えなければ、海にはゆけない。
それを聞いて、もしかして私はどこかほっとしたのかもしれない。
どれほど強く君に惹かれていても、苦しんでいる彼らを見捨てて海に飛び込むことは… 私には、ひどく辛いことだった。

だから、まず彼らへの仕事をきっちりと終わらせること、それを目標に据えて私は戻ったんだ。陸へ。

もちろん友人の海賊船へも以前通りに乗っていたよ。
彼らにも医者は必要だったし、まだ若い船医に知っていることを教え伝えるのも私の役目だった。
きっぷのいい海賊たちと酒を飲んだり、甲板で仕合ったりするのも楽しかったよ。

時々波間を眺めては、君はどこにいるんだろうと思っていた。
寄港した後には必ず花を一輪買って海に投げていたんだけれど、君は気づいてくれたかな……。
皆は私の相手が人魚だとは知らないから、誰か大切な人が海で死んだのだと思っていたみたいだ。誰も何も聞かず、そっとしておいてくれたよ。
優しい仲間たちだった。


焦げ茶の髪の私が死んだのは、彼らの船が襲撃に遭った時だ。
逆恨みで攻撃されたのは、そうだね、銀髪の私の最期とよく似ている。転生した魂は、同じような最期を迎えることが多いのかな…。

以前にこちらが襲撃していた悪徳商人たちが、三隻くらい徒党を組んで襲ってきた。
よほど恐れられていたのだろうね。
四方八方から鉤をひっかけて甲板に登ってくるやつらを、皆でかたっぱしから倒していったっけ。
あのとき船長の剣技は澄み渡ってたな。見事だった。

勝敗がどうなったのか、私は知らない。
その前に囲まれてやられてしまったから。

血まみれで海に落ちるとき、まだ息があったなら君に迎えてもらえたのかな。
死んでしまっていると駄目なのだね…。奥津城に葬られるしかないのか。
せっかく海に居たのに、ごめん。
あのときも、もう少しだったのかもしれないね……。


一度目は海で、二度目は陸で。あと少し、というところで手が届かなかった。
だけど三度目に出会えたらきっと、一緒になれるんじゃないかと思ったんだ。
もう肉体は無いけれど……。


だから、今、こうして君に言葉を綴っている。
できるかぎり誠実に気持ちを辿って言葉に織ってゆくことだけが、唯一の確実な手段だから。


焦げ茶の髪の私が言っていたこと、覚えているよ。

「いつか、君の海に迎え入れてもらえたら。ワルツを教えてあげるよ、お姫様」

そういって微笑んだ。君は、私には尾鰭しかないのに、といって笑ったよね。
そして私は、海の中なんだからべつにかまわないと思うよ、と答えてキスをしたんだ。


覚えてるよ、シシィ。 覚えてる。
生きているとき、どうしても届かなかった薄雲が晴れて、たしかに私の記憶なんだと思える。

シシィ。

今なら、君に本当に逢いにゆける。
彼と私の約束を果たせるよ。


生前、私は彼のことを思い出せなかった。
だけど、私は私のままで君を想った。
まっさらで出会って、何も持っていなくても、やっぱり君に惹かれたんだ。

そこに理由なんかない。
生まれ変わりだからじゃない。だって私はそれをずっと理解できなかったし、むしろ彼に対して違和感を持ち続けていたのだから。

彼は… 正直なところ、当時の私にとって、他人、だった。
ずっとね。。
君には悪いと思っていたけど、どうしても、どうしてもわからなかったんだ。

でもわかっていたら、すぐに君に惹かれていただろうか?
それは、本当に「私の」気持ちだっただろうか?

……きっと私は、今度はそのことに悩んだだろうと思う。生まれ変わりだから惹かれたのかと。
気持ちの理由は過去生とやらにあったのかと。


違うよ。
違う。 シシィ。

私は君に出逢った。
月が二度満ちる間たくさんの話をして、季節が三度めぐる間離れていた。
陸に生きながら、自分の仕事をしながら、そして君への想いを考えていた。
そこにあるのか、ないのか、それは私のものなのかを。

ずっと確かめていたんだ。
それはきっと、私にとって、とても必要な時間だった。

…私のものだったよ。
マントをあつらえ、リボンを選んだのは、間違いなくこの銀髪の私の、今ここの想いだった。


だから、シシィ。
いま、私は私のこころからまっすぐに君に言える。



Ti amo, Sirena.   (愛してる、シレーナ

Noi mantenere la promessa del mare.   (海の約束を守るよ



私を海に迎えてくれるかい?
焦げ茶と銀の私達を。



Con amore il giorno di Natale,   Ray.









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【外伝 目次】


皆様、旧年中は大変お世話になりました。年明けのご挨拶を申し上げます。

あけおめ記事を書こうかと思ったのですが、今年は喪中の方も多くいらっしゃるでしょうし…
ということで、いっそレイ(作中の男性です。正式にはたぶん、レイモンドかな)のらぶれたーで代わりにしてみました←
けっこうな方から続編のリクエストをいただいてましたのでw
概要が見えたのがクリスマスだったので、そんな署名になってますけど
ちょっと良い感じの内容だし年始でもいいかなーと。。笑

手紙形式なので、返事がわからないのがアレですが
多分そのうちシレーナさんのブログのほうに載せていただけると思います。
ちなみにダメとかヤダとか言われるかもしれませんがそれは知りませんww←
「Stripe Volume」http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501)


今年もどうぞよろしくお願いいたします♪



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最終更新日  2012年01月05日 14時13分58秒
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