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窓辺でお茶を

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もう牛肉を食べても大丈夫か?

もう牛肉を食べても大丈夫か


 先日、福岡伸一さんの講演「もう牛肉を食べても大丈夫か?」を聞きに行きました。

 1年ぶりに会った人に「ちっとも変わりませんね」などというけれど、分子レベルでみるとほとんど入れ替わっている。動物も植物も自分のたんぱく質の情報を持っていて、ものを食べたとき、食べたもののたんぱく質の情報の意味がなくなるまで分解する、それを消化といい、その後身体の中で自分の情報に組み替える。シェーンハイマーという学者がアミノ酸に目印をつける技術を持っていて目印をつけたものをマウスに食べさせたところ、そのアミノ酸は身体中のあらゆるところに散らばってそこにとどまった。しかし体重は増えなかった。つまり古いアミノ酸は出て行ってしまう。食べるということは分子の流れを止めない、自転車が倒れないようこぎ続けるようなもの。

 という興味深いお話から始まり、なぜ牛に狂牛病が拡がったのかの本題にはいりました。

 草食動物である牛に肉骨粉を食べさせたせいであるわけですが、特に、乳牛から生まれた子牛をすぐ母牛から引き離し、かわりに安い肉骨粉を溶いたものを飲ませたことや、オイルショックのときに肉骨粉の製造過程を簡略化したため病原体が生き残りやすくなってしまったことが感染を拡大したとのことです。日本では肉骨粉は使っていないのに発症した例があり、代用乳が疑われたが、今では代用乳は植物のみの原料でつくられるようになったそうです。

 詳しくは福岡先生の著書「もう牛肉を食べても安心か」文春新書、「プリオン説はほんとうか?」講談社ブルーバックスをご覧ください。

 日本でも今も狂牛病は発生していますが、全頭検査をしているので心配はないそうです。ただし法的には月齢20ヶ月以下は検査しなくてもよいことになってしまったのです。それでも各県で自分のところだけしないわけにはいかない、と検査を続けているとのことです。月齢21ヶ月や23ヶ月の牛に狂牛病が見つかっているということは、潜伏期間を考えると20ヶ月以下なら安全という根拠はないし、原因を正確につきとめるためにも全頭検査はつづけるべきとのこと。

 病原体は特定危険部位に最終的には集まってくるとはいえ、その前に身体中をめぐるので、ふぐのように特定の部分をとってしまえば安全などといえない。

 「選択の自由」とは、選択肢がきちんとしている場合に言えることで、加工食品の産地表示が必要なかったり、外食の表示がない、という状況では選択できない。

 狂牛病で死ぬリスクは交通事故で死ぬリスクよりずっと少ないとリスク論者は言うが、本来リスクとはベネフィット(利益)と表裏一体であるべきで、リスク覚悟で利益を取る、というものであるが、利益は業者(コストの安い肉骨粉を使った)や政府(たとえばイギリス政府は肉骨粉を国内で禁止したあとアメリカやフランス、アジアなどに輸出させてしまった)が取り、リスクは消費者に回す、というのはおかしい。

 質疑応答で、豚肉は大丈夫か?という質問が出ました。豚の脳に狂牛病の牛の脳を注射すると感染するが、食べさせても豚の寿命が先に来てしまって発病した例はない。しかし、狂牛病も羊スクレイピー病から変異して速く増殖するようになっているので、豚にそれが起こらない保障はない。また、アメリカでは鶏や豚にはいまだ肉骨粉を与えており、牛も飼育している農家では混入することがあるかもしれないし、肉骨粉を食べさせた鶏の糞を牛の餌にしていたりする。

 少しなら病原体を食べてしまっても大丈夫かとの質問もありました。一度でも食べてしまったらだめなのだそうです。病原体の量と潜伏期間が比例するだけで病気になるのは免れないのです。

 結論は狂牛病を防ぐには牛を正しく育てればよいでした。でも、現在日本のエンゲル係数は低くなっているが、それは裕福になったからではなく、1円でも安い食品を買おうとしているからであり、良い生産者を応援しようという意識がないのではないか、ということでした。


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