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sayukiの日記

sayukiの日記

短編小説集です。

徒然に、書き付けた物を集めました。著作権はsayukiに属します。

『女の歳』作 sayuki

会社からの帰り、偶然電車の中で高校の同級生と会った。
聞けば最近結婚したとの事。
九州の出身で、かなりの美人との事。

「俺より年下でさ、可愛くて、いい奴なんだ。」
 「良かったジヤン。うらやましいぜ。」
「でもさ、出来ちゃた結婚でさ!」
 「そんな事関係ねえよ。今時、タレントは皆んなそうだろ。」
「でもさぁ、結婚して、戸籍みたら俺より一つ年上なんだよ。」
 「え?。さっき、年下だって・・・」
「そう、そこで聞いたのさ。」

「そしたら、あいつが言うには・・あんた、何も知らなかったの?
 女はね。結婚すると、その途端に二つ歳ををとるものなの。
  女にとって、結婚って大変な事なのよ。・・って。」
 「へぇ-、俺も知らなかった。勉強になつたよ。」

目の前の座席に、座っていた若い女性が、急にクスクスと笑い、
すぐ真顔になったが目はまだ笑っていた。
まあ、そう言う学説が借りに有ったとしても、可愛い奥さんだと俺は思った。

後日、その奥さんと会う機会があった。九州美人で頭も良さそう。
その時、確認してやった。
「奥さん、結婚すると二つ歳をとるって、本当なんですか?
  俺まだ独身だから良く分からないけど・・」
「え?まささんも、知らなかったの。だから世の中の男達は・・・」
「あんた、何話しているの。二人の事だよ。」と旦那に一喝。

この後に及んでもご立派。ご立派。これは今から○○年前の話。
今だ仲良い二人に乾杯。


『今治へ五里霧中』作 sayuki

 大学を卒業して、今勤めている俺の会社は、船の艤装品を製作している。
入社二年目で、まだ何にも判らないこの俺に、今治への出張の令が下った。
誰が行っても同じだろう、面白い行ってやろうじゃないか。
行けば何とかなる。好奇心旺盛な俺はこう考えた。

 次の朝、辛い早起きをして、電車を乗り継ぎ、何とか尾道まで来た。
尾道から水中翼船で今治へ渡る予定だった俺は、濃霧の為、水中翼船が欠航と聞き、
普通船の切符を買う為に別の売り場へと急いだ。
・・普通船だと二時間半かかる。だが、この際打ち合わせ時間に遅れても止むを得まい・・と俺は呟く。

 まるで俺が乗るのを待っていたかの様に、船はすぐに出港した。
船が動き出してから、安息所を求めて船室へ行ってみたが、どこも満員である。
下の船室は割と空いて居たが、ここは暗くてはなはだ居心地が悪い。
エンジンに近いせいも有ろう、やたら五月蝿い。
どうやら俺の精神はここを嫌った。俺は居場所を求め、船の中をさ迷う。
そこでデッキへと出てみた。霧を含んだ風が頬に心地良い。

 海は白い雲を敷詰めた様に静かに横たわっていた。
船は汽笛を何度となく鳴らし、ゆっくりと速度を落として進んで行く。
この霧で、瀬戸の島々も身を潜めてしまい、その形だけが朧に見える。
時折、汽笛だけ聞こえていた船が、蜃気楼の様に突然現れては、
目の前を横切り、又霧の中へと消えて行く。
流石に陸地に近づくと霧も薄くなっている様だ。船は最初の駅、瀬戸田に着く。

 船着場には、多くの乗客達と一緒に、船の係員が待つて居た。
船員が先端を輪にしたロ-プを投げる。
陸の係員が先の曲がった金具でそれを受け取る。
失敗して、一回では受け取れない時、何回か同じ試みを繰り返す。
そして船は接岸される。

 この世知辛い世の中に、スロ-モ-ションを見ているような、ゆったりとしたこの世界。
霧のお陰で味わう事が出来た。夜霧よ今夜は有難う。・・てか、まだ昼下がりだが・・


『キヤッチボ-ル』作 sayuki

 公園にボ-ルを持った可愛い少女がいた。丁度通りかかった私。
君は確信を込め、私にボ-ルを投げる。私は受け損なった。
何だこの子は、と言う疑問が生じたが、私はボ-ルを受ける気すら無かった。
二投目に投げたボ-ルを、気が付いた私が受け取る。少し相手してやるか・・
そして投げ返す。君は今度はグラブを投げてきて、
「ねぇ、キヤッチボ-ゥしょ」と言った。「ああ、いいよ」と私は答えた。

 久振りのキヤッチボ-ルである。「投げぅよ~」スピ-ドを込め、君は投げる。
その速さに驚いたが、正確に私の胸元に来たので捕ることは出来た。
ちょつと大人げ無かったが、私は気力を込めた速球を投げ返す。
私の意に反し、胸元を外れたにも拘らず、君は難なくキャッチする。

 その後、剛速球のやり取りが暫く続いた。私の心は何故か踊っていた。
君は私に近付きそして、舌っ足らずに言った。
「ねぇ、チ-ム作よぅよ。いいチ-ム出来ぅよ。」
「うん、その内にね。」狼狽した私はこう答えた。

 十数年後、君は眩しいばかりに美しく変身し、
過ってした約束を果たす為、私の目の前に現われた。
昔の面影を残したままで・・・


『靴の戯言』作 sayuki

靴達が、下駄箱の中で話合っていた。

ご主人の靴1 「参ったよ。あいつすげぇ足が臭いんだよ。」
        「毎日、足洗って欲しいよね。」
      2 「そうそう、本当嫌だよね。少し考えて欲しいよね。」

奥さんの靴1 「私なんかいつも、後ろ潰されて履かれる。」
        「私の美貌、台無しよ!。」 
      2 「私だって、お化粧して貰った事などないわ。」
      3 「私なんか、嫌われて奥の方で黴だらけよ。」

子供の靴 1 「俺なんか最悪だよ、ボケッとして歩いていて、犬の糞
        踏みやがって、臭いの、臭くないのって、本当に参るぜ。」
      2 「あのガキ、水たまりで遊ぶものだから、いつも私の顔ドロドロよ。」
      3 「そうそう、この間、砂場で大暴れしてブランコの処まで飛ばされた。
        あれ?何処行った。なんてね。私大怪我よ。」

おっと、誰か帰って来たようです。皆さんも思い当たりませんか?
靴は、貴方の足許を守って呉れる、頼もしい味方なのに。
それは無いでしょう。少しは面倒見てあげたら、 イ・カ・ガ 。


『食傷』作 sayuki

ちと、食い過ぎたかの。
過ぎたるは及ばざるが如し。

牛の如く横になり、
TVを見ながらこう考えた。
俺は何とあさましいのだ。

 チャ-ハン  一皿
 スパゲッテイ 一皿
 わかめス-プ 一杯
 バナナ    一本
 チヨコレ-ト 一箱

ひゃあ~、良く食ったものだ。
食ってる最中は分らないが、
食い終わってみてその量に驚いた。

胃の中の小人達は悲鳴を上げた。
「何だ、これは野郎めちやくちゃだ!。」
「チャ-ハン、バナナ、チョコ・・・、チョワ!」
「一体、俺達を何だと思っているのか!」

小人達が、悪戦苦闘している時。
俺は胃に軽い痛みを覚え、
台所に飛んで行き、消化薬を6錠、
胃へ流し込む。

「うわぁ~、又、何か来たぞ~い。」
「おう、助っ人だ。奴め、いい気なもんだなぁ~。おい!。」
次第に安らかになるのを感じる私
「あ~あ、やっと片が付きそうだ。」
「毎度の事とは云え、わし等の苦労も考えて欲しいよなぁ。」

でも、俺は又、腹が空いてきたのでした。
さあ、どうする?何か食う?。止めとくか!。
今日は、もう寝るべぇぞ!。


『本と若者と老人』作 sayuki

 昔、或る会社に一人のお爺さんが勤めていました。そのお爺さんは、
油絵を描く事が好きで、中々の物を作品にしてました。
ここで若者の登場です。背が高く、社内の女性達の憧れの的だった、
入社したばかりの若者です。
この若者が或る日、いつも寂しそうにして居るこの老人に声を掛けました。
昼休みに、北杜夫の本を読んでいるのを見たからです。

 若者も夢溢れる、北杜夫の作品が好きでした。
老人は言いました。「今度、一冊プレゼントして下さい。」
若者は数日後に『かぼちやの馬車』をプレゼントしました。
その後数ヶ月で老人は姿を消します。
どうやら、定年で辞めていった様です。

 そんな事も忘れかけた六ヶ月も経った頃、若者の元に老人からの一通の葉書が届きます。
*** 小生、老骨にムチ打つて頑張っております。貴殿に小生の描いた、拙い絵をプレゼントしたいと思います。
 近い内に遊びに来てください。

    追伸:北杜夫の新刊『まんぼう望遠鏡』 一冊おめぐみ下さい ***

 葉書を受け取った次の週の日曜日、若者は車を駆って-お恵みくださいのお爺さん-の家へと向かいます。
どんな掘っ建て小屋に住んでいるのだろう。若者は期待に胸膨らみます。その家は若者の意に反し、
新築の立派な家で広い応接間には、お爺さんが描いたと思われる絵が何枚か飾られています。
ピアノの前には、何号か分りませんが、かなり大きな絵が飾ってあります。
帰りに見たのですが、玄関脇の車庫には、立派な車が止まってました。

 会社では、何時もみすぼらしい格好で、靴下には穴でも空いているような印象を受けていたので、
若者は大変びっくりさせられました。家は息子さんが建てたばかりだという事だそうです。
かなり沢山の絵を見せられて「みんな、私が描いた物ですよ」小さい物は葉書大、
大きい物は畳半畳位の物までありました。全部で五、六十枚もあったでしょうか。

 この奇妙な画家に呆気を取られていますと、「気に入ったものが有れば、
何枚かあげますよ」と言う事で若者は、A3サイズ位の物を二枚貰います。
そしてすっかり忘れていた本、そう『まんぼう望遠鏡』を手渡しました。
 「あ、これお土産ですが・・・」

 お爺さんは顔をくしゃくしゃにして喜び、
「有難う。これが読みたかったんですよ~。」
「ホッ、ホッホォ・・・」と奇妙な声をたてて笑いました。
その後若者は、ケ-キ、果物等ご馳走になり、
車に絵を積み、お爺さんの家を後にしました。
運転中、どこにこの絵を飾ろうかと考えながら・・。

 若者は一つの教訓を学びました。  *人は見かけで判断しない事*


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