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テーマ:アニメあれこれ(26113)
カテゴリ:魔法科高校の劣等生
説十九 三人往壓
天保十四年、五月下旬 今年もまた梅雨 「ところて~ん、冷た~い、ところて~ん」 元閥は心太を売っています。 「下さいな、江戸元さん。こう蒸しちゃ、心太くらいじゃ涼しくもならないけどさ。そういえば、あんたの友達の御浪人、竜導とかって言わなかった?」 「ええ、竜導さんがどうかしました?」 「昨日の客も竜導ってさ」 お酒が初めてだと言い、刀が震えだしたのでその客は刀を押さえて帰っていったそうです。 ご縁だからと名前を聞くと、竜導往壓と答える客。 「弟でもいたのか?名前も同じってのが妙だ」 雨の中、傘を差さずに橋の上に立っている男。 「そうだ、もうあの刀はないんだ。これももう…」 雨の中を走る宰蔵はその男が刀を川に捨てるのを見る。 「何をしている!?」 「私はもう…竜導往壓じゃない」 「…!?竜…導…?」 そして、雨が強く降ってきたので宰蔵が目を一瞬瞑った間にその男の姿は消えていた。 妖夷の肉を干し肉にするために干しているアビ。 「於偶の肉はまだ干物にしなくてももつだろ?」 「妖夷の肉を得たのは何時以来です?」 「そりゃ面の妖夷は人目が多くて無理だったし、日光もそれどころじゃなかったしな」 「吉原の蝶もどこかに消えた。2ヶ月ぶりの獲物です。この陽気で傷む前に…ちょっと焦がしてしまったかな。干物にした方が味もまとまる」 往壓は味見をしようとして身を乗り出すと銭が飛んできて顔に当たり屋根から池に落ちてしまう。 「妖夷に銭を投げるのは嗜好だな」 「給金が足りぬのか!?借金でもあるか!!恥をかかせおって!!」 「は!?何のことだ!?」 放三郎が何を言っているのか解らない往壓 「あの岡っ引きがまた屋敷に現れた!!」 「竜導が食い逃げだと!?」 「確かに上がる時、竜導往壓と名乗ったそうで」 「お若い御武家だなとは思いましたんですが…」 「若い?」 「立派な二本差でいらっしゃるし、特にお脇差など身分違いな私などから見ても稀に見る拵えで」 「二本差?」 「えぇ、それが鰻を召し上がられるだけ召し上がられるとちょっと目を離した隙に…」 「こいつはちっとまずいことになりますぜ。15年前のことはお禄が出ねえから諦めたが今度は…」 「しかし、竜導は刀など差してはおらぬ」 「けど、竜導往壓なんて名前、そうそうあるとは思えませんがね…」 「竜導さんは朝からここにいました。確かです」 「とんだ濡れ衣、濡れ衣」 往壓は濡れた着物を絞っています。 「だったら!!お前の名を語って鰻を七匹たえらげたのは誰だと言うのだ!?」 「往壓殿の偽者ですか」 「さっき出会った男がそうらしい。一体どういう関わりだ?」 鰻を食い逃げした男は竜導往壓と名乗った少年だった。 狂斎とアトルが雨宿りしていると、刀を二本差した少年の武士が走っていた。 その少年に泥をかけられたので因縁を吹っかける侍達。 「拙者が武士の心得知らぬと言われるか。武士は頭など下げぬ。下げる時は忠義の為だけだ。俺の名は竜導往壓」 侍達の刀が勝手に抜け、妖夷に変わる。 それを見て止めに入った狂斎も驚き、アトルは少年の持っていた刀が往壓の持っていた刀と同じことに気づく。 偽者の往壓の正体を探るため、放三郎は往壓の生まれ育った家を訪ねることにする。 だが、25年もの間、家を棄てて生きてきた往壓は家に近づくことができない。 「25年帰っていない家だ。親が生きているかどうかも。そこに本当に竜導往壓がいたらどうするんです?」 「俺もふと思った。本物の往壓様は今も家で武士をやっている…。この俺は雲七みたいな…」 そこへ円盤の雲七に乗ったアトルがやって来る。 「往壓、お前に聞きたいことがある。お前に子どもはいるか?」 往壓は実家にいくのを避けるいい口実とばかりにガキの方が先だと雲七に乗ってアトルと共に行こうとする。 「私も行く!!」 往壓の実家を訪れる放三郎、アビ、元閥。 竜導家では養子をとり、竜導往壓という名で後を継がせたそうです。 往壓に家を出た理由を訊ねる宰蔵。 往壓は武道の方が好きだったようですが、竜導家は代々学問をもってお上に仕える家なので往壓にも道場を止めて、15歳までに書物全てを修め、湯島聖堂の教師になれるように学問に専念するように言われる。 「その時、俺はやっと気づいたんだな。それまでは明日のことは解らねえ。今は天下泰平でも戦が来れば剣は必要だなんて考えていた。だが明日どころか父の後を継いで出仕し、娶り、子を産み、その子にまた学問を受け継がせ、死ぬ。俺だけじゃない、武士は皆、そうだ」 「ああ、武士は即ち家。家を守り、その家禄を次に伝える」 「もしそれが嫌になったら?」 「住処も生活の糧も失くす。商人に株でも売れば別だが、そんな金、すぐに費やしちまう」 「俺は明日のその先までずっと決まっているということが何だかとても変に思えた」 代々伝わる脇差しを往壓は父が要らないはずなのでどこかへ持っていこうと考える。 《どこへ…何処へだろう…?》 そう思っていると、異界の入り口が開く。 「異界で何を見たのか覚えていない。俺が消えて1年の月日が経っていた。俺にとっては一瞬のことだったが、異界は俺を1年も捕まえていたんだ。それからは母は俺から一時も目を離そうとしなかった。俺は息苦しかった。あの異界がまた連れに来たらそれはとても恐いが逆らえない。あの家にいたら俺はまた異界を呼んでしまう気がした」 「往壓が望めば来ただろう」 「15歳、元服の日、俺は髷を整え、父に名を賜った。それが父に貰った最後のものだ。その夜、俺は家を捨て二度とは戻らなかった」 竜導往壓の名を語る少年を追いかける笠斎は剣を抜くと、その少年の剣がまた変化する。 「へへ、やっぱりね。見たろ、こいつはあんたの偽者の妖夷だ」 「成程…妖夷か」 隠れていた往壓が現れる。 「俺は竜導往壓だ」 「その刀はどうした?」 「譲り受けたのさ、名前と一緒に。それは…私には重すぎる竜導往壓という名と脇差しを欲しければあげようと」 「そいつはそう言ったのか?」 「武士になってやったことが鰻の食い逃げか!?」 「俺も竜導往壓だ。お前の本当の名は?」 「歳三…土方歳三だ」 「兎に角その脇差返してもらうぞ」 往壓がその少年の刀を掴むと"金士"という文字が浮かび上がる。 往壓も体から同じ鉞を出して、歳三の鉞に向かっていく。 だが、歳三は姿を消してしまう。 「竜導家の刀に妖夷が!?」 竜導家では養子の竜導往壓が一昨日から帰らないそうで、その養子が歳三に刀を譲ったとはどうなっているのかと考える。 「どうなっている!?かつてお前が異界に連れ去られ、25年後同じ名前の養子が消え、子どもが刀を妖夷に変えて回っている」 「まるで往壓さんから始まった異界の呪いが竜導って家をおかしくしちまったみたいだな」 家に帰るつもりの往壓に、着物を用意してくれる宰蔵。 往壓が何も言わなくても、奇士達は皆、往壓のことを理解していた。 「何故家に帰ると解った?」 「自分が家を出たせいで養子を取った。その養子までおかしくなったと聞いて放っておける人ではありませんよ、あなたは」 「家に帰る理由を探していただけだ」 「子どもの往壓さんは私とアビで」 「武士の"士"という文字は王に仕える侍が持つ小振りの鉞を意味しているが、妖夷の源はどこだ!?姿を消した養子か、それとも竜導が連れてきた何かか…」 帰宅した往壓を迎えてくれた母。 歳三が刀を手にしていた。 「侍と言うのか、お前の名は。俺も侍になる。真の武士に!!」 次回、「不忍池子守唄」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 17, 2007 08:47:38 PM
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