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クセノポン「アナバシス ― 敵中横断6000キロ」
訳は、松平 千秋。 「アナバシス」って何? 「敵中横断6000キロ」って・・・なんか凄そう!! で、作者が、クセノポン! プラトンと並んで、ソクラテスの弟子の一人! ということで、読みました。 事実は小説より奇なり・・・ 冒険小説顔負けのなんとも凄い物語でした。 時代は、紀元前401年3月から、紀元前399年3月までの2年間のお話。 ペルシアの大王ダレイオスが病に臥し死期を悟り、 二人の息子を呼び寄せる。 兄は、アルタクセルクセス。弟は、キュロス。 ところで、兄はたまたま父親の元である現イラクにいたが、 弟のキュロスは、現トルコのエーゲ海側を統治していたため、 かけつけた時は、父は亡くなり、兄が即位していた。 弟キュロスとともに駆けつけた腹心のティッサペルネスが、 新王アルタクセルクセスに、キュロスに謀反の志ありと訴えたため、 キュロスは捕らえられてしまう。 この時は、母親のパリュサティスの懇願で釈放し、任地に戻る。 当然、腹の虫が収まらないキュロス。 日頃仲良くしていたギリシア人の傭兵を味方につけて、 兄との決戦を企む。 しかし、当初はその意図は隠し、周辺の反抗的な部族掃討の名目で出陣する。 ギリシア人の指揮官は、スパルタから亡命し、ペルシアに庇護されていた クレアルコス。このクレアルコス、三度の飯より戦争好き。お金と暇があったら ゆっくり休む・・なんていう性格ではなくて、自ら傭兵をやとって周りを平定します。 で、トルコからアルメニア、シリアを経て、イランに入り、 キュロス軍とアルタクセルクセス軍の決戦。 キュロス軍は、 ギリシア重装歩兵1万400、軽装歩兵2500、 土着民部隊10万、鎌戦車20台 アルタクセルクセス軍は、 120万、鎌戦車200台、騎兵6000 書評にも書かれているので、書いてしまうと、 あっさり、キュロスとその腹心たちは命を落とす。 個別の戦闘では、ギリシア人部隊は善戦し、まだ負けたことを知らない。 ここまでで、第1巻が終わります?! 全部で7巻構成なので、あとの6巻は、この敵中深くからの撤退戦。 ・・関が原の島津の敵中突破よりもはるかに遠大です。 「イオニアのエペソスから戦場まで彼らが踏破した距離は、 93日の行程で535パラサンゲス、すなわち1万6050スタディオンであった。 戦場からバビロンまでは、360スタディオンであったという」 単位がよくわからないと思いますが、1スタディオン=約180メートル。 したがって、1万6050スタディオン=2889キロ。首都バビロンまであと65キロまで迫っていた。 第2巻において、戦闘においてギリシア人部隊の強さを痛感したペルシア側は、和平を申し出ます。 ギリシア人指揮官、クレアルコスも、3000キロの退却をペルシアの了解なしにすること困難 と判断し、クレアルコス自身と隊長を引き連れて、ティッサペルネスへ面会に行く。 なんと、その陣幕であっさり虐殺されてしまいます。 この時、虐殺された指揮官の一人が、プラトン対話編「メノン」のメノンでした。 クセノポン、相当このメノンが嫌いだったようで、散々な悪口雑言が述べられています。 プラトン「メノン 徳について」 第3巻、指揮官・隊長を皆殺しにされたことを知って、意気消沈して夕食もとらず 横になってしまうギリシア人たち。 「さて、部隊の中にアテナイ出身のクセノポンなる者がいた。」と、ここでクセノポン自身が登場します。 「俺としたことが、こうして寝ているとは何事か。 夜はどんどん過ぎてゆく。夜が明ければ恐らく敵がここに来るであろう。 もしわれわれが大王の手中に陥るならば、あらゆる苛酷な責苦に遭い、 数々の恐るべき仕打ちを加えられて、汚辱のうちに死ぬ外はあるまい。 それなのに、いかにしてわれわれの身を守るべきか、一人としてその準備や配慮をしている者は なく、われわれは今まるで呑気に構えていられる情況であるかの如く、横になって寝ているのだ。 それで、そもそも俺はこういう措置をとってくれる指揮官がどこの町から出て来てくれる 当てにしているのだろう。俺は自分の年齢がいくつになるまで待つというのだ。 万一今日、自分の身柄を敵の手に委ねることになれば、 俺はこれ以上年をとるわけにはゆかぬものだものな。」 この時、クセノポン、30歳ぐらいだった様子。 クセノポン、年齢の点もあり、明確な指揮官にはなりませんが、 1万3000余名のギリシア人を、鼓舞する演説を再三にわたって実施し、 部隊全部の窮地や自身への誹謗から身を守ります。 言葉による説得がいかに大切であり、有効であることか が、緊迫した局面で登場するので、ひりひりするほど強く伝わってきます。 クセノポン、哲学者というよりも、良き軍人でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.05.27 10:28:34
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