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「そう、遠くには行けなかったはずだ」 アシャは机の上の地図を睨みつけた。 「あれからすぐにミダス公の領境に『銀羽根』を手配したが、まだどこからも連絡は来ていない」 「もう分領地を出ちまったんじゃないのか?」 「いや」 イルファのことばに、アシャは首を振った。 「そんな暇はなかったはずだ。いくらギヌアだろうと、あれほど早くこっちが反応するとは思っていなかったに違いない」 「こっちにレスがいることを忘れてたんだな」 「能力を過小評価してたんだろう。……レスにユーノを探させる手も考えたが」 アシャは少し唇を噛んだ。部屋の隅で丸まって眠っているレスファートに目をやるが、首を振りながら続ける。 「ユーノが瞬間に気を失うぐらいだ。ギヌアだったら、傷を抉り直すぐらいのことはやりかねない」 ぎりぎりと体中を締め付けてくる痛みをしばし耐える。 「そいつは、まずいな、レスがもたん」 イルファも難しい顔になった。 「ユーノ一人、それもあれだけ出血している人間を、そう簡単に移動させることはできない。まだ、ミダス公の領地から出ていないはずだ。領内中に緊急の告示が回っているから、おいそれとは動けないだろう」 「もし『銀羽根』の中に裏切り者がいたら?」 イルファの問いは、アシャが何度も考えたものだ。 「可能性はあるが…」 自分の唇が吊り上がるのがわかった。おかしくはない、楽しくもないのに零れるこの笑みは、縛られ遮られている昏い欲望が満たされるのを待っている、雌伏している獣の笑みだ。 「今夜は動けない。動いたとたんに、自分の命がなくなることぐらいわかっているだろう」 「ふ、ん…」 机の火皿の灯が揺らめいて、不気味な影を部屋の壁に踊らせる。 「それに……おそらく、裏切り者は視察官(オペ)だ」 苦いものを噛み潰す声になった。歯ぎしりしたくなる怒り、揺らぐ世界を同じように支え守っているはずの仲間が、こともあろうに、かけがえのない存在を卑劣な手口で奪い去ろうとしている。 「宙道(シノイ)の時に、そうじゃないかとは思っていたが」 「とすると、何か」 イルファはラズーン全土を地図で眺めた。 「今、ラズーンに集まっている視察官(オペ)の中にそいつがいると?」 「ああ」 アシャは目を細めた。 「ユーノを連れ出すに連れ出せず、どこかに押し込めて、自分は何食わぬ顔で別の屋敷に居るんだろう……そうしているだけで、ユーノは確実に死ぬからな」 ユーノが死ぬ。 考えたくないその状況を、己が易々と口にしているのに呆れるが、ことばにためらっているほど余裕はない。今必要なのは、的確な現状把握と残された時間の算定、その間に何をどうすれば、ユーノを生き延びさせられる策が打てるか考えることだけだ。 (もし、そいつを見つけたら) アシャは目を細めて、地図をゆっくり見渡した。 (何をしよう?) 幸い、ここはアシャの本拠だ。全権限がアシャには与えられる。誰の何をどのように扱おうとも、正面からアシャを止められる者などいない。 「ふ…」 小さく漏らした吐息に、イルファが何か言いたげに上目遣いにアシャを見る。 (もし、それが……ユーノの屍体を見つけた後だったとしたら) そいつは何かを考え何かを感じる人間であったことを後悔するような状況になるはずだ。 (俺に自制は期待するなよ?) 誰にともなく嘲笑する。 もっとも、今の状態では、ユーノが生きている間に見つけたとしても、そう待遇を変える気にならないが。 「…同情するな」 ぼそり、とイルファが呟いた。 「ん?」 「ユーノを襲った奴に」 「…どういうことだ」 「おいおい、勘違いするなって」 じろりと見返したアシャに、イルファがぱたぱたと両手を振る。 「お前がそれほど殺気だってるのを見るのは、初めてだってことだ」 「そうか?」 イルファの目に浮かんだ恐れに、にっこり笑い返してみせる。さぞ、凄まじい笑みだったのだろう、珍しくイルファがぎくりと身を縮めた。 「だからだなあ…『そいつ』を俺に向けるなって…」 ぶつぶつぼやきながら、小さく溜め息をつく。 それには構わず、アシャは再び地図を眺める。 (動け) 同じ視察官(オペ)の考えること、ユーノを連れて潜めそうな所を、今、片端から『銀羽根』にあたらせていた。それも、できるだけ派手に騒がしく、言い換えれば何か大事があったのだと周囲が噂するぐらいにやってのけろと命じている。 ユーノがまだ生きている可能性があって、繰り返される捜索に次第に場所が絞られていき、見つかる可能性が大きくなっていけば、裏切り者は危険を冒してでもユーノを隠した場所に走るだろう。ユーノが見つかれば、彼女は裏切り者の顔を知っている。その口から破滅がもたらされるのは必至、何が何でもユーノにとどめを刺そうとするはずだ。 全てを読み込み、アシャは万に一つの機会を待っている。牙を立てる瞬間に己の力を叩き込むべく、獲物が目の前に現れるまで静かに毛繕いしている野獣。 首から背中の産毛が勝手に立ち上がっていくような感覚、静謐で残忍な心がふつふつと満ちていく。 (動け) 包囲網が狭まっていく。その場しのぎの発想の愚かさが、じりじりと襲撃者の心を火あぶりにしていくだろう。 (うろたえて、動け) その時が、お前の最後だ。 「!」 ふいに屋敷の端がざわめいた。 救いを得たようにイルファが跳ね起き、アシャが戸口を振り返る。 「アシャ・ラズーン!」 突然開け放たれた扉から、はあはあと息を切らせて、『銀羽根』の一人が飛び込んできた。 「わかりましたっ」 「誰だ」 「セータ・ルムです!」 駆け通しに駆けてきたのだろう、今にも頽れそうな体を膝に手をついて支え、 「自宅近くの、古い空き家に急いで駆け込んでいくのを見たとのことです」 知らされた場所は、ミダス公の花苑からそれほど離れていない。何より、手配した捜索は領域周辺からミダス公邸に収束していく形の包囲、セータが駆け込んでいった空き家は、まだ捜索の手が届いていないはずだ。 そこへわざわざ仲間から離れて単独で駆け込む何があったのか、アシャの命に背いてまで。 理由は火を見るより明らかだ。 「イルファ!」 「おう!」 ほっとしたようにイルファが剣を掴む。その側を擦り抜け、ようやく息が整った『銀羽根』に続いて、アシャはイルファと共に部屋を飛び出した。 「悪いな…」 「……」 空き家の屋根の破れ目から差し込む月光に、一枚の黒い布になったような人影の低い掠れ声を、ユーノは夢うつつで聞いていた。 「はっ…はっ…はっ…」 荒い呼吸を続けながら、何とか相手の言っていることを理解しようとする。気持ち悪い汗が、体中をぐっしょり濡れさせている。剣に刺し貫かれた右肩は麻痺して既に感覚はなかったが、汗とは違う生暖かいものが絶え間なく流れ続けているのはうすぼんやりと感じていた。 「本当は、もう少し生きられるはずだったんだが……。ギヌア様が殺してはならんとおっしゃっていたから、このまま本拠へ連れていく予定だったんだ」 「は…、うっ」 乱れる呼吸に額から汗が流れ落ちていく。 「ギヌア様は先に戻られたから、あの包囲にはひっかかってはおらんよ」 男は含み笑いをしてユーノを覗き込んだ。 「お前は無駄死にと言う訳さ」 (裏切り…者…) 呼吸が苦しく、ことばにならない。必死に空気を求めるのに、いつまでたっても息苦しさはなくならなかった。 この空き家に運び込まれ、気がついてからずっとそうだ。 そればかりか、息苦しさはじわじわと増していって、呼吸を続けることさえ苦痛になりつつあった。息苦しさから逃れようと喘ぐ。喘ぐことが苦しくて、呼吸が止まりそうになる。呼吸が止まりそうになると、息苦しさに耐え切れず、できるだけの空気を吸い込まずにはいられない。 ユーノはさっきから、その堂々巡りを繰り返していた。 「放っておいても、いずれは死ぬだろうがな……その出血じゃ」 男は、ユーノの右肩辺りに眼をやり、ぶるっと体を震わせた。 「槍傷を抉るなんて……ギヌア様らしいさ……並の人間にできることじゃない…」 語尾が怯んだように戸惑った。それを振り切るかのように相手は、一つ顔を振り、はっきりした声音で言い放った。 「だが、あのアシャが余計な手配をしてくれてな。こっちが危ないんだ。悪いが死んでもらう」 ユーノの頭上に掲げられた短剣が月の光を明るく跳ねる。天を突き上げていた切っ先はくるりと向きを変え、容赦なくユーノの胸元に一気に下がってくる。 (い、やだ…) 霞む意識に半ば本能的に片手を伸ばして近くの柱を掴み、短剣の進路から逃れようとぐっと体を引き寄せた。 「っっ…」 激痛が体中を駆け巡って気が遠くなる。が、少なくとも、相手の気は削ぐことはできたらしく、短剣は中空に浮いたまま止まった。 「ほ……まだ……けるのか……たいした……だね、お前……さ」 男の声は波打つように響いて、よく聞き取れない。 耳鳴りがする。吐き気が込み上げる。目眩がして、体の力が抜けてくる。手放すまいとたぐり寄せた気力が、今の動きで一気に削られた。 ユーノはぐったりと首を落とした。呼吸だけが別人のもののように活発に、いや切羽詰まって最後の足掻きのように続いている。 「可哀想だな。安心しろ、今、楽にしてや…っ!」 一回で入りませんでした(汗)。 もう一回、刺客の章があります。 6/4 >17:40 みみさま こんにちは、当サイトへいらっしゃいませ。 以前、闇から見る眼のPDFを購入して頂いたとのこと、まことにありがとうございました。 はい、実は第2部~販売していたのですが、委託しておりましたサイトがサービスを終了いたしまして、その後、販売、公開、ともにしておりません。 当サイトにても、その部分の説明が非常に不十分なままになっておりまして、まことに申し訳ありません。 続きを是非ということで、本当に有難く嬉しいことです。 実は他の方々からも同様のご依頼を受けておりまして、ブクログで展開した方がいいかもしれないと思いつつあります。 とてもとても嬉しいコメントを、ありがとうございました。 御期待に添えますよう、努力いたしますので、もう少しお時間頂きたいと思います。 今後とも、よろしくお願いいたします。
「遅いな…」 「うん…」 レスファートが頷くのに、席についていたアシャは入り口の方を振り返った。 ユーノはまだ姿を現さない。 「あら、それは立風琴(リュシ)?」 リディノがアシャの席の横をみやって尋ねる。一瞬しまった、と顔を引き攣らせたが、アシャは仕方なしに頷いた。 「ええ…まあ」 「珍しいわね、アシャ兄さまが立風琴(リュシ)を持っているなんて」 「ユーノに聴かせるんだって」 「む…」 レスファートが無邪気に答えるのに、アシャは思わず額に手を当てた。え、と訳がわからぬような顔でアシャを見たリディノが、気を取り直したようにねだる。 「ねえ、ユーノが来るまで、一曲弾いて?」 先に食べてて、というユーノのことばを伝えた上で、もう少し待ってみましょうと提案したのもリディノだったので、場繋ぎの意味も込めたのだろう。 「ぼくも聴きたい」 「私も、久しぶりにお聴きしたいですな」 レスファートに重ねて、ミダス公が穏やかに促した。 「確か、ラズーン一の詩人が双手を挙げて迎え、膝を屈して教えを乞うたと聞いておりますぞ」 周囲の視線に、アシャは歯切れ悪く応じた。 「それが、その、調弦もまだですから」 「時間はまだありそうよ」 リディノが入り口を見やって振り返る。 「お願い、アシャ兄さま」 その潤んだような瞳にアシャは昔から弱かった。自分が理不尽な力を振り回しているような妙な罪悪感を感じる。 仕方なしに立風琴(リュシ)を抱え、音を合わせ始めた。 一弦、二弦……。 「何を歌いましょう?」 「何でもよいが…」 「私、あれが好き」 リディノが小首を傾げて小さく口ずさんだ。銀鈴を震わせるような声だ。 「ああ……『花苑にて』」 「そう、その三つ目の」 「『瞳の哀しさ…』か?」 「ええ」 アシャは溜め息をついた。 よりにもよって、ユーノに聴かせようと思った詩を選ぶことはないだろうに、と心の中でぼやく。が、だめだと言えば、どうしてかと問われるだろう。リディノが自分にまだ執着しているとわかった今では、余計な混乱を招くようなアシャの想いを伏せておきたい。 軽く一本の弦を弾き、歌い出す。 「瞳の哀しさに 心を魅かれる 魂の色に 心を魅かれる それを罪だと誰が言おう? 花苑にて 涙こらえる幼き少女よ 私の想いに気づいて……!」 「いたっ!!」 ビンッ! 「どうしたの?!」 「どうした?!」 異口同音に、リディノとイルファの問いが、アシャとレスファートに投げられた。 「う…ん」 レスファートが右肩を押さえて目をぱちぱちさせている。 「何か今、すごく痛かった…」 「アシャ兄さまは?」 「いや…」 アシャは呆気にとられて、立風琴(リュシ)を見つめた。その中の、最も切れにくいはずの中央の弦がいきなり切れてしまったのだ。 「弦が…」 「第三弦が? おかしいわね……めったに切れないのに…」 「レスは?」 さすがに心配そうにイルファが尋ねるのに、レスファートは弱々しく笑ってみせた。 「だいじょうぶ。もう痛くないよ」 「モスの奴らに捻られたのが残ってたんじゃないのか?」 「ちがうよ!」 レスファートは唇を尖らせた。 「ぼく、そんなヤワじゃないもん。あの時だって、ぼくが『そう』だったんじゃなくて、ユーノが…」 言いかけて、その恐ろしい符号に気づいたように瞳を大きく見開いた。 「ユー…ノ…が…」 「遅すぎる」 アシャは顔をしかめて席を立った。立風琴(リュシ)を置き、剣を握る。自分が酒食にふさわしくない猛々しい気配を放っていることは承知していたが、溢れる殺気が止められない。鋭くリディノを一瞥する。 「ユーノは?」 「あ、あの…」 静かな声音が孕む怒気に、リディノが顔を青ざめさせた。 「花苑の東の端に…」 「東だな」 「待って、アシャ!」 「おい!」 飛び出すアシャに続いて、異変を感じたレスファートとイルファが追う。 そこで何があったかは一目瞭然だった。 踏み散らされた花々、荒らされた地面、切り裂かれたマントの切れ端。 (一人…いや、二人か) すばやく周囲を見渡し、状況を見て取る。 「おい…アシャ…」 イルファが険しい声で唸った。 「こいつあ、どういうことだ? ラズーンの中で狙われるってのは……もう『運命(リマイン)』の手が」 「ああ」 苦々しい思いで同意する。 こうなっては、ラズーン内部の裏切り、それも視察官(オペ)クラスの離反を考えざるをえないだろう。宙道(シノイ)の時に抱いた疑いが、アシャの心の中で大きな闇となって広がっていく。 「アシャ…」 震え声で囁いたレスファートが、アシャに身を寄せ、ぎゅっと服を掴んでくる。その視線は、目の前のラフレスの花に注がれている。 ラフレスは、毒々しい紅をその身に浴びていた。『月光花』と異名のある蒼白い花が鮮血に濡れているのが、姿のないユーノの運命を暗示しているように思える。 身を屈め、そのラフレスを折り取る。 すぐ近くに、これ見よがしに、刀身の半分以上が汚れた長剣が地面に突き立てられていた。ねっとりとした赤で染まっているばかりか、吐き気がするようなぐずぐずした塊までこびりついている。 おそらく、この剣はユーノの華奢な体を貫き通した、そういうことだ。 そして、その大怪我をしているはずのユーノの姿は、花苑のどこにもない。 レスファートの口元からカタカタと小さな音が響く。恐怖のあまり歯の根が合わないのだろう、必死に服にしがみついて、何とか倒れるのをこらえているようだ。剣を握った片手で体を支えてやると、小さな泣き声が漏れた。 「ゆ…の…ぉ」 「上等だ」 自分でも信じられぬほど冷えた声音になっていた。 こんな風に、まるで哄笑を残していくような演出をしたがるのが誰か、アシャは熟知している。標的はユーノではない、アシャなのだ。ユーノは、またもや、アシャへの嫉妬に巻き込まれたのだ。 ぎり、っと奥歯が鳴った。顔から一切の感情が消えたのがわかった。 「どうした…?」 「アシャ…ひっ」 飛び出したアシャ達を案じてやってきたらしいミダス公とリディノが、少し離れたところで惨状に気づいて立ち竦む。振り向くと、リディノの薄緑の目が吸い付けられるように血塗れの長剣に止まり、無理矢理広げられるように大きく開かれる。 「あ…」 両手を口に当てる。瞳からぽろぽろと涙が零れた。 「私が……私…が…ユーノを一人にして…から…」 「あなたのせいじゃない」 アシャはそっけなく応じた。 もはやリディノの存在も、周囲の全てが遠ざかり、消え去っていく。 白い何もない空間に一つの声だけが響く。 (俺が、いなかった) ぐしゃりとアシャの手の中でラフレスが握り潰された。 再び間に合わなかったアシャの追撃開始。 遅いんだよお前!と詰る声が聞こえそうな(笑) ロストレイル、企画シナリオご依頼ありがとうございました。 今しばらくお待ち下さいませ。 世界樹旅団植樹ノベル、公開されましたね。 結構シビアな展開にしてしまったかと、ちょっとひやり。 すみません、世界図書館全滅パターンさえ考えておりました。 阻止に加えて皆様の生還という展開はお見事でした。 ご参加、まことにありがとうございました。 5/28 >00:39 はなさま はい、すみません、また負傷です(平謝り)。 アシャもまさかと考えていたようですが、甘かった。 確かにレスが一番成長してますよね。いい男になりそうです……ひねなければ(笑)。 イルファはどんな時でもマイペースで、別な意味でペースメイカー。 行きてるってこういうことだろって感じですか。 こちらの体調までお気遣いありがとうございます。 はなさまも、じっくりゆっくり焦らずに参りましょう。 「闇シリーズ」もまだまだ粘っております。 励みに頑張りますね。またどうぞいらして下さいませ。 コメントありがとうございました。 >00:41 面白かったですさま ありがとうございます。 長い物語で、いささかわかりにくくなっているかと思います。 それでもお読み頂き、嬉しいです。 これからもよろしくお願いいたします。
「いつの頃から、アシャ兄さまと呼ぶようになっててね……アシャ兄さまは、私のこと、リディって…」 淡く頬を染めて俯くリディノに、ユーノは切ない想いになった。 (同じように…報われないね) なぜなら、アシャの好きなのは、セレドのレアナなのだから。 「ねえ、旅の間、アシャ兄さまはどうされていたの?」 「ああ…」 ユーノは唇を綻ばせた。リディノが、わざわざユーノを花苑に誘い出したわけがわかったのだ。それに気づいて、リディノが耳まで赤くなる。 「ごめんなさい……だって、私、アシャ兄さまのこと、いろんなことを知っておきたいの」 「わかったよ。アシャが好きなんだね」 「ええ」 素直な答えに微かな心の痛みを感じながら、ユーノは旅の話を面白おかしくしゃべり出した。血なまぐさい話はできるだけ避けて、珍しそうなこと、祭りの話、イルファの大食いのことなどを話す。それをリディノはきらきらと目を輝かせて楽しそうに聞いている。 (可愛いな) 男ならきっと、レアナか、こういう少女を相手にしたいんだろうな、とユーノは思った。 「ん?」 回廊の角を曲がって歩いてきたアシャは、突き出したテラスの手すりに腰掛け、足をぶらぶらさせている少年を見つけた。 「レス?」 「アシャ」 呼びかけに顔を上げたが、すぐにぷいっと不愉快そうな顔で外を向いてしまう。 「……機嫌が悪そうだな」 笑いかけるアシャに、きらりとアクアマリンの瞳を光らせて、レスファートは頷いた。 「うん。ぼく、キゲン悪いの」 「どうした? イルファは?」 「まだ寝てる」 「ったく……あいつは食うか寝るかしか知らないな」 「それ、何?」 レスファートはアシャの片手の立風琴(リュシ)に興味が湧いたようだ。 「ああ。立風琴(リュシ)だ」 「りゅ…し?」 「そう、『風の竪琴』とも呼ばれているよ」 「アシャ、弾けるの?」 「少しはな。ユーノにでも聴かせようと思ったんだが、どこにいったかわからなくってな」 「……」 「レス?」 ユーノの名前を出したとたん、レスファートは再び不機嫌そうな顔になった。 「ぼく、あの人、きらい」 「あの人って?」 「リディノ…って人」 アシャは瞬きした。 「どうして」 「だって…」 レスファートは膨れたまま答えた。 「全然ユーノを返してくれないんだもん」 「え?」 「朝からずっとユーノと一緒に話してるのに、ぼく、まぜてくれないんだ」 「なんだ…」 (そうか、リディノと一緒に居るのか) 「お前、仲間はずれにされて怒ってるのか?」 「だって!」 少年は顔を紅潮させて反論した。 「ユーノ、独り占めにしてるんだもん! ぼくだって、ユーノの側にいたいもん!」 「ユーノを独り占めにされてると腹が立つのか?」 「立つの!」 「じゃあ、もし俺が独り占めにしたら、どうなる?」 アシャはテラスにもたれて笑いかけた。 「アシャが?」 きょとんとした顔でレスファートは問いかけた。 「どうして?」 「どうしてって……まあ、その、理由はどうでもいいから」 アシャは微妙に口ごもる。脳裏に過ったのは、心を閉ざしたレスファートが、アシャとユーノの間に割り入った光景だ。 「どうだ?」 「うーん…」 レスファートは少し首を傾げた。日差しにプラチナブロンドを透けさせて考え込み、小さなこぶしを頬に当てる。アクアマリンの目が一瞬どこか大人びた色をたたえ、こちらを向いた。 「腹立つ」 「腹が立つか」 「うん……でも」 ほ、とレスファートは小さく溜め息をついた。 「…アシャならいいや」 「え?」 レスファートの声が、子どもの声にふさわしくない深さを響かせて翳るのに、アシャは相手の横顔を見つめた。 「なぜ?」 「……よくわかんないけど……アシャなら、いいんだ」 少年は考え込みながら続けた。 「他の人だとね、ユーノの胸が苦しくなるの……きゅうってしまっていっちゃって、すごく痛いんだ」 「……」 「だけど、アシャといると……痛くなんない。…ううん、痛くなっても、痛くない」 「痛くなっても痛くない? どういうことだ?」 「わかんないよ」 レスファートはかぶりを振った。 「なんか、ごちゃごちゃしててわかんない。でも、ユーノが苦しくならなくってすむんだもん」 にこり、と少年は笑ってみせた。 「だから、腹立つけど、アシャならいい。だけど、ぼくを置いてっちゃ、やだ」 「レス」 くすりとアシャは笑った。片腕でレスファートを抱え上げる。 「お前は健気だな」 「ケナゲ?」 「ああ」 「わかんない」 ぴとりと首にしがみつくレスファートに微笑む。 「そのうち、わかるさ」 「おーい!」 回廊の向こうから、聞き慣れたどら声が響き渡った。それを追うように、トーンと木の板を打ち合わせたような音が聞こえる。 「何?」 「昼の合図だろ。ほら、イルファが来た」 「どこに行ってたんだ!!」 ドタドタとイルファは回廊を走り寄ってきた。 「もう俺は飯を食い終わったぞ!」 「イルファ、ずるい!」 「何がずるい」 のうのうとした顔でイルファは目を剥く。 「起きたら腹が減ってた。で、飯を食った。どこがおかしい?」 「確かにおかしくはないな」 アシャが苦笑いする。 「でも、ずるいもん! ぼくもお腹すいたもん、なんで呼んでくれないの」 「呼んだけどいなかった」 「絶対呼んでないっ」 「呼んだぞ、レスー、アシャーって」 「どこで」 「飯を食いながらだなあ」 「ひどいーっ」 レスファートが抗議し始めたが、イルファは堪えた様子もなし、仕方なしに最後は盛大に、イルファなんか大嫌いだーっ、とののしって、少年は唇を尖らせた。 昼を告げる音は、花苑の中でおしゃべりに興じていたユーノとリディノの耳にも届いた。 「あら…」 「何だい?」 「食事の合図よ。香木を叩くの。行きましょ、ユーノ」 「ああ…」 頷いて立ち上がろうとしたユーノは、ぎくりと体を強張らせた。再びゆっくりと腰を降ろす。 「どうしたの?」 不審そうにこちらを見下ろすリディノに、何気なく笑ってみせる。 「ちょっと用を思い出した。先に食事を始めててくれる? リディ」 「え、ええ…じゃあ、なるべく早く来てね、ユーノ」 「わかった」 片手を上げて応じるユーノに首を傾げながら、花の間を歩み去っていくリディのの後ろ姿をじっと見つめる。気がかりそうに振り返り振り返りして離れていく相手に、強いて笑って手を振る。リディノは頷き、誰かに呼ばれたのだろう、やや足を急がせて遠ざかっていく。 その姿が視界から消えると、ユーノはゆっくり息を吐いた。 (これで、巻き込む心配はなくなったな) 「もういいだろう?」 背後に潜んでいる気配に声をかける。 ぐっ、と無言で、腰のあたりに突きつけられていた剣が押された。 いつの間に忍び寄っていたのか、寸前までユーノに気配を掴ませなかったところからみて、かなりの遣い手だと思われた。急いで勝負をかけるのは命取りだ。 「わかった」 答えて、前方に目を据えた。じっとりと汗が滲んでくる。 「声はたてない」 再び剣が突いてきて、腰の剣へ滑りかけたユーノの左手を制した。 「両手を上げろ」 低く掠れた声が応じた。 「右手は上げられないんだ」 「日常生活に支障はなかったはずだ」 「!」 (こいつ、知ってる) 頭の中で思考が目まぐるしく回転する。 背後の気配がユーノを狙っていることは、リディノが居る時に仕掛けてこなかったことでわかる。何かの理由があって、ユーノ一人を狙おうとしているのだ。 だが、そもそも、ラズーンの外壁内で命を狙われるということが妙だ。外からやってきた者は、『羽根』の守りを受けてしか中に入れない。『羽根』が守りとして付き添い、中に入れるほどの人間なら、余程の身元証明がないと無理だろう。つまり、この中にいるということは、ラズーンにとって敵ではないと証明されたも同じだ。 なのに。 (視察官(オペ)の連れて来た『銀の王族』か、視察官(オペ)の知っている者、そして、視察官(オペ)自身…) あるいは、『羽根』の中に裏切り者がいるか。 「っ」 だが、今はそこまで追及していられる状態ではなかった。 再びゆっくりと、だが確実に剣が突き込んでくる。ぴっ、と衣服が裂けた音がした。 「わかったよ。手を挙げればいいんだろ」 舌打ちしてのろのろと手を上げた。 (どうする? こうもぴったりくっつかれてては動けない) 「立て」 聞きようによっては葉ずれの音としか聞こえないほどの囁きが命じた。 「わかった」 ゆっくりと片膝を立てる。この瞬間を狙うしかない。ふいに素早く立ち上がりかけ、慌ててついてこようとする剣の前で身を沈める。 「?!」 背後で妙な叫び声が上がると同時に、片手をついて体を回し、背後に素早い蹴りを入れた。衝撃があって、チィ…ンと音をたてて、剣が飛ぶ。 「はあっ!」 続けさまにユーノが繰り出した蹴りを、潜んでいた相手はトンボを切って避けた。落ちた剣が花苑の中に突き立つのと同時に、ちらりと見えた男が花の中に身を隠す。 「ちっ」 ユーノは息を潜めて気配を伺った。 風がライクの甘い香りを吹き寄せる。ふいに、すぐ側の花びらが舞い散るのに、とっさに身を引いた。間一髪、マントが引き裂かれただけですむ。抜き放った剣に、ガキッ、と重い音をたてて食い込んだものがあった。 「!」 それが何かを認めたとたん、ユーノは顔から血の気が引くのがわかった。 「お前…」 「ちいいっ!」 「っ!」 ユーノの表情に何を悟ったのか知ったらしく、男は忌々しげに舌打ちした。剣を交えながら、足蹴りをかけてくる。 (この戦い方!) 円を描くような剣の動きに、ユーノは苦戦した。その視界の隅の方で、もう一つ、音もなく現れた影があるような気がする。気配だけだが、突き立った剣を引き抜き、一歩、また一歩と近づいてくるように感じる。だが、ユーノは目の前の男に応戦するのに手一杯だ。 「く…うっ」 左手で必死に相手の攻撃を止めながら、ユーノは歯を食いしばった。 (早く、こいつのことをアシャに伝えなくちゃ…) もう一人、敵がいるような気配を感じつつも、目の前の男が一瞬怯んだように剣を引いたのに、思わず焦りが出た。 (早く……この短剣は……この戦い方は……視察官(オペ)の…) ドスッ! 「!!」 一瞬、ユーノの体が凍りついた。 突然右肩を貫いた激痛に、のろのろとそちらを見やる。 「……う」 肩を貫き通した剣が真紅に濡れていた。狙い違わず、治りかけていた傷の中央を刺し貫いて突き出した剣の切っ先から、ぬめぬめと赤く光るものが玉となり、ぽとりと滴る。 それは次第に間隔を縮めながら、花の上に音をたてて散った。 「…あ!!」 自分が何をしているのかもわからぬままに振り返ろうとしたユーノは、ぐっと剣を捻られて悲鳴を上げた。同時に、ユーノの意識は、終わりのない夜の中へ崩れ込んでいった。 穏やかで明るい、平穏の光景。 がしかし、そこに忍び寄る影、というのはお約束。 ロストレイル、企画シナリオオファーありがとうございます。 またシナリオご参加もありがとうございます。 頑張りますねv
「ユーノ?」 アシャはひょいと部屋を覗き込んだ。が、そこにもユーノの姿はない。 「どこ行ったんだ、あいつ」 再び回廊を歩き出したアシャの手には、五本の銀色の弦を張った楽器がある。ラズーンのもっとも代表的な楽器、立風琴(リュシ)だ。『氷の双宮』へ行くまでにユーノに休息を取らせようと、柄にもなく立風琴(リュシ)を引っ張り出してきたのだが、肝心のユーノの姿がどこにもない。 (こんな所を他の娘に見られでもしたら大騒ぎだ) 溜め息をついて立風琴(リュシ)の表面の細かい彫刻を見つめた。苦笑を浮かべながら考える。 (馬鹿なことをしている) 以前のアシャなら、たかが娘一人のために立風琴(リュシ)まで引っ張り出してくるなんて酔狂なことはしなかっただろう。回りの男がいそいそと、恋人のために花を集め、身なりを整え、恋歌に頭をひねるのを見ては、それほどまでして娘の心を捉えてどうするのだろうと不思議に思い続けていたはずだ。 そんなことに時間を裂くぐらいなら、ラズーン外縁の守りを堅め、世の動乱の方向を見極め、自分の辿るべき道を探し当てたい。 アシャの考えていることはいつもそれだけで、娘の投げる花に見向きもしなければ、類まれなる美姫と言われた娘の歌にも心を動かされなかった。 少年から青年へ、危ういまでに妖しい美貌を保ったまま成長していく彼に、周囲は何とかしてその興味を捉えようとした。四大公は言うに及ばず、あらゆる貴族がアシャを宴に呼び寄せようと躍起になったが、アシャはどれもこれも丁重に断り続け、『氷の双宮』に籠っていた。剣の技を磨き、医術の腕を高め、『太皇(スーグ)』の期待に応えて、深遠な知識をラズーン正統後継者の一人として蓄えるべく。 人はそうした彼を、整いすぎる美貌と石のような心にかけて、『氷のアシャ』と噂した…。 「…そうなの」 リディノはうなじにかかった淡い金髪の巻き毛をうっとうしそうに払って頷いた。 ミダス公邸の一隅、広大な花苑の中には、今を盛りと咲き乱れる淡い紅の花弁のライク、細かく縮れるような黄色の花々、『月光花』とも呼ばれる蒼白いラフレス、そしてユーノが名前も知らぬ大輪の赤い花が溢れるように咲いていた。 そろそろ昼になろうかという日差しは暖かく花々を照らし、甘い香りが空気に混じっている。ブーコが鋭い羽音を響かせながら、その体長より長い金の触覚を振り回して、花から花へと渡っていた。 それを目で追ったユーノは、再び響いたリディノの声に、相手を振り向いた。 「あまりにも周囲に素っ気ないものだから、『氷のアシャ』と呼ばれて……それもそうよね、『西の姫君』の誘いまで断るんだから」 「『西の姫君』?」 「そう。今はジーフォ公の婚約者だけど、アリオ・ラシェットという、とても美しい方」 リディノは行儀良く広げた白いドレスに、ライクの花弁を撒きながら応えた。 対するユーノの格好はというと、いつまでもあの花嫁衣装を着ている訳にもいかず、かと言って、リディノが準備してくれたものには傷を隠せるものはほとんどなし……がために、少年用の緑のチュニックにマント、体にぴったり合ったズボンとシャツと言う出で立ちだ。装飾品がわりにと渡された銀のサークルを額にはめ、ただでさえ男だと誤解されやすい姿に、ますます拍車をかけているのは自覚している。 ユーノは今朝リディノに花を見に行こうと熱心に誘われた。疲れた心には美しい花が一番のはずと繰り返し説かれ、根負けして、今こうやって花を愛でながらリディノの相手をする羽目になっている。 「そうね……アリオはちょっとユーノに似てるわ」 「私に?」 「ええ……長い黒髪の黒い目の…」 眩そうな目をしてユーノを見つめ、リディノは微笑した。 (長い髪…) ユーノは無意識に髪に触れ、僅かに唇を笑ませた。目の前のリディノの、肩を過ぎて背中に乱れる淡い金色の渦とは比べものにもならない、ぱさぱさの短い毛が指に触れる。 (あの時、切ってしまったんだっけ…) 野戦部隊(シーガリオン)の星の剣士(ニスフェル)として、コクラノの奸計に陥り、『風の乙女(ベルセド)の住みか』に転げ落ちた時に。 「ユーノ?」 「あ、ううん。話を続けて」 「うん」 リディノは嬉しそうに子どものような邪気のない笑みを見せた。 「それでね、その『西の姫君』が、アシャの噂を聞いて、私なら大丈夫と言って、アシャを呼ばれたの」 くすっと彼女は悪戯っぽく笑った。 「だけど、アシャときたらね、『あなたほどの高名な女性は、私のような若輩にはもったいなく存じます。また、ジーフォ公が誤解されても、あなたの名前に傷がつくことでしょう。私は、やはり『氷の双宮』で魔物(パルーク)の攻略でも考えているのが似合いでしょう』って返事をしたのよ。ジュニーの花を添えて」 「そりゃ…」 ユーノは目をぱちくりさせた。 (要するに、あなたの相手より魔物(パルーク)の方がまだましってことか) おまけにジュニーの花だ。 ジュニーは、その花弁から紫の染料を取る濃紫の花だ。実をつけず、根からの株分かれで増えていく花で、それを考えると『実らぬ恋』という答えのだめ押しになる。 「きついな……怒っただろうね、相手」 思わず親しげな口調になってしまったのは、リディノの人柄の為せる技だった。 朝、ユーノが目覚めると同時に部屋に入って来て、まるで十年来の友人か、実の姉妹のように一緒に花を見ようとねだった。同い年のはずだが、宮殿育ちのリディノは数歳年下のように錯覚する。 (私も宮殿育ちは宮殿育ちだけど) 「ええ、それはひどく」 リディノは肩を竦めて、ペロッと桃色の舌を出した。小動物を思わせる愛らしさだ。 「『西の姫君』は、その時は確かにジーフォ公に求婚されていたけれど、乗り気どころか嫌がっていたという話だし、アシャに対する自分の魅力にとても自信があったと聞くわ。腹立ちまぎれにジーフォ公と婚約したって」 「ふうん」 (『氷のアシャ』か…) それは自分の知らなかったアシャだ、とユーノは考えた。 ユーノの知っているアシャは、いつもユーノの身を気遣ってくれるし、庇ってくれる。怪我をすれば手当をしてくれ、無茶をすれば叱ってくれる。セアラにも父母にも優しく、特にレアナには…。 (私は……いつも幻なんだ) ふ、と胸が痛んだ。 アシャは、いつもユーノを通してレアナを見ている。ユーノの身を気遣ってくれながら、レアナの心配を考えている。身を挺して庇ってくれるのは、『銀の王族』としてのユーノだ。手当をしてくれるのは、レアナの妹としてのユーノだ。叱るのはセレド第二皇女としてのユーノだ。 何もないユーノ自身を、アシャが愛してくれることは、おそらくあり得ないだろう。 その証拠に、ユーノが記憶を失った時、アシャは野戦部隊(シーガリオン)にユーノを残していこうとしたと、ユカルが言っていた。 「そのアシャをね、初めて『氷の双宮』から引っ張り出したのは私なの」 「え?」 「私もね、他の人と同じように、アシャに夢中だったの。一度『氷の双宮』から『羽根』に伝令のために自ら出てこられた時ね。こんなに美しい人がいるのかと思った……信じられなかったわ」 その時の、リディノの気持ちがユーノにはよくわかった。 セレドの往来で倒れていたアシャが、初めてこちらを見つめた時。ユーノの付き人となるべく、夜会に姿を現した時。 (世の中には、これほど綺麗な男性がいるのか、と…) 驚くとともに心を奪われた。奪われて、その想いに戸惑って、伝えることも思いつかなかった矢先に、アシャが言った、守ってやりたい女、一生かけて、その心を捉えるのに悔いないと思った女性、レアナ、と。 ユーノの想いは伝えるに伝えられなくなってしまった。伝えられずに、忘れることもできずに、アシャが優しくしてくれるたびに、胸の痛みを耐え続けてきた。幾度も幾度も、ふいと口に出してしまいそうになっては、自分の姿を思い起こした。 そんなヤワな育ち方はしていない。誰の手も当てにはしていない。 そう、アシャだって……。 ユーノの煩悶に気づかず、リディノは楽しそうに話を続ける。 「それで、おとうさまにねだったの。アシャを呼べるような夜会をしてって。なかなかうんと言って下さらなかったけど、それでも最後には根負けなさったわ。だけど、アシャは『西の姫君』まで断ったほどの人だし、私、正直言って途方にくれてしまったの。それでね、ある日『氷の双宮』を訪ねたの」 「え」 ユーノはぎょっとして目を見開いた。 この間聞いた話では『氷の双宮』はラズーンの四大公と言えども、許可なしに入ることのできない所、ということだったはずだ。 「一人で?」 「ええ」 リディノは平然と頷いた。 「だって、私、どうしてもアシャに来て欲しかったの」 (一途なんだな) 胸に湧き上がったのは感嘆だ。好きな人に夜会に来てほしいばかりに、国中のふれで禁じられている所へも乗り込んでいくというまっすぐさ。 (私には、そんな一途さはないな……。アシャの口からレアナ姉さまのことを聞くのにも、びくびくしているだけだ) 「だから、あの白い壁の所へ行ったの。そうしたら、どうしてわかったのか、小さな扉が開いて門兵が出て来て腕を捻り上げられて……ほんとに痛かったわ」 リディノは泣きそうな顔をしてみせた。ちょっと尖らせた口元に淡い影が落ちて柔らかそうだ。 「泣き出しそうになっていたら、もう一度扉が開いて……そこにアシャがいたの」 リディノはこの上なく幸福な笑みになった。 「白い扉を背にすらっと立っていてね、顔つきは厳しかったけど、暖かい声で、『何事だ』って。私、今でも、その声を覚えている」 (私も覚えてるよ、リディノ) もしできることなら、アシャの声を全て心に刻みたいと思っていた。いつ切れるかわからない命の糸を手繰っていくユーノだからこそ、アシャの声の一音一音をも逃すまい、と。 優しい囁きは耳が覚えている。叱りつける声は胸が覚えている。温かな窘めは目が覚えている。そして、夢の中で聞いたことがある熱っぽい声は…。 「アシャは」 リディノの話が再び始まって、ユーノは我に返った。甘ったるく溶けかけていた心を引き締める。 「私に近づいてきてね、『放してやりたまえ』って。それから『ミダス大公の息女とお見受けするが、「氷の双宮」に何用でしょうか?』って深く礼をとって。私、体が震えて、何が何だかわからなくなって、とうとう泣き出してしまったの。そうしたら、そっと肩に手を置いて『泣かないで。私に用ですか?』って」 うっとりとした表情でリディノは語り続ける。 「私、泣きながら、夜会に出て下さいって。何度もお願いしたの。『考えてみます』って言われただけだったから、だめなんだと思っていたら、その夜の夜会にアシャが姿を現したの…」 居並ぶ人々のどよめき、呆然とするリディノに、アシャは近づいてきて、「あのような願いを受ければ、男としては来ない訳にはいかないでしょう」と微笑んだのだそうだ。 「夢のような夜だったわ」 アシャが態度を軟化させ、あちこちの宴に顔を出し始めたのは、その後のことだったと言う。 きらきら輝く聖少女。故郷には柔らかく微笑む聖母。 その狭間で、取り残され感満載のユーノです。 かないっこない理想の前で立ち竦む気持ちに、どう向き合うか。 リディノの面倒を見てしまう方へ向かってしまうあたりが、ユーノのどうしようもないところ(笑)。 ブクログの『ラズーン』『密約』ともにアクセス、ダウンロード頂き、ありがとうございます。 嬉しいですね。 別作品もアップしようかと思ってしまったり……。 その前にまずサイト内の作品を一部降ろさせて頂きますね。 コンテンツが一杯になってきました。 ご意見などありましたら、またWEB拍手などでお寄せ下さいませ。
話すつもりはなかったのに、つい、口からことばが零れた。 「いろんなことがあったなあ、って」 風が吹き寄せる。前髪が乱れて伏せた目を隠してくれるから、話しやすくなった。 「……よく生きて辿り着けたなあって」 「本当だぞ」 アシャが熱を込めて同意した。 「ガズラやキャサラン辺境区のようなことが、これからも続くなら、俺がもたん」 「うん…」 本当に無茶ばかりやってきた。 「いろいろ、迷惑かけたよね」 風は樹々の梢も揺らせる。庭のどこかにジェブの樹があるのだろう、いつかの夜のような音律を紡いでいく。 「長くて……」 (私はアシャにお礼も伝えていない) 「……幸せな旅だった」 それを伝えるのがもう胸苦しくて、辛くなった。 「幸せ?」 アシャが訝しそうに問い返す。 「死にかけてばっかりだったじゃないか」 「うん…」 (それでも、アシャ) 答えられない続きを、胸の奥でそっと呟く。 (たとえ途中で死ぬことになっても、その瞬間まで、あなたの側に居られるだろう?) それを幸せと呼ばずに、何と呼ぶのだろう。 滲みかけた涙を一瞬で振り切った。 「でも、何か、信じられないや」 「何が」 「こうして今、ラズーンに居るってこと。あれほど遠かった地に辿りついてるってことが……目を覚ましたら、セレドの自分の部屋だったりしてね」 「おいおい、冗談じゃないぞ」 「わかってる」 くすくす笑って目を開く。 「これは現実だ」 無意識に声がきつくなった。 『氷の双宮』『太皇(スーグ)』『銀の王族』。 ラズーンに含まれている謎の数々が、今解かれようとしている。 だが、心のどこかに、それに飛び込む前に、一時でいい、休息が欲しいという思いがある。もうほんの少し、眠っていたい。なのに、心が張りつめて眠れない。 (何がある? 何が『氷の双宮』で待っている?) その問いかけに対する答えは、いつもわからないままだった。おそらくは、この世界の成り立ちの意味まで含んでいるだろう、ラズーンの大いなる謎。 自分の未来を知りたいというだけではなく、剣士として、彼方を望む旅人としての心が駆り立てられる。 「ユーノ」 「ん?」 「もう、寝ておけ」 アシャがテラスから身を起こして手を伸ばし、そっとユーノの髪に触れた。 「旅の疲れを残しているのはよくない」 (ああ、そうだ) ここに一人、その謎に精通し、しかもちゃんと答えてくれそうな相手がいたじゃないか。 (旅の途中なら無理でも、今なら) 「アシャ」 「うん?」 「『氷の双宮』で何があるの?」 「……」 答えないアシャに、ゆっくり頭を巡らせた。相手が、これまで見たことのない厳しい目になっているのに気づく。 「謁見、と言っても信じないだろうな」 皮肉な笑みを押し上げて、アシャはこちらを見つめ返した。 「ちょっと無理」 「…洗礼、と一般には呼ばれている儀式がある。…それが済めば、元の国へ帰れるのが常だ」 「洗礼?」 「……」 「言いたくないんだね」 ユーノは薄く笑った。 「私が臆病風に噴かれることなんてないの、知ってるくせに」 アシャは瞳を翳らせた。一気に表情の読めなくなった目を『氷の双宮』の方へ投げ、淡々と続ける。 「いずれわかるさ」 軽く前髪を払ってユーノを振り向き、 「そんなことより、早く寝て、旅の疲れをとることだ」 あからさまに話を逸らせた。苦笑いを返しつつ、けれどその先は梃子でも話してくれそうにないと察して、ユーノは肩を竦める。 「うん…でも興奮してるのかな、目が冴えちゃって、なんか眠くならないんだ」 軽く片目を閉じて続ける。 「もう少しここにいる…わっ」 「だめだ」 反応する隙がなかった。瞬時に距離を詰められ、ふわりと抱き上げられて思わず固まる。 「見ろ、こんなに冷えきってるくせに」 「お、おろしてよ、アシャっ」 「だめだ。お前が寝るのを見届けてから部屋に帰る」 「変に思われるって!」 「ほー、ここで騒いで変に思われたいのか」 「う」 冷ややかに反論されて思わず口ごもる。 (でも本当に眠くならないんだけ……あれ?) ふあ、とあくびを漏らして目を擦った。今の今まで、眠気の切れ端も感じなかったのに、急に眠くなってくる。 「ほら、眠そうじゃないか」 優しく甘い声が耳元で囁かれる。 (どうして、なんだろ…) 問いかけた頭に、とろとろと温かな霧が忍び寄る。包み込んで思考力を奪っていく。 (あ…ったかい……から…) アシャの体に温められるから。規則正しい心臓の音が、安心だと告げるから。 (…だい…じょぶ……だ…) ここでは全てを任せて眠りについても大丈夫、そう確信できるから。 その答えに辿り着くまでに、ユーノは深く寝入っていた。 するりとユーノの腕が滑り落ちる。アシャの胸に頭をもたせかけて、柔らかな寝息を立て出した相手を、静かに部屋に運び込む。 「……かなり長い間居たな」 あちらもこちらもひんやりしている。けれど、アシャの腕の中に居る間に、少しずつ少しずつ温かみを取り戻してくる体が、ユーノと自分の距離そのものに思えて切なくなる。 ぐっすり眠り込んでいるユーノをベッドに寝かせる。 (疲れた顔して) ちょんと頬を突くと、ん、と小さく呻いて顔を背けた。だが、よほど眠いのだろう、目を覚まさずにすうすうと気持ち良さそうに寝息を立て続ける。 「……」 ふ、と自分の眉が緩んだのに気づいた。 「……本当にお前ときたら」 (どこまで心配させたら気が済むんだ?) もうラズーンの中に入っている。アシャの腕の中に抱え込んだようなものなのに、なぜ、なおもこうして、側に居なくなるかも知れないと不安になるのだろう。 (俺よりずっと遠くを見ている気がする) ラズーンに辿り着いた時、気のせいだろうか、ユーノは手前にあるラズーンよりも、その後方、遥か彼方にある山々の頂を見つめていたような気がした。 旅の終点はここなのに、ユーノはまだもっと先へ進んで行ってしまいそうな。 そして、その山々にはミネルバの属していた『泉の狩人(オーミノ)』達が居る。 (偶然か?) ユーノがもし、『銀の王族』の中の特殊な存在であるとしたら、儀式の後に国に戻れるかどうかはわからないと知っている。二百年祭がこれまでのものと違うものになりそうな世界の変貌、それと、かつて大いなる戦いに加わった『泉の狩人(オーミノ)』達が関係してきているのは偶然ではないはずだ。 「…行くな」 思わず零れた自分の声の幼さにたじろぐ。それでももう一度、繰り返してしまう。 「…どこへも行くな」 (俺の側に) 「ここが終わりだ」 そうではないことはわかっている、けれどもことばは力を持つかもしれない。 「俺の側が…お前の居場所だ…ろ…?」 (ああ…俺は) ふいに気づいた。 自分が捨てたラズーンを目指したのは、不要だと思っている正統後継者を名乗ったのは、ラズーンの王子ならば、この魂を自分に繋ぎ留められるかも知れないと思ったからだ。ユーノが辿り着こうとしているのがラズーンならば、自分がそこの支配者であればいいと思ったからだ。 (そうすれば、ユーノは俺を求めてくれる…と…?) 「……ばか…か…俺は…」 思わず自分の髪をぐしゃりと掴んだ。 「そんなやつは…こいつじゃない…じゃないか…」 ベッドの上で無防備に月光に照らされた頬、ああそうだ、ようやくアシャはここまでユーノに近づけた。自分が側に居ても安心して眠ってくれる、その信頼を勝ち得はした、だが。 (俺が欲しいのは) 体を覆うドレスなぞ、きっと探せばもっと見つかる。なのに、あの広間で、四大公の一人にまでユーノのあの姿を見せようとしたのは、きっと叫びたかったからだ、手を出すな、と。 (こいつの所有者は俺だ、と) 「ったく……一体何をやってる…」 自分の美貌でなびかなかった。剣の技を見せつけ、常人の知らぬ知識をほのめかしても魅かれてくれず、間近に守り支えても揺れてくれなかった。だから地位と権力で、ユーノを圧倒したつもりだった、なのに。 生まれた故郷からこれほど遠く離れた場所で、自分の生き様を嘲笑されるかも知れないような世界で、戻る術さえ保障されないこの状況で、アシャと過ごした時間を幸せな旅だったと言い切って笑う。 「…なんで…俺は…そんなことが…嬉しい…?」 視界が滲んだ理由はわかっている。 生まれた理由はなかった。殺される理由しかなかった。存在する意味はなかった。存在しない必要性はあった。 誰が今まで、ユーノのように笑ってくれただろう、数々の飾りを越えた場所にやってきて、アシャの生身に触れてもなお、あなたと居るのは幸福だと見上げてくれる。 「もっと…もっとこいつを……手に入れたい…んだろ…?」 なのに、側でユーノが眠っている、それだけで満たされていくこの気持ちは何だろう。 「……違う…のか…?」 小さく呟く声は、戸惑い怯えている。 「……俺が……所有されたい…のか…?」 主よ。 ことばが胸に響く。 俺の、ただ一人の主よ。 「……そう…か…」 微笑んだ。 「俺は……お前の付き人…だよな…?」 これまでも、これからも。 「ああ……そうだ」 静かに顔を降ろして、深く眠るユーノの唇に口づけする。 だがそれは欲情というより遥かに深い願い。 「ユーノ……頼む…」 低く低く懇願する。 「俺を…手放さないでくれ…」 漏れかけた嗚咽をアシャは呑み込んだ。 思わぬところで零れたアシャの激情。 がしかし、その内容を伝えられるべきユーノは熟睡(笑)。 まあ、そういうもんですね。 次章は9.刺客。 ラズーン内部でさえ、安全ではなかった、というお話。 1300000ヒット、ありがとうございました! いつか2000000ヒットいきますかねv ブクログのヒットもダウンロードも増え続けております。 ほんとに感謝です。少しでも楽しんで頂いているといいなあ。 頑張ろう。 ロストレイル、企画シナリオチェック中です。 また新たなオファーありがとうございます。お返事、もうしばらくお待ち下さい。 殺伐とした状況なので、ちょっとしっとりとかまったりとか、そういうシナリオをやりたいんですが……厳しいかなあ……(汗)。
「…なんだ……そうか」 微かに笑った。 (誰のためでもない、というのは正しかったんだ) ユーノはユーノのために、ユーノが本当にしたいことのために戦い続けてきたのかもしれない。 (私の願いを叶える、ために) 今まで感じたことのない開放感に胸が澄んでいく気がした。 (まっすぐに……いこう) この命の果てるまで、最後の息を引き取る瞬間まで、思うままに駆け抜けよう。 「ふ…う」 深呼吸をして目を見開いた。 目を閉じる前よりも一層鮮やかに見える夜景に見惚れる。 「ユーノ」 「っ」 ふいに声がかけられ、はっとして振り返った。ゆっくり近づいてくるリディノに緊張を解く。 「お疲れですか?」 「いえ…こういう場は苦手で」 柔らかく微笑む相手に笑み返す。 「この衣装だって無理に着せられたんですよ。あの傷を見せたままというのも、あまりに見栄えが悪いと」 「あ」 リディノはびくんと体を堅くした。頬を赤らめて、おずおずと、 「さきほどは…申し訳ありません……私」 「ああ」 ユーノは笑った。 「いいんです。誰だってびっくりしますよ」 自分でも信じられないほど軽く答えられた。 「でも」 「気にしてませんから」 「よかった…」 ほ、と溜め息をついたリディノは、ふいに別のことに気づいたようにユーノを見た。 「もう一つ、聞いても構いませんか」 「ええ、どうぞ」 「あの……その衣装……アシャ兄さまが着せたのじゃありませんわね?」 「は?」 「あの…だから…」 リディノはもじもじしながら俯いた。耳の辺りまで桜色に染めて小さな声を絞り出す。 「その衣装を男の方が着せるということは……その……着せるのを手伝う、ということ、は……夫と妻…だから…できることであって…」 「あ」 (アシャの奴!) 顔に血が昇る。一人で着れるの着れないの、脱ぐの脱がないのと、妙に拘っていた理由がよくわかって、一層むっとした。 「そんなことありません」 ことさら強く否定する。 (あのくそ野郎、私が知らないのをいいことに何を考えて) 人をおもちゃにしやがって。 「私とアシャには何の関係もありません」 不安そうなリディノを思わず安心させようとしてしまう。 「本当? ああ…」 「!」 ふわりといきなり抱きつかれてぎょっとした。 「よかった! アシャ兄さまが旅に出ていらっしゃる間、それだけが心配だったの」 「へ?」 奇妙な物言いに過熱していた頭が一気に醒める。 (今、なんて) 「私、小さい頃から、アシャ兄さまだけがずっとずっと好きだったの!」 無邪気にユーノを見上げて笑み綻ぶリディノの安堵に、ユーノはことばを失った。 夜は更けていく。人々の祈りと眠りを豊かに発酵させるべく。 「……」 眠れないまま、ユーノは一人、テラスにもたれて遠くの街並を、『氷の双宮』があると言われた方向を見つめている。 「!」 「やっぱり、ここにいたのか」 背後の気配に剣を抜きかければ、それは青い夜着を羽織ったアシャの姿だった。 「ベッドにいないから、どこへ行ったのかと思えば…」 「何の用?」 「近く、お前を『氷の双宮』に送り届ける」 ことさら淡々と響く声が告げた。 「明日か明後日の夜だ」 「夜…」 「人目につかない方がいいからな」 「ふうん」 これは正式な招聘のはず、それなのに、ラズーン到着の歓迎ぶりとは打って変わっての密かな扱いは、やはり何か裏があるのかも知れない。 「ユーノ?」 素っ気ない返事に、アシャが不審そうに覗き込んでくる。不安を問い正されたくなくて顔を背けると、脳裏に別の苛立ちが蘇った。 「何を拗ねてる?」 「拗ねてなんかいない」 「にしては愛想がないな」 (こういうところはとことん無神経だよな) 思わず唇が尖った。 「ユーノ」 「アシャのスケベ」 「な…」 一瞬詰まったような顔になったアシャが、すぐにむっとした声で切り返してくる。 「俺のどこが」 「私にドレス着せる時、何考えてたんだよ」 「あ、ああ、あれ、な」 勢いを削がれたようにアシャが微妙な口調になる。 「だが、あれはお前が着せろと言ったんだろ?」 言い返したものの語尾が甘くなるのに、訴える。 「そのせいで、リディノ姫に妙な誤解されちゃった」 「誤解?」 「そ」 くるりと向きを変え、テラスに背中をもたせかける。 「私とアシャが、その」 さすがにちょっと言い出しにくくなって口ごもる。 「その…そういう関係なのかって」 ちらりとアシャがユーノを見た。ユーノの表情から何を読み取ったのか、にやりと唇を笑ませる。 「そういう関係って?」 「だから!」 思わず顔が熱くなった。 「だから、その、夫婦、の関係っ」 「夫婦の?」 「だからっ!」 わからないなあ、どういうことなんだ、と訝しげに瞬くアシャに喚きかけ、広がる笑みにからかわれているのだと気づいた。くすくす笑うアシャの視線を舌打ちしながら避ける。 「…ったく、性格の悪い」 ちょっと見栄えがいいからって、人の気持ちを好きなように弄んでいいってことじゃないんだぞ。 唸りかけたことばは急いで呑み込む。じゃあどんな気持ちなんだと突っ込まれるのは目に見えている。 だが、アシャはそこで話を終わらせる気はなかったようだ。 「で?」 「は?」 「どう答えた?」 「どう答えたって」 とことんまでからかう気なんだなとむっとした。 「そのままだ。私とアシャには何の関係もない、スォーガの大地ぐらい何にもないって」 後半はでまかせだが、それぐらい言い切っておかないと、後からどんなからかいのネタにされるかわかったものじゃない。 「ふ、うん」 楽しそうに顔を綻ばせていたアシャは、思ったほどユーノが動揺しなかったのが残念だったのだろう、不満そうに唸ってテラスに腕を組んでもたれ、顎を載せた。 「スォーガの大地ぐらい何にもない、か」 ぼそぼそと呟いた後は、黙りこくってしまう。 緩やかに風が吹き渡っていき、沈黙はなかなか破られない。仕方なしに、 「…リディノ姫をどう思ってるの?」 尋ねてみた。 「彼女は…アシャのことが好きなんだって言ってたよ。ずっと……小さい頃から」 アシャはそれを知っていただろうか。知っていてレアナに接近したとしたら、本音はどこにあるのか、気持ちはレアナにあるのかリディノにあるのか、そこは確かめておきたい。 「…ちょっとは俺の気持ちもわかりそうなものなのに…」 さっきより小さな呟きがひどくがっかりした響きを宿していて、ちょっとほっとする。 (よかった、レアナ姉さまの方が好きみたいだ……って、ばかか、私は) 自分が好きだと言われたわけでもないのに、何を安心しているんだ、そう思いつつ、 「あ……えーと…」 応対のことばを探していると、アシャはのろのろと向きを変えた。ユーノ同様にテラスにもたれ、ほう、と悩ましげな溜め息をつく。 「リディノは妹のようなものだな」 「妹?」 「ああ」 一瞬の静けさ、やがて、きっぱりと低い声が告げる。 「俺には、他に好きな相手がいる」 (レアナ・セレディス) 「ふう…ん」 浮かんだ名前が胸を切り裂くような気がして、眉を寄せ、テラスに身を持たせて仰け反った。 「そう…なんだ」 「……そうだ」 ちらりとこちらをアシャが見たような気がした。レアナを俺に託してくれないか、今にもそう宣言されそうで、心がきりきりと緊張する。 いつの間にか月が明るく昇っていた。夜気は鋭い樹の香りから、甘く香しい花の匂いを漂わせ始めている。月光の中で咲くという花々が開き始めたのだろうか。 (いい匂い…) 目を閉じ、柔らかな香りを吸い込む。その香りの中には、隣に佇むアシャの体温も含まれているのだろう、安堵と平穏を約束された旅の夜が蘇る。 重ね合わせられなくてもいい、このまま隣で、同じ目的のために歩いていけるのなら、今のユーノは、それはそれで満たされるのかもしれない。 (アシャと背中を合わせて戦って) かけがえのない、唯一無二の親友となる、それもまた幸福なのかもしれない。 「そうだ、ユーノ」 「ん?」 「これを返しておく」 目を開けると、アシャが首からペンダントを外すところだった。セレド皇国の世継ぎを示す紋章、出立の日にレアナから託されたものだ。 「ああ…ありがとう」 (そうか、これもまた、私に戻されるのか) 皮肉なのか、運命とはそういうものなのか。 自分が生きる方向を見つめ出した矢先に、再びセレドを担う証を示されるとは。 (戦え、ということなんだろう) 自分の在り方を嘆いてばかりいないで、自分の在り方を受け入れて、かけがえのない友人や家族のために心身尽くして働けという天命なのだろう。 「長く預けて、済まなかった」 こういうところもアシャに甘えていたのかも知れない、と思った。首に巻き付けたペンダントは冷たく重い。 (でも、それを担うためにきっと、いろいろなことがあったんだ) 体中の傷を引き換えに、この重みを支える役目を引き受けられるように鍛えられた、そういうことなんだろう。 「……ところで、何をしていた、こんなところで」 まるで、胸の内を吐き出せと言うようにアシャが問うてきて、苦笑する。 「今までのことを…思い出してた」 次回でこの章は終了。次は9.刺客。 だんだんアシャに血肉が通ってきたように感じますな(笑)。 自分の限界の端に立たないと、新たなものは見えてこないようで、この後続くアシャの独白部分は原本ではなかったものでした。けれど、書き進めていって、ああなるほど、そういうあたりだったのかこいつのこの行動は、みたいなところが腑に落ちたといいますか。 こうやって、少しずつ、血肉を増やしつつ、書いていけたらいいなあ。 ブクログにたくさんのアクセスありがとうございます。『ラズーン1』は5000アクセスを越えました。ダウンロードも見る度に増えておりまして、嬉しいやら緊張するやらです。 今後とも頑張りますので、よろしくお願いいたします。 WEB拍手一部更新しました。 ロストレイルは次なるノベルにとりかかっております。 ぼちぼち頑張っていきます。
ミダス公邸の広間に向かいながら、イルファは未だにぶつくさ言い続けている。 「しっかしなあ………確かにそうしてりゃ、女だが…」 男とも女ともつかぬ、中性的な格好をしたアシャに比べて、鎧を象った胴着に真紅のマント、銀の鎖を肩から垂らしているイルファを、呆れた顔をしてレスファートが見上げる。 「だから言ったでしょ。ユーノは誰よりもきれいな女の人なんだって」 そういうレスファートは濃紺の腰布の上から薄く透けた水色の布と輝きのある白い布の上着、額に銀のサークルをつけている。頭を振る度にさらさら音を立てて流れるプラチナブロンドは回廊の灯に眩いほどで、これほど美しい少年も多々あるまい。 「女…ねえ…」 イルファが複雑な顔で、ユーノを見る。少し肩を竦めて見せると、相手はごしごしと頭を掻いた。 「俺にはどう見ても、アシャの方が女に見える」 「イルファっ!」 「おい」 レスファートが眉を逆立てて怒り、アシャは苦虫を噛み潰したような顔になった。 (ま、確かにね) 苦笑を返すユーノに、アシャはますます不愉快そうだ。 そのアシャは、まるで導師が着るような濃い紺色の衣装を無造作に纏い、ところどころを金の組み帯と紐で留めていた。装飾品と言っても片耳の耳飾り程度、それでも十分にアシャの美しさは人目を惹いた。いつも上げていた前髪を垂らし、その奥から金細工に囲まれた宝石のような紫の目がこちらを見返している。 そうしていると、アシャの端整な優しい面立ちが、別の翳りを帯びて見えた。賢者のような少年のような、女のような男のような、年齢性別も不明になるあやふやな不安定さの中にちりばめられた美。それがアシャを見る者の目を釘付けにする。その不安定な美しさを越え、正体を見定めようと焦る。だが心を構えたとたん、捉えかけていた因子は微妙に変化していって、相対する者は再び置き去られてしまう。 「っ!」 アシャが先に立つのについて、広間の入り口を入ったとたん、どよめきが起こって我に返った。 (ここでもアシャは人を圧倒するのか) 苦笑しかけたユーノだったが、その後一気に広がった、いつもとは違う沈黙にきょとんとする。 (何だ?) 広間に集まった人々が奇妙な表情で一点を見つめている。その意味を探ろうとして、視線を注がれているのが自分だと気づき、なお戸惑った。隣でふ、とアシャが微かに笑う。 (アシャ?) そろそろと相手を見上げる。 「どうしたんだろう…」 そっと囁いた声さえ響き渡りそうで、声をより潜めた。 「何か…私、おかしい?」 凝視されているのは『銀の王族』だからだろうか。それとも、知らずに無作法な振舞いをしたからだろうかと不安になる。 「いや…別に」 アシャは妙な笑みを返してきた。 「似合ってるぞ」 「でも…だって」 特に娘達、女達の視線が妙に険しい気がする。だが、それを口に出すのは自意識過剰な気もして口ごもる。 「…そりゃ、静まり返りもするだろうな」 だがアシャには理由が充分わかっていたらしい。しらっとした顔で流す。 「…どういうことだよ」 「気にするな」 「気にするなって…」 (特に無作法というわけじゃないのかな) 取り合ってくれないので、仕方なしに進み出したアシャに付き従う。そのユーノを明らかに追いかけて来る視線は、かなりちりちりと痛いが、理由が全くわからない。こんな目で見られたことなど覚えがない。 「や…これはこれは…」 なぜかミダス公まで茫然としていたらしい。ようよう口を開いたかと思うと、正面の玉座から降りてアシャの前に膝を折った。 「どうぞ、あちらへ」 「いや」 アシャは軽く首を振った。 「今夜はあなたの宴の客だ。ミダス公、そのままに」 「しかし」 「どうぞ」 「…では」 ミダス公は渋々と玉座に戻ったが、腰掛けずに側に立った。その前で、今度はアシャが片膝を折って頭を下げるのに、いささかうろたえた様子でことばを継ぐ。 「よ、ようこそ、アシャ・ラズーン。『氷の双宮』に戻られるまで、ゆっくりと寛がれますように」 近くの似たような、ただもう少し華奢で小振りな椅子に座っていた少女を振り返る。少女は頷いて立ち上がり、緊張した顔で深緑のドレスの裾をさばいて段を降り、アシャの前で深く礼をとった。 「よくお帰りになりました、アシャ兄さま」 それから、ユーノ達三人に向き直って頬を染め、 「よくいらっしゃいました。私がリディノ・ミダス。情け深き『太皇(スーグ)』の下、ミダス大公の娘と呼ばれております」 (やっぱり) 同じように礼を返しながら、ユーノは頷く。 (この人が、リディノ・ミダス) 「ありがとうございます。私はセレドの第二皇女、ユーナ・セレディスです。ラズーンの神の導きにより、ここまで参りました」 くすくすと周囲の娘が笑いを漏らした。きっとした表情になったリディノが振り向き、娘達を制する。大公の娘の威厳は健在らしく、娘達が顔をひきつらせて押し黙る。 改めてユーノに振り向いたリディノは、恥じらうような色に頬を染め、目を潤ませている。 「無作法をお許し下さい。地方を治める者のこと、他国の皇族への接し方を知らないのです。……ただ、ラズーンでは『ユーナ』というのは男名にあたります。見識の浅さをお詫びいたします」 「ああ……そう、ですね」 ユーノの胸の内に、甘いとも切ないとも言えない優しさが込み上げてきた。 もう遥か遠い日のことのように思える、セレドにアシャがやってきた日。あの日も、宴の席でこんな風にアシャが名前のことで失笑を買った……。 「アシャから聞いています」 懐かしさに笑みを浮かべた。 「リディノ姫、私は国ではユーノと呼ばれることが多かったし、それが気に入っています。だから、どうぞこちらでもユーノとお呼び下さい」 「あら、それなら」 リディノはにっこりとあどけない笑みを見せた。 「私もリディで呼ばれることが好き。どうぞ、そうお呼び下さい……皆様も」 「はい、リディ姫」 レスファートがきちんと王侯貴族の礼をして応じた。まあ、と軽く驚いて、嬉しそうにリディノがレスファートに向き直る。 「僕はレクスファの第一王子、レスファートです。よろしく」 「はい、よろしくお願いいたします、王子様」 「あ、俺はイルファ、レクスファの剣士です」 女と見ればたちまち愛想がよくなるイルファが大声を出した。 「レスファート王子の付き人として旅をして来ました」 どこがだ、という顔になったユーノ達を無視して、イルファは豪快に笑う。 「大変な旅でしたが、無事にお連れ出来て安堵しました」 「お疲れでしたね、どうぞゆっくり滞在なさって下さい」 微笑みを返してリディノは頷き、自分の座に戻りかけたが、問うような目になって立ち止まった。 「あの」 「はい…何か?」 向けられた視線はユーノ、訝しく尋ね返すと、相手は困ったような顔になってためらう。 「失礼ながら…」 「はい」 「あなたは……アシャ兄さまの『言い交わされた方』なのでしょうか?」 「は?!」 いくらユーノが不調法でも、そのことばの意味ぐらいはわかる。ましてや、この衣装を着た瞬間に感じた感覚が、次に続いたことばをはっきり裏付ける。 「だって…」 リディノは一瞬幼い口調になった。 「それは…ラズーンの花嫁衣装ですので…」 「…っ、ア…シャ…っ!」 堪えようとしたが歯止めは利かなかった。一気に熱くなる顔をアシャに振り向けるが、当の本人は涼しい顔でユーノを見返し、微笑んで答える。 「まあ、そういうことだ」 「ったく!」 ユーノは広間の一角で苛立ちながらアシャを睨みつける。 「道理で娘達が殺気立ってたわけだ」 「そう怒るな」 くつくつとアシャは喉の奥で楽しげに笑う。 「悪気はなかったんだ」 「あってたまるか!」 顔を背けて眉をひそめる。 (こっちの気持ちも知らないで) 広間は今、踊る男女で一杯になっている。楽師の奏でる立風琴(リュシ)が幾重にも重なって音律を紡いでいる。 イルファはその威風堂々とした体格を見込まれたのか、男達に挑まれて酒の呑み比べの真っ最中、レスファートもいつものように女達に囲まれて菓子をもらっている。 「踊ってこないの?」 「一人と踊ると後が怖い」 「…わかるような気がするよ、身をもって」 ユーノは溜め息まじりに答えた。正直、さっきから周囲の女達の視線が痛くてならない。 (そんなのじゃないのに) 素っ気ないアシャに焦れたのだろう、ついに一人の美女が誘いをかけてきた。 「旅のお疲れは存じておりますわ。でも、そのお疲れを、いささかでも癒せればと願う私達の気持ちも受け取って頂けませんの?」 「どうする?」 こそりと尋ねるユーノに、アシャは溜め息を返す。 「行って来る。ミダス公の親族だ」 「ふうん」 気怠そうに壁から離れたアシャを美女が誇らしげに迎え、一気にその周囲に女達が集まった。 (あの中で、まだ見劣りがしないというのが凄いよな) ちらりとユーノを見やって来る美女の視線の意味は重々わかるが、その美女と並んでもアシャの方が華やかに見えるあたり、罪作りな男だとつくづく思う。 アシャを迎えた女達が、唇の端に浮かべた笑みと一緒にこちらを眺めるのがうっとうしくなって、ユーノもまた体を起こしてテラスへ逃れる。 テラスが突き出した庭園には濃い樹木の影が落ちている。月が昇って辺りを冷たく照らしているのだ。 木々の触れ合う音、ジェブだろうか、覚えのある葉鳴り、鼻腔を清めるような樹の香り。 (やっぱり、夜会は苦手だ) 清冽な夜気を吸い込みながら目を閉じる。 人の思惑を操れると思っている男女、駆け引きを楽しむやりとり、着飾り宝石を煌めかせる人々の掌で躍る酒や菓子、そして誰が上か誰が下かと比較し続けている視線。 (駆け抜けてしまいたい) 心の中にいつも広がる、この果てのない草原の光景を。どこへ辿り着くあてもなく、途中で倒れるかも知れない命も構わない、ただただ己の速度をひたすら上げて走り去ってしまいたい。 きっとユーノがセレドで夜会に出ずにレノを駆っていたのは、自分の容姿のことだけではなく、もっと猛々しく鮮やかなこの感覚に自分を任せていたかったということもあるんだろう、と初めて気づく。 そして、それはラズーンへ旅立とうと思ったその瞬間にも、胸の底にあった、とも。 (どこまでも、どこまでも) 走り去る金色の影、群れからただ一頭離れた月獣(ハーン)のように、自分の角を振り立てて。 (そうか……逃げていたばかりじゃ、なかったんだ) 自分の生き様を周囲の基準でばかり考えていたから、自分の容姿を引け目に思って逃げ回っていると感じていた。 けれど本当は、ユーノは誰かと妍を競うよりも、まだ知らない広大な世界を駆け抜けていくことを願っていたに過ぎないのかも知れない。 (それこそ) そのためにどんな傷を負うことになっても、まっすぐに彼方の世界を進みたい、と。 自分が生きる方向というものを、はなからわかってる人なんていやしません。 誰かとぶつかって、何かに阻まれて、ようやく諦められない何か、に近づいてくる。 これだけは譲れないというラインが見つかってくるように思います。 『ラズーン』に辿り着いたユーノが見つけたのは、変わらないけれど、『新しい自分』。 そのユーノを試すように近づいてくるのは、アシャの過去、です。 企画シナリオ、『悲恋幻天夢』公開されました。 ご依頼の皆様、事務局様、ありがとうございました。 全力出し切ったつもりですが、なお一層の精進を重ねたいと思います。 またのご縁をお待ち致しております。
訳がわからないまま、それでもアシャが慣れた様子で組み帯と、その下に隠されていた組み紐を外していくのを呆れて眺める。 「ややこしいな……こんなの、一回見たぐらいでわからないや」 何を考えて、こんな複雑なドレスを持ってきたんだ、と首を捻るユーノに、アシャがくすり、と耐えかねたような笑いを響かせる。 「そうでなきゃ『困る』代物なんだよ、これは」 くすくすと笑いながら付け加える。 「誰彼構わずに解かれたんじゃ、『相手』の面目がなくなる」 「相手?」 ますますわけがわからない。 「でも、アシャは解けるじゃないか」 「俺は、な」 少し片目をつぶってみせた。 「状況によって、いろいろな格好をするからな」 「あ、女装趣味か!」 「っ」 がくりと前へ首を落としかけ、アシャはじろりと冷たい目でユーノを見た。 「そんなこと言ってると、脱がしてやらないぞ」 「はんっ」 歯を剥いて笑い返しながら、ユーノは言い返した。 「脱ぐぐらい、一人でやれるよっ」 そうだ、着るのは難しくとも、脱ぎ捨ててしまうならば、何とでもやりようがあるだろう。だが。 「どうかなあ」 アシャは楽しげに解いたドレスを開いた。下着姿のユーノの肩からすっぽりとかけて、両脇、肩、両腕の組み紐を再び元通りに組み始める。 「これは『一人』で脱ぐようにはできてないんだ。着るのは一人でできても、な」 「どうしてさ」 「始めはどこの組み紐でも自分で解けるから、着てから侍女達に仕上げてもらう…こうやってな」 「べ!」 ぐっと腰を締められ、思わず妙な声を上げてしまった。きゅっと締め付けられた腰の後ろで、アシャが帯を組み直している気配がする。 「、いたっ」 「どこが?」 「胴」 「じゃ大丈夫、よいしょっと」 「やだっ、何これっ、身動きしづらいっ」 じたばたするユーノの体に、付属していたらしいあれこれの装飾品を紐で留め始める。 「それから、これ、と」 「え…」 「に、これ」 「ちょっと」 「で、こいつ」 「えええっ」 次々増える飾りにひきつった。肩から垂らした金糸織りの薄布は、腰の紅の帯で留められる。首もとにはキャサラン製らしい細かな透かし彫りの金細工、大粒の宝石をぎっちりとあしらった額飾りが嵌められる頃には、体中がじゃらじゃらしている感じで、とにかく重い。 「アシャぁ」 「泣くな泣くな、最後はこれを羽織って完成、そら」 それら所狭しと着飾った姿をまるで隠すように、純白のマントが肩に留められた。背中から体の前まで回して、合わせ目には美しい金の細工物で留める。 「…まるで…」 「ん?」 「…ううん」 (花嫁衣装みたいだ) 鏡に映った自分の姿にそう思った。 焦茶の短い髪には、宝石を組んだ銀鎖が光っている。その頭を少し覆って、しみ一つない白いマントが体を包んでいる。 「…あ」 ふいに、それが体の傷全てを隠す形のドレスだと気づいで、視界が一気に潤んだ。 「…りがと…」 (アシャ) わかっていてくれた。ユーノの怯みも竦みも、ちゃんと理解していてくれた。 小さく呟いた感謝が届いて欲しいような欲しくないような、それでも胸を浸す温かな気持ちは信じられないほど心地よく。でも。 (ちゃんと言わなきゃ) もうアシャとは離れるかも知れないのだから、お礼を伝えなくては、そう思った瞬間、 「さてと、仕上げだ」 「っ!」 突然、顎を押し上げられ、ユーノはうろたえた。 「な、なにっ」 「紅、さしてやるから、少し口を開け」 「あ…うん」 「もう少し…そうだ」 アシャが小指に華やかな紅をつけて、そっとユーノの唇に触れる。 (…だめ…だ) 間近に迫る煌めく紫の瞳に、思わず目を伏せる。締め付けられたせいもあるのだろうか、体中が熱くなって小刻みに震えてきてしまった。我慢しようとするのに、ふ、とアシャが低く笑った声に、ますます頬が熱くなる。アシャの指は静かにユーノの唇を撫でていく。下唇から上唇、もう一度、下唇。 ついっとアシャの指が離れた。 「よし。閉じて」 「……」 唇を閉じ、目を開ける。すぐ近くに、濡れたようにあやうい光をたたえたアシャの瞳があった。瞬きする金の睫毛、それが瞳を軽く覆い、伏せられたまま、低い囁きが耳に届く。 「……もう一度…少しだけ開け」 ごくり、と唾を呑んだ。その場から逃げ出したいような気持ちになる。敏感に察したアシャが、静かにユーノの体を包んでくる。背けようとする顔を、優しく固定された。しゃらり、と髪で銀鎖が鳴る。 「ほら。塗り残しがないか、見るんだから」 「う…ん…」 それはきっと嘘だ。けれど、その嘘に騙されてみたい、そう惑う胸が、妖しく揺れて渦巻いていく。少し目を閉じる。乾き始めた唇がなかなか開かない。待ちかねたように、影が動き、気配が迫る。 (ア…シャ…) ことこと。 「っ!」「!」 響いた音に瞬時にユーノはアシャから身を引いた。相手を見ないように扉を向き、平静な声を装う。 「誰?」 「お支度は済まれましたでしょうか」 ユーノが遅いのを案じてくれたのだろう、侍女の声が応じた。 「わかった」 くるりと振り返る。額の飾りが重い。 「行こうか、アシャ」 「…ああ、そうだな」 振り向くと、アシャはふてくされた子どものような顔で、マントを払って身を翻した。 わかる人にはわかるだろう大人の含みが、やっぱりユーノには伝わりません(笑)。 この衣装が如何なる意味合いのものか、宴の席で明らかにされますが。 ロストレイル、企画シナリオ一件、何とか上がってきました。 例によって文字数オーバーです。1500字削るつもりで整理を進めて確認し、500字書けると喜んで800字書き込んでまた削り……何をやっているのやら。 いっそ長編仕様にすればいいのかというと、そこまで体力が持たないかも知れないです(涙)。 やりたいシナリオ数本待機中。6月までには出したいんですがねえ……。
「ユーノ…?」 久々に飾り付けた銀の髪飾りをいささかうっとうしく思いながら、アシャは扉をそっと押し開けた。そろそろ用意も出来上がっているだろう、ミダス公の屋敷にはリディノのこともあり、華やかな衣装が揃っている。ユーノの艶姿を一番に見るのは自分、そこは譲れないと思いつつ、せっかちに押し掛けた自分に呆れ果てるが、それはそれ、答えがないのをいいことに入り込む。 「なんだ、いるんじゃ…」 「や…」 早々に広間へ出向いてしまったかという心配は杞憂だったが、声をかけた相手が掠れた声で応じたばかりか、部屋の隅で座り込んでいるのにぎょっとする。 「ユーノ? どうした?」 傷の回復が中途半端だった。疲れも取れていなかったのを無理強いした。イルファに性別について不躾にからかわれた。彼女が落ち込む原因を幾つも一気に思いつき、慌てて近寄る。膝をつき、覗き込み、愕然とする。 「…泣いていたのか?」 「…」 ユーノは無言でかぶりを振る。その髪から、髪飾りが滑り落ちたとたん、かっと相手が真っ赤になり、なお戸惑う。 ユーノが選んだのは水色の瀟酒な感じのドレスだ。意外ではあったが、細身の手足を淡く包む気配は十分に魅惑的、正直なところ、さっさと抱き締めてやりたいぐらいだ。 (何が一体) ドレスを身に付け、髪飾りもつけ、とにかく装いはしているのだ、髪を直してやろうと手を伸ばしたとたん、びくりと大きく震えた相手が右肩を押さえて身を引いた。 「傷むのか!」 (しまった) 湯の温度をもっと確かめておいてやるべきだったか。一人ではなく、手伝いをつけるべきだったか。槍は体の深くを傷つけている、もっと配慮をするべきだったか。 「ユーノ!」 「っ」 肩を覆った左手を掴み、外させようとする。だが、そうさせまいとユーノが身もがいて抵抗する。 (また、こいつは) 「ほら、ユーノ、駄目だ、痛いなら見せろ」 「いや、だ」 「ユーノ!」 激しく首を振られて、アシャの腕を信じられていないようでむっとする。 「俺に見せろ!」 「あっ…」 声を荒げて無理矢理手を引きはがす。右肩を急いで覗き込み、顔を近寄せて肌の状態を観察する。ひどい槍傷だったが、それでも皮膚の上皮化はうまくいっている。繰り返した傷は治りが悪いはずだが、これほどの短時間で循環障害も起こさず、可動域にも支障を残さず回復できたのは奇跡的だ。柔らかそうな肌に刻まれた星形の傷の艶やかさには妙に妖しい気配があって、ふとそこに吸いついて所有を刻みたくなる。 「大丈夫だ」 自分の感覚の危うさに、アシャは急いで顔を上げた。 「別に悪化もしていな…」 言いかけた声が中空で途切れた。 辛そうに首を背けているユーノの頬に、光るものが伝わっていく。 (なみ、だ…) 旅の途中、どれほど苦しい状況であっても、こんな風にあからさまに泣かれたことなど、ほとんどないのに。 「ユーノ、どうし……っっ!」 理由を問いかけた瞬間、視界に入ったものに寒気が走った。 水色のドレスに包まれることもなく晒された、回復したばかりの生々しい星形の傷痕。無意識に走らせた視線に、体のあちこちに走る白や薄紅に引き攣った醜い傷がまともに飛び込んでくる。 (ドレス!) 心臓を切れ味の悪い石の剣で貫かれれば、こんな今にも吐きそうな激痛を感じるだろうか。ミダス公の宴、アシャが出席するとなれば、近隣諸氏も押し寄せる盛大なものとなるだろう。その視線の最中に、この傷を晒して出席しろと、そんな要求を突きつけたのか、アシャは。 必死に周囲を見回すが、ユーノの傷を覆えるようなものはない。 (くそ、俺としたことが!) 平原竜(タロ)に数回踏みつぶされてもいいような配慮のなさではないか。 「…ユーノ…」 囁いて抱き締めようとしたアシャの腕に力がかかる。 「ごめん」 依怙地な口調で言い放って、残った片手で涙を擦り取り、ユーノはこちらを見つめ返してきた。潤んでいた黒い瞳が、一瞬ひどく切なそうな色を浮かべたが、すぐに消え去る。にっ、とどこか少年じみた笑みが唇に広がった。 「何でもないよ、アシャ」 ことさら淡々とことばを継いで、ユーノは立ち上がった。 「ちょっとね、ラズーンへようやく着いたんだと思ったら、ほっとして涙が出ちゃった」 「……」 「参ったね、ボクも子どもだよね。で、どう? こうすると、少しは女に見えるかい?」 アシャの腕を擦り抜け、少し離れておどけて腰を屈めてみせる。 細い首筋に空色のリボンがまとわりついている。華奢な骨格を覆う皮膚に、まるでそれさえも一つの飾りであるかのような、鈍い光沢を持った傷痕がいくつも交差し、入り乱れている。薄布がかかり、レースが触れて、脆い陰影に彩られた様々な傷痕は、意匠を凝らした刺青に似て、猛々しく目を魅きつけ、息を呑ませる。こちらを見据える黒の瞳の輝き、剣を手にしていないのに、跪かねば今にも首を掻き切られそうな、圧倒的な支配力。 「髪飾りが落ちちゃったろ」 不服そうに呟いて唇を尖らせる、その生き生きとした淡い色。床の上の、白レース銀の花芯に金の蔓に絡まれた水色の花を拾い上げる仕草のしなやかさ。 「アシャが乱暴なことするからさ」 両腕を上げる、目を伏せる、髪にもう一度付け直そうとする、その頼りなさげな指先はどうだ。 「…つけようか」 ふらふらと立ち上がる。 「うん…」 同意を得てほっとする。近づいて、髪飾りを受け取り、ユーノの髪から香る甘いライクの匂いを嗅ぐ。 (危ない) 確かにこの姿はユーノにとって苦痛だろう、だがそれだけではない、この危うい美しさに無関心でいてくれる男がどれほどいるか。 (このままでは出せない) 品定めに訪れたつもりの客達の視線を釘付けにしても、きっとユーノは気づかないばかりか、距離を縮めようとする馬鹿どもに礼儀を持って笑い返したりしてしまうだろう。それを自分の好む通りに曲解する輩なぞ、ここには山ほど居る。 「…よし」 「え?」 「ちょっと待ってろ」 「あ、うん……え…?」 頷いて振り仰ごうとするユーノの髪に軽く唇を触れたのは、目当てのものを持ち帰るまでのささやかな呪詛だ。 (誰もこいつに触れてくれるな) それを体現するようなドレスを、アシャは急ぎ足に調達に出かけた。 (どうしたんだろう…) 吐息がふいに近づいたかと思ったらすぐに離れた。キスされるのかと構えた自分が情けなくて気恥ずかしい。 結局つけてくれなかった髪飾りを手に、慌てて部屋を出て行くアシャを見やり、のろのろと鏡の方へ視線を向ける。隣室の香気を伴った湯気にも曇っていない鏡が、ユーノの全身を映し出している。 (まさか…気づいたのかな) ひやりとして顔が強張った。アシャが入ってきたのに、とっさについ、傷を隠したのがまずかった。 (肩ぐらい隠しても……そこら中に傷があるのに) こういうところだけはしっかり『女の子』なんだからな、とうんざりする。 (アシャに余計な心配をさせてしまう) 少女の体に少年の魂を抱いて生まれてきたと思っていた。多くの命が生まれているのだから、時には神様だって入れ間違えることぐらいあるだろうと。なのに、その少年の魂の片隅に、少女の心が潜んでいて、唐突に顔を出してはユーノを脆くさせる。 (しっかりしろ、情けないぞ) 鏡の中の自分に呼びかけた。 (ラズーン存亡の危機に何を言ってる。それに、お前は自分でこの道を選んだ。この傷はその証、言わばお前の紋章じゃないか。月獣(ハーン)の呼びかけに、他の誰でもない、自分がこの運命を選び取ったと宣言したのは嘘なのか) きり、と唇を噛んだとたん、背後の扉が開いた。 「ユーノ」 振り返ると、片手に白いドレスらしきものを抱えたアシャが姿を見せる。 「それを脱いで、これに着替えろ」 「どうして? 似合わないか?」 「いいから!」 アシャは奇妙に苛立った様子でドレスをユーノに押し付け、くるりと背中を向ける。 「う、ん」 (そんなに…みっともなかったのかな…) 理由はわからないまま、とりあえず水色のドレスを脱ぐ。白いドレスを手に取ったが、ただでさえドレスを着慣れていないのに、これはまた特別なものらしく、どういう造りになっているのか、全くわからない。 「あれ……えーと……うーん……」 困り果てて、おどおどとアシャを呼ぶ。 「アシャ…」 「できた…、こら、ユーノ!」 「だって!」 振り返りかけて気まずそうに慌てて顔を背ける相手に、かっとする。 「こんなの初めてでわかんないだろ! 着方を教えろよ!」 (レアナ姉さまならわかった) 自分がやはり出来損ないなのだと感じて哀しくなる。 「あー、えーと、だからな」 アシャが背中を向けたままぼそぼそ唸った。 「まず、後ろの帯を外すだろ、それから」 「外すって…どうやってさ」 後ろの帯、がまずよくわからない。見た感じでは数本、似たような布が組み合わされている。 「そのまま外せ」 「だって、なんか妙な形に組んであるよ?」 「あ…そうか」 アシャはあやふやな声で応じて天井を見上げた。 「えーと…だからな、右上の筋を浮かして、左側のを半分ほど引くだろ」 「うん…?」 言われた通り、ユーノはおそるおそる白い組み帯を引いてみる。と、緩むどころか、逆にきゅっと締まる形になってぎょっとして手を止めた。 「締まったよ!」 「締まるはずはない」 「だって……締まったもん!」 「だからなあ…」 うっとうしそうに唸るアシャに涙が出そうになる。 「んなこと言うなら、アシャがやれよ!」 ぶち切れて喚いてしまった。 「ボクには出来ないってば!」 (どうせ、ドレスの着方なんか、想像もできないんだ) 半泣きになったユーノの気持ちなぞ知らぬ顔で、一瞬体を強張らせたアシャが、そろそろと肩越しに視線を投げてくる。 「待てよ、そいつは…」 溜め息まじりの声に切れた。 「ボクの裸なんて知ってるだろっっ!」 顔が熱くなる。みっともない。情けない。なのに、頼む相手がアシャしかいない。 アシャはユーノが怒鳴ったのに、奇妙な顔になった。困惑と苦笑、その笑みがやがてしたたかで悪戯っぽいものに変わるのを恨みがましく見上げる。 「いい加減にしろよ、こんなとこまで来て、まだボクを…」 (からかいたいのかよ) さすがに呑んだ一言が聞こえたように、アシャがひょいと肩を竦める。 「まあ…いいか」 「何がっ」 「いや……ユーノ、お前、ラズーンの風俗について多少知っているか?」 「は?」 ラズーンは性別を持たぬ神が住まうと言う伝説の場所なのだ、そこにこんな生身の世界があったなどとは思ってもいなかった。 「知るわけないだろ」 「…だろうな」 アシャの形のいい唇が奇妙な笑みに歪んだ。その笑みを浮かべたまま、振り向いてドレスを受け取り、組み帯を解きにかかる。 「??」 (何だってんだよ、一体) ようやくのお休みです。 一つ一つやっていきます。 ブクログ、『密約』お気に入り登録ありがとうございました。 スライムの『近江潤』、実はけっこう好きなので嬉しかったです。 今後ともよろしくお願いいたします。
皆様GWは如何でしょうか。 私はえーと……いつもより5時間ほど仕事が早く帰れるということが、まあGW気分かなあと(苦笑)。 しばらくメルマガの製作に専念して、世間のGW明けにあるお休みに、ロストレイル企画シナリオにかかりたいと思います。 しかし……最近とみに力量不足を感じますなあ……歳ですか(溜め息)。 5/2 >14:58 CANDYさま コメントありがとうございます! そして、アシャにご声援、ありがとうございます(笑)。 そうですよね、ここで決められなきゃ、色男の名前返上しなくては。 ただし、アシャもイイ性格してますんで、ただでユーノを可愛くしてやるわけもないのですが。 お楽しみに。 >16:03 はなさま こちらこそ、いつも励まされております、ありがとうございます。 レスの復活にほっとして頂いたでしょうか。 アシャにはもちろん頑張ってほしいですよね、大人として(笑)。 メルマガの詩が日にちがずれたりして、誠に申し訳ありません。 生身に近い本音の部分から出て来るので、スムーズに書けなくて呻いてばっかりの時もあります。 書きつつ進みつつ、というところでしょうか。 気候は本当に不安定ですね。はなさまも十分にご自愛下さいませ。 >22:53 ゆきさま コメントありがとうございます。 ユーノが装うことをこれほど楽しんだのは初めてではないでしょうか。 アシャや仲間に支えられてきた日々が、無意識に彼女に自信を与えたのかもしれません。 感想頂いて、なるほどなあ、そういう「幸せ」もお伝えできるんだよなあと思いました。 もっといろんな楽しみがお伝えできるよう頑張りますね。 たくさん拍手、コメント、ありがとうございます。 ブクログのダウンロード、『密約』にも追加頂き、ありがとうございました。 残りのGWを楽しまれますように! │<< 前のページへ │一覧 │ 一番上に戻る │ |
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