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せいやんせいやん

せいやんせいやん

その4(10話)

31
【あの世~由美子の場合】


世をはかなみ、若い身空で由美子が自ら命を絶つと──


「あら、ゆみちゃん。結婚は? 結婚、結婚、結婚……」

耳タコ伯母さん、かんべんしてよ~!


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32
【あの世~多恵子の場合】


多恵子が過労でポックリ逝くと──


「あら、多恵子さん」

寝たきりの義母がいた。

「すまないねえ~。また世話んなるよ」

どっひゃあああああああ!


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33
【あの世~喜三郎の場合】


喜三郎が老人ホームで大往生すると──


「6点4点4点6点7点6点3点3点6点4点。合計49点!」

カ~ン!

「惜しい。地獄へどうぞ~!」


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34
【あの世~慎太郎の場合】


慎太郎が結婚直後からの長い闘病生活の末に昇天すると──


「はーい。通しリハーサル、終了!」

映画監督がいた。

「じゃ、本番いくよー。シーン1の1、誕生。

 よーーーーい、スタアァァァーーーート!」


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35
【あの世・外伝~美知雄の場合】


美知雄がくびを吊ろうとしてなわに手をかけると──


「おまえはもう、死んでいる」

目の前にケンシロウがいた。

「な、なんだおまえ。おれはこれから死ぬんだ。じゃまするな」

「わからないやつだな。サラリーマンとして宮仕えに

 徹してきたおまえはもう、死んでいる、と言っているのだ」


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36
【ウォッチング】


その男は都会ウォッチングが趣味だ。

双眼鏡を首にさげ、のんびり自転車を走らせ、

気に入ったポイントで停まり、風景を楽しむ。

いま、男は、東京タワーを双眼鏡で覗いている。

下から上へ。ゆっくりと。

「あれっ。てっぺんに看板みたいなものがあるぞ」

倍率を上げる。

「なになに。《足元注意》だって。標識か?

 変なの。あんなところにゃぎょぺぴゃぁぁああああ」

「あ。いっけねえ。踏んじゃった」

上空で野太い声。


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37
【日記】


寝室の小机の上に大学ノートがあった。

『夢日記』だって?

私のか?

こんなの、書いた覚えはないぞ。

ペラペラとめくって、最近のところを開いて読んでみる。

『……私は夢日記をめくってみた。そこで、目覚めた』

え、なんだって。

そ──


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38
【耳鳴り】


ガサゴソと音がする。両耳とも。不快だ。

耳鼻科医院に行ったが、原因不明だった。

七年ほども続き、ある夏の日に突然おさまった。

喜んだのもつかのま、しばらくして今度は、

金属を電動ノコで切断するような甲高い音が聞こえるようになった。

眠れない日々が続いた。

ある晩、我慢できず、ベッドから起きだして小指で耳をほじくってみた。

茶色い粉が出てきた。

続いて、アブラゼミが出てきた。左右、一匹ずつ。

アブラゼミは首筋をつたって肩と胸に移動し、

競うようにひとしきり鳴いたあと、ボトリと落ちた。

気がつくと、わたしは、両手をばんざいしてブナの木になっていた。


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39
【風呂】


入浴しようと、バスタブのふたを取った。

あれ、お湯が心持ち少ないぞ。漏れているのかな。

耳を澄ます。

漏れているような音はしない。

変だなあ。

かけ湯をして入る。首まで浸かる。当然、水位は上がる。

いつもは、最初からこれくらいお湯が入ってるんだよなあ。

うっ。お湯の感覚がなくなった。

みると、湯の中に体がない。

コロンっと反転し、頭頂部を下にして、プカプカ浮いてる私。


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40
【カメラ】

近所のカメラ屋へ行った。

手ごろなデジカメある? これなんてどうですか。新製品です。どれどれ。

てのひらサイズ。軽い。おもちゃのよう。手振れ防止機能付きです。

へえ。こんなにちいさいのに。

裏面のデジタル画像をのぞきながら回れ右する。

自動ドアの外、バスが見えた瞬間、すばやくシャッターを押す。

直後、フロントガラスを突き破り、運転手と数人の客が

大砲玉のように飛び出した。

十数メートル先の路上に着弾した人間大砲玉を、

バスが次々に轢いていった。






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