(71~80)第七十一話 大会(予選一回戦)高鳴る鼓動。渡部のテンションがハイになってくる。 渡部「・・・・」 スタート合図はヘリの赤木のピストル。 選手たちは赤木の合図を静かに待つ。そしていよいよスタート1分前。 赤木「1分をきりましたあ!みなさん心の準備はいいでしょうかあ!あともう少しでここにいる40人が死闘をくりひろげるのです!」 長崎「・・・ふん、死闘?」 伊東「まったくだぜ」 細田「(図に乗りやがって甲蔭め・・・)」 スタート10秒前。。 赤木「さあ!さあ!みなさんいきますよお!!スタート5秒前え!!」 ギャラリー「おッ始まるぞ」 ギャラリー「いよいよか」 赤木「5ぉ・・!!」 渡部「・・・・」 赤木「4・・!!」 青林「・・・・」 赤木「3・・!!」 清澄「・・・・」 赤木「2ィ・・!!」 長崎・伊東・細田「・・・・」 赤木「1ィ・・!!」 GO・・・・!!!! 2006年10月7日 13:00 第八十四回全国高校自転車大会・予選一回戦 が始まった・・・!! 40人のうち二回戦へ進めるのは10人!! 勝ったら進み負けたら終わる。 渡部の激しい戦いが今ここに始まったのである。 渡部「・・・!!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 第七十二話 試合早々・・・ GO・・・!! 渡部「(いくぜえ!)」 ギャラリー「始まったああ」 ギャラリー「いっけええええ!」 長崎「そりゃあああああ!!!」 長崎充・・・!!甲蔭勢力猛ダッシュ!! 伊東「おらおらぁ1年もついてこいやあ!」 甲蔭1年「は・・はいッ!!」 細田「(逃がさないぜ・・・!)」 最前列に並んでいた者たちは颯爽と走り抜けていく。一方中間あたりに構えていた者たちは・・・ 内山「(はえ・・・、なんだアイツら)」 内山孝太:大清高校1年。 赤木「速い!速い!速~~い!!さすが五大校!!一気に後方との差をつけたあ!!先頭は甲蔭の長崎充だあ!!」 渡部「・・・!!」 ガシャン!!!!ガシャガシャ・・ スタートして僅か20秒であった。 ここで突如中盤の者たちの間で転倒事故が生じた。 原因は他選手との接触。 この転倒事故は倒れた本人に限らず後方の者たちにも影響を与えた。逆ドミノ倒し状態である。 この事故に紛れた者たちの中には渡部たちも含まれる。渡部は試合開始早々大幅の遅れをここでとってしまうこととなった。 渡部「・・・いてぇ・・」 青林「はあ!!??なにしてくれんだ!!」 清澄「(・・ぁあ・・終わった・・・)」 赤木「おおおっと!!転倒事故発生!!20人ほどスタートでつまづいてしまったかあ!!」 長崎「ふん・・・倒れたのはどうせ1年だろ。はっはっは、このまま置き去りだな、かわいそうに」 伊東「まぁそういう運命だったっつうことで」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 第七十三話 走る!!!! チャリから転び落ちた渡部と青林、清澄、他多数・・・ 渡部「くぅ」 脚から血が出ていた。 渡部「これってもう俺ら敗退?」 青林「馬鹿なこと言ってんじゃあねえよ!!平地でこけて負けはねえよ!!地面について失格は山上りだけじゃ!!」 渡部「あ、そうなんだ・・じゃあまだ終わってないんだな・・!」 青林「ん、そうだよ。しかし見ろよ、こけた連中はもう心を折らされてやがる」 周りの人たちは起き上がって走ろうとする気がなくなっていた。 青林「まぁ無理もねえ、前方のヤツらと大差ついちまったからなぁ。こっから追い上げるのは至難」 渡部「俺は・・・行く!!」 渡部は立ち上がって自転車に乗る。 青林「はッ、もちろん俺も行くわ!」 渡部と青林は走り出す・・!! 清澄「(あ、走り出した・・。まだ失格ってことじゃないのかな・・?じゃ、じゃあ俺も)」 清澄も立ち上がり走り出した。 シャアアアアアアア!! こけた連中「走りだしたぞ・・・」 こけた連中「意味ねえよもう・・。こっから追いつくなんて無理だよ」 こけた連中「あぁ、頑張っても無理だって」 シャアアアア!! 赤木「おっと転倒組から走り出した者を発見!ゼッケン17番渡部光星!!ゼッケン25番青林和也!!ゼッケン40番清澄千太郎!!」 青林「(・・清澄・・・?)」 渡部と青林は並走していた。 青林は後ろを振り向き清澄を見る。 青林「(あいつが清澄かぁ・・)」 シャアアアアアアアアア!!! 渡部「・・・・」 青林「さすが平地型だな、とばすねえ」 渡部「・・・ん?そうか?てか話しかけんなよ集中したいから」 青林「まぁそう言うな。とりあえず転倒組から本気で追い上げようとしてるのは俺たち以外にもう一人いるぜ」 渡部「?」 青林「今後ろにいる清澄ってヤツがいる。・・・あいつは平地型だぜ?」 渡部「・・・!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 第七十四話 清澄千太郎 今年の5月。 春季自転車大会にてある話題が一部で広まった。 春季大会は団体戦という試合形式で一校五人しか出られないものであった。そのため主に試合に出る者は3年がメイン。 そんな春季の大会で1年が出ていると話題となったのだ。 秀南高校1年。清澄千太郎。 3年主将門野半蔵率いる秀南高校は部員数が少ないがために1年を起用したのではなく実力的な意味で清澄を出場させたのだ。 実際の試合での清澄の活躍は地味なもので先輩のサポートのみで終わった。 しかしその活躍で清澄は1年にも関わらずまともに3年と渡り合える実力の持ち主だと受け止められ、この自転車界に名を轟かせたのである。 青林「清澄は強いぜぇ」 渡部「・・・へえ」 渡部は考える。平地型の相手というならば挑まざるをえまい・・・!! 渡部「・・・!!」 渡部が突如をペースを上げる!! 青林「・・・・」 清澄「(ペース上がった・・・。じゃ俺も・・・)」 渡部「(来い清澄・・・!!平地型最強への第一歩のバトルだ・・!!)」 清澄「(・・・・あの17番、平地型か)」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 第七十五話 渡部vs清澄千太郎 清澄「(さすが平地型・・・。この平地コースでペースを上げて遥か前方にいるであろう人たちに追いつこうとしているんだ。そうだよなぁ・・・、平地でとばさないともう上位10名は狙えないわなぁ・・・)」 青林「・・・・」 清澄「(・・・いよっし。じゃあ、闘争心全開モードといくかぁぁ・・・)」 清澄は徐々に徐々にペースを上げていき、渡部たちに接近していく・・!! 青林「(おッ・・清澄が戦る気になりやがった)」 渡部「・・・(きた・・!!)」 渡部「(おもしろいなぁ・・・、別に見てもいないのに静かに近づいてきている感覚だよ)」 渡部は静かに接近しているであろう清澄を待ちながら自転車を漕ぐ。 しかし、清澄は決して静かに接近していたのではなかった。 ブワッ!! 渡部が風を感じた。 今まさに真横で清澄が通り過ぎたのである!! 渡部「(え・・・)」 清澄「(っしゃあ)」 青林「・・・(渡部のヤツ・・・、あっさり抜かされやがった。清澄が後ろから来ていることに気づいていなかったか。まぁ教えたらよかったかな、アイツの異名ぐらいは・・・)」 渡部「(・・・なんなんだ今の・・)」 青林「(“音殺(オンサツ)”!!清澄!!)」 清澄が渡部から離れていく!! 渡部「(逃がさない・・!!)」 渡部爆裂加速!!!! 渡部「(全力の最高速度を出してやる!!勝負だ清澄ィ!!)」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 第七十六話 無音走行 渡部「(全力の最高速度を出してやる!!勝負だ清澄ィ!!)」 シャアアアアアアアアア!!! 青林「(渡部も戦闘態勢突入か、俺も観戦ってことでついてくぜ)」 渡部爆裂加速!! 渡部「・・・!!」 抜かされた清澄を瞬時にとらえ横に並ぶ!! 渡部「・・・(ん?なんだ・・?)」 渡部があることに気づく。 清澄千太郎は小学校2年のときに自転車デビューをした。初めて買ってもらった自転車は自分の体の一部のように大切に扱い、どんなに近場でも自転車で行動するタイプの少年であった。 そんな清澄の生活習慣には自転車磨きの時間がある。つまり自転車の洗浄タイムである。清澄の原動力はまさに自転車に対する感謝の気持ちである。 そんな清澄の習慣は現在まで至り、思いがけない副産物が生まれた。 それは、汚れ一つもなく調整されたチェーンから生まれる・・・ “無音状態”!!!! 渡部「(音が・・・ない!!)」 最高速度に達した清澄のチャリ“ヴァニッシュ”は無音状態になるのだ!! 清澄「はぁ・・はぁ・・」 青林「(気づいたな渡部。そうだ、音殺清澄のチャリは音を殺すんだ・・・、つまりひとたび前に出ると後ろを振り向かない限り相手を確認できない。これが結構勝負にひびいてくんだ・・・、どうする渡部。生半可な気持ちで勝てる相手じゃないぜ!)」 渡部「(うっらッ)」 シャアアアアアアアア!!! 渡部がスピードをあげて清澄を抜く!! 渡部「・・・!!」 この瞬間に渡部の中で清澄の存在がかき消える! 渡部「(・・・いるんだ。確かにいるんだ。見えなくても聞こえなくても・・・)」 清澄「・・・・」 渡部「(びっくりだ、こんな走りをする平地型がいるなんて・・・、手ごわい。でも、相手として不足がないってことだな。後ろを振り返るのはブッチ切った時だけでいい・・・その時後ろには誰もいねぇ)」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 第七十七話 追い上げ中 赤木「さぁさぁ!!試合が始まってから15分ほど経過しましたが・・・!現在トップは・・・!!」 長崎「・・・・」 赤木「ゼッケン5番!長崎充選手!!」 伊東「後ろ消えないな」 長崎「当たり前だろ。こんな序盤の序盤で独走になるわけがないだろう」 甲蔭の二人は全く息が切れていなかった。 長崎充を筆頭に甲蔭組が先頭グループに固まっていた。先頭グループには甲蔭組のほかに洋政第二組(細田他)と他・県立高。 細田「(最後は抜いてやる・・・甲蔭の長崎と伊東め・・・調子のりやがって・・・)」 橘「細田先輩、熱くなりすぎっすよ。ペースが上がっちゃってます」 橘 尚人:洋政第二1年。 細田「あぁ、わりい」 橘「(先輩が熱くなるのも無理はない。今年の団体戦で甲蔭に負けたばっかだしな・・・。でも、今この先頭グループでは要注意なのは甲蔭組のほかに、あそこの・・・)」 川崎「・・・・」 橘「(翔峰・川崎!!)」 川崎道広:翔峰2年。 ギャラリー「先頭グループは五大校ばっかだな」 ギャラリー「甲蔭、洋政、翔峰。間違いなく予選突破だな」 ギャラリー「県立のヤツにも頑張ってもらいたいな」 ギャラリー「そうだよな~、聞けばスタート時に転倒があったらしくて県立高のヤツがそこでつまづいたらしいぜ」 ギャラリー「マジかぁ。そいつらは2回戦進出はもうないな」 渡部「はぁ・・!はぁ・・・!!」 シャアアアアアアアア!! 走る!!トップスピード!! 渡部「はぁ・・!!はぁ・・・!!」 青林「(なんてペースで走りやがる・・・!あとのこと考えてんのか・・・?)」 渡部の後ろにはまだ清澄がついている。 青林「(しかしソレを追うほうもどうかしてるぜ・・・こんなハイペースは普通序盤では見れないぞ・・・)」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 第七十八話 激化 渡部「はぁ・・はぁ・・!!」 清澄「(あぁこの人すげえスプリント。ここまでスピードだす予定はなかったんだけどな)」 シャアアアアアアア!!! 清澄「(でもここまでとばしていたら、いづれ追いつく・・・)」 青林「(完全に置いてかれてるぜ俺。・・・しょうがねぇ俺は山で追いつくとするか)」 渡部のスプリントは続く。 体力の消費は激しいがトップ集団に追いつくためには仕方ない。 渡部「はぁ・・・はぁ・・・!」 無音。今ここには渡部の息遣いしか聞こえない。 渡部「(それはおかしい・・・)」 もし清澄が後ろについているならば清澄の息遣いも聞こえるはずだ。 渡部「(聞こえない・・・。もうチ切ったか・・)」 しかしそれは清澄の戦術でしかなかった。 呼吸のシンクロ!!清澄は渡部の息遣いにあわせていただけであった!! 渡部「・・・・」 渡部に疑念が生じ少しペースが下がった。 清澄「・・・・」 こうなってしまえば清澄の思い通りとなる。 清澄「(俺は別に音を消すためにチャリを大切にし続けてきたわけじゃない。ただ純粋に大切にしたかったという単純な理由だ。音が消えたことによって確かに自転車レースの実力は上がった・・、俺は思う、これはチャリの神様からの報酬さ)」 渡部「(はぁ・・はぁ・・・!!)」 清澄「(神がかりへと変わった俺の走りは・・・)」 清澄はペースの下がった渡部を抜きさる!!! 清澄「(スピード一筋のスピードジャンキーには絶対負けない・・・)」 渡部「ぐッ・・」 渡部と清澄のバトルは激化していく。 そしてトップ集団でのバトルも激化していく。。 川崎「・・・・」 ギャラリー「川崎が仕掛けたああ!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 第七十九話 トップ集団分裂!! トップ集団。 ギャラリー「川崎が仕掛けたああ!!」 トップ集団先頭の甲蔭・長崎伊東を抜き去り一人前へ出る。 川崎「フ~~~さ~てこっからっちゅうことだ」 橘「翔峰仕掛けましたね、、」 細田「あぁこっからってことだな」 内山「・・・・」 細田「この集団で走っている仲良しな状況からサバイバルが始まる・・・」 橘「でも予定より早めの展開っすね」 細田「かまわねぇよ、仕掛けてくれたことに感謝だぜ」 シャアアアアアアアアア!! 川崎「っしゃッ」 川崎独走!!!! 川崎道広:平地型ライダー!! 伊東「いっちまいやがった」 長崎「・・よっし、伊東追っててもいいぞ」 伊東「了解。んじゃいってくら」 シャアアアアアアア!!! 伊東鉄二:平地型ライダー!! 伊東追う!! 伊東の他にもトップ集団の中での平地型ライダーがペースを上げていく!! 内山「(う、うおお・・)」 内山孝太・大清高校1年。ペースの上がっていくトップ集団から置いていかれはじめる。 内山「(なんて境地だ、ついてけねぇよ)」 内山の他にも集団から離れる者は少なくなかった。 内山「(完全高みの闘いだ・・・。交えねぇ・・)」 川崎「(ふっふっふ・・・来た来た。獲物。来るとわかってたぜ伊東・・!!)」 伊東「・・・・」 シャアアアアアアアア!! 細田「てめーは行かねぇのか?長崎」 長崎「フン―俺を甘く見るな。・・・山岳に入って追い上げるつもりだろう、クライマーの細田。俺もそのつもりだが、生憎貴様とは少し違う」 細田「・・・??」 長崎「・・俺は異質・山岳型だ」 細田「!?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 第八十話 異質・複合タイプ・山岳型 細田「山岳型・・・」 長崎「ようするに上り型兼下り型ってことだ」 橘「(話に聞いたことがある。異質型のタイプの一つに複合タイプというものがあるってことを、、この甲蔭長崎は上りと下りが複合された異質型ってワケか・・・)」 細田「(・・コイツそんなチャリ系統だったのかッ、上りと下りだとお、ざけんなッ)」 長崎「というわけでいくら上りのステージで俺が負けようが、下りで挽回できる余地があるのだよ。まぁそんな余地はいらないがな。上りで勝つのは俺だろうからな」 細田「ぐッ・・」 長崎充。甲蔭学園2年。自転車部部員。 長崎は中学時代も自転車部に所属していた。 彼の実力は誰もが認める存在であって、入部時から引退まで不動の部内トップに君臨していた。 そんな長崎は甲蔭自転車部に入部した時、ここでも俺が一番であろうと確信を持っていた。 しかしその確信が間違いであったとすぐに気づかされる。 現甲蔭部長!!“皇帝”八代の圧倒的実力!! 長崎「(俺が目指すのは、あの境地だ・・!!)」 シャアアアアアアアア!!! 長崎「(八代さんッ俺はあんたみたいになりてえ・・・誰もが認める最強の男ッ・・・!!)」 細田「・・・!!」 長崎「(・・・人のチャリ系統は進化すると言われている・・・。俺の山岳型も努力の結晶のかたまりだッ、俺はあんたの領域に今後1年で到達する予定だ・・・!!皇帝の脚!!異質・全系統型に!!!!)」 シャアアアアアアアアアア!! 川崎「・・・・」 伊東「(なんてヤツだ、こいつ一番重いギアをふんでやがる)」 川崎のチャリ:ビートイーグル。マウンテンバイク外装6段変速!! 伊東「(トルクタイプってわけか、)」 伊東は左手で人差し指を立て後ろに見せる。 その様子を見て動き出したのは甲蔭学園の1年の中の一人。 伊東「(来いッ)」 81~90へ |