GTアカデミー
せんだって読んだ雑誌で知ったんだけど。 http://www.gran-turismo.com/jp/news/d2923.htmlGTアカデミーレーシングチーム、ドバイ24時間レースを完走 ヨーロッパの日産とヨーロッパのソニープレイステーションの共同プロジェクトで「GTアカデミー」っつーのがあって。 これは、プレステのゲーム『グランツーリスモ』の上手い人を集めて、レーシングドライバーを育成しようというもの。 耳を疑う能天気な企画だけど、実車シミュレータとも言われるほど、実車感覚の再現に特化したチューニングの『GT』だからこそできたのだろう(ゲームとしては僕は好きではないのですが)。 アカデミーからはふたりの青年がレーサーとして出た。 ルーカス・オルドネス(23歳・スペイン)大学生。 ラルス・シュロンマー(28歳・ドイツ)タクシードライバー。 テレビゲームの上手な大学生とタクシードライバー。 それがマジでレーサーになっちゃった。 「バーチャルはすべて悪でゲーム脳は恐怖」という人たちは、この事実をどうとらえるのだろうか。アオリ無しで聞いてみたい。 とくのこの大学生、ルーカスはドバイ24時間レースでフェアレディZを駆り、チームの一員として完走させた功労者だ。元F1のジョニー・ハーバートもいるチームでチェッカーを受けたラストドライバーが、ゲーマーあがりの大学生なのだ。もうおまえらマンガか、と。 四人のドライバーが交代で24時間完走を目指すレース。 ルーカスはトップに迫るラップを出すほど速く走れもするが、マシンの調子が落ちて危なっかしい終盤では完走目的の落ち着いた走りに切り替えて、しっかりゴールまで持ってきた。なかなかできることではないですよ。 実はレーサーっていうのはつくるのに非常にコストがかかる人種でね。アイルトン・セナが幼いころからカート乗ってた話は有名ですし、主だったF1パイロットはだいたい子供のときからレースに出ている。 慣れと経験。 お金持ちの家に生まれたほうが有利なんす。たまに坂田和人(バイク乗り)のような「峠の天才」が現れてヨーロッパを激震させることもあるけれど、基本、生まれた家で、才能の伸びしろが決まる。レーサーは金持ちしかなれないものだ。 どんなに才能がある子供でも、家が裕福で、親がその気にならない限りは、まずレーサーになれない。 生まれでふるいにかけられ、才能でふるいにかけられ、最後に女神が微笑んだ者だけが、サーキットの狼になれんの。グランプリの鷹は別ジャンルだね。 ところがここで『グランツーリスモ』。ただのテレビゲームっすよ。 実車の挙動を偏執狂的に再現したゲームは、金持ち家庭の子供だけに許されていたカーレースの慣れと経験をカバーすることが証明されたんす。 なんですってー! 親がカートを買い与え、毎週末のようにサーキットに送迎し、マシンのメンテナンスをし、ガソリンとタイヤを買い足し、エントリー料金を払い、勝ったり負けたり怪我したりして泣く子の尻を叩き、っつーサポートを。 マシンの挙動に慣れ、レースの駆け引きを飲み込み、自制心と思い切りを同時に持ち、スピードへの恐怖心を麻痺させ、走行ラインを直感で見て、っつー慣れと経験を。 たかがゲームが補完してしまうのだ。 子供が小さな時から一家総出でレースに狂っても、F1に乗れるような才能はわずかしか出てこない。世界中で数人。 才能というのはそんだけ稀なもので、だから僕らはレースを面白く見て感動するのだ。 レーサーとしての才能は貴重だ。金がかかるから貴重という側面もある。カートレースをタダでやれるなら、もっとたくさんのゴールデンチャイルドが出てくるかもわからんから。 貴重な子供の貴重な才能を、極めて低コストに伸ばすことができる。その機会が、遊び道具として作られたテレビゲームにあることを非常に面白いと思うのだが、みなさまにおかれましてはやはりゲームばかりしていてもお金を稼げる大人には育たない、そんなふうに思われることでしょう。 先月の『クーリエジャポン』(つまり四月号)で読んだ記事から考えたことです。http://courrier.jp/contents/courrier055.html