『雪国』とはまた違う魅力――川端康成『浅草紅団』
川端康成『浅草紅団・浅草祭り』講談社文芸文庫川端さんといえば、『雪国』だったり『伊豆の踊子』が思い出されます。しかし今回の『浅草紅団』はちと違う。まず、違うのが「ルポ」のような印象を受ける文章。作品の性質も純文学という感じではなく通俗的な作品です。当時の浅草の街の裏の世界を詳細に描いています。こんなところは、松原岩五郎の『最暗黒の東京』を思い出します。また、『雪国』とは対照的で固有名詞が多く、文章がごちゃごちゃしてます。場面の移り変わりも激しく、現在ではなじみの薄い固有名詞が多い為、読むのに苦心するのが難点。一方で、これは詳細に描かれているということの裏返しであり、当時の浅草の様子をうかがい知ることも出来ます。「ごちゃごちゃ」とマイナス気味にいいましたが、逆にいえば当時の混沌としていた浅草を描く上で「ごちゃごちゃ」した印象をうける文章はある意味適切なのかも。浅草紅団/浅草祭