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行ってみたいな、他所のまち

行ってみたいな、他所のまち

曲名お題SSその1

子どものころから、夕焼けを見るのが好きだった。

友達と別れて帰る道すがら見上げた茜色。

雲の白色が灰色に変わっていく。山の稜線がきらきらと光り、やがて消えてなくなるまで眺めていた。

その色になつかしいとかさびしいと感じるようになったのはずっと後になってからで、少なくとも生意気なチビの私は、

美しさにみとれていただけだったと思う。




「トワイライト」



会社帰りに寄ったCDショップで、ふと聞きおぼえのある音に足が止まった。

目の前に、あの夕焼けが浮かんでくる。生意気なチビの私が見ていたのとは違う夕焼け。

なんだったっけ?どこかで聞いたことがある、こういう曲。


店の人にたずねると長ったらしいバンド名が返ってきた。







思い出した。3年前の冬のこと。

当時付き合っていた彼のお気に入りで、やっと戻ってきたのMDのいちばん最後に、1曲だけ入っていた。

「あ~結構声とか好きかも~!」

「だろ?お前こういう青くさいの、好きって言うと思った」

大学のサークルでバンドをやっていた彼は私の知らない曲をたくさん知っていて、新しいものを見つけては聴かせてくれた。

本当は、私はそんなに興味なかったんだけど。



あの日も二人で野外のライブに行ったのだ。

ちょうど日が暮れるころになって、そのバンドが演奏を始めて。

まるでステージの後ろに茜色の大きなスクリーンが出来たように見える。

「見て見て、あれキレーだよ!!」

答えがないので隣を見ると、彼の顔は泣きそうにゆがんでいた。

「ちょっとヤダ、なにー!?陽二ってば感動しちゃった?」

私は彼のひじを自分のひじで小突いて笑った。


その朝から様子がいつもと違うことに気づいていた。

でも、心の中の不安を認めたとたんに拡がっていきそうで、だから笑ってすまそうとしたのに。

それでも彼は表情を変えなかった。


延々とつづいていくかのように思えた日々は、沈む光が消えるようにまもなく終わってしまった。






ヘッドフォンから買ったばかりのCDが流れている。

夕焼けの色になつかしいとかさびしいと感じるのはなぜだろう?

きっと失くしてしまったもの、または失くしかけているものがあの色に溶けているからではないだろうか。


生意気なチビではなくなった私は、すこしだけ泣いた。

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主人公が聴いていた曲は「トワイライト」
アルバム1曲目に入っています↓

GOING UNDER GROUND/ハートビート        (CCCD)
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A015814/VICL-61228.html


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