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テーマ:小説日記(233)
カテゴリ:LOVE
日下部から初めての電話が掛かってきてから、だいたい同じ時間に毎晩電話が掛かって来るようになった。
22時から23時の間に掛かってくる。 オフィスからだったり、歩きながらだったり、いろいろだ。 私はその時間までにお風呂に入り電話を待つようになっていた。 そんな自分をかわいいと思った。 10時23分、携帯が鳴った。 「もしもし、俺だけど。」 日下部からだ。 今日は歩きながらだった。 繁華街を歩いているのか街の音が聞こえてくる。 「何してるの?」 「お風呂上りにポカリ飲んでる。」 「ふ~ん・・・。」 「何?」 「お風呂上りかぁ~と思っただけ。明日は祝日だけど仕事休みなんだろ?何するの?」 「何でいちいち毎日同じ事聞くんですか?」 「土曜日約束したからね。それまでに他の男と遊ばれちゃ悔しいからね。じゃ、今日はそれだけ。おやすみ。」 一方的に切られた。 何よ・・・。 しかし、不思議とマリは日下部の言う通りに従っていた。 本当に明日は何をしようか・・・。 マリは考え出した。 部屋を見渡すとクローゼットに入りきらず山積みにされたブランドバッグの箱が目に付く。 みんな男からのプレゼントだ。 整理しなきゃな・・・。 マリは別にバーキンもケリーもシャネルもヴィトンもグッチもディオールも欲しいと言った事は無い。 5回目のデートあたりで男はどうもマリにプレゼントを贈りたくなってしまうようだった。 マリは高価なプレゼントはあまりうれしい物ではなかった。 何となく物で釣られているようだからだ。 だから、高価なプレゼントをもらうと決まってスーッと気持ちが冷めて別れを切り出していた。 その中の男は今でも、その別れのプレゼントの為にローンが残っているのも、自分自身が男を不安な気持ちにさせているのもマリは知らないし、気づいても無かった。 物に罪は無い。 マリはケロッとそう思うのであった。 ちょっと整理しよう、とマリは明日の予定を決めた。 朝、遅い朝食を取ると身支度し、黒の新品のバーキンを紙袋に入れ銀座に向かった。 銀座に大きな質屋が出来た時、初めて質屋という所に行った。 このクローゼットからあふれ出しているバッグ達を何とかしたかったのだが、質屋という場所に抵抗があった為、なかなか処分できずにいた。 しかし、さすがに銀座に出来た質屋は綺麗で普通の高級品を取り扱っているようなファッションビルのディスカウントショップという感じだった。また買い取り用のロビーもマリが思っていたよりも清潔で安心できた。 それ以来ちょこちょこ休みの日に行くようになった。 マリはVIP会員である。 買取受付の入り口は大通りに面していない。 店の裏側にあるため脇の細い道を通らなければならない。 それだけがマリの不満だった。 こういう細い道って大嫌い。 そう思いつつ今日も買取受付の入り口から入った。 自動ドアがシュッと音を立てて開くと左側のエレベータに乗る。 そして6階まで行くとVIPルームがある。 ロビーのソファーもヨーロッパ調の人目で高級と分かるものが置いてある。 ソファーに腰掛けてしばらくすると店員がやってきた。 「いらっしゃいませ。」 そして個室に案内される。 ソファーに座ると私は紙袋から新品の箱に入ったバーキンを出した。 店員は手袋をはめて 「失礼します。」 と言い箱からバッグを取り出した。 「新品ですね。これですと・・・こんな感じですが。いかかでしょう?」 店員は電卓を弾いてマリに見せた。 「う~ん・・・。もうちょっと、何とかなりませんか?」 少しゴネル事をマリは覚えた。 「え~・・・ですと、これでいかかでしょう。」 パパット店員は電卓を弾いてマリに見せた。 「いいわ。これで。」 お金を振り込むための用紙に記入を済ませるとエレベーターを降りた。 「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。」 店員は丁寧に頭を下げていた。 大金が入る事にマリは単純にうれしかった。 鼻歌を歌いながら店から出た。 マリは店から出ると大通りに向かっていつもより歩幅を大きくして歩いた。 丁度半分くらいで大通りに出るところでマリの右肩がグッと掴まれた。 振り向くと見知らぬ男だった。 男の目は血走っており 「お前みたいな女が世の中の男を不幸にするんだ。」 と何回も叫びながら胸ぐらを掴もうとしてきた。 マリは息も出来ず、身体中の血液が凍って行く様な感覚にとらわれた。 「やめて!」 とやっとの思いで声にしたが、不運な事にこの細い路地にはマリとその見知らぬ男だけだった。 咄嗟にバッグで男の顔を殴った。 マリはヨロヨロとしながら大通りに向かって走り出した。 男は一瞬うぅ・・・っとひるんだが直ぐに追いかけてきた。 どうして、こんな知らない男に絡まれるの? この男に私何か悪いことした? 必死に逃げようと走ったがマリは大きな過ちをしていた。 夢中で走り出した方向は大通りとは逆だった。 知らず知らず細い路地を入って行くと行き止まりになった。 マリは男に追い詰められた。 あぁ・・・もう駄目だわ・・・。 こんな男に殴られて滅茶苦茶にされるのかしら・・・。 目を閉じてバッグを頭にマリは身体を震わせながらかがみこんだ。 すると男がうぅっ・・・とうめき声を上げる声が聞こえた。 マリは身体を震わせながらゆっくりと見上げると逆光の中に男をねじ伏せている影が飛び込んできた。 <つづく> 面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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