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眠れない夜のおつまみ

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2005/11/20
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カテゴリ:小説
3年前のことだ。
俺はユリコに無理やりに近い状態で「占いの館」に連れて来られた。
俺は占いなんて信じない方だ。
馬鹿馬鹿しいじゃないか。
ユリコはきっと恋愛運や結婚運でも聞くんだろう。
俺はユリコと結婚する気なのに。
俺だって、もう30なんだからちゃんと考えているさ。
女というものは何故占いなんて好きなんだろう、とユリコに手を引かれながらブツクサ考えていた。
アミューズメントが集まったビルの入り口を入るとゲームの音でうるさかった。
「ここよ。すごく当たるんだって。」
ユリコは楽しそうにエレベーターの下がるのボタンを押した。
エレベーターから降りるとゲーセンのうるささとは正反対の神秘的なと言うのか、胡散臭いと言うのか、そんな雰囲気の部屋になっていた。
俺がどちらかを選ぶとすれば「胡散臭い」だ。
俺は正直こんなところ早く出ててしまいたかった。
まだユリコのウインドウショッピングに付き合っているほうがマシだとさえ思えてきた。
ユリコが受付を済ますと、ロビーで順番を待った。
俺達は最後で、俺の思ったよりもたくさんの人が並んでいた。
奥の部屋は紫色のカーテンで仕切られていて5人の占い師がいるらしい。
その部屋から出てくるのは今の所全て女だ。
うつむいて出てくる者もいれば、晴れやかな顔で笑顔を浮かべて出てくる者もいる。
待つ事30分、やっと俺達の番が来た。
紫色のカーテンをめくると大きな水晶の向こうに目だけ出して黒い布で全身を覆った占い師がいた。
アイメイクがしっかりされており、一度観たらしばらくうなされそうな目だ。
「どうぞ。」
占い師が言ったので俺達は椅子に座った。
「2人の今後の運勢ですね。」
念を押すように低くしゃがれた声で聞いた。
ユリコが受付でメニューを勝手に決めたのだろう。
やっぱり結婚か、と思った。
よく占い師がやるように水晶にしばらく手をかざしてから、もったいぶる様に話し始めた。
「では・・・結果から言いましょう。あなた達の相性は・・・とてもいい。お互いにこの相手を逃してはならない。彼女はそろそろ結婚を望んでいる。しかし、焦る事は無い。彼は結婚を心に決めている。」
な、なんだ?俺はびっくりした。
「ユリコさん。あなたは、とても幸せになるでしょう。トシオさん。・・・・これから言う事を忘れないで下さい。3年後あなたに転機が来ます。少したりともこぼさずに受け止めるようにしてください。それは、天から降ってきます。いいですね。」
変な予言めいた言葉を聞いて一瞬びくりとしたが、サッパリ何の事かその時は全く分からなかった。
そして占いの部屋を俺達は後にした。
ユリコは嬉しそうにしていた。
俺は占い師の言う事を暫くの間は覚えていたが忙しさに忙殺されて頭の片隅へと消えていった。

俺達は、あの占い師のところに行ってから半年後結婚した。
その一年後男の子が産まれ、そのまた翌年に女の子が産まれた。
家族は4人になり俺はますます仕事に力を入れていた。
そう、3年が過ぎていた。
そんなことは忘れて俺は残業の毎日だった。
そりゃそうだろう?
ユリコは結婚を機に退職して専業主婦だ。
育児に追われているが専業主婦が性に合っているみたいだけど・・・。
子どもは2人。
俺が頑張るしかない。
夫として父としての義務だと思う。
「あなた、最近顔色悪いけど大丈夫?」
ユリコが心配そうな顔で覗き込んだ。
「なに、大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけさ。」
玄関で靴を履きながら鞄を受け取ろうとした。
そう、受け取ろうとしていた。
目が覚めると俺は病院にいた。
「あなた・・・。」
ユリコが側にいた。
「俺、どうしたんだ?」
「倒れたのよ。」
今朝出掛け際に俺は頭を抱えながらうめき声をあげて倒れこんだ、と聞かされた。
医師からは過労と告げられた。
ここんとこ詰めてたからなぁ・・・。
俺は少し反省した。
念のための頭部のCTとMRI行い、結果は異常なしとのことで退院できた。
しかし、1週間の診断書が出た。
明日から1週間、骨休みをしろ、と言うのである。
退院して自宅に戻った時の夜、眠りにつこうとベッドに入ったがなかなか眠れず家族が眠りについた中俺はトイレやリビングをウロウロしていた。
深夜TVでも見よう。
リモコンで電源を入れると最近人気の出てきたお笑い芸人がくだらない番組の司会をしていた。
こんな事が療養になるのか・・・と疑問に思うのだが寝付けない物は寝付けないのである。
ぼーと画面を見ているとお笑い芸人の顔が歪んだ。
あれ?
歪んだかと思うと画面が渦を巻いたようになり何かが飛んでくるように見え始めた。
一つ一つ相当な速さで飛んでくるのだが、よく見るとそれは文字だった。
TVを消した。
すると今度はまるでDNAの二重らせん構造が解けるように頭の上に次々と文字が降って来るのである。
これは幻覚なのか?
俺はおかしくなってしまったのか?
どうすればいいのだ?
俺は咄嗟にボールペンとその辺にあった紙を手に取って頭から降ってくる文字を書き拾った。
広告はすぐ無くなってしまったのでプリンターの用紙を袋ごと持って来てそれを使った。
一度、ペンと紙を揃えると俺の右手は俺の物ではないように文字を書き殴って行った。
その作業は朝方まで続いた。
俺はそのままリビングのソファーで眠ってしまった。
ユリコが起きてリビングに来るとソファーで横になっている俺にびっくりして、俺の肩を揺すって俺は起こされた。
ついさっき深い眠りに入った為、瞼に錘が付いているように重くて仕方なかった。
「あなた、あなた、あなた・・・。」
「うぅ・・・ん・・・。」
ユリコの目には涙が溜まっていた。
俺が目を覚ました事に本当に安心していたようだった。
「また、あなたがどうにかなってしまったのかと思って・・・。」
「大丈夫だよ。」
「良かったわ・・・。」
ユリコが目を擦りながらテーブルの紙の山に気づいた。
「これ、なに?」
俺はユリコに昨夜の出来事を話した。
「それで、あなた、書くだけ書いて眠ってしまったのね。」
納得した表情で俺の説明を自分なりに噛み砕いているようだった。
「これ、読んでみましょうよ。」
「そのつもりだ。でも、俺は寝る。もう、眠たくて仕方ないんだ。」
「じゃ、私が先に読んでいい?」
「あぁ。」
あくびをしながら俺は寝室に向かった。

                            <つづく>

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Last updated  2005/11/21 01:10:38 AM
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