1976615 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

灯台

灯台

悪夢

俺はそれを見ていたい
ゴングが鳴らないまま、俺は四角い枠のなかに
滲んでゆく
かすれた 空気があって
あおじろく うつった 俺がいて
――名付けるとしたら「雰囲気」
 無分別な饒舌・・・密度と亀裂――
 過去を顧みないということじゃない、
 足くびに否応なく捕まえられる、肉体を満たす熱い発酵、
 剃刀みたいに痩身な男、たちまち数珠つなぎに繋がる
 BGM、不安・・・、夢を見ていたんだな、川崎 
 ・・・カワサキ、俺の名前だ・・・、
 ここは控え室、これから高校最後の俺の試合
 連中はどんな顔をしてるだろう 
   アップ・アンド・ダウンを越えて会場へ
   こっそり洩らすことだ、
   綻びかけた花をみて美しいというのを躊躇う
   まるで俺は想像上の獣
  嫉妬深い蒸気、・・・武勇伝の数々、夜の帝王
  け、いろんな綽名があった。――咽喉元を過ぎれば何とやら、
  ―――トレーナーは笑う、白いマットのうえで俺は
  勝利の右腕を天井めがけ繰り出す
   湯気があがるような歓声、手短な拍手、
   からかうような羞かみのくち笛・・・。
   「俺はたしかにスターだったと思いますよ」
   ライト級高校生チャンプ、、
   57 - 60kg(125 - 132ポンド)の横顔、
   シャドウをする時、ランニングをする時、またレフェリー、
   ボクシング部内――“リング・アナウンサー”・・・に呼ばれる時も、
   ビデオカメラの撮影。
 ・・・いい男だからしょうがないでしょ、
 とナルシストは笑う――
 俺はそれを見ていたい 剥製を
 ゴングが鳴らないまま、「困惑」を・・
    スターがいないと辛い お前がいなくなると辛い
    スキャンダルまみれでも、いい――いい
    洗濯機だけあってもいつもの籠がないと困る
   ああ 大人のなかにひそむ子供意識 !
   肥沃な庭にいる――この、はてしない地獄
   I`m ソーリー ! ステレオタイプの風貌に
   たえて い く 劣等感をしんじようか
 魂の加速度、・・どうせカテゴライズ
 あいまいな日々の試行錯誤。この際 虚無の真実―――
 そうだ もっとナ・カまで入らなきゃ
 内面からのリアリティーは不完全な灰
 吸殻さえも砂になる
  そして たった今、・・俺は
  まったく鳥みたい! 蒼白く光る俺の犬歯・・
   アゴは二重に ゴウ えらという呼吸
   もえているんだ それでいて、それでいて
   巨きな掌が むぎゅ 絹糸のような動き
   虫籠へと さあ フェイドアウ!
   ――(ドコニ イクノ アナタハ・・。
 いつのまにか 俺は 裸身になって
 ヴィーナスになって
 ・・・蝶になって、すばやく抽象にとけて、
 すばらしくうつくしい炎になって
 舌 けんめいにのばして、 のばし て 、
 あの 毛細血管 の うみを つかまえた
    欲求は無理な形にひしゃげられていく
    金網に抑え込まれた 十字路!袋小路!で・・
    ――まだデスマッチつづけ る
    限られた風景の中に、閉じられた箱の中に
    軍歌とか、潮騒とか、が・・―― 
  びゅるるるう、・・・やめろ、凍えそうだ――!
  でも俺は全身性感帯! ・・・ミサイルマン
  髪を逆立て耳千切ってみせる
  ためらうこと? ――ない! ・・・な いよ。
  だって あの日あの時あの瞬間
  俺は永遠だった、神だった
  そして君にとっての救世主だった
   セ ックス・アピール蒸ん蒸ん・・・彗星現るの新聞紙面
   観客になるな主役になれ! ・・・俺の言葉は報道された・・。
   つつがなく衒いもなく、ハンモック・ヴァーチャルアイドル・
   フィギュア・コンピューター・グラフィック・48面ダイズ
   それはしずかな水に浮くガラス底ボート[錯覚 消滅 
   不必要な孤独]人生ってやつは砂袋さ
 ・・・そう荊棘の道さ。雨季さ。毒を浴びるように飲みたい思春期
 世界中が言ってた 騒ぐな! どうせまた同じこと
 天体写真で宇宙 たとえそれが総理大臣射殺でも!
 書物の彼方の無垢! 天才信仰 おお、若者賞賛主義
 「どうせ、マスコミは蹴落とすだけですがね、はは・・」
 でも陽の当らぬ裏庭の木で首つりしても一か月見つからぬよりは、
 ずっとね、・・火花と知っていても羊水にただよいたいでしょ、一緒ですよ
   花束がリングサイドに届き、それをいきなり空へ投げ捨て、
   「おまえにくれてやる・・・!」
   誰もそのスターの振る舞いを、栄光の本能に抗えない
   豪放磊落な若者らしいその裏で、・・・不合理な手の中の切符を奪う
   システム。年功序列。ピラミッド社会。おい、カワサキ、
   ――胸倉をつかまれた。髪の毛を切ってこい、
   おまえ香水をつけてるのか、シメシがつかねえんだよ、
   おまえ後輩のくせに生意気なんだよ。―――確執、
「部内のいざこざは絶えなかったですね・・」
腐った林檎が腐らせるのは、若さだけじゃなくて、
生き方もそうだったって言うかね・・
  その男が、いま、底なしの空間のように思えるリングの上で、
  溢れては流れ込む活気の中心にいる。死の恐怖! 悪魔祓いの果てに・・。
  「でも、楽じゃなかったですよ」――肉体の大部分をからめとられる、
  減量・・・。ハングリー精神。しつこくクリンチをし、
  スピードのあるフェイント。
  そういうスポーツの在り方に嫌気がさしたっていうか・・・、
    ――あらたな大虐殺の前触れ・・・!
    非情に過ぎ去った時間どこへ逃げるだろう、
    アフリカの地平線はきっと答えちゃくれない
    白くぼやけた月! 蛆! 
    死ぬ! よいことか悪いことか
    それはきっと確かだ
    ・・・ロック・オン 君自身が!
 いつだって新しい洪水を望んでる、その眼に魅せられたい
 釘を打たれたい・・そして、強くしてほしい
 ハートを熱くしてほしい。スター! あんたが、
 取り戻してくれる。――それから、・・・それから? 
 でも確かにそうだった。・・・停まらなかった
   悪い夢はいつま でも終わらな い!
   マイ・ニ・チ 毎日は牢獄に等しい
   そしてその緊張感は地獄に等しい
   泣いて笑って叫んで、みじめに崩折れて
   ばかみたいにおどけてた俺は何処へ行きゃあいい
   誰に拳銃を突きつけりゃいい
   そして誰を撃ちゃあいい! 撃ち落としゃあいい
 解剖器具で、病気を特定するようなことだった
 病名をつければ、はい、それでと、カルテ・・。
 でもそいつは死んでる! ・・・完全に死んでる!
 罌粟の実はない。――あるのは 酒
   ――ある日狂ったように飲んで吐いた、運命の一場面
   焼酎を浴びるように飲んだ・・視界は回りっぱなし
   げぼ、う、げェぼ、体内の噎せるようなすげえにおい、
   最悪の口腔のにほひ、・・・でも、吐きながら笑ってた
  露悪的? いいじゃないか、お前等が封鎖したのは
  真実だ。どいつもこいつも虫が好かない! おまえ裏切り者
  人間だったらこんな仕打ちはしない
  このケダモノめ! バケモノめ! ・・・そうすると、奴等はひるむ。
名ざしをされることを、自尊心を抉られることを、
誰よりも恐れていた[愚か者め、・・・だから梗塞する]
  知っていた! ああ、知っていたとも!
  俺が四十度の高熱でボクシングをしていたこと!
  心の栓にはおのず限界がある。だから抱いたのさ、破滅的な願望を・・・!
  体感温度! 五十度、いや六十度になること!
  おまえは心底から怯えた、――知らなかった、真実が
 まさかこんなところに・・・そうさ、俺はそれを見ていたい
 お前たちがもがき苦しみながら異国の地で無縁仏になる日を
 ――自分の心臓を食べるような文化が存在し、背中に銃をつきつけられ、
 取り戻すのさ自由を! ・・・という男や女たちがいること
 いまだに動物に命を奪われる者がいること――
  この地球上でただひとつ真実があるとしたら、
  その真っ直ぐな眼しかない! 毎朝毎夜、掘り続ける穴はやめろ、
  お前を隠せない・・・嘘はつき続けられない
    でも、この世界は分たれた、列島も、ユーラシア大陸も、
    あらゆる国も、・・・ひとつひとつの皿のように
   豚め! 飾り棚に並べた! それで、観光して生き恥さらした
   化石だ! まるでコマの集合体している漫画みたいに通俗的だ
   時間なんか止まっちまえばいい、もっと、・・・捨て身でやったらいい
   俺ならブッ殺してやる! 眩暈が見る間に膨らんだ悪夢の正体を
 外聞を広めるとかいうきれいごとをヌカしやがった 日本人たち
 糞! まったくもって糞! ・・・違う、俺たちは外国人を痙攣させる
 電流で痺れさせる、そして視線で一発で虜にしちまう
 いいか、男! ズボンに膨らんだものは波打つ血の重みじゃない
 女! 蛇になれ、忌み嫌われるほど、魅力的であれ
  ポーカーフェイスどころか、ジャパーニーズ・スマイル
  糞! そんなの腹の足しにもなりゃしねえ。貪欲! ああ、上等!
  俺なら悩みを訴えに行く。スポットライトを浴びられリャア悪魔にだって、
  なるさ・・・蜂の巣にだって、手を突っ込むさ
  世界平和――愛の世界をつくりたい、・・いやつくってみせる拳一つで
  ――それができないなら原子爆弾は妥当・・。
いくら歌っても無駄! いくら愛を知っていても寥しすぎるじゃねえか!
もっと冒涜! もっと露骨! ・・・ケツの毛を引っこ抜くような、
もっと奴等を、――もっと奴等を奴隷のように扱ってみせてえじゃねえか
 でなけりゃ、何にも出来ねえ。この若さ、俺の額を焦がすだけ
 もし、・・・もし本当に心の底から言っているなら、
 何だって出来るよ――叶うよ、叶うはずさ、俺が証明してみせる
    ゴングが鳴った。その瞬間に猪のように突進してきた、
    三回戦ボクサー! カウンターには気をつけろ、
    というコーチの言葉など忘れて・・・、ちゃら男に
    挑んだ瞬間、ぽかり、と川崎が殴ると、ざわと空気が割れた。
    左目の瞼下に、ざっくりと、ふかい切れ込み。
    そして傾き。ねじれた、ありえないブランとした首
    開始直後30秒のありえない展開――
   彼はもう一度天井へグローブを高々と掲げる。
   ・・・もう一度、さらにもう一度
   さっきの夢は、――おれの負けた夢だったよ。
   アイ・ラブ・ユウ、悪いね、俺が強すぎるのさ
 時速300キロだって走れるはず! 嵐にだってなれるはず
 どんな孤独にだって負けないと言えるはず・・。
 そうさ・・・俺は奴等を黙らせた、そしてマットに沈めたのさ
   ――英雄はどこにいるか? ここか? ちがう、・・ちがう
   この世界中の誰もが雨上がりの空を見てた
   ひとりひとりが英雄! 将軍!
   そしてたった一人の味方。そして、そしてお前こそが戦場で
   ただ一人無条件降伏のかわりに、そっと命を差し出せる奴!
  死んだっていい――いつ殺されたっていい
  ただ、手を引けないほど、強く、・・・人を愛した!
  誇りにしていい! 胸を張っていい
  この世界でたった一人、俺の声に胸打たれていい
  地球上で俺一人いなくなる寂しさがわかるさ、百人の女が泣く
  ああ、それでみんな死んぢまう、スターさ・・・俺は虚飾のスターさ
    二度と会えなくてもいい、そっと息をひそめてた、
    最後の最後まで、その瞬間を その時間を
    惜しんでた そして、 そし て 、夢にまで見てた
    生きていた意味が
    きっと見つかるよ、ああ、死ねないよ
    それできっと、生まれてよかったって涙が出るよ
   ――それから、・・・それから? 
   此の地上から 、ひとつの影が消える
 そしてそれは鳥になって、大銀河へと飛んでいくのさ
 フェニックスのように、ながく なが く羽搏い て・・。
 さあ、お前の出番だ! ・・・おい、準備はできてるかい?
  永遠なんて何処吹く風――ブッ飛ばそうぜ 
  瞬間を切り取って うま く 
  貼り付けているうちがパッチワーク
   ああ あと どんくらいしたら 先 へ いける の !
   無意識にキョーハクされてる 60億分の物語
 まっ白いキャンパスに テンカウントされた俺がみえるぜ
 そしてflashbackで遠ざかる
 吐き気の止まない正論 が ゴングを なんど も 
 なんども鳴らす ぜ


© Rakuten Group, Inc.