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灯台

灯台

愛の讃歌

  はじめに






 めんたまのない さかなのことをかんがえていると

 この じだいのことが ちょっぴり わかったきがする


 僕等には記憶がある。それはいつも忘れられないところで引っ掛かって、誰の眼にいつで

も触れられる種類のものではなく、がらんとした天井に貼りついたポスターや、蜘蛛の巣の

ように、深夜の闇の中でおそるおそる僕だけを覗きこむ。そうして諦めたように、空想の終

結がおとずれて、しらずしらず僕はまた欲望の傀儡になる。おおくはそれが仮面であると知

っているのだが、きまったように影が浮かび上がってきて、僕を精神世界へつれこみ、かと

思えば僕をうしろめたい奈落の底へと突き落す。その匂いがやけに沁みてくるとき、僕は窓

の方へと眼をむけ、かたくなに拒みつづけた悪い暗示を受け容れる。そうして僕はもう咳と

骨だけになる。もうとりたてて快い感傷の発見はない。たとえるのなら、道端にすてられた

手袋の形象の下にエピソードのみが残っているとでもいうべきだろうか。ああ、僕等の記憶

は最初なにものも欲しはしなかったのに、いまはそのものを、いまはそれだけを、 ああ、刈

取ることのみに真面目そうな顔つきをする。根暗で、意味深で、また人生とはかくも驚くべ
             、、、、、、、、、
き哲学を持っている。僕等には記憶がある。そして、おお、僕には避けがたい人生というも

のが、かつてないほど、ふかい雪の底にだけ射す月のひかりのように思われる。そしそれ故
         、、、                            、、、、
に、僕の瞳はなが靴でありたいと思う。僕は眉をひそめ、眼をつむり、歩るくだろう。おおくの
、、、、、、、、、、、、
葬り去られた歴史のために。






  愛の賛歌






耳にてはかるに
       おとめ
女は夢見る少女
         ハート
―――はげしく心ゆさぶってほしい

            おろか
うたがうことも知らず癡に咲くほど

いたましき
どんらん      のび
貪婪きわまる身も暢やかに

いま、あなたへの誓いのことば・・・・・・


わたしがもし歌手だったとしたのなら

マイクスタンドのまえではばたきをしてみせるわ

そしてあなたという鳥かごで

毛づくろいをしているわたしを見て―――

愛しているの


―――そう 愛しているの

何度こうやって胸のうちに呟いてみたことでしょう

出逢う前からずっと そう ずっと

あなたを探し求めていた気がするの

ねえ だから人生って素敵だとわたしには思えるの

だって それは何なのって問い掛けてみた瞬間に

           よみがえ
あなたの顔がふっと甦生るから―――

鏡にむかって
              スカイ
またやってくるとこしへの空

        グレー ためいき
あおみがかった灰の大息が

ほんとうにはてしないほどひろがっていって

するっと視点をもどした瞬間に

いつも帯紐のようにしめつけられる


だから余命一日と宣告されてもわたしは

気丈に振る舞っていられる

だってあなたが傍にいて励ましてくれるんですもの
、、 、、、、、、、   だえき
ああ、いつもくちびる―――唾液だらしなく

こぼれていくほどの

かんのう
官能あまく感じさせて・・・・・・
          キャナリア
だから きっと 金糸雀も

ナイチンゲールもみずからはじらいをみせるわたしの声

神でさえもおもわず聞き惚れる天上の楽音
  しふく
その詩福を―――あなたに ささ げ る 

だから言ってみて!


―――そう 言ってみて

あの点描画のように精緻の星空だって 
                 つき
あまくみごとに熟れてゆく 蜜柑だって あなたの眼のまえで


こころゆくまでおどらせてみせる

あなたのように無邪気に澄んだ瞳のあおぞらだって
                まわ
地球儀のようにいきおいよく廻転してみせる

あなたがわたしを凝視めてさえいてくれれば・・・・・・


しろい花にそおっと

いろあざやかな蝶がとまる

そのせいなのか―――そのせいではないのか

胸がちくりといたむ
    おろか
なんて迂愚でこっけいな花


あなたへの想いがあふれすぎて
        まじ
いまとなっては蟲ぶかく 遣る瀬無いほどさかしまに
   あへん  じゃこう
酒や 阿片や 麝香さながらに
                にく
けれど あなたの体臭が ?が たましいのかをりが

とほくとほくおよばない
        かわき
わすれかけた渇望をおもいださせる


おおきめの鍋になみなみと
            あげ     ヘルプ・ミイ・プリーズ
牛乳がそそがれ 沸騰られ―――助けてください
ヘルプ・ミイ・プリーズ
助けてください!


どんなえがたい栄光も 徳も 
    まさ
あんたに優るものはない!
                  、、、、、、、、
だれだって口先でものを言う 恥ずかしげもなく
、、、、、、、、            ゲ・ン・メ・ツ
みじめったらしく また 相手に点数をつけて幻滅


おねがいよ、DARLING―――

そんな都合のいい人たちのお遊戯にだまされないで
                            グラス
わたしはあなたの血 たとえるのなら あなたの小酒盞

そうよ もっと 
、、、、、、、、、、、、
わたしをワインで酔わせて


骨に沁み込むほど、DARLING―――
         シャドウ
割れたガラスの影
                  、、、、、、、、、、、、
が みうごきできないように 一羽の鴉がその夜のなかで

ぬるみながら ひやっこくなりながら そう ぬくみながら

どんなふしぎな言葉をささやいてみせるでしょう
     ホワット・カインド・オヴ・ドリンクス・ドゥ・ユー・ハヴ?
―――どんな飲み物があるのかしら

さかり
発情期のついてしまった豚たちは
よくぼう
慾望をこころゆくまで勘違いすることでしょう

そう 人びとは ただ 安心する材料がほしいだけ・・・・・・


ただ だれかと同じであることに

下衆な ものほしげな どうしようもない心を充たすだけ

そんなくだらない人間にわたしの気持ちなどわかってほしくない

こころからそうおもうの―――

      あわれ
おのれの可哀さを覗きこむ勇気もないくそったれ共

そんな不細工な連中に あなたが取り込まれてしまわないか心配です

あなたは わたしにとってほんとうに特別なひと
                 あかし
掛け替えのない 生きている燈火をともしてくれるひと

あなたがいなければ! 


どんなにわたしの人生はつまらなかったことでしょう―――
           ふかみ
罪業のこのうえなき深淵で

わたしはあなたに巡り合った

だから わたしはわたしのことばに責任を持とうと思います

あなたに出逢うまで わたしは恐くてたまりませんでした

じぶんのことばに自信が持てなかったのです


―――でもいまは素直にこころをつたえられる

しずかにうごく浄ら
          なげき
なほたりなくなる歎聲

                      まっか
あなたの唐辛子のようにしげきてきな眞赤なくちびる

まるで嘘のつけない空のうつりかわり

あなたは屈託ないほほえみをうかべている

ただそれだけでいいの・・・・・・


・・・・・・ただ それだけで!

そこにあなたのやさしい手が添えられていたのなら
、、 、、、
ああ あたし

まどろみのなかへ

ふかくふかくしずんでゆく


わたしはなにもかもを棄てることができる

どうしてだいと と いたずらに問い掛けたいあなたが思い浮かぶわ

そうやっておからかいになられるのね

ああ ひめられた蜜のうみで

わなわなとやわらかくひらいていく蓮の花のなかで

わたしといういっぴきの蜘蛛が劇におぼれている

         キャラクター
―――だれもが登場人物

つかのまの立場を背負わされて

それでもいつしかほんとうの自分自身をみつける


きっとわかるはずよ、そうよ、わかるはず・・・・・・

吹雪きでさえも聖者の行進のようにみえ
              まいおり
嵐のただ中でも天使が降臨りたかのような

画家のインスピレーション

                 なみだ
土砂崩れもあたたかい大地の涕のようにみえ

ふしぎな残像というものが

歎賞の声をあげている
、、 、、、
おお なんの―――
         ひだひだ
なんのてひどい襞々にいいくるめられることがあるでしょう

         とろ
あらゆるものが恍惚けていくのをしったとき
              ふぬ   てい
骨抜きにされることも 腑抜けの態になってしまうことも

いまでは ちっとも抵抗がない

自分自身を微塵にうち砕く

烈しい存在へのあこがれが
コンマ
句点のごとく


そう 蟻のごとく

彫針のごとく

あたしの足もとからのぼってゆく


―――あなたの甘美なほほ笑みのまえで
           いそぎんちゃく
秘密がほとばしむる磯巾着の想いにゆらゆらとゆられて

わたしはこころの眼を感じるでしょう

そして神の声に耳をかたむ け る


それがこそばゆくあたしの髪にふれ

耳にゆがんだ吐息が―――沙漠のこえのように

ゆっくりと吹きぬけてゆく
            、、 、、 、 、、、、、、、
だれもが旅びと! なぜ なぜ と うなだれながら

時間をわすれた


かなしみが襲った―――
              リバー
墓場 が 労働者 が 河 が ゆたかな自然あふれる森 が

大陸の亀裂 が 宇宙の頭脳 が 鼓動する心臓 が

いくさのなかでも尽きることない歌 が ブラックジョーク が

いとおしい歓喜 が 

霊によって解き明かされるべき神秘の運動 が


わたしたちのそばで鳴り響いている・・・・・・

ああ だから うたえ る の うたえ る の

よ あなた ! 運命よ わたし は あなたのものではない


だれ が それを 決めた という の

おお だれ が 神さま の おくりもの だ と

わたし は あこが れ と

なまみ の からだ あず け て―――

    、、、、、、、、、、、、、、、、
―――あなたとのつよい結びつきを感じる

もっと よ そう もっ と 

も っ と つよ く

こころ を ゆさぶっ て ほし い

あなた への ときめ き で

      なや
わたしは納屋や

水車や舟のところへゆく

もじゃもじゃした印象のしわがれ声のところへゆく

あなたへの愛を さが し て わたし は 旅立つ

求めるでもなく―――さそわれるでもなく

雪の瓦のように ひと日がふりまいていった

せいひつ
静謐のうちへゆく

そうわたしは雲へ
        のすえ
ぬれかえった野末のところへゆく


わたしは永遠のいのちのところへとゆく
             
やがて潮のかおりが燻すぶる

澄みわたる空想の

はなやかな そう はなやかな夢のところへゆく

しょよくない
諸慾内にみつることをしらる

あやまちのともしのところへとゆく

たえず湧きたっては崩れさる熱き血汐のところへゆく
       あだばな
うつくしい徒花をさかしむる

わたしたちの楽園へとゆく


だからいつぞやあなたが言ったように

こう呟いて欲しいのです

あの時みたいに すこし はにかみながら

エベレストの万年雪にうつくしいまぼろしの花が咲くように

「絵を ごら ん そ う 絵 を ごらん―――

ほんとうのものは何一つ見え な いん だ か ら」と


だから窓の椅子や うぶ毛や たえまない幻想の
はなわ
花環をかんじさせてください

まっしろな音楽をなりひびかせていてください


いつまでもあなたのままでいてくれた の な ら

ほかの だれ でも な い あな た に

いまも 振り向い て ほし く な っ て

あたし は 精いっぱい の 笑顔 を つくりま す か ら

、、、、、 、 、、、
かわらない で あなた―――

いつ ま で も そう いつまで も 

わたし の すべ て で ありつづ け て くださ い

そうし たら 手れん手くだ なん て つかわ な い
              カーペット
あなた へ の 愛 は 敷物 のよう に 降り敷く か ら


膝 を くずし て ごろり と ねころべます

いま も あなた と ふたりきり !

魚のにぎわしさのように 光をなめている

森林のように いま も いま も

あま く こぼれ おち る 情趣 を だきしめて いま す

うたかた のように きえない ほんとうに美しい あ な た


だから あな た 死なない で―――

わたし どうやって 生きて いけば いいのかわからない の

だから立ち去る時はせめてお互い元気でいようね


やめて そん な ことばを 言わない で―――

こわい わ あな た が 悟りきっ て いる あな た が

わたしの すべ て が なくなって しまう なん て

だから立ち去る時はせめてお互い元気でいようね

アイム・ノット・フィーリング・ウェル
気分がよくないの

ああ 昨日まで の 何もしらない顔をしていられた

能天気なわたしがなつかしい―――ただ ただ 傍にいられるだけで
             しあわせ
死ぬま で こん な 幸福 が つづくと信じていた わたし が

そう すなおに信じていられた わた し が なつか し い

アイム・ヴェリ・スィック
ひどく具合がわるくて

あわれ み と めぐみ が 織り成して い る

いとしく て ふしぎ と せつない 気持ちの とこ ろ

だか ら わたし には 感じられ た !

今日と い う いち日は もう 二度 と おとずれな い
         いのち   ともし
たとえ この 生命 の 蝋燭 が つけたされたと し て も

   アイ・キャント・ムーヴ・マイ・セルフ
ああ ひとりでは動けない

つつまれるべきはてしないほめ言の音楽が
               わな            さんか
いまはおそろしい怒りの陥穽におもえる愛の讃歌―――


死をよびもとめている
いにしえ
古代のなやめる魂のかわきよ
      いき
わたしの気息がつづかない
    ゆるがせ
けして 忽にしているわけでもないというのに

     いき
ああ 気息がつづかない
                 こばみ
つづかないのだ! おまえの拒絶はつねにみちている

あな た は ふか い ゆめを みている の に

わたし の 声 は 悲歎 に くれ て
          ぬれば
やわら か い 濡葉のしたをこごみがちに迷っている水蒸気

ひかり
光明のごとく

はた叉―――歌のごとくに

愛がこわれるとき ほほえむとき

したしみのある自然のすがたで 

かなしいことは渦のように

無数の鉄鎚のひびきをきかせ


そのいち撃いち撃が

こだまや波紋となって 

おのが身につけたものとして


いだいなる大気の循環となって

おおきなひとつの混淆とした

歌となってゆく・・・・・・

そ れ は ゆらゆら と さまよいな が ら


けはいなくたがいの上に

そっと触れあう! 息もたえだえに
くい いやし かすか
悔なく癒なく幽に 

しとやかにつつしみぶかく美妙で

いまも嘘のよう ! あなた が 死んで しまったなん て

、、 、、、、、、、、、、、、、、、、
おお、こんな悲劇などわすれてしまいたい―――

涙が滝のように 秘密の小道のように

地平線のうえにかかった虹や おびただしい星のように
ねりこ
粘粉のように むざんな無限のなかを
      くるいもの
あわれな狂者としてすごしています ! ああ なに も

かわらない の に あな た だけ が いな い

、、 、、、、、、、、、、
おお、気が狂うほどさみしい―――

磁石のように やおら視線をふりむけて

さながら 鉄のにおいを嗅ぐよう

、、 、、、、、、、、、、
おお、だから昇らねばならぬ―――

彼のもとへゆかねばならぬ ! ひしゃげ る

わけに は ゆかな い ゆがめ る わけに も いか ない

むいしき に ふしぎ に あなた を おも いま す


雲にかさなり
こめかみ
顳?はなり

あたりはくらくなる! とうめいな糊の

ねん液が ねたりと歯をみがくように

球根はそらと大地の掛け合いをしる

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
わたしたちは歎きの霧にいたのかもしれない

わたしはひらかれた腕のほうへゆく
ほこり                 はばかり
矜も飾りもすててゆく! ただ遠慮なく

不死の命を汲むところへゆく まされる魂のところへゆく

ゆかねばならぬ そ う あなた の ところ へ―――

あなた との 想い出 が 


やさしい すがた に かえられ る―――

頭飾 も 指輪 も 腕輪 も そ し て
、、、、、、、、、、、、、
われた壜とこぼれおちる香水 ! 人間 の たまし い


と 虫 の たまし い と が かさな り あ う

わたし の から だ ほん と う の から だ

うちゅう を しって い る わたし の たまし い

しかしいまは鉛のように重い―――


たそがれに胸撃たれたようなかなしみがおそう
                        そうりん
まだ灯のともらぬ赤い印象は 耳のない叢林

その毛髪の呼吸は 

愛の眼附きによって彩られているのに

     アーチ
それは穹?なのに―――
                 いみ    アクセ
だれしもが感ずることのできる妙じき附属物なのに
     あいよく                         こうしん
発作的な愛慾 のま え で 信仰への無秩序な亢進の まえ で
             
なにかを抑えつけ打ち克とうとする野蛮な知 が

脈拍・幻想・棘 が そしてふれられぬ ゆ え


乞い求む る 天使の影 が
のど
咽喉をかき切っ た よう に あか く あかく そま る
                           いましめ
水はながれていた―――あかき血のように 戒律のように
       しの
心ゆくまで偲び歌がながれていた 

わがみしことを刻める記憶がながれていた

ふかいな蔓があった 緊張のたばねがあった
    ほ     ほ
そして頌めても頌めきれぬ恋があった






  ゆううつな食卓





トメート
蕃茄はとけちまいたいのだ

焼け爛れているうちに


 吐 く! 吐 き そ う !!

 吐 く ! 吐 き そう !!



花 ふるへて 歯 は ぬいて
たね
種子 おとして―――


紙きれが緑にみえ

そのはなふぶきは

            クエス
粘土 こさえ ド は 疑問符
いい
飯 しめってくる―――


 吐 く ! 吐 き そ う !!

 吐 く ! 吐 き そ う !!



そしてここにさびしい声をあげ

豊穣肥沃の大地へたおれかかる

     トメント
ああ 蕃茄 きみ は まさし

く 充血 の 壺―――


 吐 く ! 吐 き そ う !!

 吐 く ! 吐 き そ う !!


、、、、、、  かお
じゆくじゆくした表情とうらはらに
       びくしょう
涙ぐましい微苦笑

          れんびん
たちまちにして 憐憫をあたうるひと

日ごとなにげなく見ている―――






  いま あぶなっかしい





              つづら
蔵の中に家系図をいれた葛籠があった

しろい漆喰の壁で仕上げられ

黴くさい臭いがぷわンとしていた

紋付き袴の男がていねいな手付きでとりだし

生没年や最高官位などがしるされた樹形図をみていた

ここには路頭に迷った鼠もいる

かと思えばのんびりとした羊もいる

眉を雷にした男はそれを紐で縛ると

ふりし桐箪笥のなかへとしまった

やがて数十年後そこにショーケースにいれられた
                 はこ
市松人形がどこからともなく運搬ばれてきた

彼女はすでに家紋がいれられた

家系図のことをよく知っていた


―――天使とて跡形もなく

カンカンと釘を叩くような下駄の音がきこえてくる

それは一年の終わりをつげる除夜の鐘のように

時代をひとつしらせる鐘の音だ
         あるじ     かたちづく
それがじぶんの主人の運命を形作るうえで

おろそかにできない健康診断書であることを知っていた

そしてどこかしらだんまりする百薬の長であり

なによりの処方箋であることを知っていた

「わたしたちは思う以上に多くの顔をもっていて、

わかりません・・・ええ、わかりません・・・・・・

ちょうど手のようにしわになったり、

手袋のように広がったり、

軍手のようにほつれたりする。

         しゅじん
めがねをかけた主人はあの紋付き袴の男に

ふしぎなほど酷似していた

そしてこの主人は少年時代に野球のボールをいれたこと

また それで父親にこっぴどく叱られたことを覚えている

つぎに真夜中にふっと眼ざめてトイレに行ったとき

蔵の窓が開け放たれて

そこからひとりの男がじぶんを覗いているような気がした

昼となく夜となく彼はそこで監視カメラのように
                  みつ
たとえば死神のようにじぶんを凝視めている気がした

それが強迫観念であるとわかるまでは

そのえたいのしれない異界感覚におおごえで叫んだり

その都度ひとを呼んだりした

もうあそこを見るなといわれるまで臆病ものといわれた


たとえばそこはすばらしく莫大な生産量をほこる工場のように

ただゆたかに さらには不注意を起動しながら

無関心の詳細を誘致しながら

わたしたちの個々はますますめずらしい仕掛け装置でもって

致命的な病気になります

こういう縺れにまきこまれまい
                             けいし
いやこれを契機に こんにちもなお辛うじて認めた形姿を

われらの内部に維持することに努めようとする

ああ それはたしかにひとつの偏執狂的壁だ

そしてそれはイメージを巡る深淵だ

ぺらぺらとしっきりなしにしゃべりつづける染みや模様は

いまだに抽象的理解から脱出することはできない

ああ ゆえにそこに暗示があたえられなければいけない

ほくろ まゆ ひとみ
黶に眉に眸のうごきにまで 
コピー
生き写しらしい様子で

またあの家系図をじっくりと押し戴くように眺めている

さながら手じなでもやるように

これだから人生というのはわからない!

胡桃のなかから蟹がでてくるように

そこには いま 絵巻がとくと仕上げをごろうじろとばかり

ずうンとはいっている

そこに描かれているのはもちろん紋付き袴の男だ

ふたりは互いをじっくりと数秒間みつめあい

やがて溶けあうようにひとつになる

ふしぎなことは本当にある―――そし て そし て

ふしぎなことはふるいものに宿る







  うまれてきてよかった 

   ~スピリチュアル・ヒーリング~







こころの窓は建てつけがわるいから

カーテンだけでいいやっておもう

あけたって締め方がわからないのに

なんのための

採光なんだろうね

換気をおろそかにして


でもいま“こころの声”をつたえるね

涙こぼしてもいいよ


だからいま“やさしい声”でつたえるね

きみの笑顔 うむ よ


なにもいわなくていいからね

疲れているのに

ごめんよ

でも気のせいかなあ 

いつも優しくしてあげるなんて

いった誰かのことをきみはいつも信じている


けんもほろろにあしらわれ

オロナインを塗ったりする

絆創膏や

バファリンなんかも

いっぽいっぽ毎日がすぎていく

さみしい想いや 酸っぱい想いと共に


でもいま“こころの声”をつたえるね

なやまないでおくれ


だからいま“やさしい声”でつたえるね

きみは ただ し い


あの人はいつもなんであんなに

くるしそうなんだろうって

思っていたのに

どれだけ青汁のんだかわからないのになあ

ゴキブリをむしゃむしゃ

食べてきたのかわからないのになあ


すべてをやさしく

すっぽりと包み込む
マザー
母になろうとしていた

きみの海のように打ち寄せるやさしさに

泥棒という闖入者が

土足でずかずか這入りこむ


でもいま“こころの声”をつたえるね

昆虫や動物なんだよ


だからいま“やさしい声”でつたえるね

きみは星や月の あか り 

     、、、、
ぼくらのいいことなんて限りがあるんだけどなあ

なやみごとの相談をしたって

すぐに依存がはじまるんだけどね

それでもこころに嘘はつけないよ
サウダージ
想いあふれて

独り言がおおくなるから


家事なんてしたくないよね

もっと尊重されたいよね

いつもすばらしい人間でいたいよね

ああ そのうえをふみこえてゆく宿命的な誘惑

いましめはいつもある

わざわいが消えないかぎりは


でもいま“こころの声”をつたえるね

両手いっぱいの花をあげる


だからいま“やさしい声”でつたえるね

いつくしむ君を しんじ る と


そんな風に地図をえがいていられたらいいなあ

碑や塚がなくなって

緊張や不安がなくなって

いつかこころというものに

メスがいれられて

そこ知れぬ発散がおこなわれたのなら


ああ だれとでも手をつなげるよ

犯罪のないまちになるね

横断歩道をわたって手をあげるんだ

旗ふりのひとに

にこにこの小学生に
    のど 
腹から咽喉へむけてあいさつをおくり出す


でもいま“こころの声”をつたえるね

ぼくらは無駄を省くということばかりにご執心


だからいま“やさしい声”でつたえるね

こんな世界でごめ ん よ


自己啓発セミナーに

スピリチュアリティー

ああそれはキャベツ的装飾人種のことだけど

どいつもこいつも差別さ

霊感商法の仕組みさ

でも一握りの人間をみんなしんじてる


ぼくも きみも

そしてみんながそうであったら

この世界はどんなにうつくしいだろうか

もっと造作なく

きまりがわるくなることもなく

みんなを癒せたらいいなあ


でもいま“こころの声”をつたえるね

やさしいなんていわないで


だからいま“やさしい声”でつたえるね

ぼくの心とて みに く い


だれだってすぐに赤い顔をして

ほんとうの愛について語るのをためらうのになあ
           くちさき
それはちょうど鳥の嘴先のように

ささいな奇跡が

あの花瓶に活けられた花の名にも 
、、、、、
もえている


分け隔てなくいられたらいいんだけどなあ

これまたどうしたかってことで

すこしずつまた悲しくなるよ

どうかなっちゃうよ

わだかまりがあることが
         
しとどの草の露をかわかせる


でもいま“こころの声”をつたえるね

たとえ裏切られても


だからいま“やさしい声”でつたえるね

愛さずにはいら れ な い


ひかりの服の漠然としたうごき

におやかな沈黙

それはみんながしっている

ゆるやかな愛撫
、、、、、、、、、、、、、、、
わかりやすさと美しさと面白さと

そして意識のながれ


かんじることをおそれないで

きくことをわすれないで

あなたがあたえてくれた勇気

きみがしっている友情

そして理想と良心にはさまれた

ひじょうにやわらかい怠惰な富たち


でもいま“こころの声”でつたえるね

うれしいから


だからいま“やさしい声”でつたえるね

ねがうことは すばら し い


でも しんじておくれ

きみには余計なお節介をやいてくれる人がいて

競うことから逃れることができるって

電車にのりこんで席はなくなってもいいじゃないか

やさしさはいつかかえってくる

たとえどんなに長い冬がつづいても


ぼくらの春はやってくる
      
そしたら歩るこうね

車いすのひとも押してあげるからね

松葉づえのひとには肩をかすよ
          
ゆっくりこの道を行こうね

痛みはいつか救われるから


でもいま“こころの声”でつたえるね

偽善者とののしってくれ


だからいま“やさしい声”でつたえるね

きみがぼくの瞳を みれ ば いい


信じて裏切られたというくらいなら

勝手にひがんでりゃいい

もろもろの民すべてに怒りをはらんでいた神よ

おまえの試練をかんじるほどに

ぼくはこだわりをすてる

そしておまえの望むとおりに生きさせられる


毎日が地獄のようだったからわかるんだ

うらみやかなしみは本ものだって

欲望や劣等感でさえ

はじらいと怒りのハモニカだって!

ああ 涙だけが知っている
、、、、、、、、、、、、、
非情の大河をおりゆくほどに


でもいま“こころの声”でつたえるね

絶望はないんだって


だからいま“やさしい声”でつたえるね
      いのち        うた
ほんとうに生命あるための詩を 


でも ねむっていいからね

無理してほほ笑まなくていいからね

いたいたしくて

ぼくも苦しくなるよ

ただ 傍にいて 

ゆっくりと休んでおくれ

     おうはさみぶんてん
日焼けした斑点

たいくつや短気

ぼくらは美と冒険をもとめて街にくりだす
    メトロ
そう地下鉄にのって

うみがもらしそうなときの聖なる身震いに

錬金術や 動物的呼吸を


でもいま“こころの声”をつたえるね
        ポンプ
それは井戸の喞筒です


だからいま“やさしい声”でつたえるね
           、、、
滔滔とした大河のがなりを


時間が気になるから

時計なんて止めてしまおう

起こしてあげるね

でも優しくされたからって

お返ししなくていいよ

ぼくらはいつも平等だから


でも消せない! しわの異様につん裂く叫びを

また饐えたにおいのする路地裏を

黴のはえた生ものを

錆びきった鉄を

興奮が そう ごう慢をうみ

共感 が 恐怖をうむ


でもいま“こころの声”をつたえるね
        しずか
動きに対して粛であるということを


だからいま“やさしい声”でつたえるね

かぎりなくこまやかな配慮の手を


放っておかれているなんて思わないで

まやかしだなんて

おもわないでおくれ

ぼくらには廊下がある

階段もある

そして扉があるよ


暖簾をくぐって

こっちへおいでよ

おいしいご飯を用意して

せめて 一ぱいの珈琲の間だけ

やさしく微笑むね

もう泣いたりしなくていいよ


でもいま“こころの声”をつたえるね

なみだはみずいろの奥秘だと


だからいま“やさしい声”でつたえるね

すべてをおしつらぬく瞳のくちづけだと―――


ぼくは万人にふりそそぐ愛よりも

擁護する側にまわりたい

だから自然からあたえられたものをしんじて

いまはきみをまもりたい

子育てをするように

自己犠牲的な感情にならないように


親切をするのに恥なんかないよ
       マリア
こぼれおつ聖母像のまばゆきみあし

いくつかのさわやかな場面

義務をこえてつぶやくよ

ぼくはきみに

頑張れなんて言いたくない


でもいま“こころの声”をつたえるね

涙こぼしてもいいよ


だからいま“こころの声”をつたえるね

たまには空を見ておくれ


こころの窓は建てつけがわるいから

カーテンだけでいいやっておもう

あけたって締め方がわからないのに

なんのための

採光なんだろうね

換気をおろそかにして


でもいま“こころの声”をつたえるね

涙こぼしてもいいよ


だからいま“やさしい声”でつたえるね

雲がながれる あい だ に―――






  お母さんは家から出て行った  ~屈折少年の一部始終~




お母さんはどこに行ったの?

センチメンタル・シティに

   がんぐ
こわれ玩具のようなおのが名
               ならわし
学び覚えたばかりの世の慣習

          ひとみ
お母さんはあをい明眸した魚?

粉末のような電化製品のうろこ


たとえば何処へ行くのあの日

ふくよかでけむくじゃらな奉仕

      のぞみ
お母さんは希望多きさまざまの物?

いまも死という名の乳房のあてがい


たとえばエレクトリック・サーカス

賢明なドーム型のけだるげな発想


お母さんを愛しているかい?

抱上げられた時にわき出づる泉のふしぎ

おき
燠の魔法使いのような母なる胎内で

ひと目をさけた宝石に心うば わ れ


お母さんはどこに行ったの?

まよなかの森のひとつのつぼみの即興詩


だから お母さんは 知ら な い

遺書という名のラップ・ミュージック


さようなら どんよりとした日曜礼拝

詠み人知らずのうら庭ストリップ






  あしの妄想






あしが一本おおくはえてしまったのです

さん本ならまあいいやと思ったのもつかの間で

もう一本ぐにょぐにょはえてきたのです

こういうことになると五本だか六本になって

たこやむかでにならない保証はない

もしかしたら病院の屋上のシーツみたいに

あしがゆらゆらするかもしれない

こんな風鈴いったい誰が欲しい?


でもみんなわりとノーテンキで

マネキンのだとか

接ぎ木のようだとおもって気にせず

気がつくとなん百本になってようやく

それもしかしてモノ本なのかいと

駄ジャレまじりにいってきたのが最初だった

あしなんてありすぎるもんじゃない

くつがたくさんいるしさ


バザーだかバーゲンだかの常連になる

おれはオバさんじゃない

そりゃ手のような訓練をつめばたしょうは

楽ちんになるところもあるけど

千足観音なんてただ気持ちわるいだけ

ヨガきわめたってそれは無理だよ

あしがおおくなってからというもの

ぼくは本当に温泉がすきになった


だれだって足がうにょうにょしたら

温泉めぐりする

みず虫のひとだってぼくの気持ちわかるよ

おっぱいのおおきなひとだって

ちょっとくらいエロい眼でみられたからって

わざわざ気にしちゃいけない

たまたまはきわすれて

すのあしをみられるってのはそれいじょうだ


ほんとうに肩が凝る想いがする

ああ きみも足を花のようにさかしてみたまえ

ちる花はうつくしくて

うんざりしないほどの聡明な夜におもえるから

ああ あしがはえてくるってのはね

そうぞう以上に心をむしばむ

かびた廊下の豆電球が舌をだしたって
         からだ
半透体にすけた躰でうらめしやしたって

         こわ
そんなの別だん怖かあない

だってそれはちゃんといるじゃないか

そしてものの道理がわかるじゃないか

わからんってことはこわすぎる

そんなのヨガったってこわい

かなしいのはあしをはやしてからというもの

雨というのがすこぶる憎らしくなったこと

水たまりのぱちゃんという音が


ばじゃばじゃという大騒音になって

いったい誰がうれしいっていうんだい?

そんなのが好きなのは

ロック歌手志望のいかれ野郎だけさ

くるくる宙で人工衛星しているあしは

観覧車のようにいち日のおわりにおちてくる

せめて思うのは

長さがまちまちだっていうことだね

         ステッキ
落ち葉をちょうど杖にかんじたりするくらいの

どうしようもない誤差があるのさ

福岡のひとだってヨガっていわないさ

ああ あしはどれだけ生えてくるんだろう

やがてあしはぼくのからだじゅうをうめつくし

眼から 鼻から ぴゅぽんぴゅぽんとびだして

ついには“あしにんげん”のおめみえだ

もうまともには歩けない


あしだけによっしゃあなんて駄ジャレはいえない

家にこもってるだけでうんざりする

けれどあしは克服へむかって進む

進化のれきしをしるすのはなにか知っているかい?

ああ それはね足跡ってやつさ

あしがおおくあればあるほど

手形なんかにゃ詐欺さ

あこがれという垢だけだとしる


ぼくは“あしがみさま”になって

むごたらしいほどけがれた悪臭をてぬぐいで

ふきふきしてくれる信者たち

みんなぼくのあしにくちづけをしてくれる

こんなにうつくしくとうといものはないという
おちど  いのち
虧處なき生命をわびながら

一切の迷ひに勝つ信仰にかたく立つ“あしがみさま”

あしに香水までかけてくれる信者たち


そんな日々がつづいてうけいれた

常識にとらわれているかぎり

この奇妙な病気をゆるすことはできないと

ぼくはとうとういち大決心をして

病院へといって

この謎をときあかしてもらえるようにたのんだ

だがそこへ信者たちが

どたどたと水たまりのあの音さながらに


おえらい医者の先生に殴り込み

ぼこすか うりゃうりゃやった

なにしてるんだ“あしがみさま”に!

みんなはぼくのことをそんなにあいしているのか

と かんちがいするほど子供ではない

かれらはぼくを利用していた

いわばキャッシュ・カードだった

ぼくは返済無用のあわれみぶかいすくいの象徴


そうして“あしがみさま”たるぼくは
      みこし
みんなに神輿のように担ぎあげられて

いつまでも うにょうにょ抵抗をこころみる

しかしだれも蛇だとはいわず

いくら顔を蹴っても

手足をやられて誰かが脱落しても

すぐに誰かの手がそえられた

その足と手は無限に増え続けることだろう


たとえぼくが蜘蛛のように逃げたとしても

救ひを失へるほかに罪をしらないというかれらは

まさしく死に物狂いでさがす

ぼくのあしは日ごとにきれいになっていき

いのちのしきいというのをこえて
         ふかいところ
あをざめるような深處をかんじるようになった

そのあしは“この世”と“あの世”をしる

そのためにぼくは磨かれねばならなかった


そう なにかをてにいれるがために

ぼくはさまざまの“あし”をてにいれた

それはもう土を踏むためのものではない
    こんくりーと
しかも混凝土さえしらない

もう未来も過去もない

そう ぼくはひとつだけの“あし”になる

むすうたいすうという“あし”へ

いまもふえつづけながら





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