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灯台

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2014年12月19日
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by norio.takahashi






 気持ち悪いなまぬるい風が長いこと吹いた夜に、

 わたしは、ふと思い当った――・・。


 ディージディーズィー・・・。


 <呼んでる。


 夜明けを忘れた死に果てた星の観測。宇宙利用の拡大。

 遠い昔の開拓に濁ったヴェールをかけながら、

 発作的にうなずきおののく、

 あたらしい生物を見守る根気のいる作業。

 地殻変動を一センチメートル程度の精度で面的かつ稠密に監視する。


 沙漠よりもっと無限の広い海に出たような、愛と沈黙、

 てのひらの中心がくぼんでるような、

 たった一瞬でおとずれた核の夜を越えて、

 数百年の時の経過という戯れを受けた都市に――。


 「人が死にすぎたんだ。

 凍った地べたに、

 さらさらした粉雪が降った。」


 ――

 
 ディージディーズィー・・・。


 <呼んでる。


 ぐしゃ――っつ、とのめりこんだ、

 彩り鮮やかなブロックは、恒星の瞬き、

 やがて来る、切尖のするどいもの、噴火。爆発。

 いびつな格好に積み上げている破壊の痕跡。

 底へと積もる天の脂肉の狂える軌跡。


 あの蜜雲に閉ざされた暗い空は、

 細かく刻みこまれている無数の皺は、

 いつこの星に太陽を見せてくれるのだろう、

 苦痛に身をよじっているように見える都市の残骸は、

 溢れるような絵の具を水に溶いて、

 冷凍庫でシャーベットにしてしまった。

 
 ディージディーズィー・・・。


 <呼んでる。


 ......高度なパーソナル・ナビゲーション。

 (あるいは、その外縁をとりまいて散在するマイナスの思念。


 「あちこちに眺められたよ――・・

 思うがままに積み上げて、僕等は凍っちゃった。」


 「氷っちゃったのね・・・」


 湾曲する渚の白さをはるか越えて、

 静かな森の中で立ち止まったまま時間が何十年もさかのぼった出来事を、

 眺めていた、引き攣ったような顔を浮かべて。

 蝶番がきしりながらひらいてゆく――。

 天井から剥がれ落ちる石膏のように、灰いろに、

 さながら途方もない大火を鎮火するための自然のシステムのように、

 瞑想のさなかにふと垣間見た深海だけが、

 黒い蒸気のような亡霊の町並みを作ってゆく。


 (どうでしょう、昔の人が見たら、

 世界はこんなにも大きく移動したのと、

 泣くかしら?


 
 「月が見える場所に、

 たくさんの嘘がこんなにも増えてしまった。

 でも、月はもう見えない。われわれは、ツキに、見放されたんだ、

 わかるだろ、目に見えて日ごとに大きくなってゆく不安・・。」


 「神々の不信がそうさせたのよ。」


 鼻が冷たくて、

 唇に何枚もの薄紙をあてられるのがわたしは嫌で、

 こわごわと音を立てながらコートに唇を寄せる。

 すると、彼が、やさしく夢見るような瞳で、わたしを見た。


 (水底に堆積する永劫の夢の間という囚われの空間を泳ぐ、

 君は、抑鬱を引き裂いて脱出するイメージだ。


 
 ――人類に残されたフロンティアである宇宙空間は、

 人類の知的資産の蓄積、活動領域の拡大に加え、

 宇宙空間のエネルギーの新たな利用を可能にした。


 タイムマシン、ワープ航行、

 植物をたった一日で芽から果実へと生育させる薬に、

 食料供給の円滑化、資源・エネルギー供給の円滑化、

 さらに高度な人類との接触――。

 
 「汽車が走っているみたいだ。」

 
 「あなたは映画好きよ。」


 彼は、銀色の頂にいる女神を認め、

 その頭上にけして消えてなくなることのない外殻である、

 巨大な真珠貝を、あえかなる夢と思いつつ、

 蛾の羽根のようなあおざめた光の死にゆくさまを、

 見つめた。


 「美しき幻の扉・・・ふるえる夜の磁界が裂かれ、

 網膜からすばやく切り抜かれてゆく――。」

 
 ひくい唸るような大音声、その昔、

 木枯らしと呼ばれた現象が聞こえた後、

 どうしてか、わたしの耳に、

 長いこと断末魔の叫び声が聞こえた。


 まだまだ小さな音だけど宇宙の君に伝えよう、

 生あるものだけが持っている不思議な重力の秘密。

 シンプルだけど哲学的で物を探す道理。

 ざわざわとざわめきながら、一日が途切れ途切れに、それぞれ、

 回っている、裂け目も、消えてゆくことも、

 思い出すこともできて――・・。


 ディージディーズィー・・・。


 <呼んでる。









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最終更新日  2014年12月19日 23時22分59秒



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