1979449 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

灯台

灯台

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2015年02月17日
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類

 賢者エンツィアーンは一同を前にして言った。

 彼は集団テレポーテーションとでもいうべき魔法を使って、静かな屋内施設へと来ていた。

 夜の墓地のような場所、とモームは分析した。静かな水の流れが、

 水中に差し込む太陽の光に照らされて、はっきりと見えるように。

 「―――すごい。」

 眼前には、城のトレーニング設備さながらの顔があった。威嚇する、鋼鉄。

 エンツィアーンの考えを聞いたわけではないにせよ、城で想像した通り、

 そこまで、厳しくはないようだ。最良の選択である。

 そこには、矢の修行のできそうな的あてが見えた。

 斧もあった。魔法陣のようなものも見えた。というより、さまざまな武器があり、

 黙々とした修業風景を思わせる静かに打ち込める環境がそこにはあった。

 巨大な時計が無数の歯車で絶妙に噛み合って動いているように新しい秩序を感じた。

 「ここは・・・東のはずれにあるわたしの自宅だ――。こんなこともあろうかと、

 前に、用意しておいたのだ。是非とも用立ててくれ。」

 それと、だ、と前置きが入った。 
 
 「諸君らは、選ばれた優秀な兵である。そのことを忘れず、今回の修行にあたってほしい。

 厳しいことはいろいろあると思うが、我慢して耐えてくれ。耐えられるな?」

 「はい。」と、一同声をそろえた。

 「よろしい、ではスティーニ―君とドヘロ君は、これで矢の練習を。」

 目の前に、鉄で出来た矢が置かれた。どっしりとして重く、持てない。

 急に打って変って、いかさま、慮りの奥底までゆくような気分になった。

 「あの、賢者エンツィアーン――、いえ・・・エンツィアーン先生・・・、」

 と、しどろもどろになったスティーニー。

 森のうす暗い湖のように、しずかな眼をしていた。

 なんとはなしに、深海魚を想像した。

 「簡単だよ。君はもう契約が済んだんだ。適正の石から教わればいい。

 潜在能力を引き出しながらね。前にやった時みたいに、その声に従えばいい。」

 それを聞いて、少し安心したドヘロが、自分が、と言った。

 鉄で出来た矢を持ち、声に従った。鉄で出来た矢だったが、重さをちっとも感じなかった。

 遠くに見える的は黙ってそこに開かれている何重もの円形だった。

 的を狙って構えた。びしゅ――っつ・・・と射る。

 ずどん、と真ん中の的に命中した。でも的は壊れない。おそらくもっと硬いものなのだろう。

 (おー、やるじゃないか、ドヘロ。)とスティーニーと思った次の瞬間、

 「ドヘロ、貴様、なんでこんな的くらいブチぬけない!」

 と、いきなりキレだす賢者エンツィアーン。

 ええええ――っ・・・なに、スパルタなの、やっぱり、と一同思った。

 うおりゃあ、とばかりにドヘロの背中に杖が襲った。

 あうっ、と不意をつかれたドヘロ、膝を落とした。しかも、ばっちり、暴力あり。

 「ぬるい! ぬるすぎる! ここが闇の谷だったらどうする。

 死だぞ。命がけで射れば、あんな的、粉々になる。対応する処理演算は、

 将来実行しようとするものであり、ストリーム部分はバッファ内で具現化されない。」

 ああ、あれ、粉々にするための的だったんだ、と一同ようやく気付いた。

 ギロリ、と血走った眼で、スティーニーを見る賢者エンツィアーン。

 しかも、後半何を言っているのかわからなかった。おそろしく頭がいいのだ。

 能無しが嫌いなのだ。言って出来ない奴は殺したって全然構わないと思ってる。

 「やれ。」
  
 「命がけでやります。」

 声に耳を澄ませ、全身全霊をかたむけて、射る。集中する。神経をこれでもかこれでもか、

 と、研ぎ澄ませる。ずぶしゅ――っつ・・・と鉄の塊が飛んで行った。

 すると、的は見事に粉々に打ち砕けた。

 「やった・・、ああ、やったぞ!」

 「そうだぞ、えらいな、スティーニー君。」

 と、賢者エンツィアーンは手放しに褒めた。飴と鞭の使い分け。

 失敗したら杖でしばかれ、成功したら褒めまくる、という指導要領のようだった。

 ただ、おそらく、先程のドヘロはほんの手始めに過ぎない。

 「ドヘロ君も、遠くで見てるから、今度はきちんと決めてくれ。」

 「命がけでやります。」

 「うん、その意気だ。」

 目の前の的は自動的に再生していた。そういう魔法でもかけられているようだった。

 「――でも個人的には、もう再生できないほど、破壊しろ。

 平行な面内のX方向およびY方向に可撓性があり、Z方向には可撓性を有さない。」

 二人は、直立不動の姿勢で、了解しました、と言った。
 
 彼等の中で、賢者エンツィアーンという者が、

 どれほど大きな存在なのかを理解した瞬間だった。

 「モーム君は、シャドウを相手に実践訓練してくれ。」

 そう言って、ロボットのようなものを指さした。

 賢者エンツィアーンはそれに向かっててのひらを翳した。すると、起動した。

 そうするともうそこには機械的な能力が最大限に敷き詰められているものとして、

 理解された。一見ひょろいボディだったが、賢者エンツィアーンのこと、

 そんなわけもない。身体は固く、動きは素早く、攻撃力は想像を絶しているのだろう。

 システムに誤差はなく、頭脳も明晰なのだろう。一瞬、シャドウが尖って見える。

 「・・・モーム君にはあまり厳しいことは言いたくないけど、」

 なにそれ、差別だ、とドヘロは思った。

 「・・・本気でやらないと殺されるよ。君が強くなればなるほど、

 シャドウも強くなるようにしてある。ただ、君は、シャドウ相手に殺されたりする、

 へまは絶対にしない。感動的に一時間後でも、叩き潰して、わたしに褒めさせてくれ。」
 
 「わかりました。」

 能力値が高いということは、本来から野生の生命力に燃えているものだ。

 そこで厳しく接することなどありえない。最後は己の戦いだと知っているからだ。

 さて、残った二人だが、と視線がぎょろりと向いた。

 ビクッとする、残った二人。

 





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2015年02月18日 03時30分53秒



© Rakuten Group, Inc.