カテゴリ:コードギアス
ゼロ・レクイエム、世界の敵ルルーシュ皇帝を正義の味方ゼロが倒す事で世界に満ちた憎悪を昇華する計画。
世界が平和な明日を歩む為に、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは己の命をかけて計画を実行した。 皇帝直轄地日本での反逆者処刑パレードの最中、ルルーシュは枢木スザクが扮したゼロに胸を剣で貫かれ、ゼロ・レクイエムは成就する。 人々にギアスをかけてきた代償として、そして人々の命を奪ってきた己への罰としてルルーシュは大切な人達との明日を失ったのだ。 こうしてルルーシュの十八年という短い生は終わりを告げた。 はずだった。 「・・・これは・・?」 意識が急速に浮かび上がる感覚にルルーシュは目を開けた。 眼球に突き刺さる眩しい光、瞼に垂れかかる黒髪を揺らすそよ風、全身を包み込む柔らかな感触。 おそらくこの感触は最上質のベッドのものだろう。 しばし瞬きを繰り返し、それらの外部刺激が伝える現状を認識してルルーシュはハッと我に返った。 急速に回転を始める頭脳がそれらの条件から現状を推測する。 「俺は、死んでいないのか!?」 しかも大事に手当てされる様な状況、間違いなく良い扱いを受けている。 到底悪逆皇帝、世界の敵に対する態度とは思えない。 まずい、このままではゼロ・レクイエムが破綻しかねない。 何が計画の狂いを生じさせたのかは分からない。 だがこのままでは、自分が生きていてはゼロ・レクイエムは修正不可能な段階にまで狂いが生じる。 一刻も早く行動に移るべく、ルルーシュは体を起こした。 途端に頭痛が走る。 後頭部に走った痛みに顔を顰め、ルルーシュはベッドの端に手を伸ばそうとして、はたと手を止めた。 目に映るのは白く小さな子供の手。 指を動かしたり、握ったりとあれこれ動かしてみてその手が自分のものである事を確かめる。 それは確かにルルーシュ自身のものであった。 「なッ、子供だと!?」 慌てて周囲を見渡して鏡を探す。 改めて部屋の中を見れば、部屋の形式はブリタニアの古風なものに似てどこか旧大陸の中世の趣を湛えている。 探し当てた鏡に自分の姿を映し出してルルーシュは息を呑んだ。 そこに映された己の姿は遠い過去に、思い出の中にあった姿であった。 鏡の中で紫色の双眸を大きく見開かせて驚愕する少年。 年の頃はまだ十にもならないぐらいか。 鏡台に両手を付き、体を前に乗り出している。 何が起きたのか、動揺に揺れるルルーシュの思考はやや混乱気味にこの理解を超えた現象に答えを出そうと推理を始める。 ルルーシュがそうして硬直したまま二十三個目の可能性を吟味している時、不意に部屋の戸が開かれる音がした。 ルルーシュは勢いよく振り返る。 「ル、ルルーシュ様!目を覚まされたのですかッ!」 扉を開け部屋に足を踏み入れた人物、それはルルーシュの知る男だった。 かつてルルーシュとナナリーを迎え入れ、皇室から隠れ住む場所を作ってくれた男、ルーベン・K・アッシュフォード。 その老人が嬉しそうに顔を歪ませて部屋に入って来る。 口の堅い知り合いに会えた安堵と、わけのわからぬ現状を取り巻く混乱とを含ませてルルーシュは口を開いた。 「ルーベン、私の身に一体何が起きた!?」 「ああ、記憶が混乱されているのですな。しかしご安心下され。殿下はただ落馬されただけに御座います」 落馬?ゼロの胸を剣で刺されたのではないのか? ルルーシュは胸に手を当てるが手当を受けた様子はない。 ならば先程の頭痛はその落馬とやらの影響なのだろうが・・・ 「さあ、お休みになって下さい。すぐに医師を呼びますゆえ」 「あ、ああ・・・」 まだ問いたい事もあるのだが、ルーベンに会えた事により己のいる場所が過去に近いものだと認識できた。 そして年齢から見てここがブリタニア本国であるといのであれば迂闊な行動は避けるべきだ。 何せルルーシュ達の足を引っ張ろうとする輩は実に多い。 そのような中で不審に思われる行動をしたくなかった。 まずは情報が必要だ。 幸いアッシュフォードの影響下にいるらしい。 今のアッシュフォードならば多少の不審な行動も押しつぶせるだろう。 今後取るべき行動を考えルルーシュは再びベッドの上に戻る。 しかし本来であれば真っ先に確認しなくてはいけないであろう事を思い出してルルーシュはルーベンに向き直った。 「ナナリーは、妹のナナリーはどうしている?」 ルルーシュにとって最も大切な妹。 その安否を気遣う言葉、だが返って来た反応はルルーシュが期待したものとは異なっていた。 「ナナリー?それはどなたの事ですか、殿下」 ナナリーと言う名前に心当たりを見いだせないのか、何度も首をかしげるルーベン。 ルルーシュは絶句した。 「な、何を言って・・・」 まさかギアスか!? 血縁上の父親、あの傲慢たるブリタニア皇帝の姿を脳裏に浮かべ、ルルーシュは愕然となった。 記憶を操作するギアス、もはやアッシュフォードもその影響下に置かれてしまったのだろうか。 「殿下にはナナリーと言う名の妹はおりませぬぞ?」 「・・・もういい、分かった」 残された希望の羽を毟り取られ肩を落としたルルーシュはルーベンに背を向けた。 だが次の瞬間、 「兄さん!」 子供声がルルーシュの背にぶつかる。 ふと視線を動かしその声を放った人物を目に収め、ルルーシュは再び息を呑んだ。 フレンチベージュの柔らかな髪、ルルーシュと同じ紫色をした目が嬉しそうに、それでいてどこか不安げにルルーシュを見つめていた。 歳は五、六歳と言った頃合いか、上質な衣服に身を包んだ少年。 その少年の姿にルルーシュは見覚えがあった。 かつてルルーシュの弟役としてブリタニアから送り込まれてきた少年。 彼について調べた時に見つけた幼い頃の記録に見た少年の姿。 「ロロ、なのか?」 零れだした声はきっと情けない調子だったのだろう。 ルーベンがおやっといった様子で眉を顰める。 だがロロと呼ばれた少年の表情はルルーシュの言葉一つで瞬く間に変化した。 何かに気づいたような泣きそうな表情。 「兄さん、もしかして・・・、あの兄さんなの?」 「まさかお前も!?」 記憶があるのか、そう続けようとしてルルーシュはルーベンの存在を思い出す。 二人の様子を不審そうに見つめる彼、自分達を庇護してくれるであろう存在にこれ以上不信感を植え付けるわけにはいかない。 「ロロ、それについてはまた後で話そう。俺は少し寝るよ」 「あ、う、うん。分かったよ」 慌ただしげに部屋から駆け出ていく少年と、やや躊躇いながらも退室していくルーベン老の姿を視界の端に捉え、ルルーシュはため息をついた。 一体何なのだこれは。 明日は絶対に情報を集めて回ろう、そう考えて彼はベッドの上に身を横たえた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.02 23:26:00
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