カテゴリ:コードギアス
一部には到底無事とは言い難い影響を与えた大遊園会も全ての日程を無事終了させて、ゲルマニアの面々はフネに乗り帰路についていた。
その甲板で動きまわる船員の姿をぼうっと眺めながらジノは一人物思いに耽っていた。 なかなか楽しい休暇だった。 勿論任務で来たのだが、いつものラウンズの任務に比べればはるかにマシだったと言えるだろう。 ルルーシュの護衛も親衛隊員に引き継ぎ、今は護衛任務から解放されてのんびりとヴィンドボナまでの時間を待つだけだ。 ふと隣を見ると、いつの間にかアーニャが甲板の上に座り込んでいた。 手の中に幾つかのお菓子を抱えている。 ジノは手を伸ばし、クッキーを一つ摘み上げて口の中に放り込んだ。 「・・・あ」 「一つぐらい、いいだろ?」 二人で並んでぼんやりと空を眺める。 流れていく雲と時折飛んでいく鳥を見るだけのつまらない景色なのだが、余計な事を考えないという意味ではなかなか良い風景なのかもしれない。 「帰ったら何しようかなぁ」 「まずベアトリスに報告」 「うッ」 言葉に詰まるジノ。 「嫌な事思い出させるなよ・・・」 「モニカがジノの働きぶりをベアトリスに報告したって」 「ぐッ、やべえ、逃げなきゃ・・・」 絶対に怒り狂っているだろう才女の姿を思い浮かべて、ジノは頭を抱えた。 力無く床の上に座り込んで、ジノはため息をついた。 「世の中って厳しいな」 「戦っている方が楽」 一々人の顔色を窺って生きていくような器用に生きる事はジノには出来ない。 ナイトオブラウンズの連中など皆本来ならば貴族社会から弾き出される様な者ばかりだ。 そんな戦う能力だけが異様に秀でた者達が集まる場所だから、あそこは居心地が良いのだろう。 政治や陰謀はできる奴に任せれば良い。 ジノやアーニャは皇帝の杖となり剣となって戦うのが役目である。 やはりそんな生き方が自分には合っているだと改めて思うのだ。 「あら、あなた達こんな所にいたの」 「あ、クルシェフスキー卿じゃないですか。もうクロヴィス殿下の話し相手は良いんですか?」 「ユーフェミア殿下に代わって頂いたわ」 疲れた様子でモニカはアーニャの隣に座り込んだ。 普段の彼女は割と上品な仕草で振る舞うのだが、床に直に座り込むとは余程疲れているのだろうか。 まあ無理もないかとジノは思った。 今回の大園遊会はクロヴィスにとっては別の目的があった。 予てからゲルマニアとグルデンホルフ大公国の間で進めてきた話、クロヴィスとグルデンホルフ大公国の令嬢ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフとの婚約である。 今回が初めての顔合わせであったのだが、二人の相性はそれほど悪くはないようでこのまま話を進める事になった。 クロヴィスも素敵な婚約者が出来て嬉しいのだろう。 出発前はユーフェミアやモニカにあれこれと相談し、終われば惚気話とは彼女達も気の毒なものである。 だがグルデンホルフ大公国は名目上は独立国家であるが、軍事や外交をトリステイン政府に依存している。 このような話をトリステインが安々と認めるわけがない。 その為に今回ルルーシュは各所に働きかけてゲルマニアの存在をアピールし、ラウンズ達は御前試合に奮闘したのだが、これらの行動は想定していた以上に効果を発揮してしまった。 もはやトリステインの凋落は誰の目から見ても明らかで、グルデンホルフ大公国も力無き宗主に見切りをつけて親ゲルマニア路線へと転換した。 ただでさえ王を抱かず不安定なトリステイン情勢はこれからさらに悪化していくのだろう。 ガリアやゲルマニアへの反感を押し殺してどこまで踏ん張れるのか。 ジノは人の悪い笑みを浮かべて楽しみだなと思った。 ゲルマニアは今もなお発展を続ける国。 国土を拡張し、伝統と偏見に目を曇らせた他国の貴族達が目にもくれない土中の原石を拾い上げて宝石に磨き上げる国だ。 その象徴がルルーシュ・ランぺルージ宰相なのだろう。 彼の領土から広がっていく新たな技術の波はいつしかゲルマニアを大きく変える事になる。 ジノにはそんな気がしてならなかった。 「ああ、こんな所にいたのか」 聞こえていた声にジノ達は顔を上げた。 慌てて立ち上がる。 立っていたのはルルーシュ、そしてその背後にこの場にいないはずのロロの姿を見つけた。 「あれ、ロロ様、どうしたんですか?」 「二人に新しい任務を持ってきました」 「そう言う事だ。ジノとアーニャはこれから新たな任務についてもらう」 「ええええッ!!」 ジノの声に何事かと船員達が振り向く。 それを手を振る事で散らし、ルルーシュはにっこりと笑った。 「十分に楽しめただろう?何せトリステインの貴族に恨まれまくるぐらいに暴れたんだからな」 もっと相手に花を持たせる様な戦い方をすれば良いのに、完膚なまでに叩きのめすからこうなるのだ。 ルルーシュは多少トリステインには強気で出ても問題はないと思っているのだが、オデュッセウス皇帝の善隣外交路線という意向を受けてフォローに走り回る事になった。 そしてその仕返しとばかりに早速ロロに新たな任務を持ってこさせた。 ルルーシュはロロから受け取った書類をジノの目の前に突き出した。 強い風に煽られるそれを両手で広げて、ジノは目を通す。 「北方蛮族の軍勢がスカンザから南下してきているらしい。放っておけば私の領地にも被害が及ぶ。早急に現地の防衛隊と共にこれを撃退せよ」 「ヴァルトシュタイン卿やクルシェフスキー卿では駄目なのですか?」 「彼等は我々を護衛して帰還する。それに足の速い使い魔を持っているだろう、君達は」 「え?」 ルルーシュが指差す先を見れば、ジノの使い魔であるトリスタンとアーニャの使い魔モルドレットがフネに並走して飛んでいた。 何と準備の良い、ジノは諦めてルルーシュに向き直った。 「Yes, my lord!」 「よろしい、それではいつも通りアーニャもコンビでよろしく」 「Yes, my lord」 二人は甲板の上から飛び降りる。 すぐに慣れ親しんだ使い魔の背の感触が全身を包み込む。 「それじゃ、行ってきます」 「また後日報告を待っている」 「そうだ、ルルーシュ様。帰ってきたらまた何か手料理でも用意しておいて下さいよ」 「・・・お前までそんな事を言うのか。分かったよ。用意しよう」 ジノを乗せたグリフォンがフネから離れていく。 同様にアーニャが乗ったマンティコアもグリフォンを追って翼をはためかせた。 「ジノとコンビのせいでいつもこう」 「そんな事言うなって!さあ任務頑張るぞ!」 「・・・ふん」 「って、おい、アーニャ!?」 ご機嫌斜めなアーニャに必死で話しかけながら、ジノは再び日常の中へ戻っていく。 彼の日常、すなわち戦場へ。 帝国の騎士、ジノ・ヴァインベルグは今日も戦場で生きていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.23 22:21:09
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