カテゴリ:コードギアス
運命的な再会の翌日、朝早くからシャーリーはドタバタと動きだしていた。
感動のあまり夜もあまり眠れず、家族揃っての朝食の席でも普段は団欒の時間であるにもかかわらず、一人でさっさと食べ終わり急ぎ部屋に戻っていった。 当然残された家族は一体何が起きているのか全く分からない。 ただいつもと様子が違うシャーリーに驚くばかりである。 部屋に戻ったシャーリーは姿見の前で幾つも服を体に当ててどの服を着て行こうかと悩んでいた。 別によそ行きの上等な服に着替える必要はないのだが、なんとなく思考がデートの方向へと進んでしまい、着飾るべきか否かと思い悩んでしまう。 まあルルーシュも控えめな格好をしていたしと、シャーリーもそれなりに落ち着いた色合いの服に着替える。 とは言え、普段は宝石箱の奥に大事に仕舞い込んでいるようなネックレスなどの装飾品を持ちだして身に付ける辺りが、シャーリーの意気込みを示してた。 もう一度全身を姿見に映してくるっと回りながらどこか変なところはないか、入念にチェックを入れる。 そんな彼女の様子を部屋の隅で窺っていた使用人の女性はクスクスと笑う。 「今日はデートですか?シャーリー様」 シャーリーは顔を赤くして否定する。 「そ、そんなのじゃないの!」 その表情や態度からは言葉に説得力はない。 しかし女性はあえてそれを追求する事はしなかった。 シャーリーが小さい頃から世話を手伝ってきた彼女としては、もうそういう歳になったのだなぁと感慨深く思う。 そんなニコニコと笑みを浮かべる女性の表情にシャーリーはなんだか恥ずかしくなり顔を背け、鏡を覗きこんで髪をとかし始める。 ふと髪に自分以外の者の手の感触を感じた。 女性が櫛を取り髪を梳く。 「今日は目一杯可愛らしく致しましょうね」 何もかも心得たような彼女はシャーリーの長い髪に櫛を入れていった。 「ルル!おはよう!」 宿のルルーシュの部屋の戸が再び叩かれたのはそのおよそ一時間後の事であった。 朝食後のティータイムを楽しみながら窓の外の通りの光景を眺めていたルルーシュは立ち上がり戸を開ける。 そこには少しだけ恥ずかしそうに笑みを見せるシャーリーがいた。 いつも通りの長い髪は少しだけ後に纏められている。 この辺はシャーリーの精一杯の抵抗でなるべく普段通りに近いものにしてもらったのだった。 「おはよう」 ルルーシュは彼女に中に入る様に促す。 部屋の中にはロロもいた。 椅子に座った体を縮こまらせ、上目づかいにシャーリーを見る。 「おはよう、ロロ」 「お、おはようございます・・・、シャーリーさん」 オドオドとぎこちない挨拶を交わし、ロロはルルーシュを見上げる。 「兄さん、やっぱり僕は外しているから・・・」 「そうか、仕方ないな」 ルルーシュは苦笑すると、ロロが部屋の外へと出て行く後姿を見送った。 シャーリーは首を傾げる。 「ロロ、どうかしたの?」 「いや、別に大した事はないんだ。あいつも一人で街を回りたいんだろう」 ふうん、とどこか釈然としないものを感じながらもシャーリーはふと気づく。 もしかして気を使ってくれたんだろうか。 部屋にはルルーシュと二人っきり。 途端に妙に意識し始めて顔が熱くなるのを感じた。 もっとも、ロロが席を外した理由は別に気を使ったわけでは無く、顔を合わせ辛かっただけであるのだが。 「そう言えばルルはこの街初めてでしょう?案内してあげようか?」 「そうだな。いろいろと回ってみたいし、頼めるかな」 ルルーシュは壁にかけておいたコートを羽織る。 それだけで上品な風格を漂わせるルルーシュの身のこなしに、シャーリーはもっと大人っぽい服装をしてくれば良かったなと思った。 「それじゃあ行こうか」 「うん!」 思い切ってルルーシュの腕を抱きかかえるように両手で掴む。 ルルーシュは少しだけ驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかく微笑んだ。 「はぁ・・・」 宿の近くの建物の陰に身を顰め、ロロはため息をついた。 宿から出てきた幸せそうなカップル、すなわち彼の大切な兄と運命の再会を果たした少女である。 ロロにはシャーリーに対する負い目があった。 兄が大切に思っていた彼女を殺したという罪の意識、ルルーシュはそれを許したと言ったがロロは未だ気にしている。 シャーリーは前世の彼女を殺したのが自分だと知らないようではあるが、もしそれがばれたらどう反応するのだろうか。 そしてそれを見たルルーシュの心が変わりはしないだろうか。 シャーリーと出会ったその日からロロの心は痛みを発し続けていた。 「じゃあ大通りの方から見て回ろっか」 シャーリーに引っ張られるように二人は大通りへと向かって行く。 ロロはその後方をある程度距離を置きながら付いてった。 ルルーシュは護衛をつけていない。 お忍びとは言え、皇族にあるまじき不用心さである。 「僕が兄さんを守らないと・・・」 ロロは懐の杖をギュっと握りしめた。 勿論、ロロも皇族であるし守られる側の立場なのだが、この辺の感覚の欠如はかなり前世の影響を受けていると言えるだろう。 ロロはあまり自分が皇族であるという認識はなかった。 領地経営や政治には元々興味はないし、皇族として与えられる直轄領も辞退している。 加えてルルーシュを含めた四人の上位皇位継承者だけが別格で、ロロや名も知らぬ異母の妹や弟達はもはや皇族とは名ばかりの下位貴族の扱いである事も関係している。 ジェレミア達騎士がいない以上、ルルーシュの身を守るのは自分の役目だと、ロロは決意を固めた。 「ああ、もう兄さん目立ち過ぎだよ」 調べた所によればシャーリーは街でも愛らしい容姿で有名な少女である。 その隣に普段街では見かけないような美貌の少年が立っているとなれば、街の者が注目するのは無理もない。 「あれは誰だ?シャーリーちゃんの恋人?」 「誰か聞いてこいよ」 「雰囲気が良すぎて間に割り込めないわよ」 街の人々の声を聞き、ロロはルルーシュの正体がばれないか心配になった。 領主であるルルーシュ・ヴィ・ゲルマニアの名はそれなりに知れ渡っているかもしれないが、目立つ事を恐れてアッシュフォードの領地に引っ込んでいたルルーシュの顔を知る者はこの街にはいないはずだ。 だから目の前の平民の少女と仲良く歩いている黒髪の少年が第三皇子だとは誰も思わないはずなのだが。 「なんかえらく落ち着いた雰囲気だな、彼」 「凄い綺麗な子よね」 ルルーシュの持つ独特の雰囲気、それが街の人には異質に映ってしまうのだろう。 恋愛感情と前世での経験によりルルーシュに慣れているシャーリーには気付かれないだろうが、万が一気づく者が出てくれば大事である。 ロロはバクバクと跳ねる心臓を押さえながら二人の様子を見守った。 ふと自分を見つめる視線に気づく。 ロロが目をやれば、そこには同じように平民の服装をカモフラージュとして着こんだヴィレッタの姿があった。 あれはなんだと言いたげな視線にロロは首を横に振って答える。 干渉するなと、自分の役目を果たせという意味である。 それを受けてヴィレッタは軽く頷くとヴァイレの街でも危険度の高い、傭兵達が集まる一角へと向かっていった。 ロロは改めてルルーシュ達に視線を戻そうとして、 「あッ!」 いつの間にか視界から二人の姿が消えていた。 「ここが街の中心の広場よ。ここを右に行けば港で、真っ直ぐ行けば領主館ね」 建物の向こうに見える領主館、本来であればルルーシュが任命した代行者がこの街を管理するはずであった。 今はどのような者が管理しているのか、ルルーシュはまだ会った事がなかった。 「どう?いい街でしょう」 「ああ、そうだな」 シャーリーが恵まれた環境で幸せに生きていた事に安堵を覚える。 だが急にシャーリーは表情を曇らせた。 「でも、最近変なのが増えて来て・・・」 「変なの?」 「うん、ルルも昨日見たでしょう?あの貴族」 スッとルルーシュは視線を鋭利なものへと変えた。 領主館をジッと睨むように見つめる。 「領主に報告しないのか?ここは皇族の直轄領だろう?他所の貴族が領内でもめ事を起こせば皇族の怒りを買うだろうに」 「・・・報告はしているみたい。でも、全然動いてくれないみたいで」 「そうなのか?」 「うん、ルルはここに来る時どの道を通った?」 「え?普通に主要街道を来たけれど?」 「今ね、その道に盗賊が出るらしいの。パパの商売にも関わるから少し知っているんだけど、何度も討伐隊を派遣してくれって言っても皇族から許可が下りないんだって」 「なッ!?」 許可以前に連絡すら受けていない。 これは明らかに領主代行の独断専行であり、この地域を治める自分に対する反逆行為である。 ルルーシュは僅かに声の中に怒りを滲ませた。 まだ子供だから何も分からないだろうと思われているのがありありと分かって腹が立つ。 離宮に置いてきたジェレミア達を館に乗り込ませ、確たる証拠を集めさせるか。 あるいは街道に張り込ませて盗賊共を一掃し、その背後関係から一気に切り込むべきか。 ルルーシュは瞬時に幾つかの可能性を計算し、最も効果的なものを選ぶ。 何れにしろジェレミア達親衛隊を動かし証拠を掴む必要があるようだ。 大規模に兵を動かせば他の貴族達に危機感を与えかねないが、親衛隊レベルであれば問題はないだろう。 後でオデュッセウス兄上には世間話と言う形で話しておくか、そんな事を考える。 「ルル?」 急に黙り込んだルルーシュの顔を訝しげにシャーリーが覗きこんでいる。 我に返ったルルーシュは何でもないと穏やかな口調で言った。 「ごめんね、変な話しちゃって」 「いや、いいんだ。なかなか為になる話だったよ」 見慣れた不敵な笑みがルルーシュに刻まれた事にシャーリーは少しだけ疑問を感じつつも、暖かい気持ちになった。 その後二人は昼食をとり、粗方街を見終わった後には宿に戻って取り留めのない話を続けた。 その際に、シャーリーに恋い焦がれる若い男連中が宿に乗り込もうとするが、皆突然に謎の昏倒で意識を失うという事態が発生する。 彼等は皆視界の隅にフレンチベージュの柔らかな髪が流れるのを見たと証言したが、結局昏倒の原因は分からずじまいであった。 そしてルルーシュとシャーリーはまた明日と約束を交わして夕方に別れた。 しかしその翌朝、シャーリーが再び宿を訪れる事はなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.19 18:27:17
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