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「シャルロット・エレーヌ・オルレアン・・・、くそッ!あいつが僕の邪魔をするなんて」
苛立ちを隠す事無くロロは静かに拳に力を入れた。 食堂で手紙を読みながらわざとらしく『プレゼント』を見せつけ、自室の鍵をわざと解呪しやすいものに変え、後は彼等を人気のない場所で叩き伏せれば良かっただけなのに。 以前からわけのわからない因縁を付けて来る相手を黙らせ、静かな学園生活を送る為の計画がたった一人のイレギュラーにより失敗である。 怒りの視線を向けた先、眼下の地上では上級生達に何やら話しかけるシャルロットの姿があった。 話しかけられた上級生が途端に目をむき互いに顔を合わせる。 シャルロットが何かを求める様に手を差し出して、上級生の一人が険しい表情を浮かべて口を開く。 ロロが身を潜めている寮の屋根の上かたでは声が聞こえるわけではないが、どのようなやり取りが行われているのかロロには大凡の見当がついていた。 どうやらガリアのお姫様が余計な正義感を発揮してたようだ。 両者の間の雰囲気が途端に険悪なものに変わっていく。 流石に相手がガリアの王族の一員と言う事もあって暴力による速やかな解決はなされない。 しかし年齢や体格を嵩にきた脅しも通じないシャルロットの態度に、彼等の様子が徐々に血気を帯びていく。 両手を広げて腰から下げた杖を誇示しつつ捲し立てる彼を静かに見つめるシャルロット。 時折何かを口にしては彼等を苛立たせているらしい。 ふとロロは彼らの内の一人が後ろ手で何かをしている事に気づく。 彼の袖口から覗くロロのロケットペンダント、何処からともなく飛んできた一羽の鳥がそのペンダントを掴んで飛んでいく。 おそらくシャルロットからは上級生の大柄な体のよって見えないのだろう。 盗まれた物を所有しているというたった一つの証拠が隠滅され、後はあの使い魔の主の責任を問う事しかできなくなった。 当初のロロの計画から言えば彼等を問答無用で叩きのめせば用は足り為、ロロ個人で言えばまだ問題は無い。 彼等も下級生に、それも多勢でありながらたった一人の少年にやられたとなれば外聞が悪くて口を閉ざさず他なくなる。 だがシャルロットは彼等の罪を証明できない以上、言われの無い言いがかりをつけた事になる。 それこそ上級生の思うつぼ、生意気な下級生、それも他の生徒どころかトリステインの貴族でさえ引け目を感じているガリアの王族をやり込めてやったとなれば随分な箔が付く。 しかもここはトリステイン魔法学院、世俗の権力基盤から隔絶した独自の秩序を持つ自治権を持つ空間であるから、内部で起きた揉め事は内部で解決される。 オールド・オスマンの懸命の努力によって築かれた他国の介入の受けない決まりが彼等を守っていた。 「・・・どうしようか」 上級生に囲まれるようにしてシャルロットの姿が遠ざかっていく。 行く先はどうせヴェストリの広場だろう。 ロロの予想通り彼等は決闘による解決を選択したようだ。 ロロは使い魔の鳥が飛んで行った方角を見る。 まだそれほど遠くには行っていないだろうし、見つけるのにはそれほど苦労はいらないだろう。 「別にあんな奴どうなったって・・・」 貴族同士の決闘は禁止されている。 このままではシャルロットは無実の罪を問うただけではなく、禁止されている決闘を行い恥の上塗りとなってしまう。 正直ロロにとってシャルロットがどうなろうと興味はなかった。 寧ろ良い気味だと感じる気持ちが少なからずあった。 日頃から投げかけられる鬱陶しい視線、何かを訴える様なそれが元より他者の視線に敏感なロロには気分が悪くてならなかった。 ある意味上級生よりもはるかに邪魔な存在である。 これから彼女に襲いかかるであろう困難から目を背け、ロロは杖を取り出しペンダントを取り戻しに行こうとフライの魔法を使い飛び上がり、 「全く、世話の焼けるお姫様だこと」 背後から聞こえてきた声に体を緊張させた。 一瞬で意識が切り、替わり空いた手で懐から短剣を取り出し構える。 誰もいなかったはずの場所、いつの間にか背後に忍び寄られていた事にロロは焦りを感じた。 これでもゲルマニアの機密情報局を束ねる身である。 皇族時代にもヴィ家とアッシュフォード家の人員からなる隠密組織を指揮した事もあり、経験に関して言えばこのような学院の生ぬるい連中に決して劣る事は無かったはずだ。 「そう、怒らないで」 「気配を消して背後に寄られれば誰だって気分が悪いと思いませんか?」 敵意が無い事を感じ取りロロは戦闘態勢を解き、杖と短剣を下ろした。 立っていたのは一人の女性、彼女の姿にロロは見覚えがあった。 「確かシャルロット王女の護衛の騎士でしたか?」 「ええ、そうなの。あなたより一つ年上の生徒よ」 陽光を受けて艶やかな黒髪の中に藍が浮かぶ。 整った顔立ちの彼女が優しげに笑みを浮かべる様子は普通の男子ならば警戒心を解くに十分な魅力を持っていたが、あいにくロロはそうした色恋沙汰に興味は無い。 長く緩やかな髪をかき上げる彼女の腰には到底似つかわしくない代物がぶら下がっており、ロロの視線は自ずとそちらへ向かっていた。 流石はガリアと言うべきか、金銀宝石で微細な装飾が施された鞘、そこに収まっているのは剣を模した杖などではなく正真正銘の剣。 抜き身を見たわけでもなく、ロロは彼女の全身の動きからそれを察知していた。 軽やかな猫のような彼女の足取りには一部の隙もない。 紛れもなく国を代表するようなレベルの騎士である。 ゲルマニア以外に剣を実戦で用いるメイジがいるなど思ってもみなかった。 「あのお姫様は面倒事に首を突っ込んじゃって・・・、これじゃあ私の責任になってしまうのよ。ねえ、ちょっと手伝って頂けないかしら?」 「何故です?僕は僕の持ち物を取り戻せればそれでいいんですが」 そちらの事情に巻き込むな、言下の主張を苛立ちと言う形で言葉の端に乗せロロはそのままフライで飛び立とうとする。 しかし彼女の目に宿った光がロロの足を屋根に縫い止めた。 全身に走る悪寒、首筋に見えない切っ先を突き付けられたような感覚。 「何を言っているのかしら。元はと言えばあなたの責任ではなくて?わざと自分の『宝物』を盗ませて報復の口実にする。手を出したのは相手が先だからオールド・オスマンも咎める事は出来ない。可愛い顔をしてなかなかあざといのね」 「・・・それが何度と言うんです?全く関係の無い人物が勝手に首を突っ込んで、その責任を僕にとらせようなんて虫が良すぎませんか?」 内心の動揺を見透かされないように敢えて語気を強めてロロは向き直る。 とんだ化け物だった。 これ程の威圧感を持つ相手などそうそう出会えるものではない。 紛れもなくラウンズ級の力量はあるはずだ。 「それではこう言うのはいかが?ロロ・ランぺルージは素行の悪い生徒と結託してシャルロット王女を罠にはめ恥をかかせた」 「なッ!?」 「たとえ事実ではなくともそんな噂が流れれば怪しむ者も出て来るでしょう。あるいはあなたをやっかむ者は大声で吹聴して回るかも。そうなればあなたのお兄様、ルルーシュ・ランぺルージ大公にも迷惑がかかるのではないかしら?」 ルルーシュの名前を名前を出されると流石に痛い。 彼女はロロの弱みを的確に突いていた。 しばしの逡巡の後、ロロは嫌そうに顔を歪め口を開く。 「僕に何をさせたいんです?」 「あら、手伝ってくれるのね。嬉しいわ」 「白々しい・・・」 見惚れる様な美貌の笑みもロロの目には悪魔の高笑いにしか見えない。 投げやりに吐き捨てると、ロロは懐に短剣を仕舞いなおした。 「ではあなたはシャルロット様を追ってもらいましょう。私は飛んで行った使い魔を探して後から合流するわ。その場でその場で使い魔の主の責任を問えば騒動はそれなりに丸く収まるでしょう」 「追うだけでいいんですね?」 「勿論シャルロット様に危害が加えられないようにフォローもして頂けるとありがたいわね」 嫌な相手に捕まった、そんな事を考えながらロロは返事をする事無く地面へと飛ぶ。 ふわりと着地すると一瞬共犯者となった相手を見上げ、重たい足取りでヴェストリの広場へと向かって行った。 それを見送って彼女はくすりと笑う。 「あれがロロ・ランぺルージねぇ・・・」 随分と警戒心の強い子だった。 騎士とは違う無駄のない動作、実に板に付いた振る舞いだった。 「あの子はお兄さんの方とは正反対の道を選んだという事かしら」 「へぇ、じゃああいつはお前さんのライバルってわけだ!」 何処からともなく聞こえて来る声に苦笑をもらす。 「さっきは黙っていてくれてありがとう」 「ふん、良く言うぜ。黙らなきゃ鉄屑にするって脅したのはどこのどいつだっての」 「あら、そんな乱暴な事、か弱い女の身でできるわけもないじゃない」 「国内の名立たる騎士連中を剣一本でぶちのめす奴がか弱いねぇ・・・」 かちゃかちゃと音を立てて剣の鍔が動く。 意志を持ち喋る剣インテリジェンスソード、それが彼女の今の相棒だった。 「さて、こんな所でのんびり油を売っていたら彼に怒られてしまうわ」 「でも使い魔を捕まえて責任を取らせるだけじゃあ随分と分が悪くねぇか?決闘をやったとなりゃあ教師達も当事者を罰しないわけにはいかないしな」 「その辺は任せておいて。私に名案があるの」 どうせ碌でもない事だろうな、そんな事を考え剣がシャルロットに絡んだ連中を憐れむ。 「ま、罠に嵌った方が馬鹿なんだしいいか」 「そうそう、良く分かっているじゃない『デルフリンガー』」 マントを翻し彼女は屋根の上から身を躍らせる。 魔法は使わない。 彼女にとってこの程度の高さはどうという事の無いものだった。 長い足を曲げて着地の衝撃を吸収し見事に着地を決める。 どうせやるならばできる限りタイミングをはかって乱入したほうが楽しそうだ。 その為にもさっさと使い魔を捕まえてしまおう。 ぐずぐずしていれば彼女の存在が使い魔の主に伝わってしまう恐れもある。 そして彼女にはそれが出来るだけの実力があった。 「ほら、やっぱり留学生同士少しは仲良くする必要があると思うの」 「・・・お前さん、あいつらで遊びたいだけだろうが」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.11.23 07:44:27
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