カテゴリ:カテゴリ未分類
学院長室から出てきた三人を迎えたのは心配そうに待つキュルケだった。
むすっとした様子のロロ、にこやかに手を振ってみせるミス・ウィンター、 いつも通り限りなく無表情に近いシャルロット。 それぞれが三通りの反応を返す。 「どうだったの?」 「ヴィリエ・ド・ロレーヌは無期限の停学になり実家で謹慎と言う事になったわ」 彼等が赴いた学院長室ではロロが盗まれたロケットが自分の物であると証言し、またシャルロットが彼等がその件について話している事を聞いて、正義感によって彼等に盗んだ物を返すよう言った結果今回の決闘騒ぎが起きたのだと主にミス・ウィンターがオールドオスマンに説明を行った。 ミス・ウィンターの事だからある事無い事を織り交ぜつつ臨場感たっぷりの胡散臭い説明となったのだが、最終的にはヴィリエのポケットから盗まれたロケットペンダントが現れたという紛れもない状況証拠により事実であると判断された。 勿論これに対してヴィリエが激しく抗議したのは言うまでもない。 これは罠だ、自分を陥れる為にこの女が仕組んだ罠なんだとミス・ウィンターを指差して何度も叫ぶが、如何せん彼は教師陣の心証が悪かった。 日頃から下級生やメイド達に対して高圧的に出ており、さらには卑怯にも不意打ちをかけようとした所をコルベールに見られている。 加えてその相手が今回は大国ガリアの王族とゲルマニアの元皇族なのだから、教師陣にしてみれば問題児を犯人してさっさと穏便な解決を図った方が色々と都合が良い。 この考えが教育者として正しいものであるかどうかは別として、最終的にオスマンはヴィリエに無期停学という処分を下した。 形の上では退学ではなく停学であるが、既に彼の実家には連絡が行っておりその結果自主的な退学の申し出が向こうからなされている。 流石にローレヌ家も学院と言う特殊な空間の中での事とは言え、この遺恨が将来的に家の存続に関わって来る事を恐れたのだろう。 こうして学院を騒がせた一大事件はオスマン学院長の権限の範囲内で穏便に、あるいは内々で片付けられたのだった。 「後々にはシャルロット様にも罰則が科せられる事になっているけれど」 「罰則ですか?」 「そうよ。まだ内容は決まっていないみたいだけれど、いずれね」 たとえ非が向こうにあっても禁止されている決闘に応じたのだから仕方のない事だ。 「それでは僕はこれで」 ロロに関しては一切の処罰は無い。 全面的に被害者と言う立場である。 ある意味自分の手を汚さずに目的を達成した事になるのだが、自分の謀が他人の手によって成し遂げられ手柄が横取りされたようであまり気分が良くなかった。 もうこれ以上付き合う必要はないと判断してロロが三人に背を向ける。 そんなロロをまたかとキュルケが見る。 しかしシャルロットの言葉がロロの足を止めさせた。 「貸し一つ」 「は?何を言っているんです。誰があなたから何を借りたんですか?」 「あなたの名誉の為に戦ってあげた」 「自分のでしょう。間違わないで下さい。それにそこの護衛の人がいなければ自分の名誉すら守れなかったじゃないですか」 何なんだこいつは、再び苛立ちが込み上げ始め、ロロは目を細める。 ピクリとシャルロットの体が震えた。 まだ学院長室の前である。 周囲のメイドや衛兵達がどうしたら良いものか困惑した表情で互いに見合っていた。 そんな緊迫した空気を破ったのはやはりと言うべきか、年長者のミス・ウィンターだった。 「シャルロット様、そんな一方的な言い方ではどんな良いカードを持っていても交渉にもなりませんよ」 「交渉って、ロロと一体何を交渉しようって言うのよ」 シャルロットの頭に軽く撫でる様に手をのせ、ミス・ウィンターがにっこりと微笑んでみせる。 しかしロロは警戒を顕わにしたままジッと二人を睨んでいた。 無理もない。 結局何もしなかったとは言え目の前の女性には色々と脅迫じみた手段で協力させられている。 油断すればまた何かと付け込まれるのは目に見えていた。 「ロロ・ランぺルージと言ったらあのルルーシュ・ランぺルージ大公の弟君でしょう?」 嫌な予感がロロの背筋を駆け上がる。 目的は自分ではない、そんな考えが脳裏をよぎる。 彼女が何かを言う前に言葉を遮ろうと口を開くが、それは間に合わなかった。 「シャルロット様はほら、ルルーシュ・ランぺルージ大公のファンだから。弟君を足掛かりにお近づきになれたら、なんてね」 「・・・え?」 思いにもよらない言葉にロロはただ一言言葉を漏らす。 当のシャルロットはと言えば何の相談もなく、多少ストレートは表現は避けてくれたものの、自分の感情を暴露されたものだからジトっとミス・ウィンターを睨むが睨まれた本人はどこ吹く風と言った調子でにこにこ、もといにやにやと笑っているばかり。 腹立たしさと共にプイっと顔を背ける。 普段は感情の希薄な顔がほんのり赤く染まっている。 そんな小動物じみた振る舞いがキュルケのつぼをついたのか、彼女は目をキラキラと輝かせてシャルロットを見た。 元よりその手の話題が大好きな彼女である。 食いつかないわけがない。 「それ本当ッ!?」 「本当本当。あれは去年の事でしたっけ・・・」 「うるさい」 むきになってぶんぶん杖を振り回すシャルロット。 それをあっさりとかわしながら昔話テイストでミス・ウィンターが続ける。 話を促し相槌を打ちながらキュルケも悪乗りを始めていた。 一転して騒がしくなった廊下。 今度は別の意味で他の使用人達が気まずげに顔を見合わせていた。 ハッとロロも我に返る。 ファン=憧れ=恋愛感情。 ガリア王家の姫君ともなれば身分的にも釣りあいは取れていると言えなくもない。 顔面からさあっと血の気が引いていく。 「駄目だッ!!兄さんには近づけない!!」 騒いでいた三人がピタリと止まる。 そしてシャルロットを除く二人の顔にからかうネタを見つけたとニヤリと悪魔の如き笑みが浮かんだ。 ムッとシャルロットがロロを睥睨する。 「お前なんかに兄さんは相応しくない!」 「それはあなたが決める事じゃない」 「僕と兄さんはたった二人っきりの家族なんです。赤の他人には分からない絆があるんだ。お前なんかに兄さんを渡したりはしない」 「駄目!」 「それはこっちの台詞だ!」 「駄目ったら駄目!」 「煩い!黙れチビ!」 ぎゃあぎゃあとかみつく様に言い合いを続ける二人を見てキュルケはフッと唇の端を持ち上げる。 普段はあんなに澄ました調子で話すロロが、近寄りがたい物静かな雰囲気を纏ったシャルロットが年相応の振る舞いを見せている。 堅牢な仮面が剥がれ覗かせた子供の顔に少しだけホッとさせられた。 それはミス・ウィンターも同じなのだろう。 どこか懐かしそうな顔を見せ、二人を見守っている。 「少しだけ安心したわ」 「何がです?」 「折角留学に来たのにシャルロット様に一人も御学友が出来ないのは寂しいでしょう?ガリアではいろいろと複雑な立場の方だから、せめてここではと思っていたのよ」 そんなミス・ウィンターの顔を見てキュルケはクスリと笑った。 「まるで母親か姉のようですね」 「まあ妹のようなものだから、ね」 刹那ミス・ウィンターの瞳が揺れる。 宿ったのは不思議な色で、キュルケはおやっと思うがそれは瞬きと共に消え去る。 何も変わらぬ柔らかな表情を浮かべて彼女はキュルケに手を差し出した。 「出来ればあなたもシャルロット様と仲良くして頂けると嬉しいわ」 「勿論喜んで。えっと・・ミス・ウィンター」 キュルケの返事を聞き、握手を交わしながら彼女が楽しげに口を開く。 「どうかマリアンヌと呼んで頂戴。マリアンヌ・ド・ウィンター、人呼んで『閃光のマリアンヌ』。どうぞよろしく」 「しかし今回の件、このような決着のつけ方で良かったんですか?」 「じゃあ君はどうすれば良かったと言うんじゃね?ミスター・・・あー、コルベール君」 「状況証拠が揃っているとはいえ、都合が良すぎやしませんか?あれはミス・ウィンターが彼の懐に・・・」 コルベールの言を片手を上げる事で遮ってオスマンは大きなため息をついた。 「それこそどういう証拠があるというんじゃ。君は見たのかね?その現場にいたんじゃろ」 「い、いえ、それは・・・」 「なら君が見た光景が真実じゃ。それを覆すには証拠が足りんのだ。いずれにしろヴィリエ・ド・ロレーヌがロロ・ランぺルージの部屋から私物を盗み出したのは事実じゃろう。まあそれすらも誘導されたような気もするがな。彼には不名誉以外の何の罰も与えておらん。学院を自主退学したとは言えまだ将来の道は閉ざされとらんしのぅ」 もっともどれほど緘口令を敷こうが人の口に戸は立てられない。 スキャンダル好きの暇を持て余した貴族達の間では今回の件は噂話として広がるだろう。 ロレーヌ家はしばらくの間社交界に顔を出し辛いかもしれないが、時がそれを解決してくれる。 今回の一件では最悪誰かの命が失われたかもしれない。 万が一それがシャルロットであった場合、オスマンやコルベール、さらにはロレーヌ家の者まで皆物理的に首が飛びかねない。 あるいはトリステインの外交的な立場が一気に悪化した可能性もあった。 そう言った点を考慮に入れれば誰にとっても穏便な、ベストな結末だったと言える。 「これで良いんじゃよ。コルベール君、分かったかね?」 「そうですね・・・」 「納得いかんちゅう顔じゃのぅ」 「教育の場に政治が紛れ込むなんて、と思いまして」 難しい顔のコルベールを見やって、オスマンもしかめっ面を顔に貼り付け仰々しく頷いてみせる。 「元々この留学制度の拡大自体が政治の都合じゃからの。しかしまあ安心せい。こう言う事もあろうかと学院の自治性は揺るがんようにしておるのじゃ。それにこの留学制度の拡大も失敗しても政治に影響は出たりせんわい。所詮パフォーマンスの一貫なんじゃ」 このパフォーマンスを見て前に進んだと思う者が少しでもいれば目的は達成されたも同然だ。 トリステインとゲルマニアの間に横たわる確執は数人の生徒の交流程度で解消される様なものではない。 生徒間の交流は所詮個人のもので、彼等が大人になり政治を司る立場に就けばまた変化は起きるかもしれないが、その時になれば複雑に絡み合う国益を鑑みて友情よりも国を優先しなければならない時も出てきてしまう。 両国の関係改善にはまだまだ時間が必要だった。 「じゃからわしらは教育者としての立場を貫いておれば良いのじゃよ。しかしのぅ・・・あー、コルベール君、あの二人から目を離さんようにな。これ以上の問題はもうたくさんじゃ」 「分かっています」 オスマンが腹部を押さえ、コルベールが頭を撫でる。 ストレスは確実に彼等を蝕んでいた。 「早く冬の休みが来んかのぅ・・・」 「そうですね・・・」 少し尺が余ったのであとがきを。 ついになかなか名前を出せなかったマリアンヌ登場。 もちろんギアス世界の彼女です。 ちなみにこの世界でもルルーシュの実の母親だったりはしません。 髪と目は限りなく黒に近い藍色でイメージはギアスのマリアンヌそのままのイメージ。 デルフリンガーを所有していますが、学院に入学できるので魔法は使えます。 ついでに言うと「ド・ウィンター」の由来は三銃士の悪女「ミレディー・ド・ウィンター」より。 また、ヴィリエ・ド・ロレーヌは原作ではルイズ達の同級生ですがこの物語中では先輩という設定になっています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.11.25 01:40:50
|