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宮の独り言

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2010.12.31
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カテゴリ:コードギアス
それを聞いた時、才人はマルトーに再度聞き返した。
ぎこちない笑いを張り付けた顔が奇妙に引き攣る。
これ以上口にしたくないと、そう言っているようだった。

「だから、その・・・シエスタは別の貴族の家でメイドとして奉公する事になったんだ」
「それってここの仕事を辞めたって事ですか?」

浮き上がる嫌な予感。
先日の決闘騒ぎが原因で辞めさせられたのでは、という考えが脳裏を過る。
その考えが表情に出たのか、マルトーが慌てて手を振って否定の言葉を口にした。

「い、いやいや、違うんだ。学院に来られた貴族の方がシエスタの働きぶりを見てな!それで是非家で働いて欲しいって言ったんだ!凄い事だぞ!給料も増えるしな。良い事なんだ、なあ」

同意を求めてマルトーが厨房の者達を見た。
数名が気まずそうに笑って、残りの者達はそっとマルトーと才人から視線を外す。
皆それぞれに朝食の準備で黙々と仕事を続けていた。
だがその様子に活気はない。
マルトーは言葉に詰まって顔を顰めた。
才人は益々疑念を深める。
人の顔色を窺うのは得意だった。
故に彼らが何かを隠している事にはすぐに気がついた。
一体何だって言うんだ、才人は苛立ちを隠せずマルトーに迫った。

「やっぱり何かあったんじゃないんですか?」
「・・・ッ、何もねぇよ!」

突き放す様にマルトーの手がポンと才人の胸を押した。
放った大声の割にその仕草は思いのほか弱弱しいものだった。

「悪い、朝飯の準備で忙しいんだ。帰ってくれ」
「・・・分かりました」

これ以上居ても仕方がない、そう踏んで才人は踵を返した。
厨房の者達を見渡す。
マルトーとのやり取りに耳をそばだてていた皆が一斉に才人から目をそらした。
得体の知れない気持ち悪さが才人の胸の中でうねる。
すれ違いざまに一人のメイドが口を開こうとしたのを見た。
だが、マルトーからの睨みを受けて彼女が押し黙る。
才人は諦めて大人しくこの場を後にした。
厨房を出ていく彼の後姿を見送って、マルトーは彼の姿が消えてからしばし経った後、近くの椅子にドカンと乱暴に座り込んだ。
俯き両手で髪の毛をくしゃくしゃに掻く。

「マルトーさん、彼には本当に言わなくて・・・」
「言うなよ」
「でも彼ならきっと」
「馬鹿野郎!!」

マルトーは話しかけてきたメイドの一人を睨みつけて怒鳴った。

「才人にシエスタの事を言ってみろ!絶対に貴族の所に殴りこみをかけるに決まってんだろ!!」

そうなればこの間の決闘騒ぎどころの問題ではなくなる。
あれはオールド・オスマンの監督下にある学院内であったから、加えてギーシュの振る舞いにも不義理があったからこそ才人は注意程度の処分で済んだのだ。
これが一貴族の領地内となれば簡単には済まない。
領主たる貴族の権限が次第に強まる領内で才人が騒ぎを起こし、それが貴族の不利益にしかならないのであれば容赦なく裁かれる。
才人がどれほど強かろうと貴族社会のシステムそのものと戦う事は出来ない。
才人が起こすあろう行動を予想して、マルトーは口を噤んだ。
シエスタの事が気にならないわけではない。
彼女を引き抜いていった貴族、モット伯爵の悪い噂は常々聞いている。
平民の若く美しい少女を見つけると金と権力に物を言わせて屋敷に買い入れると言う。
買われていった少女達の末路は酷く惨めだ。
慰み者にされ、伯爵のさらなる快楽の為に禁制の薬で壊される。
薬漬けの影響で容色が衰えれば飽きられ、奴隷以下の扱いに落とされて何処かへ売り飛ばされる。
あの屋敷で働く事は学院のメイド達にとっては死にも等しい事。
一度門をくぐればまともな姿では二度と戻ってこられない。

「だからって何が出来るんだ」

貴族の力には逆らえない。
シエスタが逃げればその害は学院のメイド達や、あるいはその家族にまで及ぶ。
仕方がない、運が悪かったのだと諦めるのが一番利口な判断なのだと皆心の中では思っていた。

「くそぅ、何でシエスタ何だ・・・」

頭の良い礼儀正しい子だった。
田舎の村の出身でありながらも少しも鄙びた所がなく、彼女を密かに慕う者も多かった。
仕事もきちんとこなして、どれだけ疲れていても笑顔が絶えない明るい少女。
ふとマルトーは思った。
既に自分の中でも彼女の事は過去になっていた。
残酷な諦めが感情を縛る。
目の前のメイドの娘を見た。
確かシエスタの同室の娘だったか、彼女の顔にも悲壮な思いが漂っている。
出来る事があるとすれば、それはモット伯爵の良心に期待する事だけだった。
彼が邪な思いでシエスタを雇ったのではないのだと、決してシエスタが悲劇に見舞われる事などないのだと。
それは万に一もない奇跡を願う様な事だと思い知っていたのだが。





シエスタの身に何が起きたのか、才人はまだ分かりかねていた。
だがそれが良くない事だと言う事だけは非常に良く理解した。
マルトーのあの思いつめた様な表情、何かをひた隠して悟らせまいとする表情だった。
何か自分に知られたくない事があるのだと、才人は感じ取った。
もしかしたらシエスタは自発的に辞めたのだろうか。
何で辞めたんだよと才人は自分の近頃の行動を棚に上げて密かに思った。
まるで拗ねた子供の様にシエスタを無視していた自分の振る舞いには今思えば腹が立つ。
けれどそれを簡単に認められるほど才人は大人ではなかった。
苛立ちを覚えたまま、才人は別の誰かにシエスタの事情を聞くため歩きだす。
だがあまりにも聞きなれてしまった声が才人の耳に届いて、彼は足を止めた。

「ちょっと!ふらふらと何歩いてるのよ!!」

しぶしぶ振り返る。
そこに立っていたのは予想通り両手を腰に手を当ててムッとこちらを睨むルイズの姿だった。

「あんたは私の使い魔なんだから、ご主人様の傍を勝手に離れないでよね」
「知らねぇよ、そんなの。俺の勝手だろ」
「勝手な事しないで!あんたのせいで私がどれだけ恥をかいたと思ってのよ!!あんたを野放しにするとすぐに騒ぎを起こすんだから」

そんなルイズの物言いにカチンとくる。
だが才人は心の中で我慢我慢と唱えた。
こいつの態度はいつもこんな感じじゃないか、今更怒った所で何の意味もないし、初日みたいに延々と不毛な言い争いをしてどうするんだ。
あの時は知らない場所に居た混乱もあってつい我慢の限度を超えて手が出てしまったが、今度はギュっと手を握る事で衝動を抑え込んだ。
こんな理不尽な事を言われるのは慣れている。
頭の中を空っぽにしてひたすらに感情を希薄にしてただ聞き流せば良い。
きっと相手は言いたい事を言い終われば満足げに立ち去るのだから。

「ちょっと、聞いてるの!?」

自分の言葉に何の反応も示さない才人に向かってルイズが噛み付くように言った。
対して才人は神妙に聞いてますと答える。
その反応にルイズは少しだけ不満そうにジトっと才人の顔を見つめ、そして再び口を開こうとして、

「あの・・・」

才人の背後から声がかけられる。
見れば先程厨房内で何かを訴えた気にこちらを見ていたメイドだった。
彼女は何かを言おうとして、そして才人の後ろにいるルイズに気づく。
慌てて頭を下げた。

「じ、邪魔をしてしまい、申し訳ございません!!」
「何かあったのか?」

そこには若干の期待があった。
先程聞けなかった事情を話してもらえるのではないかと言う期待。
才人に無視された形になったルイズが何かを言う前に先んじて口を開く。
だが返ってきたのは声にならない躊躇の視線。
目が才人とルイズの二人の間を行ったり来たり、おそらくは喉まで出かかっていたであろう言葉は彼女の口の中で押し留められる。
体の前で組まれた両手が彼女の躊躇いを現す様に何度も組み替えられていた。
余程言い辛いのだろうかと才人は首を傾げた。

「何よ、言う事があるなら早く言いなさいよ」
「は、はい」

ルイズが促す。
才人はメイドの娘の目を見た。
涙で滲んだ瞳に見慣れた色を見つけた。
何かに縋りたい、そんな絶望に苦しむ感情の発露。
ゲットーに住む人達と同じ目をしていた。
才人はドクンと心臓の鼓動が大きく跳ねるを感じた。





日が落ちた。
空を見上げれば満天の星空と青白い双月が目に飛び込んでくる。
しかし今宵の夜空は薄らと雲がかかっていて深い闇が光や音を吸い込んでいく様な錯覚すら覚えてしまう。
幸いにも夜目は利く方だからこの程度の夜であれば、かえって色々と都合が良い。
この闇は自分のような罪人を抱擁し覆い隠してくれる慈悲深い存在だった。

「美しき闇夜に感謝を」

自身が紡ぎ出した言葉に酔いしれる様に暗がりの中で人影が走る。
黒の外套に身を包み、立てる音は最小限。
元より人目がないこの場所で忍ぶ意味等ないがこの先に待ち受ける試練の為の練習だと思えば自然と力が入ると言うものだ。
ふと立ち止まる。
目の前に現れたのは大きな屋敷だった。
月明かりすら乏しい闇夜の中で煌々と灯された灯りによってぼうっと浮かび上がる様に見える。
幾つもの窓から零れる灯りはまるで金色に輝いているようだった。
まさに暗闇に眠る財貨。
無数の犠牲の上に成り立つ貴族の既得権益が生み出した血塗られた金。
特にこの屋敷の主の所業はかなりのものと聞いている。
己の欲望の為に無数の女性を踏みにじる行い、何時天罰が下ってもおかしくはない。

「天罰か・・・」

自分こそがその天罰だと気取ってみる。
あの男の報いの一撃を、そう訴えかけたとある女性の言葉を思い出した。
美しかったという容貌は禁忌の秘薬によって侵され、崩れ落ちた肌を包帯の下に隠した彼女の言葉は自分を動かすに十分すぎるものであった。
腰から下げたレイピアの柄をポンポンと叩く。
ジュール・ド・モット伯爵、裁きの鉄槌を下す相手の名を思い浮かべ屋敷へと向かう。
屋敷の周りに無数の灯火が幾つも掲げられている。
大勢の人の気配もあった。
自分が送った予告状の成した結果だと知る。
いつもの相手がいつもの様に待ち構えているのだろう。
ならばいつもの様にからかって煙に巻くだけだ。
ふと耳に小さな音が届いた。
草むらに身を潜め様子を窺う。
道を一台の馬車が進んでいた。
道の端にその馬車が止まり数名の人が降りてくる。
彼らの中に見知った人物を見つけて思わず息を飲んだ。
会話を聞くべく感覚を研ぎ澄ませる。

「あれがモット伯爵とやらの屋敷か」
「はい、でも、あの・・・本当に行くんですか?」
「ああ、シエスタがあそこに居るんだろ?」
「・・・ごめんなさい。自分では何もせずにあなた方に頼んでしまうなんて、私は卑怯ですよね」
「気にすんなって。俺が行きたいから行くんだし」
「ほら、喋ってないで行くわよ。さっさと片付けて帰るんだから!」
「おい、待てって」
「良い?馬車はここで待たせておくのよ。すぐにメイドの子をモット伯爵から取り戻して帰って来るわよ」
「はい。分かりました」

おや、と目を見開く。
これは面白い。
まさかあの連中もモット伯爵の屋敷に向かおうとしてるとは。
さてさて、どうするか。
しばし考えしばらく付近に身を潜める事にする。
モット伯爵家に向かって歩き出した二人には囮になってもらおう。
その方が仕事がやり易い。
モット伯爵に襲いかかる不運を思いながら身を隠すに相応しい場所へと向かう。
後はタイミングを推し量るだけ。
すぐさま暗闇の中へと身を躍らせた。





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最終更新日  2011.01.01 00:07:18
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