第8話 『タカシ』
穏やかな午前中の空気とはうらはらに、工場に面した片側3斜線の道路をバカでかいトラック達がビュンビュンとスピードをあげて通り過ぎてゆく。おいおい、お前等、誰と競ってんだよって位に。 バタン。 バタン。 車から降りると、排気ガスまじりだが午前の気温の心地よさを肌で感じる。バイクで走ってた時はあんなに寒く感じてたのに数時間でこんなにも違うもんか。「ねぇ、居ないじゃん。どうすんの玉井くん。」「うーん、とりあえずこの周り捜すか。」「えっー?ヤだよ、周りって言ったってスゴイ広いじゃん。」「大丈夫だって、吉田の話しじゃ後ろで車の音がしてたらしいから、そんなにこの道路から離れてないハズだろ」 うーん。なかなかいい推理だ。実は俺、毎週月曜日は必ず見ている番組がある。今や国民的番組とも言える、と言えばもう解かるだろう、そう「名探偵コナン」なにがいいって、あの推理力。 コナンにかかればどんな事件も解決される。 言わば俺の師匠のようなもんだ。 今日の俺はコナン並に冴えている。 電話の主も必ず見つかるはずだ。そう確信した。「バカじゃないの? だってこんなに広いんだよ? この道路に面してる距離だって長いし、それにこの敷地の反対側にだって車が走る道路があるかもしんないじゃないよ。」「あ、いや、だから、それは・・・。あーわかったよ、じゃあ俺が一人で見てくるから秋乃はここで待ってろよ」「えー!何時間かかるか、わかんないじゃん。ヤだよ恐いもん。」「大丈夫だって、こんな朝っぱらから襲ってくる奴なんかいないし、車ん中で鍵閉めておけばいいだろ。 なんなら、そこのMD聞いて待ってろよ。 大した曲入ってないけど。」「これアタシん家の車でしょ。 なんで玉井くんがそんな事言うのよ。 もう、言っておくけどバカみたいに1周してこないでよ。 道路に面してるとこは車で移動すればいいんだから。」「判ってるよ。俺めちゃくちゃ足速いからすぐ戻ってくるよ」 あっぶねぇ~。 俺まんまと1周するつもりだった。 しかし秋乃もなかなか頭いいなぁ。 よし、アイツも少年探偵団に入れてやろう。 工場の周りは、多くの緑で囲まれていた。 秋乃の乗った車を背にしながら俺は工場の周囲にはりめぐらされてるフェンス沿いを少し早歩きで進んだ。 外側から見える工場は、回収車のほとんどが出払っていて忽然としている感じがした。 左側には雑木林の中に、誰が捨てたのか解からない雑誌や錆びたペンキの缶などが転がっている。 清掃工場の隣りがこんなに汚いとは・・・。 などと考えていた時ポケットの中で携帯が鳴った。 ピリリリリリリリッ。 思わずビクッとしてしまったので、秋乃の乗った車を振りかえりながら電話に出た。「はい、もしもし」「玉井?オイラ、吉田だけど。時間できたから今から工場まで行ってみないか。」 あぁそうだ。 コイツは俺が我慢できずに先に探しにきている事をしらない。「ワリぃ。実はもうコッチ来てんだ。しかもナゼか秋乃も・・・っ!?」 バタンッ。 その時遠くで音がした。 キュルキュルキュル!ブオー-ン・・・。 目の前で、車が動きだしたんだ。 秋乃の乗った車が。 アイツ、車の免許なんか持ってないのに・・・。第1話から読み直す→→→http://plaza.rakuten.co.jp/shunkay/diary/?ctgy=6