週刊 読書案内 朝倉裕子「雷がなっている」(編集工房ノア)
朝倉裕子「雷がなっている」(編集工房ノア) 70歳の女性が90歳の母との別れを「母の眉」という1冊の詩集にまとめられた朝倉裕子さんの新しいというか、同じ時期にお書きになったらしい詩を集めた「雷がなっている」(編集工房ノア)という詩集を読んでいて、あっ!? と驚いた詩にであいました。ぼくのこと君にどうみえるのか川端の道を歩いていると後ろからゆっくりと自転車が追い越していった薄ピンクのTシャツに黒いキャップ帽背中の襟首あたりHow Do I Look?小さな文字を背負っている昔 若いフォーク歌手が歌っていた ぼくのこと君にどうみえるのか 今夜泊まるところもないんだと思うのか 腹が減って死にそうなんだと思うのか 淋しくって気が狂いそうなんだと思うのか猫背のおじさん子どもからみればおじいさん急ぎの用にはみえないいつもの喫茶店の遅いモーニングサービスを食べに行くのか図書館の雑誌コーナーへ行くのかその先のショッピングセンターのソファで本でも読むのか賢い奥さんに夕方まで帰らないように言われているのか夕方には洗濯物を取り込むように言われているのかそれとも小犬の散歩自転車はゆったりと先をゆくなれた様子は明日も自転車に乗っているのだろう柳がゆれる梅雨の晴れ間に風が吹き抜けてなんだかしあわせそうHow Do I Look?Tシャツは誰が買ったのだろう 詩のなかに出てくる若いフォーク歌手は、友部正人ですね。彼には、同じ題の歌があります。たしか、発売禁止になった「どうして旅に出なかったんだ」というLPに入っていた歌でこんな歌です。ぼくのこと君にはどう見えるのか 友部正人たとえばぼくが道路の上を歩いている時今夜泊まるところもないんだと思うのかたった今彼女と別れてきたところだと思うのか寂しくって気が狂いそうなんだと思うのか今日も何も書けなかった漫画家みたいだと思うのか声のでなくなった歌手みたいだと思うのかぼくのこと君にはどう見えるのかたとえばぼくがこの町を出ていく時氷が折れたんだと思うのか手紙が来たんだと思うのか糸が切れたんだと思うのか季節がきたんだと思うのかぼくのつばさが見えたのかまた帰ってくると思うのか夜更けの新宿中央公園を歩いていたら「にいさん 寂しそうだね」って2人づれのこじきに声かけられた行くあてもなさそうに見えたのかそれとも今にもなにかしそうに見えたのか2人づれのこじきはほろ酔い心地石油かんをたたきながら歩いて行った小高い丘の上から新宿の灯を見ていたんだするとなんとなく「にいさん しあわせそうだね」って言われたような気がしたんだ 「ぼく」は「にいさん 寂しそうだね」と声をかけられたのであって、「にいさん しあわせそうだね」っていわれたわけではありません。詩人は「なんだかしあわせそう」と思いながら、自転車の老人の後ろ姿を見ていらっしゃるようです。 阪急の駅の名前が、まだ「西灘」だったころ、水道筋の近くにあった6畳のボクの下宿の部屋に勝手に上がり込んで、電気もつけずに友部正人のLPを繰り返し聞いていた友人がいました。1976年のことです。あれから50年ほどもたったんですね。 詩の題名を見て、すぐに気付きました。で、詩を繰り返し読み直しながら、あの頃、朝倉さんも、どこかで、「今度、きみにいつ会える?」とか口ずさんでいらっしゃったんじゃないだろうかと、新しい友達を見つけたような嬉しい気持ちになった詩でした。 退職されて、10数年、詩を書き続けていらっしゃる詩人の、おそらく、散歩の途中とかなのでしょうね、ふと浮かんできているのであろう記憶が、読んでいるボクをあのころへと連れ戻していきながら、「ああ、ほかにも聴いていた人がいたんだ!」 という、まあ、あたり前といえばあたり前のことなのですが、なんだか嬉しい発見というか、記憶への共感をしみじみと感じた詩でした。こういうこともあるのですね(笑)。 追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)