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第25回
[場面二十四] 平取町 戌井牧場 【スターアクエリアス号 危機一髪】 風に吹かれ舞い上がるたてがみは、まるで怒りの炎 朝日に輝くのは黄金の栗毛 流星はどこまで行っても流星、燃え尽きはしない 心地よいリズムが響く四白 見る者から言葉を奪う、藍色の澄んだ瞳 時空を越えた天馬 「なんとも言葉がありませんね。本当にすばらしい。言葉では表現できない美しさですね、四白流星のスターアクエリアス号の美しさは」 「シャーロックさん、こんな美しい馬だって、復帰した後の、あの成績では、行く末はソーセージよ」 「そんな馬鹿な」 「それでは、誰がこの馬の飼育料を払うのですか。皆さん、馬は好きだ、スターアクエリアス号のファンだ、とは言っても、競争生活を終えたスターアクエリアス号の飼育料を、私が払います、とは誰も言わないでしょう」 「みどりさんは、このスターアクエリアス号がソーセージになるのを、見るに見かねて、誘拐したんですか」 「そのことは聞かないという約束でしょう」 「わかりました。この戌井牧場というのは、この平取でも、外れというか、奥地というか、ここでしたら、誰にも見つかる心配はありませんね」 「シャーロックさんが喋らなければね」 「いや、もう1人心配な人がいるんですけれども、ここに来るときには気を付けていましたから大丈夫ですよ」 「だれなのその、心配な人とは」 「私以外に、スターアクエリアス号の誘拐に極めて興味を持っている人たちの、アンテナみたいな女性ですよ」 「シャーロックさんはその方に会ったことがあるの」 「ええ何回かね、だって、そのアンテナは、どちらかというと、木内牧場よりは、私の方に向けられているんですからね、今でも」 「なんとなくわかったわ、どこのアンテナか。そのアンテナならば大丈夫よ、たとえスターアクエリアス号の居場所を発見したとしても、表ざたにはしないわよ」 甘かったのだ、私はまた。木内牧場を出るときに充分車の後ろを見て、尾行されていないかを気を付けていたので、田中ゆかりのことは大丈夫だと思っていた。しかし規則正し行動は、犯罪者に狙われやすい。千歳空港に着くたびに、同じレンタカー会社から、同じ車を借りていた。あのアンテナ女は、私の車にアンテナをつけていた。たぶん門別での昼食のときだろう。後でわかったのだが、私のレンタカーには発信機がつけられていた。その夜もまた、すでに問題の一部になってしまった者として、木内牧場に泊まったが、夜の12時頃に目が覚めてしまい、急にまた、スターアクエリアス号を見たくなった。戌井牧場は囲いらしい囲いもないオープンな牧場なので、今行ってもスターアクエリアス号を見ることが出来るだろうと思ったのだ。みどりさんは寝ているので、そっと1人で車を走らせ、戌井牧場に入る小道のところに車を止めた。不思議なことに、すでにそこには、もう1台の車が止まっていた、見覚えのある車だ。 車を降りて、牧場に近づくと黒い影があった。その黒い影は、いくつかの馬房を探った後、スターアクエリアス号の馬房の前に立つと、ポケットから何か出して、スターアクエリアス号の場房の中に入った。危ない、行こう。 「こら! そこで何をしているんだ」 「きゃー、何すんのよ、乱暴ね」 「やはりあんたか、田中ゆかり、いったいお前は、このスターアクエリアス号に何をしようとしたんだ。それを貸しなさい」 私は田中ゆかりから注射器のようなものを取り上げた。そうこうしているうちに、戌井牧場の人たちが、物音を聞きつけて起きて来た。日中会って私の顔は知っていたので、とりあえず、その場で私は、田中ゆかりに尋問を始めた。しかしそれは無理であった。このアンテナ女は、一切口を利かなかった。文句あるのなら警察に突き出せばいいじゃない、とだけ言った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.06.02 06:56:14
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