湯本 香樹実の小説には、この「夏の庭」そして「秋のポプラ」「春のオルガン」とある。
その中で、彼女の代表作と言われるのがこの作品だ。
少年3人が死ぬ瞬間を見ようと、町外れに暮らす老人を観察し始める。
死ぬってどういうこと?死んだらどうなるの?死んだ人ってどんなふう?
子どもの恐怖と好奇心。
少年達は夏休みに入り、老人の家を見張る。
そのうちに、いつしか老人との交流が始まる。
なぜか老人の家のゴミ出し、庭の草取り、洗濯等するようになり、どんどん交流が深まる。
そしてなぜが、老人は日ごとに元気になるようだ!
最初の頃の少年と老人との攻防戦、接触が楽しい。
老人の「してやったり」という場面や、子供達の慌てぶりなど・・
そんな交流の中で、老人は少年達に戦争の体験を語る。
そして老人の思い出に出てくる、老人の妻を探し出そうと少年達は奔走するようになる。
少年達は、母親がアルコール依存症だったり、家が魚屋なのだがサラリーマンになれと尻をたたかれたり、母子家庭で母親から父親に対する恨み言を聞かされたり、少年達を取り巻く事情もさまざまだ。
この少年達の書き方がとても上手いと思う。
老人との交流を通して、彼らは一歩階段を上がる、そんな夏休みの思い出がここにある。
そうそう、老人の描写が結構面白い。
「なにか文句あるか」的な目つきで、景色を眺め回すとか(笑)
顔については
「ソラマメみたいな形で、ちょんちょんと黒い点のような目、黄色というか茶色の歯、頭のはげたところがつやつや、顔半分下はごま色無精ひげにごわごわ覆われている」・・とか
子供達にとっては、恐いお爺さんという感じがよくわかる。
好きな小説は、ページが残り少なくなると魅力的な主人公と別れるのが、とっても辛くなる。
この小説でも、もっと彼らを見ていたいと思った。
そんな一冊です。
☆「夏の庭 The Friends」映画(1994)☆
相米慎二監督
三国連太郎が老人役になって、この小説が映画化されている。
小説を読んでからこの映画を見た。
やはり小説のほうが良かったのだけれども・・・
映画だけ見れば、これはこれで、いいのだろうな~~。
ただね、最期のストーリーがビジュアル的な面からか、変わっているのがね~。
子供達の女性担任という小説では出てこない人物が、絡んでくるのだ。
ただ、子どもと老人だけでは、映像化したときにつまらないのかしらね~~。
小説ではそれだけで十分に魅力があったんだけどね。
そこが不満といえば不満だな。