優しくしないで!
私がこんなに嫉妬深い女だとは自分でも思わなかった。。。彼が離れたところから大きな素振りで私に投げキッスを送った。私は彼にちょっと微笑んで、目を伏せた。素直に彼を見ることができなかった。 「私、もう部屋に戻るわ。」 「Hey, baby…どうしたんだよ?本当にもう戻るのか?どうして?」 「明日の出発は朝が早いし。それにDarling,私はもう戻ったほうが良さそうだわ。」 「本当にいくのか?」彼の顔が怒った様な困ったような顔になって私を見つめた。私も泣きそうになりながら彼の目を見つめた。その目の中に嫉妬が燃えていることを彼は本当に気づいていないのか、気づかない振りをしているだけなのか…?私はもっと引き止めて欲しくて、本当は部屋なんかに帰りたくない。朝が早いのだってどうだって良い。彼と一緒にいたいだけなのに。やっぱり“言葉の裏”なんて言う物は文化の違いで伝わらないんだって後悔した。彼の青い目は再び私と彼の間に割り込んで入ってきた黒人女へと戻されていく…。こんな思いをするならもっと早い内に手を打って置けば良かった。意地なんて張らずに黒人女を追っ払って置けばよかったんだ。女がトイレに立ったときしか彼のもとにいけないなんて!!!!「本当にいくわ。(本心じゃない。あの女を向こうへやって!)」「COME’N! Baby.一体どうしたんだよ?本当にいくのか?わかったよ。」周りに人が居たけど彼は立ち上がって私抱きしめた。「後で電話するよ。明日会えないかもしれないから、パースまで気をつけて行くんだよ。向こうで会おう。OK?Baby?」彼は私のほっぺと首にたくさんキスをした。別に甘い雰囲気は私にはなく、ただ彼を睨む様に見つめた嫉妬深い女が居ただけだった。彼の青い目がやっぱり困ったように揺れた。私の無言の強要に気づいたからかもしれない。私たちがテーブルの前でキスしたのを見た仲間も居るかもしれないけど、私は気にしなかった。それでもなお一緒にいたい気持ちは変わらない自分に苛立たしさを感じた。理由をつけてはそこに留まろうとする私。もう馬鹿みたい!!!(私にするみたいにその女にもするんでしょ!見たくないそんなの。。。)でも私が居なかったら本当に何が怒るか分からない。その確信のせいで私は部屋には戻れなかった。どうせもっといやな思いするだけなのに…。*****************シドニー最後の日。私は韓国人のウンイとシティでのデートの約束だった。1時の約束はまったく連絡のないまま、私はただひたすら待つしかなかった。夕方五時まで待っては見たものの、出発の準備も残っていたので、SMSにメッセージを残して自宅へと帰った。一体何十回彼に電話したんだろう?返事は一向になかった。それでも‘いつかは連絡がある’という思いから不思議と怒りはなかった。自分でも人の好すぎに呆れてしまう。結局彼から連絡があったのは夜中を回った2時。すでにあきらめてうとうとしていた私の元に届いたSMS。侘びの言葉と今家に帰ったこと、日本に帰っても絶対に連絡を取り合おうということ、そんなことが書かれていた。一日中待っていた私。話がしたいと思うのは当然でしょ?最後のデートをすっぽかされて。電話をすぐに鳴らしたけど、コールは突然留守電に切り替えられた。仕方なく再びSMSを送る。「本当に悪いと思ってるなら、ちゃんと電話して埋め合わせしてね!」ちょっと甘やかしすぎじゃない?私の気持ちもてあそんで…と自分に思いながらも送信。そして彼からの返信。(電話に出ないくせに)内容は突然だった。「本当は言いたくなかったんだけど、俺には実はガールフレンドがいるんだ。でもね、聞いて。君の事をSEXだけとは見ていなかった。このことは何回も君に話したし、もう知っているでしょ?だから信じて欲しい。彼女が居ることももう話したと思っていたけど、知らなかったって知って、君が俺を好きだと気づいたときに話そうって思ってたんだ。本当だよ。でも出来なかった。それは俺が・・」文章は途中で切れて終わっていた。彼に対しての感情は愛じゃないことも私は自分で知っていた。でも彼に対しては愛に見せるように振舞っていることも私の中では当然の事実だった。愛じゃなく、ただの執着。だから「彼女が居る」という事実を聞いても彼女がどんな人とか、その彼女について考えることは何もなった。ただ、こんな形で一方的に振られるのはひど過ぎる。再びすぐに電話を鳴らした。これが最後だ。出るだろうって思った。出ないなんて有得なかった。でもやつは出なかった。「何で電話に出ないの!そんなのフェアじゃない。私はウンイが話したことよりもそのやり方が気に入らない。そんなのってひど過ぎる。もう、信じられないよ」言いたいことが沢山ありすぎた。でも終わりは本当にあっけなくやってきた。「そうか」日本語でそう一言かかれていただけだった。「何がそうか、なの?どうしてそんなことが出来るの?ちゃんと話がしたい。でももう話したくないって言うならそれでもいいよ」そしてもう二度とメールも電話もなることがなかった。それから数時間後、早朝の飛行機で私は振り返ることなく、シドニーを後にした。空港に向かトレインと飛行機のなかは自然と涙が出てきた。奴の仕打ちに腹が立って悔しくて。本当は私は分かって居たんだ。女の影を感じなかった訳じゃない。でもそれは最初から気にして居なかったんだから。****************そしてエアーズロックのツアーに参加する目的でやってきたアリススプリングス。一人旅の寂しさがどっしりと圧し掛かった。前泊のバックパッカーズでは殆ど外に出ることなく部屋に閉じこもって夜を明かした。おっぱからの電話と日記につづることで、それは一日で気持ちも晴れていった。彼の存在ってそれだけのものだったんだ…。あっけ無さに自分でもがっかり。翌朝早朝、ツアーの参加者が続々と集まっていた。心が忙しくて、昨日のことなんて考える暇なかった。こっちを見ている男の子が居たので「HI」というと彼も「HI」といった。私が声をかけたことにちょっと驚いているような気がしたのは気のせいではなかったようだ。イギリス人のNickとはそれ以来ずっとおしゃべりをし続けた。ごりごりの心を溶かしてくれるのも彼だった。人と近づくのが早いのは私の長所でもあるけど、こういう場合、短所になる可能性がずいぶん高い。男に関しては本当にそう。彼との関係の早さも、この時点でもしかしたら気づいていたのかもしれない。今日であったとは思えないくらい私たちは仲良くなっていく。一人座っていると彼が横に来て腰を下ろす。「もし君も僕もオーストラリアに住んでいたなら、僕は君のボーイフレンドになりたい。君は素敵な子だよ。だからもうコリアンガイのことは忘れなよ。ほかに男の子探したほうがぜんぜん簡単だから」そういってくれる人が居てくれて本当に嬉しいって思った。ツアーはキャンプなので、私たちは外に寝袋で寝る。ニックが私に彼のそばで寝るようにでかい声で呼ぶ。「一晩中お喋りしよう!」何つって。みんな寝静まってしまったので私たちも寝ないわけには行かなかった。「じゃぁ、お休みのキスして」と彼がほっぺをわたしに向ける。出来ない…。私には出来ない。理由があった。一緒にツアーに参加している韓国人のジンシの存在があったから。彼には見られたくないから。ニックに呼ばれるまでは私ジンの横で寝るつもりで準備してたの。でもニックに呼ばれて断る理由も無くて彼のほうに頭を向けて、ジンには脚を向ける形になってしまった。すぐ近くに居るのは間違いない。ニックに韓国語が分からないことを良いことにジンには韓国語で「だーりん、私の夢を見てね!夢で会おうね!約束だよ!」なんて言ってみたりする。なんて女だって思いながら。。。だからジンにニックとのことを冷やかされるのは凄く嫌だったりするんけど、ニックの積極性に押されまくる私。日本人や韓国人には無いオープンな感覚が私にはとっても心地よくて、ジンのことを気にしながら結局ニックに靡いて行った。「ほら、なんか忘れてない?君がキスしてくれなきゃ寝られないよ」「いや。私はしない。YOU DO!」「NO!YOU DO!」そんな繰り返しで盛り上がる私たち。そして彼が自分の指先にキスをしてその指を私の唇に押し当てた。「さ、君の番だよ。してくれないの?」だめ。ジンに見られたくない!「NO.」ニック不貞寝。そうして満点の夜空の元、初日の夜は過ぎていった。翌日何度も「君が昨日キスをしてくれなかったから」そんな言葉を聞く羽目になったんだけど。。。彼は私の目が好きだという。私も彼の青い目に吸い込まれる。見詰め合って話をすると、例え人が居ても周りには聞こえないような声でささやく。何か違う世界がそこには生まれる。「Tonight, I wanna kiss you.」突然の言葉に絶句。そうストレートにこられると…。そういうのはオ-ストラリアに来て初めての経験じゃない。でもやっぱりそういう時は言葉を失う。「え?you gonna kiss me?」「I am!」「出来るものならね。」私は軽くあしらった。そしてその夜私たちは…。つづく。