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燕云台 The Legend of Xiao Chuo 第47話「太后の悲願」 祝宴に現れた撻覧阿鉢(タツランアハツ)は無骨な男だった。 皇太后・蕭燕燕(ショウエンエン)は不信感を募らせたが、皇太妃・蕭胡輦(ショウコレン)が寵愛している男では見逃すしかない。 「ところで大姐…南方の国境で戦が絶えず、近々、軍を送るつもりで各地から兵馬を招集しているの 北方が落ち着いているなら大姐の兵馬を貸してもらえないかしら?」 そこで胡輦は撻覧阿鉢に率いさせてはどうかと提案した。 しかし燕燕は大事な一戦、自分が信じられるのは大姐だけだという。 すると胡輦は各部族を従わせたばかりで、どちらにしても多くの兵馬を出すことはできないと暗に断った。 祝宴は散会した。 すると撻覧阿鉢は胡輦に南方行きは嫌だと訴える。 胡輦は撻覧阿鉢が侮られないよう将軍に封じたが、敬われるためには軍功が必要になると説得した。 「南方で功を立てて欲しい、そうすればあなた自身と私を守る力が得られるの」 撻覧阿鉢は胡輦のためならと了承したが、明らかに燕燕に嫌われているようだとこぼした。 しかし胡輦は嫌いなのではなく、知らないだけだという。 実は胡輦も燕燕と会うのは久しぶりで、かつての仲良し姉妹ではないと吐露した。 燕燕は大姐が一介の馬丁に兵を率いらせると言い出したことに失望していた。 しかし韓徳譲(カントクジョウ)は胡輦が長年、寡婦だった上、罨撒葛(エンサーグァ)との婚姻も幸せではなかったと同情する。 ようやく心から愛せる相手に出会えたのなら、少しくらいの厚遇は仕方がないだろう。 あの暴れ馬のような撻覧阿鉢が胡輦のために様々な束縛に耐えているのも、胡輦を愛しているからだ。 「こたびは長年のわだかまりを解きに来たのだろう?撻覧阿鉢ごときで目的を失うな」 燕燕はともかく大姐に上京(ジョウケイ)へ戻るよう説得することにした。 翌朝、燕燕は大姐の寝宮を訪ねた。 胡輦の居所は昔と変わらず余計なものがなく、すっきりしている。 すると燕燕は人払いし、昔のように大姐の寝台に腰掛け、足をぶらぶらさせた。 「ふふ、いくつになったの?高貴な太后が子供みたいね」 無邪気な燕燕の姿はかつての無鉄砲な幼い妹に見える。 そこで燕燕は胡輦を隣に座らせた。 父も二姐も亡くなり家族で残ったのは2人だけ、近くに住んで姉妹で助け合いたいという。 「撻覧阿鉢と離れたくないんでしょう?ふふ… 大姐に愛する人ができたのを見て安心したし、嬉しく思ったわ かつて大姐は私たちのためにやむを得ず罨撒葛に嫁いだ」 「…罨撒葛は私に優しかったわ」 「大姐、私を恨んでいるのね」 「何を言うの?私たちは家族よ?あなたは永遠に妹なの」 胡輦は姉妹の情を思い出し、軍務を片付けたら上京へ戻ると約束した。 胡輦は撻覧阿鉢に上京へ一緒に行こうと誘った。 すると撻覧阿鉢は皇太妃として上京へ行けと命令すればいいという。 しかし胡輦は草原で自由気ままに生きて来た撻覧阿鉢にとって上京の城壁は高すぎると分かっていた。 「あなたを動かせるのはあなたの心だけ」 胡輦は撻覧阿鉢を解放することにした。 上京に戻った燕燕は早速、朝議で国阿輦(コクアレン)の半数を呼んだと伝えた。 韓徳譲も各部族の兵馬が揃い、あとは皇太后の命を待つのみだという。 すると聖宗(セイソウ)・耶律隆緒(ヤリツリュウショ)が今回は親征すると表明した。 「はお…近日、全軍を挙げて陛下と南方へ!」 燕燕は出征前に病床にある大于越(ダイウエツ)・耶律休哥(ヤリツキュウカ)を見舞った。 そこで南征の目的は瀛(エイ)州と莫(バク)州の奪還と、和議を促して天下を太平にすることだと伝える。 休哥は南朝を討つことが目的ではないと知って安堵し、皇太后の深い狙いに感銘を受けた。 胡輦が上京へ発つ日、撻覧阿鉢が馬を駆けてやって来た。 「見送りに来てくれたの?」 「そうじゃない、一緒に上京に行くよ」 「無理しないで、草原の馬に上京は似合わないわ」 「いや、俺は自分の心に従う、俺の心は君の元にあるんだ」 遼軍は破竹の勢いで澶(セン)州城を目前にしていた。 しかし軍営に思わぬ急報が届く。 蕭達凛(ショウタツリン)が澶州の地形を偵察中、敵の弩(イシユミ)に射られて亡くなったという。 あまりの衝撃に立ちくらみを起こす燕燕、すると達凛の死によって士気も下がり、澶州城を落とせないまま1ヶ月が経った。 そんな中、今度は療養していた耶律休哥が亡くなったと知らせが届く。 立て続けに親しい友を失った燕燕は人生のはかなさを知りながらも、やはり胸が傷んだ。 そこで韓徳譲はそろそろ手を引いた方が良いと切り出す。 燕燕は本来なら州と郡をいくつか得てから和睦の交渉を持ちかけるつもりだったが、南朝の新たな君主は予想外に知勇を備えていた。 徳譲はようやく最近の猛攻が和議の主導権を得るためだったと気づく。 「安心したよ、達凛の死で気落ちしているかと…」 「君主に私情は禁物よ、大局を忘れてはならない」 燕燕は自分の命があるうちに遼と南朝の対立を解決するため、徳譲と手を取り合い動き出した。 燕燕は戸部侍郎・王継忠(オウケイチュウ)を呼んだ。 王継忠は南朝の君主が親王だった時の配下だったが、傷を負って捕虜となり、遼に帰服している。 皇太后に忠誠を誓って皇族との婚姻を賜り、数年経っていた。 そこで燕燕はかつて両国の和議を願っていた王継忠を使者にしたいという。 実は王継忠を生かして厚遇して来たのはこの日のためだった。 …統和22年、25年間にわたる戦の末に遼と宋は澶(セン)州にて盟約を結んだ 両国は兄弟国となり、白溝(ハクコウ)河を国境とする 澶州は宋で″澶淵(センエン)″と呼ばれていたため、この盟約を″澶淵の盟″と呼んだ これにより両国の往来が始まり、120年にわたる平和の時代が幕を開けたのである… 聖宗は母の南征の狙いが最初から講和と諸王たちの兵権を奪うことだったと知った。 「忘れないで、力のある者だけが戦を終わらせ平和を得られると…それが真の勝者よ」 「肝に銘じます」 悲願を叶え、大姐との再会を待つだけとなった燕燕、そこで今後の朝政については聖宗の考えに任せると決めた。 皇太后と聖宗が上京に戻った。 すでに帰京していた胡輦は宮中でも撻覧阿鉢の自由にさせていたが、今夜の開皇(カイコウ)殿での祝宴には一緒に行こうという。 実は皇太妃が馬丁だった男と宮中に住むことを批判する者が少なからずいた。 胡輦は宴に同席させることで皇太后と聖宗が撻覧阿鉢を認めていると知らしめたいという。 こうして和やかに始まった祝宴、しかし聖宗の発言で状況が一変した。 「皇太妃、国阿輦の戦術は見事だったゆえ、将兵たちを各軍に分けて手本にしたいと思う 国境を守り続けた皇太妃にこれ以上、苦労はさせられぬ 北方の政務を降りて残りの兵も引き上げ、上京でゆっくりと…」 驚いた燕燕は咄嗟に息子の言葉を遮り、これはあくまで孝心からのいたわりだと取り繕う。 胡輦は事を荒立てまいとこらえたが、撻覧阿鉢が黙っていなかった。 「蕭燕燕!胡輦は長年国境を守り、兵まで貸したのだぞ?そして大勢が死んだ 国阿輦の力を借りながら、褒美を与えるどころか兵を奪うとは…抜け目のないやつだ! 呼び戻したのは罠だったのか!」 燕燕はカッとなって机を叩き、撻覧阿鉢を捕らえて鞭で打てと命じた。 焦った胡輦は抵抗する撻覧阿鉢を引っ叩いて黙らせ、自ら罰を与えたいと申し出る。 大臣たちも無礼な撻覧阿鉢に猛反発したが、燕燕は大姐に任せることにした。 胡輦は手加減せず撻覧阿鉢に鞭を振り下ろした。 撻覧阿鉢の背中には痛々しい傷が残り、寝宮に連れ帰った胡輦は目を潤ませながら手当てする。 「私を恨んでいる?」 「君は俺を救った、憎いのは燕燕だ」 撻覧阿鉢は燕燕が姉妹の情に訴え胡輦を呼び戻したが、全て陰謀だったと憤る。 すると胡輦もようやく燕燕の策だったと気づき、やはり北方へ戻ると決意した。 一方、燕燕は何の相談もなく皇太妃の兵権を奪おうとした隆緒に怒り心頭だった。 しかし聖宗は北方で天子より皇太妃が敬われていることを懸念し、何より皇太妃は馬丁に惑わされているという。 「奴を甘やかし、宮中に住まわせているのですよ?朝廷では非難囂々です!」 つづく (  ̄꒳ ̄)あ〜大姐、どうしちゃったの? あーぼーは連れて来ちゃダメだって〜 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.11.20 16:56:55
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