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二世帯住宅生活日記

二世帯住宅生活日記

きものエッセイ2006

「発症! 着物ウィルス」

 日本人のB型・C型肝炎キャリア(未発症の感染者)は四百万人、人口の約三パーセントだそうである。私は、着物ウィルスのキャリアは現代日本人の六割はいると思っている。まず、女性は全員、疑陽性。
 私自身、三六歳まで発症しなかったが、一足早く発症した友人の着物姿に刺激され、昨年は相当重篤な病態に陥った。曰く、京都市内の古着屋を踏破し、天神さん弘法さんなど骨董市に通い詰め、ネットオークションで着物や帯を落札しまくった。雨降り以外のおでかけは、みな着物。
 着物を嫌いな日本女性はいない。美しくなりたいと思わない女がこの世にいないように。着物を着たことのない友人は誰でも「興味はあるんだけど」と言う。「でも高いし、めんどくさそうだし」。私が骨董市で買った作家物の鮫小紋を「これ二千円」と言うと目の色が変わる。「ポリエステルなら洗濯機で洗えるよ」と言うと身を乗り出す。「じゃあちょっと着せてあげようか」と着つけてしまえばこっちのもの、友人は鏡の中の己の艶姿にうっとりし、着物ウィルスを発症させる。年配者もご同様。「今さら着物なんて」と言っていた姑も、礼装ではないおしゃれ着の大島を着せれば「あら、いいわね」。
 着物ウィルスは症状が進行する。最初はポリエステルのプレタや古着で浮かれていた私も、しだいに目が肥えてきて、「やっぱり手描友禅は発色が違うわね、いい仕事にいいお値段がつくのは当然よ」と財布の紐が緩んでくる。
 次のターゲットは男だ。背広のボタンが留められないほどお腹が出ても、着物だとそれが貫禄に見えるのだから着ない手はない。私も夫を洗脳中。
「着物で一緒にお出かけしたらすてきよ、あなたきっと似合うと思うわ。」
 最初はうるさそうにしていた夫も、だんだん「そうかな?」なんて言うようになってきた。……着物ウィルス発症まで、あと少し。

*無断転載を禁じます。
(京都手描友禅協同組合主催 第10回きものエッセイ 京都新聞社賞受賞)

審査委員長の市田ひろみさんと。
表彰式2006

副賞の色無地。
色はお好みで染めてもらえる。
2006賞品の色無地




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