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空の独り言

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2005年08月05日
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テーマ:小説日記(233)
 鬱蒼と茂る森の木々を背後に、抱えている抜き身の剣。それも、どこにでも見られる粗末な質実剛健を表したような柄の剣である。向こうで怒号が微かに聞こえる。震えていた。灌木の茂みに隠れていた。甲冑となる胸当ては粗末なもの。茂み向こうで行き交う馬にて駆ける者達の甲冑は丈夫でちょっとやそっとの槍や剣、弓矢では貫き通せそうになさそうだ。茂みに隠れていたら、どさっと倒れ込んできた。それは、何度も起こり、ビクリと剣を構えるその顔は幼い。やがて、視界はいつしか暗くなり、なかなか茂みより出ることがなかった者の近くで再び、茂みを跨いで倒れ込む音が聞こえた。月明かりの下で遠目に判別できた。倒れ込んできたのは血まみれの大人。その後をがさっと茂みを掻き分けて入って来たのは無精髭の男だった。抜き身の剣に月光が当たり、刀身を流れる赤黒い筋。それが、今し方倒れてきた者を殺傷したことを示していた。男は屈み、検分している。やがて、顔を上げた拍子に隠れている者の存在に気づき、立ち上がった。月を背後に立つ姿は大きく見えた。
「お前、そんなところで隠れて何してるっ」
「うわーっ」厳しい誰何に恐怖心が切れたか、斬りかかっていった。無精髭の男は血まみれの剣で受け流した。勢いあまってつんのめる地面を転がる斬りかかった者。
「バカが」無精髭の男は舌打ちする。
「どうしたのです?」呼びかけに男は振り返り、膝をついて頭を下げた。
「どうやら、先の戦の残党兵です。戦の場所が変わったことすら知らず、残っていたようです」男の説明に地面に転がり、砂まみれになった者は思わず顔を上げた。同じく月明かりを背にして呼びかけたのは、白いゆったりしたフードつきマントを羽織った人だった。フードの影に隠れ、面立ちが判らない。
「見たところ、まだ幼い。戦より離れなさい。勇んで参加したのであろうが、この戦、無情ゆえ」返事すら忘れたように見上げ続けてしまっていた。辛うじて見える口元が動かない者に笑みを向け、踵を返して月明かりに溶け込むように去っていく。無精髭の男もすぐに立ち、その人を護衛するように追いかけて、側についていた。転がった状態のまま、上体を起こして見上げていた者は、その姿を見送っていた。そして、その周りに戦の兵士とはかけ離れた野党崩れとおぼしき男達が点々と倒れ、ようやっと夜目に慣れた者の目に映りこんだか、更に腰が抜けて立てないでいたのだった。

傷ついている地球がよくなることを祈って。






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最終更新日  2005年09月21日 18時09分32秒
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