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いじめ対策がどーこー、というニュースなどをよく見る今日この頃。

「命の大切さを教える」とか、さまざまな提案が言われているけど、
うーん、そんなことでどうにかなるのかな？と、ギモンに感じてしまうことが多い。
私自身のいじめられ体験を考えると、そんな簡単なもんじゃない気がするというか。

子供の自殺の話は辛い。
しかし、今の子供だって、「命を粗末にしてるから」死ぬんじゃないと思う。
死を想うことと、実行することには、大きな隔たりがある。

その子が本当に追い詰められて、完全に出口を失ったと思うから、死ぬのだと思う。
ひとは、一縷の希望もなく、生きるのは難しい・・・。

また、いじめっ子が単純に命を大事にしない子供だというわけではない。
自分のペットは可愛がったりしてる可能性が高い、と思う。


日記の表題の随筆は、『アリアドネからの糸』（中井久夫、みすず書房）の冒頭に
載っている。

中井久夫氏は、精神科臨床医としてとても信頼のおける先生で、元々私はファン
だったんだが、大学を退官される頃からからたくさんの随筆を執筆されている。
（仕事では統合失調症の治療が一番有名だが、その後ご自身の阪神大震災体験を経て
　ＰＴＳＤに関する訳書『心的外傷と回復』『解離』なども出されている。
　ひとへの暖かいまなざしが、どんな著書にも感じられます。）


このエッセイで、中井氏もまたしんどいいじめられ体験があり、今いじめられている人と
その周囲の大人に読んでもらいたいという痛切な思いを感じた。


この中では、いじめがどのように進行し、いじめられる側がどのように抜け出せなくなってしまうのか、
そこを解き明かしている。
また、学校が密室であり、警察も裁判所もない、ある種の無法地帯であるということも。
（これは家庭についても言えますね・・・。そういう意味でＤＶとも似てます。。）

中井氏曰く、
自尊心を喪失し、道徳的劣等感を持つのは、いじめられる側であっていじめる側ではない。

本来卑劣なはずのいじめる側は、心が傷つかないんだよ。
よく考えるとおかしな話だが、なんとなく誰でもわかるんじゃないでしょうか。このことは。
そこら辺をちゃんと書いた文章は、これ以外にあまり読んでいない。
（もちろん私は不勉強ではありますが）


中井氏のいういじめ対策はとてもシンプルだが、なかなかできない人も多いかもしれない。

（引用）
私は現段階では、ＰＴＳＤの研究家ハーマンの言葉を引いて、まず安全の確保であり、
孤立感の解消であり、二度と孤立させないという大人の責任ある保障の言葉であり、
その実行であるとだけ述べておく。
（引用終わり）

いじめという卑劣な行為から本気で子供を守りたいなら、周りの人間にも本気の覚悟が必要なんだと思う。


いじめられた人間は、生き残っても長く傷を残すことが多い。
（中井氏は、震災後にＰＴＳＤの勉強をしているときに、小学校時代のひどいいじめを沸々と思い出したそうである。中井氏６０歳前ぐらいだったはず。）

その子が自尊心を取り戻せるまで、誰かが寄り添っていてほしいと私も切に願う。
そしてそんな大人が、苦しんでいる子供のそばに多く存在していますように。



＊＊＊
ちなみに、この随筆だけだと僅か２３ページなのだが、中身の濃さで紹介した次第。
全体に大変良書なのだが、２８００円＋税というお値段なので（みすず書房は高いのよ）、
気になった方は本屋で実物を見て検討するなり、古本屋にて入手という手もあります。。