『ストレイト・ジャケット』(榊一郎)

2011/02/20

『ストレイト・ジャケット』(榊一郎)が昨年ようやく完結したので一気に全巻読んでいました。私が読むのにはおよそ一カ月かかっていますが、まあこんなものでしょう。

魔法使いの物語というとファンタジーですが、この作品の魔法使いは生身では魔法が使えません。魔法を使うと体が、そして心が汚染されて魔族と呼ばれる怪物になってしまうからです。そのためモールドと呼ばれる一種の鎧を纏うことになるのですが、メンテナンスの不備などで魔法を使った際に魔族になる魔法使いもいるわけで、そういった魔族をせん滅することを生業とするのが主人公レイオット・スタインバーグというわけです。

作中では魔法使いという単語も大いに出てくるのですが、職業としては魔法士という表現がなされています。また、魔法士たちを管理するのが魔法管理局という役所で、といった社会制度や法制度といった観点からの記述も多く、その辺りが面白い作品です。

また、その魔法管理局の新米二級監督官であるネリン・シモンズさんがあまりにもかわいすぎます。優秀な成績で公務員となった彼女ですが、才気走るというよりは普通の真面目な事務系の人で、フィクションの世界の中というよりは現実の方が良く見かけるくらいな人物だと思われます。それだけにかわいい。

面白いのは面白いのですが、その面白さを説明するのが容易ではありません。作中で人が良く死ぬのですが、そこに人の死でシナリオを盛り上げようというような、あるいは陰惨な描写で興味を惹こうというような意図はあまり感じられません。世界の中で起こっている事とその中で動いている人たちを一旦配置してしまったからにはこういうことも起こるよねといった、淡々とした印象があります。むしろ人の死を陰鬱に書くのは同じ榊さんの作品でも『イコノクラスト！』の方だと思うのですがいかがでしょうか。