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私の通う武術の道場は、田園風景のひろがる山あいの静かなお寺です。毎週一回の稽古ですが、気持ちのよい汗を流させていただいております。豊かな自然、広々とした田畑、美しい山川、澄んだ空気・・・そんな中で稽古をしていると身も心も癒され、ストレスも洗い流されていくような思いがします。日々の生活に追われ、辛いこと、いやなことなどが積み重なって疲れ果てても、またあのお寺で、あの澄みきった空気の中で稽古するんだと思うと、また活力がよみがえってきます。お寺の名前は、西忍寺。300年続く浄土真宗のお寺です。私の師匠は、そこのご住職です。全日本中国拳法連盟の佐藤金兵衛会長から10年にわたって武術を学び、その全てを伝授されました。外柔内剛という言葉どおりのお人柄で、いつも穏やかな春風が吹いているような、そんな感じのする師匠です。いつも私たち門下生の悩みをきいていただき、様々な相談にものっていただいて、武術の師匠というよりは、人生の師匠といったほうがいいのかもしれません。もちろん、武術のほうは、我々が10年、20年稽古したぐらいでは、真似できないような技術を持っておられます。そのお人柄のように、技をかけられるとうららかな春風に身体を包まれたような感じがして、次の瞬間には絶体絶命の状態にさせられてしまう。私は30年あまり学び、様々な技を習得し、そこそこは使えるようになったと自負しておりますが、それでも、師匠のあの、うららかな春風を吹かせることができずにいます。このブログは、尊敬する師匠のお寺のことを紹介したり、稽古していくうえでいろいろ学んだこと考えたことなどを書いていくものです。
カテゴリ:エッセイ
またしばらくして本部を訪れた。 来訪すると奥様がおられて対応してくれた。 「こんにちは、また来ました。」 「あら、あなた熱心ね。でもこないだもっと熱心なかたが来てね。九州から見えられてね、どうしても教えてほしいって1週間泊りがけで来た人、いたわよ。」 「えっ?一週間ですか?」 「そうそう、あなたもがんばりなさい。」 当然私はそんなことできない。 会社クビになるのは目に見えている。 「あ~~はい~。」 適当に返事をした。 「今、おとうさん呼ぶわね。」 「すみません。」 「おとうさん、おとうさん、伊藤さんとこのお弟子さん来たわよ~。」 会長が奥から出てこられた。 「こんにちは。おじゃまします。」 「あ、君か。今は昔と違ってコース別にやってるからね。今日はなんのコースだったっけ?」 奥様が「それじゃ、コース別に何曜日が何って書いてあるプリントあげるわ」と言ってプリントを渡してくれた。 そこには曜日と時間帯ごとに「太極拳コース」とか「形意拳コース」とか書かれてあった。 えっと今日は何のコースか探してみた。 そこで会長が何か思い出したように言った。 「あ、今日はI君の陳式太極拳のコース、今やっているからそこを見学するといい。」 「あ、はい、ありがとうございます!」 「来た時にどのコースでも好きに見学していってください。」 なんだかやっと信用されたようでうれしかった。 「あ、I先生の教室は、今日2階ね。そこの階段からどうぞ。」 奥様が案内してくれた。 2階にも道場があると思わなかった。 道場にはいるとちょうど学校の教室くらいの広さだった。 奥様がI先生に紹介してくれた。 「あ、I先生、この人ね新潟の伊藤先生から習ってる人なの。今日、見学させてもらっていいかしら。」 「はい、では、まあ、ゆっくりと見ていってください。」 紹介されたI先生は絵に描いたようなイケメンだった。 端正な顔立ちというのはこうゆう顔を言うんだなと思った。 背は180センチ弱くらい。 やせ型だが筋肉質なのが拳法着の上からでもわかる。 どこにも隙が無い、端正なたたずまいだ。 T先生のゆったりとした感じとは対照的だ。 学者のような大人しい感じの人だ。 生徒さんは若い女性が5人、30代位の男性がひとり。 T先生のごつい男性ばかりのクラスとは大違いだ。 まあ、モデルのようなI先生なので、当然こうなるとは思うが・・・・。 陳式太極拳の套路をみなさんでやっている最中だった。 I先生が見本を見せてそれをみんなで真似るという感じだった。 女性たちはとても楽しそうだった。 私としてはカルチャー教室の太極拳を見学しに来たような気分だった。 正直、モテモテのI師範にやきもちをやいていたのかもしれないが、あまり面白くはなかった。 しばらく套路をやって、「それじゃ、少しこっちで・・・・」と言って男性の生徒さんを呼んだ。 すると道場の半分は女性たちが套路の稽古をして、道場のもう半分を使ってその男性とI先生で推手が始まった。 基本的な四正推手からはじまってしばらく繰り返されたあと、自由に攻防を繰り返す推手が始まった。 そうそう、私が見たかったのはこれだ。 I先生はその男性を相手に見事な技で何回も吹っ飛ばした。 そのたびに女性たちは「かっこいい~」「すご~い」と小さめの声で感動していた。 相手の男性はあまり背が高くないが結構がっしりした体格で力がありそうだったが、I先生にかかるとゴムまりのように跳ね上がったり吹っ飛ばされたりしていた。 顔に似合わず(すみません失礼なこと言って)すざまじいカンフーだと思った。 稽古が終わり、I先生にお礼を言った。 「今日は素晴らしいものを見せていただきました。ありがとうございました。」 I先生は、「これから新潟までお帰りですか?お疲れ様です」と微笑んで言ってくれた。 その微笑みを見た時、これは女性ならひとたまりもなく恋に落ちるなと思った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.04.18 15:01:51
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