「永遠の旅行者」 橘 玲
「お金持ちになれる黄金の羽の拾い方」「世界にひとつしかない「黄金の人生設計」」などで知られる財テク評論家橘玲の経済小説第二弾![登場人物]真鍋 恭一・・・元弁護士。世界中を転々としながら法律相談等をして生計を立てているPT。御堂 智子・・・恭一の元同僚の弁護士。恭一とは大人の関係。麻生騏一郎・・・元公共事業のフィクサー。麻生 悠介・・・騏一郎の息子。バブルの寵児にして、その終焉とともに行方不明に。麻生 まゆ・・・悠介の娘。母を失い、父が失踪したことで精神に異常を来たし、熱海の別荘に閉じこもる少女。堀山・・・恭一の顧客。神崎・・・債権回収会社の課長。悠介を追っている。長井・・・神崎の部下。[作者]橘 玲・・・「お金持ちになれる黄金の羽の拾い方」「世界にひとつしかない「黄金の人生設計」」etc. 不動産のあり方や、年金の仕組み、借金といわれるものの裏側をわかりやすく解説する本を書かれる方。 目から鱗の情報が多く、ファンが多い・・・らしい。[物語]ハワイや香港など外国を転々として、法律や財産に関する相談を受けることで生計を立てている恭一は、ある日奇妙な依頼を受ける。依頼内容は、余命いくばくもない依頼者の遺産を"相続税を一銭も払うことなく"孫に譲ること。早速調査を始める恭一だったが、数々の妨害が襲い掛かり、困難を極める。親子三代に連なる悲しい物語。[観想的なもの]元々作者の財テク系の解説本の大ファンで、小説第一作「マネーロンダリング」も拝見させていただいた。この人の強みであるPT(いくつかの国を渡り歩くことで課税対象から合法的に逃れること=永遠の旅行者)や各種避税手段を始め、海外での不動産の取得方法や医療制度などお金にまつわるありとあらゆるアンダーグラウンドな情報が満載な作品になっている。今回はそれだけでなく、小説としてもかなり完成度が高い。ミステリーの部分は最後綺麗に作りすぎている気はするものの、親子三代にわたる悲劇はジンとくるものがある。騏一郎、悠介とも本人は悪い人ではないのだが、時代に翻弄され、悲劇に見舞われているのでせめて三代目まゆは幸福な人生を歩ませてほしいもの。経済小説の面では、日本の税務署ってやっぱえげつないってのが一番の感想。自由裁量で徴収できる余地を残しながら、画期的な合法的脱税方法が開発されれば、いたちごっこのように法律改正でふさいでいく。まるでセキュリティホールに躍起になるマイク○ソフトののような。金額や税務署の対応、または申請書に載る税理士によって扱いが変わってくる日本の税制度って先進国としてはかなり歪んでる?っていうのが本当によくわかる。恭一が情報共有する"ネットワーク"に何気に前回の「マネーロンダリング」の主人公・秋生の名前がチラッと出たりして、もしかしたらこのネットワークを使って更にスピンオフ的な続編も出るのかもしれない。ってのは期待ですね。人物描写 ★★★★☆物語 ★★★★☆技術 ★★★★★★インパクト ★★★★☆総合 ★★★★☆