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葉隠餡

葉隠餡

電話(逮捕初日 3)

「電話」(逮捕初日 3)


Mの会社の電話番号を押す・・・
だが、手が震えてうまく押せない。
何度も失敗した記憶がある。
そのたびに受話器を置いてやり直し。
何度かの繰り返しでやっと電話の発信音が聞こえた。

「○○会社Oです」

相手が名乗った。Mの直属の上司、O所長であろう。名前は聞いた事があるが、直接話すのは初めてでありとても緊張していたと思う。だが、用件をとりあえず伝える。「今朝、Mが逮捕された。警察から電話がありM本人の伝言でしばらく出社できない。迷惑をかけます」と私は伝えてお詫びした。
当然であろうが…O所長は大変驚かれていた。そして私が最も恐れいていた質問が飛んできた。

「Mさんは何故逮捕されたのですか」

そう、見知らぬ他人に聞かれたくない質問だった。
今でこそ、自ら笑い話で「下着泥棒してね~ケラケラι(´Д`ι)」という感じだが、あの時はひたすら事実を隠したかったのだと思う。仕方なく答えた。


「わかりません…。警察から逮捕されたという電話連絡とMからの伝言だけを受け取りました」


それだけ答えるが大ウソだ。何故なら既に説明したが、察からの一番最初の電話で「窃盗の現行犯で逮捕されました。盗んだ物は女性用下着です。」と説明を受けているのだから・・・しかし私は理由を言えなかった。
その後、O所長は私に「どうか気を落とさないで下さい」と慰めてくれたあと「私に警察関係の知り合いがいますので逮捕の理由を聞いてみます。また、弁護士も数人知り合いにいますからなんでも相談してください!一人で抱え込まないで下さいね。彼の為に出来る限りの事をしますから」


そんな事を言われ、電話を切った。
「嘘をついたって、近日中に会社に取調べが行く筈」というHさんの言葉が蘇える。本当の事を言えなかった・・・
(Hさん:Mの会社に電話する前に、私が真っ先に電話かけた人。前回参照)





電話が終わって少し肩の力が抜けた。時間は朝の9時少し前。暑い日になりそうだった。蝉がうるさかった記憶がある。
体調の悪い私は熱のせいなのか、非現実を叩きつけられたせいなのか、家の中全てが銀色に見えた。そして結婚祝にもらった日本酒の一升瓶の味は何も味がしなかった。
ただ、ただ咳き込みながら煙草を吸い、煙草を吸ってせき込み、喉が乾けば日本酒をラッパ飲みしていた。2時間で一升瓶半分以上が消えていた。



今思うと・・・
捕まった初日というのは全然幸せだったのだ。
本当に泣きたいほど辛い事、怒る事、哀しい事はこれから次々に起こっていくための序章でしかなかったのだ。




続き(「問い合せ」)


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