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佐藤優氏によるカルロス・ゴーン事件の分析
佐藤優氏によるカルロス・ゴーン事件の分析(2020年1月17日ラジオ放送より) (「くにまるジャパン極」の放送内容(2020年1月17日)『佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」』の一部抜粋) ゴーンは83歳まで牢獄、密出国の刑期は1年、成功すれば「自由」の身 佐藤:私は去年から「ゴーンさんは逃亡する」と指摘していたんです。理由は簡単です。 逮捕されていた時、ゴーンさんには次のような可能性がありました。最初の罪状は金融商品取引法違反。これは罰金か、あるいは2件あっても確実に執行猶予がつくんです。ところがゴーンさんが頑なに罪を認めないから、たぶん検察はカッとなったんですね。それで会社法を使って特別背任にした。これは最高刑が10年なんです。 そうなると、2つの罪状が複合するので、最高刑がいちばん長い刑の5割増しまでいけるんです。だから最高で懲役15年になる。 さらに、ゴーンさんの保釈が検察の意思に反して認められちゃったので、検察はまたカッとなって、もう一本の背任で再逮捕した。これは「絶対に実刑にしてくれ、できるだけ長く刑務所に入れてやる」という検察の強い意思表示なんですね。この場合、求刑の相場感は懲役12年だと思います。 検察官が求刑した7割以下の量刑になると、検察が控訴する可能性がある。そうすると、ゴーンさんの刑はだいたい相場感として8年なんです。それで、裁判自体に10年はかかります。そうしたら、10年裁判やって、それから刑務所に8年行く。 今、ゴーンさんは65歳なので、出てくるときは83歳です。刑務所の中の医療はベストとはいえないですから、たぶん獄中死するでしょう。つまり、ゴーンさんにとって最もありそうなシナリオは「獄中死」だったんです。 密出国の場合の刑期は1年。ということは、もし国外脱出しようとして、バレて捕まっても1年刑期が増えるだけで、成功すれば自由の身になれる可能性がある。どっちを取るかって話ですよ。 邦丸:獄中死は嫌ですよね。 佐藤:だから賭けたということで、脱出はごく合理的な判断なんです。 検察は12月29日にゴーンさんの尾行を外した、逃げ場を知っていた犯行 佐藤:それと、なんで12月末のあのタイミングでやったか。これは、私はIRの汚職で逮捕された秋元司議員の件と関係していると思う。 邦丸:一見、関係ないように見えますけど。 佐藤:実は深い関係があるんです。 警察というのは、人がたくさんいます。警察官は全国に30万人いる。しかし、検察には特捜部の事務官しかいないんです、尾行とかする人材は。報道によると、検察は12月29日にゴーンさんの尾行を外した。 邦丸:これは日産側が依頼した警備会社とは違うんですか。 佐藤:違います。検察本体です。日産とは別に、検察も事務官がゴーンさんの行動をウォッチしているわけです。これを業界用語で「行確」といいます。行動確認。これがどうして12月に外れたのか。クリスマスに秋元司議員を捕まえたでしょ。それで人手が足りなくなったからなんです。 邦丸:え、物理的にですか? 佐藤:そう。東京地検はこういうとき、警察に応援をお願いしないんです。 邦丸:はあ~。 佐藤:警察も「お手並み拝見」で、協力しない。その辺のことを、ちゃんとゴーンさんの背後にある組織は見ているんですよね。 さらに、ゴーンさんには日産も尾行をつけていたでしょ、これ、尾行のプロなんです。だいたい警察の公安部とかを中途退職している人たちで、こういうプロが10人ぐらいチームを組んで尾行すると、まずわからないです。 じゃあ、なぜゴーンさんは気づいたのか。彼らを上回る能力を持つ尾行の専門家が、ゴーンさんのチームにいたからです。 ゴーンを逃がしたのは地面師のような国際ネットワーク 邦丸:これは報道されているように、アメリカ陸軍の特殊部隊にいた、元グリーンベレーのマイケル・テイラーさんという人が首謀したんじゃないかと言われていますけど……。 佐藤:違うでしょうね。テイラーさんは前科がありますから。前科がある人は顔も名前も知られてしまっているわけです。 邦丸:アメリカで禁固刑を受けている。 佐藤:だから、前科のある人はこういうオペレーションの中心には入りません。 私も以前、そういった国際的な警備保障会社から「就職しないか」と誘われることがあったんですよ。 邦丸:へえ~。 佐藤:でも、それは使い捨てにされちゃうの。どうしてかというと、いったん捕まって表に出た人は、裏の世界で動けなくなるから。このテイラーさんも同じで、陽動作戦、すなわち見せるために使われている人です。計画の全体像は知らされていない。 邦丸:じゃ、誰なんですか? 佐藤:誰がゴーンさんを連れて行ったか。それは、地面師みたいなネットワークなんですよ。 邦丸:というと。 佐藤:何かあるとその都度、ガーッと湧いてくる人たちです。ゴーンさん救出プロジェクトがある、じゃあやろうか、と何人か集まってくる、お互いに横の連絡はない。ですから、トルコの航空会社で捕まった人たちは、何も知らない。 邦丸:パイロットの人たちですね。 佐藤:オレオレ詐欺の入れ子や出し子と一緒ですから。 邦丸:要するに、パーツでしかない。 弘中弁護士による尾行解除要求が通ったその日に日本脱出、関空に穴が開いてた 佐藤:そうです。これを「クオーター化」というんです、業界用語で。区分に分けるという意味です。 そういう組み立てだから、「おい、ブツの運びがある。いい金になるぞ」「ヤバいものじゃないですよね?」「麻薬や兵器ではない。中身は知らなくていい」「わかりました」──こういう世界ですよ。 邦丸:なるほど。 佐藤:それで、尾行されていることを知っていて、「こんな尾行は人権侵害だから解除してくれ」とゴーンさんが弘中弁護士たちに頼むわけでしょ。そういう意味では、弘中さんたちも知らず知らず、パーツとして利用されているわけですよ。 それで解除を要求したら、その日に脱出した。すでに救出のネットワークはでき上がっていて、関空に穴が開いているといったことも調べあげて、車も飛行機も全部手配してと、こういうやり方ですよ。 しかもゴーンさんは、逃亡時の経緯については、ウォール・ストリート・ジャーナルに独占的に流すということに決めていますね。今回、報道ではここが全部早いですから。 邦丸:早かったですよね。 佐藤:なんでだと思います? 私は、ゴーンさんはウォール・ストリート・ジャーナルをあえて選んでいるんだと思う。なぜかというと、日本語版があるから。 ちなみに、毎日新聞の電子版とか琉球新報などの毎日系の新聞をとっていると、ウォール・ストリート・ジャーナルが無料で読めるんですけど、日本語版があるから、日本の検察とかマスメディアにメッセージをすぐに出せるでしょ。実際、ゴーンさん関連の日本の報道は、よく見るとすべてウォール・ストリート・ジャーナルの後追いになっているんですよ。 邦丸:そうですね。 佐藤:こういうつくりにすることも全部、このチームは計算していますね。 真相が明らかにならないことが日本政府にも都合がいい、皆都合がいい 邦丸:そのゴーンさんのチームですが、ゴーンさんはインタビューで「日本人が今回の逃亡にかかわっているという話があるけど、どうなんだ?」と聞かれて、「日本人がかかわっていないなんて考えること自体が幻想だ」と言っているわけですね。 佐藤:もちろん、かかわっていますよ。しかし、それが誰なのか、どういうネットワークかというのは、ゴーンさんも知らないと思う。 邦丸:え、それじゃあどんな窓口に助けを求めたんですか。 佐藤:これはあくまで私の推定ですが、こうした種類のことになると、彼がいつも頼む「仕事師」がいるんでしょう。イメージでいうと、ゴルゴ13みたいな感じ。殺しは今回はやらないですけどね。 邦丸:グレート東郷ですか……グレートじゃないか。 佐藤:デューク東郷。彼に頼んで、あとは何も知らなくていい。こういう世界ですよ。 それで、今回の最大の争点は、レバノン政府が噛んでいるかどうか。 邦丸:はい。 佐藤:レバノン政府が噛んでいなければ、1人の容疑者とそれをサポートしている犯罪組織の話で、単なる刑事事件なんです。しかし、もしレバノン政府が噛んでいると日本国家の主権侵害になって、北朝鮮の拉致問題とか金大中事件とかと同じ話になっちゃいます。 そうすると日本政府として、レバノン政府と全面的に構えないといけないんです。ただし、今は中東情勢のなかでレバノンはカギを握る国なので、ケンカしたくない。だから、本来ならレバノン政府に引き渡しを強く要求するとか、レバノンにいる日本の大使を一時日本に戻すとかするんですけど、しないでしょ。 邦丸:しないですね。 佐藤:これは、真相が明らかにならないほうが日本政府も都合がいい。レバノン政府も都合がいい。ゴーンさんも都合がいい。みんな都合がいいので、迷宮入りになろうとしていますね。 ですから、すごく変な感じの事件になっている。国家を超えるようなネットワークがあって、機能しているということですね。 ゴーンの「助けてくれ、ここから出たい」のひと言で、あとの組み立てが出来上がる 佐藤:ゴーンさんは15億円の保釈金が没収されたでしょ。新聞報道だと、脱出計画に22億円かかった──私はそれだとちょっと安いという気がしますが──けれど、でも十分取り返せる。 まず、手記を書くでしょ。その後、ハリウッド映画にする。そうすると数百億儲かりますから、逃亡劇までちゃんとマネーになる。映画ができたら、検察官役とか、とんでもない大物役者をつけてくると思いますよ。 邦丸:えーと、ちょっと戻っていいですか。ゴルゴ13のような人が日本にいるんですか。それともアメリカですか。 佐藤:中東だと思う。 邦丸:中東! 佐藤:中東で、今までいろんなヤバい仕事をするときの相棒がいたんだと思う。その人に「助けてくれ、ここから出たい」とひと言だけメッセージを送ると、あとは組み立ててくれる。今までもいろんな仕事をしているんだと思う。 邦丸:へえ~~。 佐藤:そういうふうに私は見ています。それからもうひとつ、これはぜんぜん報道に出てこないけれど、重要なのはゴーンさんの宗教なんですよ。彼はキリスト教徒です。キリスト教のマロン派、これはカトリック教会に属しているんです。 もし、ゴーンさんがレバノンのイスラム教徒だったら、国際的にこれだけの支援は受けられなかったと思う。要するに「東洋のなんかおっかない国で、キリスト教徒が弾圧されている」と、こういうイメージですよね。このイメージをつくることに成功している。 ゴーン脱出劇は日本はメディアにしても、法務省にしても、事態が見えていない 佐藤:日本の報道では、「ゴーンの会見は見苦しい言い訳だ」「世界でも非難囂々だ」というトーンでしょ。ところが、ちょっとウォール・ストリート・ジャーナル日本語版を見てみると、社説を立てて、「ゴーンの説明には説得力がある」とか「マクロン大統領は、安倍総理に何度も処遇を改善してくれと話をしている」とか出てきているでしょ。 日本だけ情報空間がズレている。実際は、ゴーンさんはかなり有利です。 邦丸:はあ~~。 佐藤:でも、今回は分けて考えなければいけない。私は、この件のあと国内外のメディアから「日本の刑事司法手続きをどう思いますか?」とか「拘置所の処遇をどう思いますか?」と聞かれて、言いたいことはたくさんあるんだけれど、ほとんど言っていないんです。 どうしてかというと、私はやはり元外交官、つまり日本の公務員だったわけで、この事件は日本国家の主権が侵されていると私は思っている。国際的なネットワークとレバノン政府に。 そのときに、私が「検察の対応に問題がある」とか「日本の拘置所はおかしい」と言ったら、それはゲームのなかで利用されてしまうわけです。深刻なのは、日本の法手続きが無視されて、国家主権が無視されて、コケにされているんだから、それを助長する方向には加わりたくないんです。 ただ、日本はメディアにしても、法務省にしても、事態が見えていない。森法務大臣が一生懸命、日本の手続きには問題ありません、人権を尊重していますと言ったって、拘置所へ入所するときの検査では、「お前、指詰め、入れ墨、玉入れ(性器にシリコンの玉を入れること)はあるか」というような質問をしている。 邦丸:それはそういうスジの人ではなくてもやるんですか。 佐藤:全員です。私もやらされましたから。 拘置所の中では小さな机の前で、畳のところで一日じゅう座っている。お風呂は週に2回で、お風呂に行くときはパンツ1枚、希望すればシャツを着ることができる。支給されるサンダルには水虫菌がたっぷり付いていて、水虫に苦しめられる。こういうことは事実です。ですから、日本がいくら「手続きに則しています」と言っても、国際的には「やっぱりひどい」という感じになるじゃないですか。 欧米は懲役刑ではなく禁固刑、話をすれば日本の異常性が丸見えになる 邦丸:逆に諸外国、欧米各国っていうのは、拘置所に入所した、要するに罪になるかどうか決まっていない人たちに対する接し方は、日本とは違うんですか。 佐藤:違いますね。電話もできるし、家族とも会えるし、ましてや裸にするなんて最低限しかしない。ぜんぜん違うんですよね。 しかも、日本の場合は懲役刑があるでしょ。囚人労働というのは今、欧米ではないですから。 邦丸:欧米は懲役刑がないんですか。 佐藤:禁固です、みんな。ですから、確かに日本には日本の手続き、制度の伝統があるんだけれど、その話をすればするほど、国際的には調子が悪くなるわけ。 邦丸:墓穴を掘ってしまう。 佐藤:そう。日本人は今でも『忠臣蔵』が好きでしょ。浅野内匠頭の家臣たちは解散が決まったのに、何十人がかりで1年も待って、七十いくつのおじいさんを襲ってなぶり殺しにして、首を槍の先に付けて凱旋して、最後に腹を切る。これを感動のドラマだといって観ているのが日本人だ、という話になったら、やっぱり普通のヨーロッパ人とかアメリカ人はびっくりしますよ。それで、戦時中の日本のイメージと重なってくる。 『遠山の金さん』とか『大岡越前』にしても、基本は弁護人がいなくて裁判官と検察が一緒で、一審制で、拷問を使った自白が証拠になって、判決理由は物証ではなくて心象。「不届き至極」とか「この桜吹雪を覚えているか」というのは、心象主義ですよ。 邦丸:はははは。 佐藤:日本ではこういう考え方が今でも生きている、というのは、その雰囲気自体がすごく変なんですよ。 邦丸:要するに、異文化というふうに見られちゃうんでしょうな。司法制度云々というより、ちょっと気持ち悪いという。 佐藤:死刑制度も残っていますしね。そういうことをトータルすると、日本はあまり調子よくないので、もう少し情報戦をうまくやって、都合が悪いことは黙っていたほうがいいと思う。 レバノンの法律では無罪で終わりになる 邦丸:レバノン政府はその辺が上手いですよね。 佐藤:「日本から資料を送ってください、ウチで裁判しますから」と、こういうことでしょ。無罪になるに決まってます。 邦丸:ちゃんと裁判したよ、ということですね。 佐藤:ゴーンさんの言い分を聞いて、日本政府の言い分も聞いて、「これはレバノンの法律では無罪ですね」──これで終わりですよ。 ですから日本としては、主権放棄みたいなレバノンへの裁判委譲はしない。こういうモヤモヤのまま時間が経って、迷宮に入っていくという、これがゴーン事件の今後ですね。しかもその間も、ゴーンさんは日本を攻撃し続ける。めんどくさいです。 邦丸:ところで中東のデューク東郷って、普段は何をやっているんですかね。 佐藤:収入は非常にいいですから、普段はぶらーっとして、ネットワークだけ維持しているんでしょうね。 2020-01-28-analysis-of-carlos-ghosn-s-case-by-mr-yu-sato-metrology-data-bank- 佐藤優氏によるカルロス・ゴーン事件の分析 佐藤優氏によるカルロス・ゴーン事件の分析(2020年1月17日ラジオ放送より) 逃亡直前のゴーン被告が語ったこととは 郷原弁護士が会見(2020年1月22日)(動画・YouTube) 元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士が、22日午前11時から日本外国特派員協会(東京・千代田区)で記者会見する。郷原弁護士は昨年11月から12月にかけて、日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告に5回面会し、計10時間以上にわたってインタビューを実施。ゴーン被告がレバノンに逃亡する直前に語った内容を明かす。 テレビ東京ニュース 2020年1月8日ベイルートでカルロス・ゴーン氏会見 2時間34分 動画・YouTube。 (タイトルならびに写真をクリックするとライブ放送の録画を閲覧できます) ベイルートという安全地帯に身を寄せたカルロス・ゴーン氏は違法な手段で金融商品取引法違反と特別背任 という罰から逃れることになる(計量計測データバンクによる意見)。テレビ東京ニュースは同時通訳でライブ放送。 カルロス・ゴーン氏の2020年1月8日ベイルートでカルロス・ゴーン氏会見の要旨。 2020-01-08-full-text-of-carlos-ghosns-video-statement-translated-by-lawyers-on-april-9-2019-metrology-data-bank- お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020年01月28日 16時16分53秒
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