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上生的幻想

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2007/04/24
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テーマ:京生菓子(15)
 花の園  きんとん
 
 070413 002.jpg
 
 華やかとかあでやかと言うわけではないが、ぱっと見てとてもはんなりとした綺麗なきんとん。
 よく見ると、実は黄色とのぼかしになっている黄緑のそぼろ餡に、淡い紫と桜色が散らしてある。
 黄色い芽吹きのあとの新緑に、藤や咲き残りの桜か、あるいは咲き始めたつつじといった風情。
 そぼろ餡のしっとり感が新緑のみずみずしさをよく表していて、目にここちよく新鮮。
 やはり季節を一足先取りした上生菓子。
 種は黒粒餡。桜色のそぼろ餡が散らしてある写真右の中程から上のところは、すこし餡が透けて見える。花の隙間から陰る地面が透かして見えている、というこんなちょっとした演出もアクセントをつけていて、面白く、心憎い。
 実はこの日は「丸紅コレクション」の帰りで、普段は奥さんが買ってくるのだが、僕も売り場に行った。京都のデパ地下だけど。四条のデパートを二軒回ったが、そのなかではこのきんとんが僕には一番綺麗で、テーマ(菓銘)の風情をよく表している感じがした。
 種餡とそぼろ餡は同じかたさ。しっとりしているのはやはり俵屋テイスト。爽やかなてぼ餡は洗練されえぐみはなく、口の中で種餡とそぼろ餡がとろけていく感じも、はかなげな上生菓子そのものという感じでとてもよかった。
 また、この日は、お菓子のあと、抹茶を飲むことができた(普段は夜遅いのでさすがにやめている。眠れなくなるから)。
 お菓子を食べて、点前をして、抹茶を飲むと、はぁ~、やっぱ上生菓子を食べるってこうでなくちゃ、と改めて思う。
 抹茶を飲むと、お菓子の風味はもちろん姿かたちなどの印象がますます鮮明になるのだ。というか、蘇ってくる。もう少し言うと、自分の思い出の中にお菓子がぽっかり浮かび上がってくる感じがする。今さっき食べたばかりなのに、もう思い出のようになって、はかなげに蘇ってくるときは、ほんとうにほっこりとして幸せだね。
 お菓子だけ食べていても、絶対、こういう楽しさや満足感は味わえない。普段は、残念としか言いようがない。
   
 
 都の装い  こなし
 
070413 008.jpg
 
 春めいた桜色のぼかしに、扇と桜の花びら。この押し型からして、以前の「都おどり」同様「都をどり」を意識しているのだろう。「都をどり」がまだ始まっていない時は直接「都おどり」と銘にしていたが、実際に「をどり」の期間がはじまり京の街が賑わいを見せると、それ賑わいなどを「装い」と見立てて銘をつけているセンスが、お洒落でたのしい。このあたりも、わざわざ銘をつける上生菓子の面白みのひとつ。
 また、このふっくらとした四角いかたちは、「装い」という銘と相まって、「装い」に関係する道具などを連想させる。実際、ほんとうにこういうかたちの物があるのかないのかよく知らないけど、たとえば、紅入れ、とか。他にも、化粧道具入れ、とか、コンパクトとか。
 もちろん、これは僕の想像で、抽象度が高いだけに、人それぞれ、その他にもいろいろとイメージが膨らみそうで楽しめそうなお菓子。
 中は黒漉し餡。もっちりとした感触のある、やや重い目のこなしの余韻は、これも色のせいだと思うが、まるで口の中に満開の桜が咲いたかのような香りがぷわ~ん。そう、「都をどり」とともに京都のあちこちを彩る桜も、この季節の「都の装い」というわけだ。
 これといってハデでもなく、華やかというわけでもなく、装飾が凝っているわけでもなく、まったくシンプルなものだが、なんかとても気に入っている。
 これも、あとで抹茶を飲んだときに蘇ってきたのは、花の園と同じ。
   
 
 花いかだ  求肥(ぎゅうひ)
 
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 桜色の求肥で黒粒あんを包み餅粉を振りかけ、桜の花びらと水の流れの焼き印。見た目はちょっとでこぼこしてきんとんやこなしに比べると、かなりカジュアル(もともと餅・饅頭はカジュアル系が多い)。
 ただ、さらりと振りかけられている餅粉が石ころの河原の風情を演出。
 さらに、「花いかだ」という銘。川を流れる桜の花や花びら、それを筏に見立てて「花いかだ」というのだが、以前、食べた鶴屋吉信の「みやまがくれ」と響きあって、ちょっと感動(この菓子を選んだのは奥さんだが、そういうことまで考えていたのか?)。僕はつらゆきの歌を思い出して「みやまがくれ」としたが、「花いかだ」としても何の差し支えもない。が、ただ川を流れている桜をかたどった菓子にその銘では、ややありふれる感じ。
 ところが、この求肥にはもうひとつ喚起させる風物がある。石ころの河原を思わせる求肥の風情と「筏」、そして清流だけど小さな流れという感じではない焼き印、そう、たとえば、保津川下り。実際保津川下りは、筏などではないし、3月10日頃から始まっているわけだが、河岸に桜の咲く今の季節は下り頃(花なら見頃)だろう。保津川峡谷の筏下り、なんていうそんな雄大な連想まで引き出してくれる。
 以前の「水映え」といいこの「花いかだ」といい、なぜか知らないけど、俵屋の上生菓子は、僕の中では京都の風物や特定の場所と結びつくみたいだ。一年間俵屋の上生菓子を食べ続けたら、ちょっとした京都巡りができるかも知れない、なんて思ったり。
 そして、ちょっと冴えない見た目以上にこのお菓子は美味しい。
 弾力のある求肥に、しっとりとやや水分の多い目の粒あん。そして、桜の花。「都の装い」と違って、これは皮に本当に桜の花びらが入っていて(左上のあたり、やや色が濃くなっているのが実は桜の花)、ほんのりと漂う桜の香りとその余韻。また、皮には卵白も入っいるらしく、なんとなくメレンゲっぽいニュアンスがある微妙なふんわり感(原材料に卵白とあるのを見て、勝手に皮に入ってると僕が思っているだけかも知れないけど。でも、弾力があって、同時に、ふんわり感があるのは確か)。そんな皮と餡との、口当たり、甘み、風味のここちよい調和。
 
 
 それにしても、面白いのは、カジュアルな求肥の餅(饅頭)では実際に塩漬けの桜の花を使って香りを感じさせ、「晴れ」の菓子であるこなしには彩りやかたちで連想させたり喚起させたりするにとどめる(逆に言えば、連想させ喚起させるために色合いや姿なりがより抽象化され、時には象徴の、時にはそのものの本質だけを残した姿や形の水準にまで洗練される必要がある。もちろん「象徴」や「本質」は不易なものもあれば時代によって変わるものもある。そのあたりをどうとらえて表現してあるか、というのも上生菓子のみどころのひとつだろう)、このあたりにも京菓子の美意識や哲学の片鱗が覗いているようでますます興味津々。
 こういう観点からすると、風味はもちろん、きんとんや上用は姿の上からも上生菓子の中である種特別なものだといえそうだ。(2007/4/24)





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Last updated  2007/04/25 01:08:31 AM
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