30名近くのパーテイ一行がぐったりと疲れて夕暮れにようやく到着したところ、その山小屋がすでに満員のギュウギュウ詰めの状態であった。
現在では、途中にいくつかの山小屋があるが、当時は太郎小屋から三俣蓮華小屋までの長い道中であるにも関わらず、山小屋が無かった。
2378.9mの太郎山から、2661.2mの北俣岳(上岳)、黒部五郎岳(中俣岳)そして中俣乗越を経て幾多の登り下りを経て漸く2841.8mの三俣蓮華岳から少し下ったところの三俣蓮華小屋にくたびれにくたびれて、時には進は地獄・(太郎小屋へ)退くはもっと地獄、あと一歩、あと一歩、あと一歩などとみんなでと励まし合いながら、三俣蓮華小屋に足を引きずりながらようやく到着したのだった。
それが、山小屋は、すでに満員のギュウギュウ詰めの状態だった。
そんな状態の三俣蓮華小屋に若かりし頃の「菜翁が旨」さん達の30名近くのパーテイがやっとの思いで到着したのだった。
山小屋の主(あるじ)も、思わず、『全員を泊ってもらうこと出来ないので、あなた方でなんとかしてくれ』と、言わざるを得なかったのだろう。
それを聞いた血気盛んな医師であるリーダーが、『泊められないとは、どういうことだ!山では、到着した登山者は必ず泊めるのが山小屋の主の一番の大切な仕事じゃないのかっ!』
と、けんか腰で喰ってかかった。
そんなやりとりのなかで、売り言葉に買い言葉という言葉があるが、激怒した山小屋の主は、思わず、
『ここでは俺が法律だ!』と叫んでしまったようである。
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山小屋に限らず、旅館・ホテルなどの宿泊施設では、訪ねてきた客は空き部屋が無い時でも、必ず泊めなければならない、という不文律がある。
その代わり、客は、相部屋とかふとん部屋でも辛抱しなければならない場合もあったり、他の宿泊施設を紹介される場合もある。
さすが、相部屋とかふとん部屋ということは、滅多やたらにあることではなさそうであるが…。
しかし、近年では、この不文律が客にも業界にも存在しなくなっているのだろうか?
知る由もない。
『事前の予約』をしなければ宿泊できない仕組みになってしまっているようだ。
来るか来ないか分からないようなフリの客のために例え一部屋でも空き部屋を確保するという不経済なことをする宿泊施設はあるのだろうか?
客より株主や金融機関を大切にするような、経済優先の昨今に、である。
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『お客様』と、猫なで声で呼ばれて喜んで笑い飛ばそう!