|
カテゴリ:カテゴリ未分類
私的に主宰する勉強会「政策懇談会」を開催。
今回は、財務省の河本光博氏より、「所得税のはなし」というテーマでプレゼンをいただき、ディスカッションいたしました。 <プレゼンの概要>(文責・高田) ・所得税は、単独の税目としては、最も税収が大きい税目。 ・25年度予算ベースの税収は13.9兆円だが、これはバブル期のピークに比べれば半分程度。 ・所得税収は景気に左右される。また、減税を繰り返してきたことが税収減につながっている。 ・国の歳出と税収の差を示す「財政のワニ口」は、開く力は強いが、閉じるのは難しい ・かつては15段階の税率の刻みがあり、地方税と合わせて最高80%の限界税率が課せられていたが、徐々に累進性が緩和されてきた。 ・所得税には、税収調達機能と所得再分配機能があるが、累次の累進性緩和により、所得再分配機能が失われてきているとの指摘がある。 ・そこで、平成25年度税制改正において、最高税率の引き上げを行ったが、課税所得4000万円超について、税率を40%から45%に引き上げるにとどまっている。 ・現在、復興財源確保のため、臨時増税が行われている。復興の基本方針において、復興財源については、「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合う」という考え方が定められた。 ・10兆円規模の税収を稼ぐには、所得税と法人税に手を付けざるをえない。消費税も、検討対象とはなったが、消費税は社会保障財源に充てるため、野田総理の判断により、復興増税の対象からは外された。 ・「次世代に負担を先送りしない」という方針から、臨時増税の課税期間は、当初の政府案では10年間とされていたが、与野党協議の結果、25年に延長され、「次世代に負担させない」とは言い難い状況となっている。 ・日本は諸外国と比べ課税最低限が高いと言われる。様々な所得控除があるため、夫婦子二人(専業主婦、大学生、高校生)の家庭で課税最低限は325万円となっている。 ・諸外国と比べて、これは高い水準ではあるが、飛びぬけて高いわけではない。むしろ、日本では諸外国と比べて、夫婦子二人の世帯では所得1000万円以下、単身者では所得2000万円以下の層に適用される税率が著しく低い傾向がある。 ・その結果、限界税率10パーセント以下の人が納税者の85パーセントを占めており、これは諸外国と比べて異様な状況。 ・税率区分5%の所得階層では、税率引き上げ1%あたりの増収力は約6400億円であるのに対し、最高税率である40%の所得階層では、1%あたりの増収力は約410億円に過ぎない。税収を増やすためには、低いところの税率を上げられるかどうかがカギとなるが、ハードルは高い。 ・日本では、所得税の所得控除で社会政策を行う傾向があり、複雑かつ広範な所得控除により、課税ベースが抑制されている。現在、課税対象となる収入(所得控除適用前)は約250兆円であるのに対し、控除適用後の課税所得は約110兆円に過ぎない。 ・民主党政権時代、子ども手当の導入に伴い、年少扶養控除を廃止するといった見直しが行われた。成年扶養控除については、縮小が法案に盛り込まれたものの、国会における法案修正で見送られ、今後の検討課題となっている。 ・配偶者控除の是非については、昔から様々な議論があるが、仮に配偶者控除をなくしても、成年扶養控除を見直さなければ、控除が別の控除に振り替わるだけであり、意味がないことがあまり知られていない。 ・いわゆるクロヨン問題については、事業所得に関する経費性の問題が最も難しい。例えば家族を会社の役員にした場合、単に家族でレストランで食事をするだけでも、「役員会」とみなしうる。 ・「ドラえもん」に「税金鳥」というエピソードがあり、子ども向けの漫画ながら、実は税に関する様々な論点が凝縮されている。 ・平成25年度税制改正において、金融所得課税の一体化及び、少額非課税投資制度(NISA)の導入が行われる。これは、貯蓄から投資へのお金の流れを作り出し、個人を株式市場に呼び込むことを意図したもの。 ・住宅ローン減税については、消費税引上げによる住宅の駆け込み需要と反動減を緩和するため、来年4月の消費税率引上げ後に拡充することとしている。消費税率8%段階、10%段階で段差を付けず、8%段階からフルに拡充を行うため、その期間の住宅取得は非常に有利となる。 ・また、消費税負担の増に比べて、住宅ローン減税だけでは十分に恩恵を受けられない層の人に対して、現金給付措置を行うこととしており、この夏にその案が示される。 ・年金については、掛金の拠出時は社会保険料控除が、給付時には公的年金控除が適用される。このように、拠出時と給付時に両方控除している国は珍しい。年金受給者はほとんど税金を払わなくてよい状態となっており、勤労世代とのバランスを失しているとの指摘もある。もっとも、掛金段階で課税すると勤労世代にさらに負担がかかるため、給付段階で受給者に課税できるかどうかが課題。 ・税制改正プロセスは、かつての自民党政権では、自民党税調で実質的に決定していたが、民主党政権では、財務大臣が会長を務める政府税調で決定する仕組みとなった。国会での答弁責任を負う財務大臣が、自ら決定に参画するという意味では、わかりやすいシステムだったが、党の政治家が税制改正に関与できず、不満がたまるという問題が生じた。 ・再び自民党政権となり、党税調中心のプロセスが復活した。 ・これまでの歴史は、いかに増税は難しいかを示している。税は基本的に、役人ではなく政治家の仕事。政治家の仕事は資源配分であり、差が生じることに対する不満を説得するプロセス。それには権威が必要であり、国民に選ばれたことによって権威を持つ人間が資源分配をすることが、民主主義の本質。経済のパイが増えているときは、配ることに終始できたが、今は増税をしなければならないという現実に直面しており、政治の責任は重くなっている。 <ディスカッションの概要> ・民主党政権と自民党政権の税制改正プロセスを比較して、それぞれのメリット・デメリットはどうか。 ・民主党政権では、政府で決めたことがファイナルとなるわかりやすさがある。党のガバナンスがもっと効いていれば、よりうまく機能しえたかもしれない。他方、自民党政権では、党税調幹部による抑えが有効に機能している。結局は、減税を要望する業界が、所管官庁(の政務三役)と党の政治家のどちらを使うか、それを抑える役割を財務大臣と党税調幹部のどちらが担うか、ということであり、結論としてはそれほど変わらないのかもしれない。 ・租税特別措置の政策評価を民主党政権で導入したことにはよい面があった。 ・税制改正プロセスの中で、要望のない税制改正(増税等)はどのように進めていくのか。 ・要望のないテーマについても、税調の中で提案がなされる。もっとも、最近の税制改正は、附則104条に書かれた税制抜本改革の道筋にほぼ沿っているが、これから新しい改革を進めていくためには、手法を模索していく必要がある。 ・税率が10%以下の人が大半ということだが、通常は、社会保険料負担も併せて考えており、負担感はもっと大きい。 ・自民党政権における有識者の政府税調は、どのぐらい重要なのか。 ・現在進めている税制抜本改革の骨格はほぼ全て、かつて政府税調が長年かけて発表した答申に基づいており、中長期的な税制のあり方を検討するにあたって重要な役割を果たしている。 ・税率を引き上げると、高所得者や企業が海外に流出してしまうと言われるが、諸外国との比較をどう考えるか。 ・所得税の最高税率の引き上げによって高所得者が海外に逃げるという指摘はあるが、そうした人に、生まれ育った国に残って納税したいと思わせるような国にするため、政治は頑張らなければならない。なお、富裕層はむしろ、資産課税や株式譲渡益課税が低いところに逃げていくこと多い。 ・高齢化の進展により、若い人が払った保険料はあまり戻ってこないという懸念があるが、世代間のお金の流れについてどういう見直しをしていくか。 ・今回の一体改革において、高所得者については年金を一部抑制するという改革案が盛り込まれたが、実現しなかった。今後、年金課税が検討課題となるのではないか。 ・復興増税については、復興財源の流用問題があったが、こうしたことは納税者の観点からも許されないのではないか。 ・この問題を受けて、復興予算についてはきちんと整理がなされ、今後復興財源によって行われる事業は全て被災地向けとなる。もっとも、復興予算に「全国防災事業」が盛り込まれたのは、地方団体が、地方税を復興財源のために拠出する条件として要求したという経緯がある。 ・直間比率の見直しという流れがある中で、所得税の税率を引き上げるべき要請があり、これらはぶつかる面もある。 ・年金所得者がたくさんもらっているという話があったが、それは保険料を払ったから、もらっているに過ぎないのではないか。 ・年金については、保険料を払った対価としての「権利」として捉えられがちだが、実際には、賦課方式の下では、高齢者が受け取っている年金は自分が払った保険料ではなく、現在の勤労世代が払っている保険料や税によって賄われている。一方で、負担については、保険料と位置づけることで、比較的少ない抵抗で引上げを行ってきた面がある。このような二面性があることに留意することが必要。 ・住宅については、日本では家の流動性が低いため、家計のお金の使い方、お金の流れがいびつになっているのではないか。 ・日本の住宅市場は大手住宅メーカーに引っ張られすぎている面がある。中古住宅市場を活性化するためには、新築よりむしろ、中古住宅の売買やリフォームを優遇する税制の方が望ましいのではないか。 ・復興増税については、消費税という選択肢はなかったのか。 ・短期間で消費税率を引き上げることは、実務的に対応困難だった。またやはり、消費税は社会保障財源に充てることが基本。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jun 18, 2013 12:14:15 AM
コメント(0) | コメントを書く |