春が来た・・。
毎春、桜は咲いていたはずなのにここ数年は特によく思い出せない。なんとなく思い出せるのは長女の入学式の時の桜と姉が急逝した年の桜だけ。自分の人生を生きていないから暦の感覚がぼんやりしている。 大学を卒業して大きな銀行のOLになって毎日、ヒールとストッキングと満員電車と笑顔の日々を過ごした。正しいお辞儀の仕方も、笑顔を取り混ぜながらのお客さまへのクレーム処理だってうまくなった。そんな生活を9年もつづけた。今更後悔などしていない。その中で私を助けてくれた上司、同僚たちもいたし良いことだってたくさんあった。でも、退職するころ、私は完全に自分自身を見失っていた。空っぽになっていた。自分のテンポなんてどこかへいつの間にか置いてきてしまっていた。 だから次に、もし仕事をするとすれば人間相手の仕事、人ともっと深くかかわれる仕事がしたい、と思っていた。しばらく前からカウンセラー関係の勉強をしたり資格を取ってみたりした。2人の子供たちが学校から「ただいまー。・・・行ってきまーす。」という感じで勝手に遊びに行く日も多くなり、ますます私自身が外に出たい強い衝動に駆られた。気乗りはしなかったが元の銀行の派遣に登録用紙を送ろうとしていた矢先、話しが飛び込んできた。小学校の支援級の介助員。当然、二つ返事でOKした。飛び上るほどうれしかった。ここにきて数年来の夢が叶うなんて。それからは夕食のキャベツを刻むのもゴミ捨てするのだってなんだか楽しい。初仕事の日の朝は早番で、夫も出張不在のため私の方が子供たちより少し早く家を出なくてはならないことを伝えた。すると朝、いつもはギリギリまで寝ているナツコが早起きしてきてオムレツとチーズとジャムの乗ったトーストを焼いてくれた。もしかしたらやっと、母親の私が楽しんでいる姿を、子供たちに見せられるのかもしれない・・。(どんぐり問題ができた、できない、と一喜一憂している母でなくてね(笑)) 支援級に今年入学してきたピカピカの1年生のくりくりお目目のかわいい男の子。髪の毛からふわっと甘いシャンプーの香り。この子を慈しんで育てているお母さんのこの教室をくぐるまでの想いを感じる。やっと与えてもらった仕事。大切に取り組んでいこう。 今年の春、スニーカーを履いて自転車で出勤する私を見下ろす桜並木の桜のことはきっと、忘れないでいられる気がしている。